ストレスチェックの実施者は医師等の特定資格者に限られ、人事権を持つ人は選任できません。本記事では、実施者の具体的な資格要件や、社内に適任者がいない場合の外部委託の進め方を解説。正しい実施体制の整え方が分かります。また実施者だけでなく、実務をサポートする「実施事務従事者」の役割や、選任時の注意点についても詳しく紹介。法令を遵守しつつ、スムーズに運用するためのポイントを確認しましょう。
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目次
ストレスチェックとは

まずはストレスチェックの制度概要をおさらいしましょう。
ストレスチェックの概要
ストレスチェックとは、従業員に選択式のストレスに関する調査票に回答してもらい、従業員自身のストレスの状態や、その背景にある職場のストレス要因を把握するための検査です。メンタルヘルスケアの取り組みの1つとして、法律(労働安全衛生法第66条の10、労働安全衛生規則第52条の9)により、常時雇用する従業員が50人以上の企業には、年1回以上の実施が義務付けられています。
ストレスチェックの実施者は、一連のプロセスにおいて中心的な役割を担います。なお、2025年の法改正により、数年以内に従業員数に限らずすべての事業場で実施が完全義務化される見通しです。今後、従業員数にかかわらずストレスチェックの実施義務が拡大される方向で検討が進められています。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」
参考:厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)
参考:ストレスチェック制度関係法令等
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ストレスチェックの目的
ストレスチェック制度の主な目的は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」です。従業員が自覚しにくいストレスを、ストレスチェックを通して「見える化」して早期に気づいてもらうことで、セルフケアなどの行動を促し、メンタルヘルス不調の未然防止につなげます。また、ストレスチェック結果を集団ごとに分析して職場に共通するストレス要因を把握し、職場環境の改善に活かすことも目的の1つです。ストレスが高いと判定された従業員を適切なケアへつなぐ役割も担います。
ストレスチェック義務化の流れ
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法の改正により2015年12月に義務化されました。未実施そのものに対する直接の罰則はありませんが、対象事業場において労働基準監督署への報告を怠った場合には50万円以下の罰金が科されます(労働安全衛生法第120条)。
また、2025年5月の法改正により、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化される見通しで、企業規模を問わず対応が求められる制度へと変化しています。ストレスチェック実施義務は、50人未満の産業医選任義務がない事業場にも拡大されるため、産業医がいない場合でも、ストレスチェックの実施者を必ず置かなければなりません。2026年3月現在施行日は未定ですが、現時点で実施義務のない企業においても、実施に向けた情報収集と準備を行っておくことが望ましいです。
参考:東京労働局・各労働基準監督署「平成27年12月1日からストレスチェックの実施が義務になりました」
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ストレスチェックの実施者の役割と資格要件

ストレスチェックの実施体制を整えるにあたり、まずは以下主要な4つの役割について理解しておきましょう。続いて、「実施者」の役割と要件を整理します。
| <ストレスチェックにおけるそれぞれの役割> | |
| 事業者 | ストレスチェックの実施責任を持つ運営者。多くの場合、企業や法人を指します。 |
| ストレスチェック担当者 | 各職場において、ストレスチェックの実施計画の策定、実施の管理などを担当します。一般的には、社内の衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者が携わります。 |
| 実施者 | 調査票の選定や評価方法の決定や結果の確認を行う、実施の中心的な役割を務めます。 |
| 実施事務従事者 | 実施者の指示に従い、関連業務の補助・事務作業を担当します。 |
ストレスチェックの実施において、人事担当者は実施体制の構築や運営で重要な役割を担います。スケジュール管理や、実施者・外部機関との調整、社内周知や受検の案内、職場環境改善の企画など、主体的に運営に関わります。ただし、ストレスチェックの実施と評価そのものの業務には携われません。
ストレスチェックの「実施者」の役割
ストレスチェックの実施者とは、調査票の選定や評価方法の決定、結果の確認を行う、実施の中心的な役割を担う人のことです。主な役割は3つです。
①事業者への助言
ストレスチェックを実施するにあたり、専門的な視点から事業者(企業)に対して提案や助言を行います。
②高ストレス者の選定基準や評価方法に関する助言
高ストレス者の選定基準などについて専門的な視点から提案や助言をします。事業者は、実施者の見解や衛生委員会の意見を踏まえ、選定基準を決定します。
③面接指導が必要な労働者の判断
ストレスチェックの個人結果から、医師による面接指導の必要性について判断します。また、実施事務従事者へ指示し、ストレスチェック結果の通知や記録の作成、集団分析などを行います。
ストレスチェックの「実施者」の資格要件
労働安全衛生規則第52条の10第1項により、実施者は以下の要件に該当する有資格者と定められています。実施者の選定は事業者が行います。
<ストレスチェック「実施者」の資格要件>
①医師
②保健師
③特定の研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
③については厚生労働省が定める研修を受け、ストレスチェックの知識を得ていることが必須です。また実施者は、従業員の個人情報を取り扱うため、守秘義務が課されています。(労働安全衛生法第104条)
<代表実施者と共同実施者>
ストレスチェック実施マニュアルによると、実施者が複数名いる場合、「代表実施者」と「共同実施者」としてそれぞれを明示することが求められています。ストレスチェックの実施をすべて外部委託する場合でも、同様の対応が必要です。
日頃から社内の状況を把握し、事情をよく理解している産業医が実施者となることが望ましいですが、産業保健活動に携わっている精神科医、心療内科医などの医師、保健師、看護師なども推奨されています。
ストレスチェック実施事務従事者の役割と資格要件

