レジリエンス:変化にしなやかに適応するために

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レジリエンスとは

レジリエンス(resilience)とはしなやかな強さ、精神的回復力、復元力などとも訳され、挫折や苦境から回復する力のことです。職場においては、いつ降りかかるかもしれぬ想定外の出来事に対し冷静に対処すること、新しい環境、変化、多様な状況に対してしなやかに対応できる力をさします。

レジリエンスを兼ね備えた人は、健康でいきいきとしていて、心身ともに健康な状態でいることができ、仕事上で困難なことや、今まで経験したことがないことを任されたときにも、うまく乗り越えられます。レジリエンスは、ストレス社会をしなやかに生き抜く上で重要なスキルと言えます。

東日本大震災の直後には、多くの人々が心理的に影響を受け、心のケアを必要としました。心理的に落ち込んだ状態が長く続いた人もいた一方で、ショックや悲しみから早い段階で立ち直り、周囲の人を支援し、仕事をいち早く軌道に乗せ、震災前の状態に戻るようにエネルギッシュに働く人もいました。後者の方たちが見せた強さや逆境からの回復力がまさにレジリエンスです。

災害やリーマンショックなどの経済危機に備えて、優良企業は、BCP(事業継続計画)を作成します。BCPとは、緊急事態に遭遇した場合に、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に取り決めておく計画のことです。

データのバックアップ体制や、代わりとなる製造拠点の準備など、ハード面に加え、健康な従業員の確保の観点などもあり、レジリエンス力を常日頃からつけておくのもその一つです。企業にとっては、個人のレジリエンス力と組織のレジリエンス力の両方が重要です。

働き方改革による長時間労働の制限、メンタルヘルス施策、ハラスメント防止、LGBTや多様な個人を受け入れるダイバーシティ施策などは、組織レジリエンスと関係があります。

組織を建物に置き換えるならば、レジリエンス力の高い組織とは、揺れに柔軟に対応できる建物、耐震性、免震性に優れた建物のことです。頑丈な組織だというだけでは企業を取り巻く脅威やストレスに柔軟に対応できません。

レジリエンスの要素

個人のレジリエンスの向上に必要なのは、自分の軸・しなやかな思考・対応力・人とのつながり・セルフコントロール・ライフスタイルの6要素です(図1)。これらは研修やコーチングを受けて、後天的に高めることができます。欧米では、リーマンショック後に多くの企業が従業員にレジリエンス研修を提供し、病気にならずに不況を乗り越え、仕事上の変化を受け入れ、新しいことに挑戦する柔軟性を育成しました。

2012年のロンドン・オリンピック・パラリンピックの成功のために関わった8000人のロンドン交通局の職員全員もレジリエンス研修を受けました。

図1 レジリエンスの6つの要素
出典:©Positivelives Ltd./©レジリエ研究所(株)日本語版

①自分の軸

1番目の「自分の軸」とは譲れない価値観のことで、自分の軸がある人は、内なる強さを持ち、困難な状況でも冷静に対処できます。例えば、遠方への栄転を命じられた際、キャリアアップ優先の価値観を持つ人は喜んで受け入れるでしょうが、家族の時間を大切にしたい人は断るかもしれません。しかし、自分の軸をしっかりと持っている人は、たとえ断ったとしても後悔することがありません。

自分の軸を長所として持っている有名人の例として、アップル社の創始者、故スティーブ・ジョブズがいます。彼の語録に、「私はアップルの経営を上手くやるために仕事をしているわけではない。最高のコンピューターを作るために仕事をしているのだ。」という言葉があります。

経営を上手く行う、という価値観と、最高のコンピューターを作る、という価値観は時には社内で対立します。最高のコンピューターを作るには、コストや時間がかかりすぎ、収益が減ってしまいかねないからです。ジョブズの自分の軸はぶれることがなかったため、彼自身は、迷わず、最高のコンピューターを作り続けました。

ですが、自分の軸だけに頼りすぎると独断となってしまうこともあるので、より良質な判断をするためには、違う人の意見を取り入れるなど、情報収集をする必要があります。

②しなやかな思考

2番目の「しなやかな思考」とは、自分の考え方の癖を自覚して、違う意見を取り入れることができる力です。聴き上手なので、人から多くの情報を引き出すことができます。

仏陀は、「過去に生きるな。未来を夢見るな。今のこの瞬間に集中しなさい。」と述べています。言い換えれば、マインドフルに今この瞬間に注意を集中すれば、周囲のいろんな情報や意見に耳を傾けることができるということです。 

