EAP従業員支援プログラムのビジネスコンセプト

EAP(従業員支援プログラム)とは?EAPサービスの導入メリットやメンタルヘルス対策での効果を解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

ストレス社会と呼ばれる現代において、メンタルヘルスの不調を抱える人は決して少なくありません。メンタルヘルスケアをめぐっては、かつては個人の問題として捉えられてきましたが、近年は健康経営の推進などの文脈から、企業が積極的に関与していこうとする動きも増えてきました。そこで注目したいのが、従業員のメンタルヘルス不調の予防を支援するEAP(従業員支援プログラム)です。今回は、EAPの目的や導入のメリット、導入時のポイントなどについて解説します。

記事の監修者
柿沼 篤史社会保険労務士 (登録番号)第13230488号
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント マーケティング部
当社のマーケティング活動におけるデータ整備や分析業務に従事。社労士の資格を有しており、健康経営をはじめ当社の事業領域に関する知見をもとにアドバンテッジJOURNALの記事も監修している。

EAP(従業員支援プログラム)とは?

EAPが書かれたメモ

はじめに、EAP(従業員支援プログラム)の概要と、具体的な内容についてご紹介します。

EAP(従業員支援プログラム)とは

EAP(従業員支援プログラム)とは、従業員のメンタルヘルス不調をケアし、健康維持・向上をサポートする包括的な制度のことです。ストレスや悩み、健康上の不安など、従業員が抱えるさまざまな問題について、医師やカウンセラーなどの専門家が相談に応じます。また、仕事上のパフォーマンスに影響する可能性のある問題の早期解決を支援します。

職場のメンタルヘルス対策におけるEAPの役割

カウンセリングする医者と従業員

厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示しているメンタルヘルス対策推進の「4つのケア」において、EAPの重要な役割があります。4つのケアとは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」です。

このうち、EAPは「事業場外資源によるケア」に当てはまります。メンタルヘルスの課題に対し、専門機関のアドバイスやサポートを受けて解決を目指す場合に有効とされます。メンタルの悪化を未然に防ぐ「一次予防」、早期対応としての「二次予防」、再発を防ぐ「三次予防」と、EAPはどの段階でも活用可能です。

EAPの具体的な内容

EAPの枠組みに含まれる施策としては、以下のようなものが挙げられます。

・カウンセリング・相談窓口
すべての従業員が気軽に利用できるカウンセリングの場や、相談窓口を提供することです。カウンセリングの形態は対面に限らず、オンライン、電話、メールなどさまざまな方法があります。

・ストレスチェック
従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、心身ともに健康的に働くことができる状態、職場環境の改善を目的として、定期的に従業員のストレス状態を検査するものです。常時50人以上の労働者がいる事業場では、年1回以上のストレスチェックが義務化されています。

・メンタルヘルス研修
メンタルヘルスケアへの理解を深めたり、ストレスマネジメントについて学んだりする研修やセミナーを実施するものです。

・復職支援プログラム
メンタルヘルスの不調やけが、病気などで休職した従業員が、円滑に職場に復帰できるようサポートするものです。

EAPの目的

緑の背景と黄色の折り紙で作られた人の横顔

EAPの主な目的は、従業員が抱える不安や悩み、ストレスなどの問題を早期に把握し、トラブル防止や早期解決を支援する”メンタルヘルス対策”、およびその取り組みを通して個人の生産性やパフォーマンスを維持し、”組織の持続的な成長”につなげることの2つです。

近年、労働人口の減少による人手不足で従業員に過度な業務負担がかかりやすくなるなか、終身雇用・年功序列という日本型雇用から、成果主義の欧米型雇用への移行を検討する企業が増加傾向にあります。このように労働環境が大きく変化する現代社会においては、ストレスやプレッシャーを原因とする従業員のメンタルヘルス不調のリスクは、ますます高まっていると考えられます。

2023年に厚生労働省が実施した「労働安全衛生調査(実態調査)」では、働く人の82.7%が「仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスを感じる事柄がある」と回答しました。従業員の慢性的なストレスを放置すれば心身の不調の原因となり、メンタルヘルス疾患の発症や長期欠勤、離職につながるおそれがあります。 日本では従来、従業員が抱えるストレスや職場での人間関係の悩みを「個人の問題」として取り扱うのが一般的でした。そのため、これまでEAPは従業員への福利厚生として見られがちでしたが、現在では従業員のメンタルヘルス対策を企業のリスクマネジメントの一環と考えたり、企業の社会的責任(CSR)と捉えていたりする企業も増えてきています。