次に、実施事務従事者の役割と要件をチェックしましょう。実施事務従事者は、実施者の指示のもと実務を支える重要なポジションです。
ストレスチェックの「実施事務従事者」の役割
「ストレスチェック実施事務従事者」とは、実施者の指示に従い、さまざまな補助を行う人です。個人の調査票のデータ入力や結果の出力、記録の保存等を含む事務作業を担います。
実施事務従事者の役割は以下の通りです。
<ストレスチェックの実施事務従事者の担当内容>
- 実施に向けたスケジュール調整、案内
- 実施を委託している外部機関との連携
- 調査票の配布、回収、未受検者への催促
- 個人への結果通知
- 分析データの出力、事業所への集団分析結果の通知
- 面接指導の勧奨
- 結果の保存(事業者から指名を受けた場合)
ストレスチェックの「実施事務従事者」の資格要件
実施事務従事者には特別な資格は必要ありません。衛生管理者をはじめとする社内の産業保健スタッフが担当することが一般的で、外部委託も可能です。実施事務従事者も、従業員のストレスチェックの回答を知り得る立場にあるため、法律により守秘義務が課されています。人数について規定はなく、一般的には1~2名程度、規模の大きい事業場はそれ以上を選任するケースも見られます。
ストレスチェック実施者と実施事務従事者の違い

ストレスチェックの実施者と実施事務従事者の違いを改めて整理します。
| 実施者 | 実施事務従事者 | |
| 資格要件 | あり | なし |
| 立場 | 実務の中心的役割 | 実施者の補助 |
| 主な役割 | 事業者への助言、 高ストレス者の判断など | 調査票の配布・回収、 結果の通知・案内など |
| 守秘義務 | あり | あり |
実施者は「専門的な判断」を、実施事務従事者は「実務のサポート」を担います。実施事務従事者には資格不要ですが、従業員の回答内容に触れるため、実施者と同様に厳格な守秘義務が課せられる点に注意が必要です。
ストレスチェック実施者と実施事務従事者になれない人とは?

人事権を持つ「監督的地位」にある人は、ストレスチェックの実施業務に関われません。これは、検査結果が人事評価や処遇に不適切に利用されることを防ぎ、従業員が安心して受検できる環境を守るためです。労働安全衛生規則(第52条10の2)でも明確に禁止されています。
具体的には、経営者や人事部長など、直接的な権限を持つ人は、実施者や実施事務従事者には選任できません。一方で、人事部に所属していても、上記のような決定権を持たない従業員については、実務上の制限対象には含まれません。
監督的地位にある人の業務制限
監督的地位がある人(人事権がある人)でも、関与をすべて禁止されているわけではありません。個人の健康情報(回答内容など)に直接触れる業務はNGですが、企業全体の実施計画やスケジュール管理といった「運営上の事務」であれば、携わることが可能です。
| 業務内容 | 理由 | |
| 従事不可 | 健康情報に触れる業務 ・調査票の回収や内容の確認 ・データ入力や分析 ・結果の封入など | 評価者が個人のストレス状態を知ることで、不利益な扱いにつながるおそれがあるため。 |
| 従事可能 | 事務的な運営業務 ・ストレスチェックの実施計画の策定、スケジュール調整 ・従業員への調査票の配布、案内など ・外部委託先との契約事務 | 個人の健康情報を取り扱わない、形式的な管理業務であるため |
ストレスチェック実施者と実施事務従事者の選び方

