職場環境とは、働く人を取り巻くあらゆる環境を指します。職場環境の改善は、従業員のメンタルヘルス対策や生産性向上につながることが多くの研究によってわかっていますが、その領域の広さから「どこから手をつければ良いのか」と悩む企業も少なくありません。今回は、職場環境の基本的な構成要素や具体的な改善方法、注意点などを詳しく解説します。
広範囲にわたる職場環境改善において、従業員のメンタルヘルス対策は重要な課題のひとつです。「アドバンテッジ カウンセリング」は、心理専門家が24時間・土日祝・多言語で対応し、職場でのストレスや悩みの解消・解決を支援。従業員の心身の健康を支えることで、企業全体の生産性向上に貢献します。
目次
職場環境の構成要素

「職場環境」の概念には、オフィスの環境や設備などの物理的側面に加え、人間関係や業務の負担など心理的側面も含まれます。はじめに、職場環境の構成要素を詳しくみていきましょう。
より広義の概念で、労働条件や制度など、働くうえでの総合的な要素を指す「労働環境」とは密接な関係性にあり、職場環境の改善は良好な労働環境実現の一助となります。
人間関係
職場の人間関係や組織構造は、心理面での働きやすさにかかわる職場環境の要素です。コミュニケーションが良好で、心理的安全性が確保された職場では、従業員は安心して働けます。
【例】
- 報告・連絡・相談のしやすさ
- チームワーク
- 情報共有や連携のしやすさ
- ハラスメントの有無
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業務内容
日常的な業務の内容や質も、広義では職場環境に含まれます。
【例】
- 仕事の負担(業務量の調整、属人化の度合い、ノルマ、周囲からのフォローの有無など)
- 仕事の難易度(従業員のスキルと業務の難易度が対応しているか)
- 裁量権・権限の有無
- マニュアルの整備状況
- チーム内での役割分担の状況
組織風土/組織文化
組織に根付く文化や風土は、職場環境を左右する基盤です。
【例】
- 休暇の取りやすさ
- 柔軟な働き方制度の使いやすさ、職場の理解度
- 挑戦を認める/失敗を責めない雰囲気
- 部門間の連携度
- しがらみや圧力の有無
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職場の作業環境
職場の物理的な環境も、従業員の肉体的な疲労やストレスに大きく関与するため、配慮が必要です。
【例】
- 職場の温度や湿度
- 照明
- 騒音レベル
- オフィスのレイアウト
- トイレや更衣室の設備
- 受動喫煙対策
職場環境改善が重要な理由

職場環境の改善は、企業が責任を持って行うべき取り組みです。労働安全衛生法(第71条の2)において、企業は快適な職場環境を形成する義務を負います。また、労働災害防止の取り組みを進めるために、一定規模以上の事業場では、安全衛生委員会の設置が義務付けられています。(同法第17条、19条)法的義務の履行と併せて、職場環境改善が企業にとって重要な理由をみていきましょう。
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良好な人間関係の構築
人間関係の悪化は、従業員のモチベーションを大きく左右する深刻なストレス要因です。報告・相談しづらい環境では、業務が滞り、トラブルも発生しやすくなります。
職場環境を改善し、心理的安全性の高い組織が実現すると、従業員は安心して働けます。コミュニケーションの円滑化により、情報共有がスムーズになり、意見が尊重される環境が整うことは、ひいては新しいアイディアやイノベーションの創出にもつながるのです。
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生産性の向上・業務効率化
心身ともに快適な環境は従業員の集中力や作業効率を高め、生産性の向上に直結します。職場環境改善のメリット(費用便益)に関する研究では、職場環境改善に投資した費用に対し、一人あたり約2倍の利益が得られるという試算も示されています。職場環境の改善は、単なるコストではなく、費用対効果の高い「投資」として捉えられるでしょう。
参考:これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~
ストレス軽減・メンタルヘルス対策
常にストレスにさらされながら仕事を続けることは、パフォーマンスの低下やミスの増加を招くだけでなく、メンタルヘルス不調に陥ってしまう場合もあります。体調の悪化から休職や退職に至る可能性もあるでしょう。
職場環境の改善を通して従業員のストレスを軽減することは、心身の健康維持に役立つだけでなく、プレゼンティーイズム(心身の不調を抱えながら働いている状態)や、アブセンティーイズム(体調不良で仕事を休んでいる状態)の防止にもつながります。
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離職防止
物理的・心理的に快適な環境が整うと、従業員の満足度やエンゲージメントが高まります。従業員が「企業はここで働く人を大切にしてくれている」「この職場で働き続けたい」と感じ、従業員エンゲージメントが高まることで、定着につながります。離職率の低下は、新たな採用・育成コストの抑制にも寄与し、企業は人材面でも経営面でも安定した運営が可能となるのです。
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企業イメージ向上による採用力強化
生産性が向上することは、商品やサービスの質の向上にもつながります。また、定着率の高さや職場環境改善の取り組みが外部に認知されれば、求職者やステークホルダーにポジティブなイメージを与えられ、企業イメージの向上や採用競争力強化にも結びつきます。
職場環境改善を成功させるためのポイント

