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メンタルヘルス不調による休職から職場復帰までの対応のポイントとは?

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はじめに

産業保健スタッフや人事担当者にとって大きな課題のひとつと言えるのが、メンタルヘルス不調による休職者への対応でしょう。内閣府男女共同参画局発行の「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」によるとメンタルヘルス不調による休職で、企業が抱えるコストは年収約600万円の場合、休職者1人あたり422万円にのぼるといわれています。

その内訳は、周囲の従業員が業務を残業で手伝うとして、休職前の3か月で約99万円、休職期間の6か月で約224万円、休職後の3か月で約99万円となっています。

メンタルヘルス不調者の職場復帰支援は、従業員本人やその家族にとってだけではなく、事業主にとっても極めて重要な課題です。今回は、職場復帰に向けて、「休職直前」「休職期間中」「復職準備期」の3段階に分け、効果的な対応のポイントを解説します。

1)休職直前

休職のルールは事前に説明する

休職に入ることが決定した従業員には、大きく分けて以下の3点を伝えましょう。1つ目は休職のルール、2つ目は休職中の連絡方法と手続き・手当金関係、3つ目は休職中の過ごし方(生活面)についてです。

① 休職のルール
まず休職開始時や休職前に、会社は本人へ就業規則や社内の休復職規程に基づき、休職のルールを伝えます。その際、個別の就業期間により定められている「休職可能期間」があることを説明しましょう。休職期間が満了する時点で治っておらず、復職して就業するのが困難であると認めた場合は退職とするのが一般的です。

就業規則等で私傷病による休職について規定している場合、本人へ説明する際は、就業規則や社内の休職・復職規程に基づいて説明することが重要です。就業規則に関して、休職・復職の関連事項に抜け漏れがあると、トラブルになりかねませんので、社会保険労務士の協力の元、再度見直しをし、改訂するなどの検討をされることをお勧めします。

② 休職中の連絡方法と手続き・手当金関係
「休職者との連絡方法」― 休職して間もない頃は療養することが最も重要ですので、できるだけメールや書面での連絡としましょう。また休職中の窓口は1本化し、担当者をごくわずかの人数に絞ることが望ましいです。理由は、対応する人によって本人へ伝える内容が異なるなど、トラブルになり得るリスクもあるためです。

また連絡の頻度は、少なくとも月1回程度にとどめましょう。タイミングとしては主治医へ受診後、内容は「治療経過報告」と目安を伝えておくと、本人や人事労務側が互いに困ることなくスムーズなやりとりが可能になります。なお、対応時の記録は文書として記録しておくことが本人との齟齬を防ぐためにも望ましいです。

その他、休職中の経済保障として、「休職中の給与・健康保険の傷病手当金」があり、一定の給付があることで安心して療養できる環境がある旨を伝えましょう。また、休職時・復職時の手続きにおいて必要な書類を会社に提出してもらう旨もしっかりと伝えましょう。

書類がないと傷病手当金などの申請にも影響が出ることを伝えておくと、提出の動機付けにもなります。復職時には、「主治医の復職可能診断書」の提出が必須であり、それを受けて会社の復職支援が開始する、といった復職を見据えた方針がある旨も伝えておきましょう。

③ 休職中の過ごし方について
あくまで休職の目的は「職場復帰のための療養」であることを伝えましょう。本人にも、症状の回復に合わせて、ゆっくりと復職に向けてトレーニングすればよい旨を伝え、まずは「会社のことは忘れて療養に専念を」という認識を持ってもらいましょう。

復職に向けての訓練は、休養・療養期を経て、日常生活が可能でかつ安定してから主治医と相談しながら段階的に取り組むことが望ましい旨を伝え、最初から焦りを与えるようなメッセージは避けることが適切です。症状のステージに合った療養が必要であることをきちんと理解しておきましょう。