実施者は、自社の状況を熟知している産業医への依頼が最も望ましいです。専門的な立場からの知見を得られるだけではなく、職場の状況に応じた環境改善、より具体的で的確なメンタルヘルス対策の実施が期待できます。選任時は、業務範囲を明確に伝えましょう。ストレスチェックの実施を見据えて新たな産業医の選任を検討する場合は、実施者としての対応可否の確認が必須になります。
実施事務従事者は、人事権を持たない人事労務担当者や衛生管理者、産業保健スタッフなど、ストレスチェック制度と社内の状況について詳しい人が適任です。外部委託する場合でも、社内連携をスムーズにするために適切な選任が求められます。
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ストレスチェックの実施者がいない場合の対応方法

社内に適任者がいない、または産業医に断られた場合は、以下の3つの方法で検討しましょう。
産業医を探し、依頼する
最も一般的な方法です。産業医の選任義務がない従業員数50人未満の事業場なら、各都道府県の産業保健総合支援センターや地域産業保健センター(地産保)に相談し、実施者の確保について支援を受けることも可能です。実施者以外のその他の運用については、自社で行うか、外部に委託するかを別途検討する必要があります。
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社内の有資格者が研修を受講する
社内に看護師や精神保健福祉士、公認心理師などが在籍している場合は、既定の研修を受講することで実施者になれます。内製化できるメリットがある一方で、研修受講や実施者としての中長期的な継続的負担が発生するため、慎重に検討する必要があります。
外部機関に委託する
内製では負担が大きい場合には、一連のストレスチェック業務を外部に委託する方法が効率的です。調査票の作成から実施後の集団分析まで引き受けてもらえることも多く、専門的な知識や豊富なデータを持っているため、ストレスチェックの実施効果をさらに高めることも期待できます。衛生委員会での審議や決定など、企業側で行うべき対応に集中できることもメリットです。厚生労働省が公開している、外部委託を検討する際のチェックリストもぜひ活用してみましょう。
参考:厚生労働省「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」
ストレスチェックの実施者は高ストレス者の面接指導を兼任できる?

高ストレス者は、あらかじめ定められた基準に基づいて実施者が選定するため、一連の選定プロセスに事業者は関われません。事業者が当該労働者を把握できるのは、従業員本人から医師による面接指導の申し出があった場合です。
注意が必要なのは、「ストレスチェックの実施者は医師以外でも可」ですが、面接指導を担当できるのは「医師のみ」という点です。実施者が保健師や精神保健福祉士の場合、面接指導は別途、産業医などの医師に依頼する必要があります。職場の産業医が実施者を務めていれば、選定から面接指導まで一貫して任せられるため、運用がスムーズです。面接指導の申し出があった際は、速やかに医師による指導の場を設けましょう。
参考:厚生労働省「ストレスチェック導入ガイド」
高ストレス者への対応方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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人事担当者は実施者になれる?

人事担当者は実施者になれません。実施者は法令で定められた有資格者に限られます。人事は実施事務従事者として補助業務を担えます。
共同実施者と代表実施者(実施代表者)の違いは?

複数名が実施者となる場合に、責任者となる人を「代表実施者(実施代表者)」、それ以外を「共同実施者」と呼びます。外部機関に実施を委託し、自社の産業医にもストレスチェックに関わってもらいたい場合などに見られるケースです。
それぞれの役割を理解しストレスチェックの円滑な実施を

ストレスチェックの適切な運用には、各担当者の役割を正しく理解することが大切です。本制度はメンタルヘルス不調の未然防止だけでなく、集団分析の結果を活用することで職場環境の改善にもつなげられます。より意義ある取り組みにするためにも、実施体制を整えた上で、専門知識を持つ産業医との密な連携や、外部専門機関への委託も検討しましょう。

