【ストレッサー】私たちの日常生活に潜むさまざまなストレス原因に迫る

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ストレス社会と呼ばれる現代、私たちは職場や学校、家庭などのさまざまな環境においてストレスを経験するようになりました。ストレスは目に見えないからこそ、溜め込みすぎないように注意する必要があり、過度なストレスによって心身の健康を損なってしまう前に、ストレスへの適切な対処が欠かせません。

そのためには、「ストレスを引き起こす原因」を知っておく必要があるでしょう。本記事では、私たちの日常生活に潜むさまざまなストレス原因、すなわちストレッサーについてご紹介したいと思います。

ストレッサーの種類

主に動物を対象とした初期のストレス研究では、①物理的ストレッサー、②化学的ストレッサー、③生物的ストレッサー、④心理的ストレッサーなどが研究されてきました。

これらに加えて人を対象とする研究では、心理・社会的ストレッサーが重要であると考えられています。心理・社会的ストレッサーとは、私たちが日々社会生活を営んでいく上で直面するストレッサーを指し、たとえば、人間関係や家庭の問題、仕事上の問題、などが挙げられます。

私たちが普段「ストレス」と言っているものの多くは、この心理・社会的ストレッサーに起因していると言えるでしょう。したがって、今回はさまざまなストレッサーの中でも特に心理・社会的ストレッサーに焦点を当てて取り上げます。

ライフイベントとストレス

心理学者であるホームズとレイは、人生で起こるさまざまな出来事(=ストレッサーになり得る出来事)とストレス過程との関係を研究し、患者たちが病気を発症する前に人生における重大な変化、すなわちライフイベントを経験していることを明らかにしました(Holmes & Rahe, 1967)。

彼らは、5,000人の患者を対象に過去10年間にわたる生活上の重大な出来事(ライフイベント)について調査を行いました。具体的には、「結婚」によるストレス度を50点としたときに、その他の項目について個人が感じるストレスの程度を0~100点の範囲で自己評価させ、項目ごとの平均点を算出しました。

研究の結果、1年間に経験したイベントの合計点が300点を越えた人の79%が、翌年に何らかの疾患を訴えていたことを明らかにしました。この研究手法はライフイベント法とも呼ばれており、その後、多くの追試や適用もなされており、ストレッサーを測定するための手法として高く評価されています。

では、実際に1年間でどのようなライフイベントを経験すると、ストレスが危険な状態になるのでしょうか。

図2に、いくつかの代表的なライフイベントとストレス得点の例を示しました。

これはあくまでも一例ですが、1年間に経験したイベントの合計点数が260点以上なら要注意、300点以上なら対応必須という判断基準を設けられているため、1年間でこれくらいのライフイベントを経験すると、ストレス状態が非常に高くなる危険性があります。

ホームズらは43のライフイベントを取り上げ、そのなかでも家族の死や離婚、子どもの独立など、親しい人との離別が私たちにとって重大なストレッサーとなりうることを示しています。また、雇用上の変化や経済状態の変化なども、私たちの心身にストレスをもたらすものと考えられるでしょう。

さらに、ストレスと関係があると考えられているライフイベントは、上記のようなネガティブな出来事だけではありません。結婚や出産、就職といったポジティブな出来事も、時にはストレッサーとなることが明らかとなっています。

なぜなら、ライフイベントによって個人を取り巻く状況が変化すれば、当事者たちはその内容の良し悪しにかかわらず、新たな状況に適応するためそれまでの習慣や生活パターンを変化させる必要に迫られるからです。

短期間にいくつものライフイベントを経験すれば、それだけ多くのエネルギーを環境への適応のために費やすこととなり、したがって、心身のバランスを崩す危険性も高まります。

ただし、ホームズらの研究は今から40年以上も前のアメリカで行われたものであるため、現代の人々の感覚とは既に合わないものもあるでしょう。また、ホームズらの研究の主対象は勤労者ではなかったため、職場生活に関する項目がそれほど考慮されていませんでした。

日本人勤労者のライフイベントとストレス

そこで夏目ら(1988)は、日本人勤労者1,630名を対象にホームズらの取り上げたストレッサー43項目に職場生活に関するストレッサー18項目を加えたストレス調査表を作成しました。

ストレス得点の評価方法に関してはホームズらの研究と同様であり、1年間に経験したイベントの合計点数によって、要注意、対応必須という判断基準を設けています。

研究の結果、夏目らが作成したストレス調査票では、ストレス得点が基準となる「結婚(50点)」を上回った項目が27項目あり、さらに職場生活に関する項目の占める割合が高いという特徴がみられました(たとえば、2位「会社の倒産(74点)」、6位「会社を変わる(64点)」、10位「仕事上のミス(61点)」、11位「転職(61点)」など)。

さらに、夏目らの研究グループは、2012年に全国・全業種の10,494名の勤労者を対象に「ストレス評価に関する調査研究」の調査報告を行っています(夏目ら,2012)。

