日々働く中で避けて通れないのが職場のストレスです。ストレスの要因は多岐にわたりますが、ストレスに適切に対処しなければ心身の不調を招きかねません。従業員個人、そして組織の双方が、それぞれの立場からストレス対策を行っていくことが求められます。本記事では、職場のストレスの主な原因やストレスのサイン、対策についてご紹介します。
職場のストレス対処にご活用いただける相談窓口「アドバンテッジ カウンセリング」は、24時間・多言語対応。従来の傾聴に加え、認知行動療法で考え方や行動の変化まで支援します。ストレス要因に合わせた専門的なサポートで、従業員の心身の不調を防ぎましょう。
目次
職場のストレスの原因とは

厚生労働省によると、職場におけるストレスの内容について、最も割合が高かったのが「仕事の量」(43.2%)、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」(36.2%)、「仕事の質」(26.4%)と続きました。また、アドバンテッジリスクマネジメントの調査においても、ストレスの原因として同様の調査結果がでています。
これを踏まえ、職場でストレスを感じる原因についてみていきましょう。
参考:厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」
業務の量/質の負担
まず挙げられるのは、業務の負担が大きいことです。キャパシティを超える業務を抱えていたり、長時間労働が常態化していたりするなど、「仕事の量」が多いと、疲労が蓄積し心身に大きなストレスとなります。
業務内容そのものが自分の能力やスキルに見合わず強みを活かせない、高い集中力を維持しなければならない、裁量の余地が少なく、主体性や創造性を発揮しづらいなど、「仕事の質」が負担になっている場合にもストレスを感じやすいです。
人間関係の悪さ
円滑なコミュニケーションが難しい、性格が合わないなど、職場での人間関係の悪さは大きなストレス要因になります。叱責を恐れて報告や相談をしづらい、自由な意見提案ができないなど、職場の心理的安全性が低いケースもあります。特に、日常的にコミュニケーションをとる上司との関係性が良好でない場合、ストレスを抱えやすいです。
職場の人間関係において特に深刻なのはハラスメント問題です。パワハラやセクハラは、直接の被害者だけでなく、それを見聞きした周囲の従業員にも強い心理的負担を与え、健全な職場環境を阻害します。
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キャリアの不安や悩みがある
「自分の理想とするキャリアプランが築けないのではないか」「このままここで働いていても成長できないかもしれない」など、キャリア形成への不安もストレスとなりやすいです。頑張りが評価されない、評価基準が不透明で納得しづらいといったケースも挙げられます。
また、一見ポジティブなできごとのように見える昇進や役職変更も、責任や期待が増すことで「失敗できない」と感じてストレスを抱える場合もあります。
企業が職場のストレス対策に取り組むべき理由

職場のストレス対策は、個人の対処に任せきりにするのではなく、企業としても積極的に対策に取り組んでいく必要があります。その理由を、3つの観点から掘り下げていきます。
従業員の心身の健康を守るため
従業員一人ひとりが自分や周囲の人のストレス状態に早めに気づき、適切な対処をすることで、メンタルヘルス不調の未然予防につながります。メンタルヘルス対策は、心の不調を感じる前の「一次予防」が特に重要です。
ストレス対策に取り組み、従業員が心身ともに健康な状態で働ける環境をつくることは、企業に課せられた義務であると同時に、健康経営やウェルビーイングな職場の実現という点でも重要な役割を果たします。
特に近年は、2020年の「パワハラ防止法」施行、2022年の厚生労働省による「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」公開など、法的な背景からもハラスメント防止の取り組み強化が強く求められており、ストレス対策と一体となって進めるべき重要な課題となっています。
離職防止のため
メンタルヘルス不調が悪化し、うつ病などの病気を発症すると、休職や離職を余儀なくされてしまうこともあります。一人が退職すると、その業務が他の従業員に割り振られ、残る従業員の負担が大きくなる可能性もあるでしょう。これが連鎖するとチーム全体の雰囲気が悪化し、さらなる離職を招きかねません。企業が職場のストレス対策に取り組み、従業員が健康に働ける職場をつくることは、離職防止にも大きく貢献します。
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組織の生産性を高めるため
ストレスによるプレゼンティーイズム(不調を抱えての就業状態)は、集中力や判断力を低下させ、ミスや生産性ダウンを招きます。一方、従業員が前向きな心理状態を保てると、本来の能力(判断力、思考力、創造力)を十分に発揮でき、個人のみならずチームの成果向上につながります。職場全体に活気が出れば、コミュニケーションが活発化し、積極的な意見交換やイノベーションが生まれ、さらなる生産性向上が期待できるでしょう。
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職場のストレッサーの種類

