職場におけるメンタルヘルス対策は、従業員の心の健康維持を目的とするだけではなく、企業のさらなる成長、競争力の強化という点でも大きな役割を果たします。今回は、職場に必要なメンタルヘルスケアについて、種類や具体的な取り組みをわかりやすく解説します。
職場でのストレスや不安を早期に解消するためには、「悩みを相談できること」が大切です。「アドバンテッジ カウンセリング」は、心理専門家によるカウンセリングをいつでも利用可能。従業員の前向きな行動変化をサポートします。
目次
メンタルヘルスとは

はじめに、メンタルヘルスの基本的な考え方と、企業がメンタルヘルス対策に取り組む際に押さえておきたい定義をチェックしておきましょう。
メンタルヘルスとは
メンタルヘルスとは、「心の健康」「精神的な健康状態」を指します。ストレスにうまく対処しながら穏やかな気持ちでいられること、そして仕事や生活にやる気に満ちている状態を意味します。
世界保健機関(WHO)におけるメンタルヘルスの定義は以下の通りです。
すべての個人が自らの可能性を認識し、生命の通常のストレスに対処し、生産的かつ効果的に働き、コミュニティに貢献することができる健全な状態
悩みや不安、ストレスを感じるのは自然なことですが、それらが積み重なり心の調子を崩した状態がメンタルヘルス不調です。これは、特定の病気・症状の有無にかかわらず、心の調子が悪い状態全般を広く指します。
参考:世界保健機関(WHO)職場のメンタルヘルス対策ガイドライン
参考:WHO「Mental health」
厚生労働省によるメンタルヘルスケアの定義
メンタルヘルスケアとは、すべての働く人が健やかに、いきいきと働けるような気配りと援助をすること、およびそのような活動が円滑に実践されるような仕組みを作り、実践することです。すべての働く人を対象としている点が重要なポイントであり、すなわち以下のようなすべての人に対し、それぞれの状態にあったケアをするものです。
①健やかに、いきいきと働いている健康な人
②勤務はしていても過剰なストレス状態にある半健康な人
③ストレス関連疾患に罹る、精神障害の症状を呈している人
職場におけるメンタルヘルス対策の目的と重要性

職場のメンタルヘルス対策は、単にメンタルヘルス不調者を減らすことのみならず、従業員がいきいきと働くための基盤づくり、ひいては組織の成長・発展を目指すうえでも不可欠です。
労働安全衛生法第70条の2に基づき、厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」を定めています。この指針を参考に、企業はそれぞれの実態に即した形で、メンタルヘルス対策を適切かつ有効に取り組んでいくことが望ましいとされています。
職場におけるメンタルヘルス対策の目的と重要性
安全配慮義務の履行:
労働契約法第5条により、企業には従業員が心身ともに安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」が課せられています。メンタルヘルス対策の適切な実施により、安全配慮義務を履行します。
従業員の健康維持と早期対応:
メンタルヘルスに関する基本的な知識を持つことで、不調の早期発見・早期対応が可能となります。従業員の心の健康レベルを引き上げ、不調の悪化を未然に防ぎます。
生産性向上と組織の安定:
不調を抱えたまま働くプレゼンティーイズムを解消し、欠勤・休職(アブセンティーイズム)を減少させます。従業員が意欲的に働くことで、創造性や生産性が向上し、組織全体の安定的な運営を支えます。
離職率の低下と企業価値向上:
メンタルヘルス不調によって、やむを得ず休職となってしまうケースも少なくありません。メンタルヘルス対策を通して、心身ともに健康に働けるための配慮と、休職しても無理なく復帰、職場適応を支援します。適切な対策と復職支援は離職率の低下に寄与し、採用・育成コストを削減します。健康経営やウェルビーイング経営が注目される中、対策への注力は企業価値を高め、優秀な人材を獲得する強力なアピールポイントとなるのです。
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メンタルヘルス対策は「3つの予防」が重要
メンタルヘルス対策は、「3つの予防」の観点で進めていくことが求められます。
【3つの予防】
- 一次予防:メンタルヘルス不調の未然防止に取り組む
- 二次予防:不調を早期発見し、状況に応じたケアを行い、悪化を防ぐ
- 三次予防:休職した従業員の職場復帰を支援する
それぞれの段階に応じたメンタルヘルス対策を整えることが大切です。特に、メンタル不調に陥ってしまう前に自らのストレス状態に気づき、職場組織として支援し、対策していく「一次予防」が重要です。
職場でメンタルヘルス不調者が出る原因と不調の兆候