外部EAPと内部EAPの違い

虫眼鏡とABが書かれた木のブロック

EAPは、大きく「内部EAP」と「外部EAP」に分類されます。それぞれの違いを押さえておきましょう。

外部EAPの特徴

外部EAPとは、社外の専門機関に委託してメンタルヘルスケアを進めることです。一般的には、外部EAPを導入・活用している企業が多く見られます。外部の専門家が対応するため、従業員は社内では話しにくいことを相談できるというメリットがあり、企業側にとっては常駐が不要な分、コストを抑えやすいという利点もあります。また、メンタルヘルスケア以外にも幅広いサービスを提供しているケースも多く、より専門的なサポートを受けられることも魅力です。

内部EAPの特徴

内部EAPとは、企業内に自社リソースのカウンセラーなどの専門家を常駐させ、従業員のサポートを行う方法です。社内の事情をよく理解している専門家が担当するため、自社の状況にマッチしたケア体制の整備が期待されます。一方ですべてを内製化すると、担当者の負担増やコスト増といったデメリットが発生する可能性もあるため、注意が必要です。なお、外部EAPでも社内にカウンセラーを派遣する場合もあります。

外部EAPと内部EAP導入のメリット

笑顔が描かれた石

外部EAP/内部EAPを導入することは、企業にとってもプラスに働きます。次に、EAP導入のメリットについてみていきましょう。

メンタルヘルス問題による各種リスクの低減

従業員がメンタルヘルスの不調を抱えると、企業にはさまざまなリスクが生じます。

<例>

  • 心身の不調を抱えながら仕事をしているため(プレゼンティーイズム)、集中力が低下し、効率や生産性が下がる
  • ケアレスミスによるトラブルや労働災害が発生する
  • 体調不良による欠勤・遅刻・早退が増え、労働力が減少する
  • うつ病などの心の病気による休職者・離職者が出る

メンタルヘルスの問題は表面化が遅れることもあり、気付かないうちに組織全体へ悪影響を及ぼす場合があります。EAPを導入することで、こうしたリスクの低減が期待できます。

適切なメンタルヘルス対策と健康経営の加速

EAPのプロセスを通して企業のメンタルヘルスに関する課題を可視化し、現状を把握することができます。これにより、どのようにメンタルヘルス対策を行っていけば良いのかのヒントが得られるでしょう。

また、健康経営として生産性向上の一環で取り組む企業もあります。健康経営とは、従業員の心身の健康が企業にとって重要な資本であるという考えのもと、能動的・戦略的に健康投資や健康増進に取り組む経営手法です。EAPは、従業員の心身の健康を支援するものであり、健康経営の加速、質の向上を目指せます。

ストレスチェック体制の構築や実施後のフォロー、データ活用においても、EAP導入は大きなメリットです。ストレスチェックは、従業員がストレス状態に気付き、セルフケアに役立ててもらう以外に、結果を集団分析して職場環境の改善につなげる役割もあります。しかし、後者は努力義務であることから、ストレスチェックの結果を活用しきれていない企業も少なくありません。

EAPを導入すれば、各種メンタルヘルス状態のチェックをスムーズに実施できるだけでなく、自社課題の発見、解決に向けた具体策の立案・実行、メンタルヘルス不調者への対応や高ストレス者のフォローも可能になります。その結果、企業全体のメンタルヘルス対策が前進することが期待されます。

外部EAPを導入する際のポイント

仕事のアイコンを押す人

EAPはメンタルヘルス不調の「早期発見」や「予防」の観点を持つことが大切です。今抱えているストレスは業務上支障がないか、業務遂行に問題がないかという観点で、ストレスとパフォーマンスの関係性に気付きを促すアプローチを行っていきます。内部EAPと共通する部分も多いですが、ここでは外部EAP導入時のポイントをご紹介します。

EAPの導入目的・評価指標を事前に定める

まずは自社におけるEAPの導入目的と目的の達成度合い、効果を測定する指標を明確に決めておきましょう。あらかじめ目的と評価軸を整理することで、EAPサービスの検討がよりスムーズに進む可能性があります。

【目的の例】

  • 従業員のメンタルヘルス不調の未然予防
  • ストレスチェックの効果的な活用
  • 離職率の改善

【効果測定の指標の例】

  • EAP利用率
  • ストレスチェックの高ストレス者数
  • メンタルヘルス不調に起因する休職者数
  • 離職率
ワンポイント
自社のメンタルヘルス対策について、どこに課題があるのかを整理し、それを解決するにはどうすれば良いかという視点で目的を探しましょう。

自社のニーズにマッチしたサービスを選ぶ

EAPを選ぶ際には、自社にとって本当に機能するプログラムを見極めることが重要です。適切なサービス形態を選ぶことで、従業員の利用率が高まり、課題解決がスムーズになることも期待できます。さらに、プライバシー保護の観点からも、個人情報の管理が徹底された信頼できる外部機関を選ぶことが大切です。