ストレスの原因となる外部からの刺激のことを「ストレッサー」といいます。ストレッサーは多種多様で、主に4つに分類されます。
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社会的・心理的ストレッサー
社会的・心理的ストレッサーは、人間関係や社会生活に起因するものです。特に現代は、心理・社会的ストレッサーの影響が大きいといわれています。
【例】
上司の叱責やハラスメント、人間関係の摩擦、過剰なノルマ、キャリアへの不安、異動など職場の変化
物理的ストレッサー
物理的ストレッサーとは、温度、騒音、振動など環境的な刺激を指します。集中力の低下や慢性的な疲労につながる可能性があります。
【例】
冷暖房の過不足、不適切な照明、外部の工事の騒音、キーボードの打鍵音など環境的な刺激
生物的ストレッサー
生物的ストレッサーとは、病気、感染症、体調不良など身体的な要因を指します。肉体的な不調は精神面とも連動しやすく、仕事のパフォーマンスに直結します。
【例】
長時間労働による疲労、体調不良、睡眠不足、妊娠に伴う身体的変化など
化学的ストレッサー
化学的ストレッサーとは、化学物質や環境要因に関連する刺激を指します。
【例】
受動喫煙、換気不足によるCO2濃度上昇、業務上の有害物質、強すぎる香水の香りなど
職場のストレスが溜まることで出てしまう悪影響や症状

自覚がないままにストレスを溜め込んでしまっているケースも少なくありません。メンタルヘルスの不調は、心の症状だけでなく身体的な症状として出てくる場合もあります。職場のストレスが溜まっていることを示唆する症状や、悪影響をチェックしましょう。
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身体的な症状
ストレスの蓄積は、自律神経の乱れなどを介して身体的な不調となって現れることがあります。これらは一時的な体調不良として見過ごされがちですが、注意が必要です。早めに気づき、対処することが大切です。
【具体的な症状の例】
- 睡眠や食欲の変化
- 肩こり
- 頭痛
- 便秘や下痢
- 強い疲労感
- 動悸や息苦しさ など
精神的な症状
ストレスが溜まると、精神面にも変化が現れます。本人よりも周囲の人が先に変化に気づく場合が多いですが、目に見えない変化も含まれます。本人・周囲ともに気づかず、調子が悪化するケースもあるため要注意です。
【精神的な症状の例】
- 気分の落ち込み、憂鬱感がある
- 不安で落ち着かない
- 悲観的になる
- 自分を責めてしまう
- 何をしても楽しく感じられない
- 悪い方向にばかり考えてしまう
- 理由もなく涙が出る など
仕事や生活、人間関係への悪影響
心身の不調は、生活習慣や職場のパフォーマンスに影響が出始めたサインであり、早めの対処が必要です。これらは個人的な問題にとどまらず、チームワークや生産性の悪化にもつながります。下記のような変化を確認できた場合には注意深く様子を見ましょう。
【具体例】
- 生活リズムの乱れによる遅刻や欠勤の増加
- 集中力低下による単純なミスの増加
- 怒りっぽくなることでの人間関係の摩擦
- ストレス解消のための過度な飲酒や浪費
- 身だしなみに無関心な様子
個人でできる職場ストレスの対処法

従業員個人ができる職場ストレスへの対処法をご紹介します。自分がストレスを感じたときに、うまく工夫してストレスに対処していく「ストレスコーピング」の考え方も併せて参考にしてみてください。ただし、個人での対処には限りがあります。職場のストレスに対し根本的な解決を図っていくには、企業側からの取り組みも不可欠です。
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自分に合った方法でストレスに対処する
ストレスへの対処法は人それぞれです。自分に合った「心地よい行動」を見つけましょう。ジョギングやヨガなどの軽い運動、映画や音楽を楽しむなど、趣味を通じたリラックスが有効です。仕事中には、深呼吸やストレッチ、一息つくなどの簡単なリフレッシュを試してみてください。
効果的な方法をまとめた「コーピングリスト」を作成し、気分に合わせて実践するのもおすすめです。ただし、過度な飲酒やギャンブルなどは、長期的に新たなストレスの原因になるため注意が必要です。
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生活習慣を整える
生活習慣を整えることも不可欠です。特に睡眠は、脳と身体の疲労を回復させる最も重要な時間です。睡眠不足や質の低下は、イライラや集中力、判断力の低下を招き、ストレス耐性を弱めてしまいます。
栄養バランスの取れた食事や適度な運動、入浴も心身の調子を整える要素の一つです。ストレスが溜まってから慌てて生活習慣を見直すのではなく、日ごろから規則正しい生活を意識しましょう。
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社内の制度を活用する
有給休暇の取得や、リモートワークなど、会社の制度を活用してストレス軽減を図ることも有効です。職場や仕事に強いストレスを感じていても、家族や同僚には打ち明けにくいときは、産業医や保健師、カウンセラーや外部の相談窓口など、専門的な知識を持つ第三者に相談するのもおすすめです。外部の相談窓口は匿名で相談したい、職場に相談内容を知られたくない場合にも適しています。カウンセリングは、心身が限界に達したときにだけ利用するものではなく、小さな悩みや不安を気軽に話せる場所として活用するとよいでしょう。
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企業が行える職場ストレスに対する対策方法