職場におけるメンタルヘルス不調の原因はさまざまで、複数の要因が影響していることもあります。次に、職場の主なストレス要因と、メンタルヘルス不調の兆候についてみていきましょう。
職場のストレス要因
職場のストレス要因は多岐にわたります。当社アドバンテッジリスクマネジメントの調査で挙げられた主な要因は以下の通りです。

NOISH(米国国立労働安全衛生研究所)が作成した職業性ストレスモデルでは、職場における主なストレスの原因(仕事上の要因)に加え、仕事以外の要因、個人要因、そして緩衝要因の有無が影響を及ぼし、最終的なストレス反応の大きさや問題の発生につながるとされています。

- 仕事上の要因:業務の量や質、仕事の裁量の有無、成果へのプレッシャー、上司や同僚との関係性など
- 仕事以外の要因:育児や介護の負担、家庭問題、経済的不安など、プライベートでの問題
- 個人的要因:個々の性格や特性によるストレスの感じ方や耐性の程度
- 緩衝要因:上司、同僚、家族など、周囲からのサポートや理解やの有無
職場全体の基盤づくりに加えて、従業員それぞれの特性や生活背景に応じたきめ細やかなサポートが求められます。
参考:National Institute for Occupational Safety and Health (米国立労働安全衛生研究所)Publication Number 99-101(1999)
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メンタルヘルス不調の兆候
メンタルヘルス不調の兆候の例は以下の通りです。
心のサイン:気分の落ち込み、憂鬱感、不安感、集中力や意欲の低下
体のサイン:睡眠・食欲の変化、頭痛や肩こり、疲労感、息苦しさ
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メンタルヘルスケアの「一次予防」の重要性
一次予防は、不調を未然に防ぎ、従業員の健康維持やQOL向上につながります。また、治療費や欠勤・離職に伴う企業の損失を削減・回避できるため、従業員・企業双方に大きな長期的なメリットをもたらします。
具体的な取り組みとしては、研修やセルフケア支援や研修を通じた従業員のストレスマネジメント向上、さらに管理監督者によるラインケア、ストレスチェックの結果を活用した職場環境の把握と改善が重要です。
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メンタルヘルスケアの種類

厚生労働省では、職場におけるメンタルヘルスケアについて「4つのケアを継続的、かつ計画的に実施することが重要」と示しています。中長期的な視座のもと、職場の実態に即した取り組みを進めていきましょう。
ただし、メンタルヘルス不調が生じる過程は人それぞれで、職場の要因だけでなく、家庭や個人生活といった職場外のストレスも複雑に影響します。人事部門とも綿密に連携していくとともに、個人情報の保護への配慮と、従業員本人の意思を尊重したメンタルヘルスケアが求められます。
参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
①セルフケア
セルフケアは、従業員が自らのストレスに早く気づき、適切に予防・対処する最も基本的な対策です。休息・睡眠、軽い運動、趣味などで不調の悪化を未然に防ぎ、心身の健康を維持します。
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②ラインケア
ラインによるケアは、部下のいる管理監督者が担うケアです。日ごろの目配りや相談対応を通じ、部下の異変の早期発見・対応、職場環境の改善、復職支援などを実施し、職場の活性化を図ります。管理監督者自身が研修で知識を学ぶことが、このケアを実効性のあるものにするうえで不可欠です。
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③事業内産業保健スタッフによるケア
事業場内産業保健スタッフによるケアは、産業医や保健師、衛生管理者らが担う支援です。従業員50人以上の事業場では産業医の選任が義務化されています。専門知識を持つスタッフが人事部門と協働し、セルフケアやラインケアを効果的に進めるための、企業全体のメンタルヘルス対策の企画・推進を行います。
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④事業場外資源によるケア
事業場外資源によるケアとは、メンタルヘルスケアに関する専門知識を有した外部機関やサービスを活用することです。外部カウンセラーなど第三者の客観的な視点からのアドバイスは課題解決に有効で、自社の産業保健スタッフと連携することで、多角的なサポート体制の構築が期待できます。
<事業場外資源によるケアの例>
- 従業員支援プログラム(EAP)
- 労災病院・診療所
- 都道府県産業保健推進センター
- 地域産業保健センター ほか
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企業が取り組むべき職場のメンタルヘルス対策