サービスの検討ポイントの例は以下の通りです。

<例>

  • 自社の課題や目的にマッチしたサービスであるか
  • サポート範囲は十分であるか
  • コストは妥当であるか

従業員にEAP導入を周知する

EAP導入のポイントは、メンタルヘルス不調の自覚がない従業員にもストレスチェックによって自身の状態に気付きを与え、EAPを利用してもらうことです。まずはメンタルヘルスの問題が特別なものではなく、誰にでも起こり得るものだと従業員全体に周知し、理解を深めてもらわなければなりません。社内のイントラネットやメールでの発信、ポスターの掲示、健康診断の通知にチラシを同封するなども有効ですが、特に効果的なのは、経営層からの直接的な発信です。

例えば、全社ミーティングのアジェンダに組み込み、質疑応答の時間も設けるなどすると、従業員の理解・納得度が高まります。企業として真剣に取り組んでいる姿勢を示すことが信頼につながるでしょう。

EAPは、勤務先の企業が契約する場合が多いため、従業員は「利用が知られるのでは」「評価が下がるのでは」と不安を抱きがちです。また、「メンタルヘルス不調のときにしか使えない」と思い込んでいるケースもあります。EAPは誰でも利用可能であり、内容は守秘義務によって保護され、利用によって不利益が生じることはないといった点を丁寧に周知しましょう。

部署やチームに「EAPを使わせない空気」があると利用のハードルが上がります。そのため、管理職層にも制度理解を深めてもらい、相談しやすい職場環境の整備を推進することが求められます。

専門家に相談できるかチェックする

従業員の相談は多岐にわたるため、さまざまな分野の専門家がいるかどうかもチェックしておくと良いでしょう。臨床心理士や公認心理師、産業カウンセラー、キャリアカウンセラーなど、豊富な知識を持つ専門家がいると安心して利用できます。

従業員の心身の状態によっては、カウンセリングだけではなく医療や福祉の介入が必要になることも少なくありません。スムーズに医療機関との連携がとれる体制を作れることが望ましいでしょう。

EAPを導入・運用する際の注意点

人の絵が描かれたブロックを持つ人

EAPを導入する際に注意すべきポイントを押さえておきましょう。

効果測定を定期的に行う

EAPを効果的に運用するには、定期的な効果測定が欠かせません。利用に関するアンケートを実施し、利用率や満足度を把握するほか、事前に定めた指標に基づいて評価を行い、改善策の検討や内容の見直しにつなげましょう。

ストレスチェックの集団分析などを活用し、EAPの導入前と導入後の変化を見ることも有効です。導入から時間が経過すると、従業員のニーズや社会情勢、働き方のトレンドも変化するため、柔軟に対応しながら定期的な見直しを行うことが求められます。

包括的な視点で組織改善に取り組む

EAPはあくまで、従業員個人の悩みやストレスに対する支援策であることを忘れてはなりません。従業員のストレス要因が、職場の人間関係や組織風土、労働環境に起因する場合、EAPだけでは本質的な解決にはつながらない可能性があります。たとえ一時的にストレスが緩和されても、職場環境そのものが改善されていなければ、問題の再発リスクは残ります。EAPを軸にしつつ、働き方の見直しやキャリア支援、エンゲージメント施策といった他の施策とも連動させながら、組織全体の健全化を図ることが大切です。

EAPには従業員の生産性向上効果も

談笑する従業員達

従業員は、職場環境や職場内の人間関係で悩む期間が長いほど、自身の能力を発揮しづらくなり、業務での生産性の低下を招く可能性があります。最適なEAPを導入することで、従業員は職場における人間関係やキャリアなどの悩みから、家族の介護や育児といったプライベートの問題まで幅広く相談できます。従業員が現在の状況や将来について前向きに考えられる機会が増えれば、長期欠勤や離職防止だけでなく、パフォーマンスや生産性の向上にも期待が持てるでしょう。

EAP導入でメンタルヘルスケアを加速

手で作られたハート

EAPは、従業員のメンタルヘルス対策から職場や家庭での不安・悩みなどの問題解決をサポートする専門的なプログラムです。メンタルヘルス対策が形骸化しないためにも、不調の自覚がない従業員にもEAPを利用してもらうよう働きかけることが大切です。企業にとって従業員の健康をケアすることは、メンタルヘルス対策だけではなく、企業経営のリスクを回避するうえでも重要な施策となります。心身の不調を早期発見し改善支援を行うことで、従業員のパフォーマンスや生産性の向上も見込めるでしょう。

また、心身の健康増進による医療費の削減、職場のトラブル減少による組織の活性化、人材の定着、企業のブランドイメージ向上など、EAPの導入にはさまざまなメリットがあります。EAP導入による従業員のケアは、企業の持続的な発展に不可欠な施策といえるでしょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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