この調査では、わが国における経済情勢や雇用制度、職場環境などの変化に伴い、勤労者のストレッサーについての新規項目の追加や、既存項目の再検討が行われました。

また、ストレス点数については、調査参加者に各ストレッサーについて半年間の生活で体験したかどうかを尋ね、「体験あり」と答えた場合には、「そのことによってどの程度のストレスを感じたか(もしくは感じているか)」を11段階(0-10点)で評価してもらい、項目ごとに平均点を求めています。

その結果、「ひどい嫌がらせやいじめ、又は暴行を受けた(7.1点)」「退職を強要された(6.5点)」といった項目が高いストレス得点を示しているほか、「1か月に140時間以上の時間外労働(休日労働を含む)を行った(6.3点)」「上司とのトラブルがあった(6.2点)」「セクシャルハラスメントを受けた(5.6点)」などの項目が職場生活におけるストレッサーとして挙げられています。

特に長時間労働やハラスメントは、すでに社会全体の問題として周知されていますが、夏目らの研究結果からも勤労者のストレスを高めるストレッサーであることが示されたと言えるでしょう。

デイリーハッスルとストレス

一方、人生における主要なイベントと健康状態の間には、必ずしも深い関係があるわけではないと指摘する研究もあります。

たとえば、ラザルスとコーエン(Lazarus & Cohen, 1977)は、ライフイベントのような日常生活においてめったに経験することのない重大な出来事よりも、デイリーハッスル(日常苛立ち事)の方が私たちの心身への悪影響を考えるうえで重要だと主張しています。

デイリーハッスルとは、ネガティブ感情を引き起こし日常生活において繰り返し経験されるストレッサーを指し、たとえば、「待ち合わせ時間に相手が遅れてくる」「満員電車で押されてイライラする」などの出来事が挙げられます。

デイリーハッスルによって生じるストレスは、ライフイベントとは違ってそれほど強いものではありません。言い換えれば、ストレスを経験しているという自覚が少ないため、本人も意識しないうちにデイリーハッスルのストレスを蓄積してしまっている可能性があります。

なかには、デイリーハッスルの方がライフイベントに比べて、私たちの心身の健康状態を予測するのに優れているという報告もあります(Kannerら, 1981)。

何より、デイリーハッスルは一つ一つ挙げていこうとするとキリがありません。そのため、他人が関わるデイリーハッスルで解決可能なものについては当事者と交渉を試みたり、逆に、解決が難しいものについてはそれによって生じるストレスをこまめに発散するよう心掛けるなど、ケースにあった対応を考えていきましょう。

いずれにしても、そのときの「嫌な気分」に巻き込まれないようにすることが大切です。

まとめ

ここまで、私たちの心身の健康にかかわるさまざまなストレッサーについて見てきました。特に、心理・社会的ストレッサーは、私たちを取り巻く環境や社会情勢の変化にともない、年々複雑かつ多様化しています。

そのため、個人や企業がストレス対策を考える際は、ストレスそのものへの対処は当然のことながら、ストレスを引き起こす原因となるストレッサーの低減や解消に向けた取り組みが不可欠です。

ただし、同じストレッサーを経験したとしても、性別や年齢といった個人の属性や文化・社会的背景によって感じるストレスの程度は異なります。同時に、どの程度ストレスに耐えられるかという臨界値(=ストレス耐性)の高さによっても、その後の疾病に繋がるかどうかが変わってくるでしょう。

つまり、ライフイベントや日常苛立ち事は、それらに対する評価が個々人における臨界値を超えることで初めて、支障や障害に繋がる可能性が出てくるのです。

したがって、私たち一人一人がより質の高い健康状態を保つためには、どのような心理・社会的なストレッサーが考えられ、また、それらを個人がどのように捉え、どの程度のストレスをもたらすのかをきちんと把握することが重要だと言えます。

引用文献
・ Holmes, T. H., & Rahe, R. H. (1967). The social readjustment rating scale. Journal of psychosomatic research, 11, 213-218.
・ 夏目誠・村田弘・杉本寛治・中村彰夫・松原和幸・浅尾博一・藤井久和 (1988). 勤労者におけるストレス評価法(第1報) 点数法によるストレス度の自己評価の試み. 産業医学, 30, 266-279.
・ 夏目誠. (2012). ストレス評価に関する調査研究: 平成 22 年度における厚生労働省から産業精神保健学会への委託研究成果を中心に. 精神神經學雜誌= Psychiatria et neurologia Japonica, 114(12), 1385-1395.
・ Lazarus, R. S., & Cohen, J. B. (1977). Environmental stress. In Human behavior and environment (pp. 89-127). Springer, Boston, MA.
・ Kanner, A. D., Coyne, J. C., Schaefer, C., & Lazarus, R. S. (1981). Comparison of two modes of stress measurement: Daily hassles and uplifts versus major life events. Journal of behavioral medicine, 4(1), 1-39.

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【筆者プロフィール】

中川紗江
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 調査研究部 研究員
ストレス科学・産業組織心理学・精神生理学が専門。嘱託・非常勤講師として同志社大学心理学部その他多数の大学・専門学校で心理学関連の講義および実習を担当(2015年4月~2018年2月)。また、京都府立医科大学神経内科および滋賀医科大学脳神経外科学講座で心理士として認知症患者を対象とした知能検査を担当(2009年4月~2018年2月)。

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