従業員一人ひとりが心身ともに健康に働ける職場をつくるため、企業には「予防」「早期発見」「復職支援」の3段階でメンタルヘルス対策に取り組むことが求められます。ここでは、企業が実践すべきメンタルヘルス対策をチェックしておきましょう。
メンタルヘルスケア対策の方針を策定、周知する
メンタルヘルス対策は、まずトップ自ら方針を策定し、本気で取り組む姿勢を社内外に示すことが重要です。スローガンだけでなく、具体的な数値目標と計画を策定・周知し、社内発信の繰り返しが、組織全体への浸透を図りましょう。
職場環境を改善する
心理的・物理的な職場環境の改善が重要です。業務分担の見直しや長時間労働の是正で心理的負担を軽減し、コミュニケーション活性化で良好な人間関係を構築しましょう。休憩スペースやレイアウトを通じて働きやすい物理的環境を整備します。
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ストレスチェック結果を活用する
ストレスチェックの集団分析は、組織全体のストレス状態を的確に把握し、効果的な環境改善につなげます。また、個人結果を速やかにフィードバックし、カウンセリングやeラーニングなどの必要な対策を案内することで、従業員が自ら改善に向けた行動を起こせる環境づくりを促します。
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メンタルヘルスケアに関する研修を行う
メンタルヘルス研修は、全従業員向けに定期的に実施し、正しい知識のアップデートを図ります。これにより、自身の不調に早く気づき、適切なセルフケアに取り組めます。管理職に対しては、早期発見や適切なアプローチなど、マネジメントに必要な視点を学んでもらうことが不可欠です。
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【全従業員向け】メンタルタフネス度向上研修、ストレスマネジメント研修(セルフケア)など
ストレスに関する学びから、職位に応じたストレス対策まで、多様なプログラムから最適な研修をご提案します。
1on1などでメンタルヘルス不調のサインを見極める
1on1は、部下主導で状況や悩みを共有し、上司は耳を傾け、思考の整理をサポートします。定期的に実施することで、部下の「いつもと違う」サインを早期に把握し、メンタル不調の兆候を早く捉えるために非常に有効です。1on1の進め方については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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悩みを相談できる窓口を設置する
産業保健スタッフや外部専門家への相談窓口の整備は不可欠です。匿名・秘密厳守を周知し、深刻化する前に気軽に利用するよう促しましょう。さらに、必要に応じて産業医や外部機関と速やかに連携できるサポート体制を整えることが大切です。
【休職者向け】職場復帰を支援する
メンタルヘルス不調により休職した従業員の復職支援も重要です。休業から復職までの手順や、関係者(人事・上司・産業医など)の役割を明確にしておき、休職者の発生に備えましょう。衛生委員会での協議や産業医の助言をもとに、企業の実情に沿った運用体制を整えます。厚生労働省の手引き(心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~)を参考に進めていくとよいでしょう。
復職支援については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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【復職者向け】再発防止のためのフォローアップ体制を整える
復職し業務に慣れた後も、定期的な面談とフォローを継続し、状態を確認します。再休職防止のため、業務負担や人間関係に問題がないかチェックし、上司・人事・産業保健スタッフが連携してサポートします。
外部専門機関や産業医と連携する
産業医や保健師、カウンセラーなどの専門職、さらに外部専門機関と連携し、専門家の知見や助言を得ることは重要です。自社の課題やニーズに合致した効果的な対策を推進するため、目的を明確にし、サービス内容やコストなどを比較検討して選定しましょう。
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メンタルヘルス不調者が出た場合はどのように対応すべき?