2)休職期間中

休職中もコンタクトを取る

復職を目指すうえで、休職中にコンタクトをとることは、様々なメリットがあります。なお、手続き上もコンタクトを取る必要性があります。

休職している社員は、仕事から離れていると、会社からの疎外感や孤独感を感じやすくなりますが、休職中に会社とコンタクトを取っていると、「会社とのつながり」「会社に支援してもらっている」といった安心感が醸成され、復職を見据えた療養に専念できます。

また、休職中の傷病手当金や給与など、手続き上の連絡をすることで、休職中の経済的、将来的な不安を軽減することに繋がります。

経済補償の観点から、傷病手当金に加えて、会社としてGLTD(団体長期障害所得補償保険)を導入するなどの検討をしておくと、より休職中の社員の経済面の支えとなり、安心して療養するための支援制度として充実するでしょう。

3)復職準備期

症状の回復後は、社員それぞれに合わせたプランが必要

「メンタルヘルス不調による休職」は、人によって症状の経過や回復状態が異なります。ですので、職場復帰に関するフローは同様でも、細かい支援内容は一人ひとりに合わせたカスタマイズが必要です。

復職は休職の判断と同様に、産業医・主治医の判断のもと、事業主が決定します。復職に際し、主に必要となる書類や本人の状態・マインドセットによる事項をご紹介します。

①主治医の『復職可能』の診断書
復職判断に必要な事項は、「いつから(具体的日付でなく目安で可)・通常勤務が可能か・仕事内容はどのようなものが適当か・外したほうがいい仕事内容・通院の頻度」が記載されていると、より復職判断が適切にでき、有益なものとなります。病状を的確に把握するため、主治医の復職可能の診断書に加えて会社の産業医を通じて「主治医意見書(仕事内容や業務に関する条件などを明示した内容を産業医が記載した上で)」を依頼し、産業医の復職判定に活用することもあります。

②生活記録表(就業に準じた生活をしたうえで、最低2週間の安定した状態が保たれていること)
復職希望や主治医の指示を受けて以降、会社の産業医や産業保健スタッフの指示のもと、生活記録表に記録してもらいます。生活記録表をつけることで、起床時間や日中の過ごし方などが客観視しやすくなり、復職判断における基準のひとつとなります。

③体調悪化の原因の検索
再発を繰り返さないため、今回の不調となった要因について本人に振返りをしてもらい、具体的に用紙に記載してもらうことなどをします。

④体調悪化に至らない予防方法を具体的に決める
③の原因検索をしたうえで、不調とならないための予防策を具体的に考えてもらいます。例えば、不調となるサインを自身で気づいた際には、仕事を無理にこなさず、上司に相談し業務分担をしてもらう、早く帰宅し早く寝る、などの対処法が挙げられます。

⑤体調悪化してしまったときの具体的対応を明確に決める
④の予防策を講じていても、体調は悪化する可能性もあるので、そうなった際、どのような対応をするのかを予め決めておきます。具体的には、上司へ相談し業務軽減を依頼する・睡眠、食事をしっかりとる・会社の産業医や産業保健スタッフへ相談する・主治医へ相談するなどです。

まとめ

メンタルヘルス不調で休職した社員が発生した際は、上記ポイントを参考に対応してみてください。また「復職」と「再発防止」というゴールを見据えて、復職支援の伴走者としてのスタンスで支援をすることで、本人の安心感に繋がり、また会社への信頼感・帰属意識の醸成にも繋がります。

休職者の対応は、人によって支援内容が異なるため担当者にも負荷がかかりますが、対応次第で休職者の心情や復職意欲が変わることもあります。「従業員は大事な存在」という認識のもと、きめ細やかな対応を心がけてください。

また、 休職者とのコンタクトや書類のやり取り、生活記録表などを専用のシステム上で一元管理し、管理体制強化とともに業務工数の削減に繋がる休職者管理に特化した専用ツールを利用するのもお勧めです。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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