ストレスによって従業員がメンタルヘルス不調に陥ることを防ぐため、企業も従業員のメンタルヘルスケアを支援し、適切な対策が必要です。
働き方を見直し負担を軽減する
業務の負担を減らすための取り組みも重要です。業務の棚卸しを行い、無理、無駄、ムラがないかを見直して効率化を図ります。業務支援システムやITツールを導入し、単に業務量を削減するだけではなく、限られた時間でより高い成果を出せる環境を整えることが大切です。併せて、リモートワークやフレックスタイム制度などの柔軟な勤務形態を導入し、選択肢を増やしましょう。
ストレスチェックを活用する
ストレスチェックは、従業員に自身のストレス状態を知ってもらい、セルフケアを促すことが重要です。カウンセリングやeラーニングを案内し、「やっただけ」で終わらせず改善行動へつなげます。
他方、企業はストレスチェックの集団分析で組織の課題を把握し、精度の高い職場環境改善を実施できます。年1回のチェックだけでなく、施策の効果や変化を見逃さないよう月1回程度のパルスサーベイを併用することも有効です。
ストレスケアに関する研修を行う
従業員が心身の変化に気づけるよう、ストレスとメンタルヘルスに関する研修は定期的に実施しましょう。ストレスのメカニズムと心身への影響を正しく理解してもらうことで、適切なセルフケアを促します。
ストレス要因は職位によって異なるため、階層別に内容を設計するのが望ましいです。例えば、管理職には部下の変化を見抜く視点を、新入社員には基本的なストレス対処法を学んでもらうなど、それぞれの立場に応じた知識を身につけてもらいましょう。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、ストレスの基礎知識や対処法を学ぶ各種研修サービスを提供しています。
新入社員:職場文化や業務への適応に時間がかかる
新任管理職:責任の増加や人間関係の変化による負荷
異動者:新しい人間関係・業務内容への対応が必要
企業としては、従業員が適切にストレス対処できているかを確認し、研修実施や相談窓口の設置など必要な支援をタイムリーに提供する体制を整えることが重要です。
相談窓口を設置する
従業員が抱える悩みを安心して打ち明けられる相談窓口を設置します。窓口は誰でも気軽に利用でき、匿名での相談も可能なことや、相談の秘密は守られることを周知して、利用のハードルを下げます。
職場のストレスや心身の不調以外でも、キャリアに関することなどを気軽に相談できる場所として運用していくとよいでしょう。外部の専門家や医療機関のフォローを受けられるよう連携し、必要に応じてすみやかに従業員を支援できる体制を整えておきます。
従業員のストレスを判断するストレスチェックとは

最後に、メンタルヘルス対策の要となるストレスチェックについて簡単にご紹介します。
ストレスチェックとは
ストレスチェックとは、従業員が選択式の質問票に回答し、自身のストレス状態や職場の要因を把握する検査です。主な目的は、従業員のメンタルヘルス不調の未然予防と職場環境の改善の2点です。
現在、常時50人以上の事業場には年1回の実施が義務付けられています。しかし、2025年5月の法改正によって、従業員50人未満の事業場も義務化の対象とする法改正案が可決・成立しました。施行日は未定ですが、義務化を見据えて、現在対象外の企業も早めに実施体制を整えておくことが推奨されます。
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ストレスチェックの実施の流れ
ストレスチェックの実施の流れは以下の通りです。
-
①実施体制の整備
②質問項目の設計
③周知と実施
④評価と結果通知
⑤高ストレス者対応(※)
⑥集団分析と改善
⑦記録・報告
(※)高ストレス者とは:ストレスの自覚症状が高い、または、ストレス要因と周囲の支援環境の評価が悪いなど、心身の負担が大きいと判断された従業員のことです。選定基準に統一されたものはありませんが、各事業場(企業)が独自に定めます。
参考:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(令和3年2月改訂)
詳しい手順や、高ストレス者への対応方法は以下の記事で詳しく紹介しています。
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ストレスチェックを実施する際の注意点
ストレスチェックを意義ある取り組みにするため、以下の点に注意が必要です。
【従業員の理解を得ること】
実施目的や結果の扱いを丁寧に周知し、繁忙期を避ける、オンライン回答にするなど、回答しやすい環境を整備します。
【結果を適切に活用すること】
単に実施するだけでなく、集団分析を通じて職場改善につなげることが重要です。また、結果を理由に従業員が不利益な扱いを受けないよう厳重に注意します。
【外部リソースを活用すること】
分析の精度向上や専門的な知見が必要な場合は、ストレスチェックの外部委託を検討するほか、産業医・保健師などの専門家と密に連携をとりましょう。
職場環境改善まで取り組んでいる事業場は4割台後半程度(※)であるといわれていますが、ストレスチェックの結果をどう活かすか、どこから手をつけるべきか迷われる場合は、ぜひ一度弊社にご相談ください。
(※) ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書
組織としてストレス対策に取り組みましょう

職場のストレスを完全に回避することは困難です。従業員個人の努力には限界があるため、企業側もストレスチェックの活用や研修実施などを通し、積極的に対策に取り組む必要があります。従業員と企業それぞれの取り組みによってストレスを軽減し、心身ともに健康に働ける職場の実現を目指しましょう。