職場でメンタルヘルス不調者が出た場合、企業には「早期発見と適切な対応」が求められます。ここでは、メンタルヘルス不調者が発生した際の基本的な対応フローと、休職・復職の支援についてみていきましょう。
メンタルヘルス不調者が出た際の対応フロー
従業員のメンタル不調に気づいたときは、段階的に対応することが大切です。一般的な流れは以下の通りです。
①従業員が自身の不調に気づく
本人が自覚する段階。周囲の声かけがきっかけとなることも。
②上司による初期対応
上司が相談に応じる、または声をかけ話を聴く。
③人事部門との連携・相談
上司が本人の了承を得て人事部門に相談する。
④専門家との連携
企業がカウンセリング窓口を設けている場合は利用を促す。産業医や医療機関への受診を勧める。
メンタルヘルス不調で休職する従業員への対応フロー
従業員が休職する場合の流れを簡単に押さえておきましょう。
①休職規定の確認
就業規則の休職制度を確認する。
②面談の実施・休職の開始
今後の見通しや支援方針を共有後、必要な手続きを終え休職期間に入る。
③休職中のフォロー
過干渉に注意しつつ、定期的に従業員の様子を確認する。
④職場復帰支援プログラムの策定
復職が視野に入った段階で、産業医の助言に基づきプログラムを作成する。
⑤復職の判断
主治医の診断書と産業医面談を通じて復職の可否を判断する。
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企業のメンタルヘルス対策におけるコツと注意点

最後に、職場のメンタルヘルスの取り組みを進めるうえでのコツと注意点をご紹介します。
「相談」のハードルを下げる取り組み
社内にカウンセリング窓口は「不調者向け」というイメージを払しょくすべく、ちょっとした悩みやキャリアに関する相談など、前向きな目的でも活用できることを周知しましょう。実際にカウンセリングを体験できる機会を提供、「気軽に相談できた」といった利用者のポジティブな感想を共有することで、利用の心理的ハードルを下げることが大切です。
実際の事例について、詳しくはこちらでご覧いただけます。
【事例紹介】
導入事例:第一工業製薬株式会社
PDCAサイクルの継続
ストレスチェックは年1回が多いため、合間の状態把握にパルスサーベイの活用が有効です。パルスサーベイは、従業員の満足度などを月1回など短期的に繰り返し調査します。これにより、組織の状態変化に迅速に気づき、その時々の組織課題に応じた施策の見直しと改善を継続的に行えます。
実際の事例について、詳しくはこちらでご覧いただけます。
【事例紹介】
導入事例:清原株式会社
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不利益な取り扱いの禁止
メンタルヘルス不調の従業員に対し、企業は適切なケア・サポートが求められますが、問題を理由とした解雇や退職推奨など、不利益な取り扱いは禁止されています。労働関連法令や配置転換命令権の濫用にあたる措置も認められないため注意が必要です。
職場のメンタルヘルスケアは「未然防止」がカギ

職場のメンタルヘルス対策は企業の社会的責任です。「ストレス時代」において誰もが不調を抱える可能性があるため、「未然防止」をキーワードに、従業員が心身ともに健康に働けるよう全社一丸となって取り組みを進めることが重要です。

