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面接指導ってそもそも何?
ストレスチェックにより高ストレスと判定された労働者から、医師による面接指導を希望する申し出があった場合、その機会を提供することが事業者には義務付けられています。
事業者は労働者からの申し出の記録を5年間保存しなければなりませんので、面接指導申出書を作成し、高ストレス者が面接指導を希望する場合は、書面を郵送もしくはファイルをメールで送付するなど、申し出方法について事前に決めておく必要があります。
面接指導は医師の資格を持つ人であれば誰でも行うことができますが、各事業場の産業医もしくは事業場において産業保健活動に従事している医師が推奨されています。労働者が常時50人以上いる事業場には産業医を置かなければならないため、その事業場の職場環境への理解が深い産業医に依頼するのが最適でしょう。
外部の医師に面接指導を委託する場合も、産業医の資格を持つ医師が望ましいとされています。なお、労働者の数が50人未満で産業医がいない事業場がストレスチェックを行い面接指導を手配する場合は、地域産業保健センターのサービスを受けることができます。
労働者の同意を得ない限り、ストレスチェックの結果を事業者が直接知ることはできません。ただし、高ストレス者と判定された労働者が医師による面接指導を希望する場合は事業者に申し出を行う必要があるので、これによって、その人が高ストレス者であることが事業者に伝わります。
高ストレス者の中には、人事評価への影響などを憂慮して面接指導の申し出を避けたり、忙しいことを理由に申し出をしなかったりする人も多く、面接指導の希望者は多くないのが実状です。
しかし、面接指導を受けなければ、職場環境の改善やその人自身のストレス状況の改善は難しいままです。ストレスチェック制度を形骸化させないためにも、事業者は制度実施の趣旨や面接指導が人事評価に影響を与えないことを明言し、従業員に理解を求めなければなりません。
なお、高ストレス者ではない人が面接指導を希望した場合、事業者が医師による面接指導を提供する義務はありませんので、申し出を拒否することができます。
面接指導にかかる費用は会社負担となり、1人につき数千円~数万円とその金額には幅があります。各事業場の産業医ではなく外部の医師に面接指導を委託すると、通常1人当たり3~5万円程度かかり、高ストレス者の数が多いほど面接費用がかさむことが想定されるため注意が必要です。
面接指導では何をするの?
面接指導は、医師と高ストレス者が対面で行うことを基本としています。合理的な理由がある場合にはインターネットを通じた面接など、ICT(情報通信技術)の活用も可能です。
新たなストレスを受けることがないよう、勤務時間内に面接を行うことが望ましく、面接場所は事業場の中や事業場に近い個室(秘密が保持される環境)が推奨されています。
面接はあくまで高ストレス者からストレスの状況をヒアリングする場であり、治療をする場ではありません。面接の結果、実際に治療が必要と判断された場合は医師から専門医療機関を紹介されることがありますが、その治療にかかる費用は労働者の負担となり、事業者に費用を負担する義務はありません。
ストレスチェックを受けた結果高ストレス者と判定され、医師による面接指導を希望する労働者は、受検結果を通知されてから1カ月以内に事業者に対して申し出を行う必要があります。
それを受けて事業者は面接指導を担当する医師と調整を行い、申し出から1カ月以内に面接指導を行う機会を提供しなければなりません。
担当医師はストレスチェックの「実施者」から受検結果を、事業者からは健康診断の結果や面接希望者の労働環境、業務負荷状況などの情報を受け取り、面接希望者の勤務状況やストレス・心身の状況について把握します。
勤務状況とは勤怠情報だけではありません。職場における心理的負担の原因や他の労働者からのサポート状況といった職場全体の状態を把握する必要があります。
面接指導を通じて、担当医師は労働者の疲労度や抑うつ傾向などについて評価を行い、それが業務に起因するものであるかどうかを判定します。そもそも面接指導の目的は、過労やストレスによる労働者の脳・心臓疾患やメンタル不調を防止することです。
事業者が労働者に対して就業上の措置を適切に講じることができるよう、担当医師には医学的な見地から助言を行うことが求められていますので、事業者は職場のストレス緩和策として何ができるのか、担当医師の意見を参考にしましょう。
面接指導後、高ストレス者にどのように対応すればいい?
まず、事業者は面接指導実施後1カ月以内に、高ストレス者の面接指導を担当した医師からフィードバックを受けなければなりません。次にその結果を検討し、高ストレス者に対して就業上の措置を取る必要があります。担当医師の意見を参考にして、労働時間の短縮などの措置を行いましょう。
また、面接指導の結果を理由として、必要と認められる範囲を超えて、労働者が不利益を被る取り扱い(解雇・退職勧奨や、本人の同意を得ない職位変更・配置転換など)をすることは禁止されています。
ストレスチェックを受けない場合や受検結果を事業者に提供することに同意しない場合、高ストレス者と判定されたものの面接指導の申し出を行わない場合であっても同様です。
医師による面接指導を受けた高ストレス者に対して、面接指導の結果に基づいた就業上の措置を取るに当たって、担当医師の意見と高ストレス者の意向が食い違う場合には特に注意が求められます。
例えば、「労働時間の短縮」という就業上の措置を行ったとき、高ストレス者から「仕事が制限されるのは不利益変更だ」という訴えが起こる可能性があります。
就業上の措置を実施するに当たっては、面接指導を行った医師、高ストレス者、職場の意見などを聞き、関係者間で適切なコミュニケーションを取りながら進めることが重要です。
ストレスチェックは、あくまでも事業者に実施義務が課せられたものであり、ストレスチェックを受けるかどうかは労働者の任意である点に留意しましょう。
さらに、ストレスチェックの結果や面接指導の結果は要配慮個人情報(機微情報)であるため、これらの情報を知る立場にある者には守秘義務が発生します。情報の取り扱いには十分な注意と厳重な管理体制が求められます。
最後に、事業者には高ストレス者に対するストレス軽減措置だけではなく、職場全体に対するストレス対策を講じることが望まれています。
ストレスチェックの結果を用いて努力義務として挙げられている集団分析を行い、その結果に基づいて職場環境を改善する対策を打つことで、潜在的な高ストレス者(予備軍)を減らすことができるでしょう。
高ストレス環境下では生産性が低下するという研究結果もあり、組織の生産性を向上させるには、ストレスレベルを適切にコントロールすることが欠かせません。
職場環境の改善によって労働者のストレスレベルを改善することは、「働きやすい職場」の形成につながりますし、離職率を低下させることもできます。職場全体のストレス対策を行うことによって、いわゆる「正の連鎖(ポジティブ・スパイラル)」が生み出せるのです。