③対応力

3番目の「対応力」は、問題を解決する力です。対応力を高める方法の一つとして、自分ではコントロールできない問題には距離をとったり、静観し、自分でコントロールできること、調整できることに注力することがあります。

例えば、いつも定例会議が延長してしまうという問題に対し、会議を中止するという提案は無理ですが、タイムキーパーを置くとか、事前に議案を集め、資料を配布するなどが、調整可能なことです。

また、多くの男性は、仕事上では問題解決の仕方がわかっていても、家庭の問題になると、解決できない、という悩みがあります。問題があることに気づかないことが、まず問題です。例えば、熟年離婚などはいい例です。気づいたときにはもう取り返しがつきません。

日本人は特に感情が身体の状態に影響しやすいと言われているので、頭痛、肩こり、腹痛などの身体の変化に意識をむけるのは問題の早期発見につながります。

④人とのつながり

4番目は「人とのつながり」です。世の中には1人では解決できない問題も多く、いざというときに助けてくれる同僚がいるとか、いざというときに心の支えとなってくれる人がいることにより、困難を乗り越えることができます。

また、逆に、困っている相手に支援を提供してあげることで、人との信頼関係を普段から培っておくことも大事です。人とのつながりの力がある人は、困難な状況下で家族や仲の良い友人などと、お互いの苦難に共感しあうことで強くなれます。また、必要に応じて、専門家、コーチやメンターの意見を求め、問題の新たな視点や気づきを得ることができます。

さて、人とのつながりがあるということは逆に、衝突したり、傷ついたり、怒りを感じたりすることもあり、よって、職場など社会の中では、冷静に自分の感情をコントロールする力、「セルフコントロール」が重要になってきます。

⑤セルフコントロール

5番目の「セルフコントロール」は、職場で人と衝突したり、傷ついたり、怒りを感じたりすることがあっても、冷静に自分の感情をコントロールする力のことをさします。最近では、マインドフルネス瞑想が感情のコントロールに大変効果的であることから、取り入れている職場が増えてきました。

人間の脳の中には、扁桃体という部位があり、この部位は、危険から私たちを守るために、危険を察知すると、相手を攻撃するか、もしくは逃避するかという反応を衝動的に起こさせます。ところが、職場でこれをやってしまうと、衝突が起きたり、言ったことやメールで書きすぎてしまったことを後悔するはめになります。

マインドフルネス瞑想を実践することにより、扁桃体を鎮めることができるようになるため、落ち着いて、物事を判断して行動できるようになります。

⑥ライフスタイル

6番目の「ライフスタイル」とは、バランスのとれた食事、運動、睡眠によって、心身ともに健康を保っている状態のことです。健康なライフスタイルを保つ力のある人は、アルコールや喫煙など、いわゆる依存性のある行動に依らない健康なリラックス方法を持ち、自分のための時間を取ることを忘れません。また、自然と接してリフレッシュしたり、常に好奇心を持って新しいことにチャレンジしていくことも大切です。

レジリエンス力を向上するためには、まず、自分のレジリエンス力を自己採点してレジリエンス力を数値化します。その後、レジリエンス力を向上する方法を研修やコーチングで学び、練習を積み重ねることによって向上することができます。

レジリエンス力の高い人は、メンタルヘルス疾患にかかりにくく、健康でやる気があり、生産性が高い。そのような従業員が多くいる職場は、ワーク・エンゲイジメントが高い職場で、職場の生産性も高いと言われています。

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【筆者プロフィール】

市川佳居
レジリエ研究所所長
医学博士、(一社)国際EAP協会日本支部 理事長。日本国内およびアジア太平洋地域におけるEAPのパイオニア。日本およびアジア地域におけるEAP普及に携わりつつ、働く人のメンタルヘルス、健康経営などの側面からレジリエンスを活用した手法を企業にアドバイスしている。著書『職場ではぐくむレジリエンス』『Q&Aで学ぶワーク・エンゲイジメント』『EAP導入の手順と運用』『新訂版・職場のメンタルヘルス100のレシピ』『企業のメンタルヘルスを強化するために~EAP(従業員支援プログラム)の活用と実践』

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