続いては、職場環境の改善を成功に導くためのポイント4つと、職場環境改善が必要かの判断基準を紹介します。
優先順位をつけて改善に取り組む
改善を進める際は、アンケートや面談、ストレスチェックの集団分析などで課題を洗い出し、影響度や実現可能性から優先順位を決定します。
施策は、既存活動の拡大(短期)、大きな制度改革(中・長期)に分けて進めると効率的です。スモールスタートで効果を確認し、成功例を全社展開することで、失敗のリスクを抑えながら着実に改善を進められます。
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経営層の理解と従業員の協力を得る
職場環境の改善を成功させるには、経営層と現場の従業員双方が取り組みに積極的にかかわることが重要です。経営層が職場環境改善の必要性・重要性を理解し、リーダーシップを発揮することで、組織全体が改善の取り組みに前向きになります。
同時に、現場の声を丁寧に拾い、従業員のニーズや不満を改善策に反映しましょう。従業員が取り組みを「自分ごと」として捉えられるよう、改善の経過を共有する、意思決定に関与できる機会をつくるなどして巻き込んでいきます。
効果測定と改善のサイクルを継続する
施策の効果を定期的に測定し、定量的/定性的な指標で評価します。成功した点を振り返るとともに、実際の改善活動で困難だった点や課題を整理し、次の取り組みに役立てましょう。PDCAサイクルを回し続けることで、改善の質を高め、持続可能な仕組みを築けます。
職場環境改善が必要かの判断基準
長時間労働が常態化している、退職者が増加している、ハラスメントが発生しているなど、既に職場において何らかの問題が起きている場合には、速やかに改善を行う必要があります。業績や残業時間の推移、有給取得率、離職率などの客観的な指標を用いることも有効です。悪化の傾向を見逃さず、早めに対処することが望ましいです。
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職場環境改善実施の注意点

職場環境改善の取り組みは、慎重に進めていく必要があります。ここでは、取り組み時の注意点をチェックしておきましょう。
不公平感を生まないよう注意
職場環境の改善は、すべての従業員に向けての取り組みです。特定の人だけが恩恵を受けたり、逆に一部の人が不利益を被ったりするような施策は、不公平感を生み、かえって不満や不信感を招きかねません。誰にとっても働きやすい仕組みを考えることが重要です。個々の事情や特性に応じた柔軟性と、全体への影響のバランスを考慮しながら施策への落とし込みがポイントです。
成果には時間がかかることを念頭に
取り組みの成果は短期間では見えにくく、すぐに効果がないと担当者や従業員のモチベーション低下を招きがちです。また、一時的な改善も定着しなければ元に戻るリスクがあります。そのため、「成果には時間がかかる」ことを念頭に置き、長期的に継続できる計画を立て、粘り強く取り組むことが重要です。
一方で、改善状況の報告がなされないまま継続すると、従業員は取り組む意義を見いだせず、モチベーションも低下してしまいます。改善や取り組みの成果や経過を適宜共有し、従業員の協力をあおぎましょう。
職場環境の改善方法10選

職場環境の改善を行うため、企業は具体的にどのような施策を打ち出していけば良いのでしょうか。本章では、改善につながる10の方法をご紹介します。
①【課題把握】職場環境調査の実施
経営層の考える理想の職場環境と従業員が求める環境には、しばしばギャップが生じることも少なくありません。この差を埋めるために、従業員の意見や率直な声を聞く調査の定期的な実施が効果的です。パルスサーベイやアンケートを活用し、職場の雰囲気やコミュニケーションの状況、具体的な改善要望などを把握することで、現状の課題に即した環境改善が可能になります。
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②【課題把握】ストレスチェックの集団分析の活用
ストレスチェックは、従業員が自分自身のストレス状態に気づくきっかけとなるだけでなく、職場環境改善の取り組みにおいても重要です。ストレスチェック結果の集団分析を通して、特定の部門や部署に高ストレス者が多い傾向がみられた場合、職場環境に問題が潜んでいる可能性もあります。人員配置など、従業員個人の力では解決が難しい職場のストレス要因の改善に向け、より精度の高いアプローチが可能となるでしょう。
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③【すぐにできる取り組み】メンタルヘルス対策の推進
メンタルヘルス対策では、ストレスチェック以外にも、心身が深刻な状態になる前の予防的なアプローチが重要です。誰もが持ちうる職場起因の悩みに対し、セルフケア研修などメンタルヘルスケアに関する学びを提供することが有効です。
従業員向けの相談窓口設置は必須ですが、本社と地方・グループ企業間で支援体制に格差が生じやすい、拠点特有の相談傾向が把握しにくいなどの課題もあります。これらの解決には、地域や組織間の格差なく専門的なサポートを提供できる体制が必要です。窓口は誰もが利用でき、秘密が守られることを周知し、活用を促すと早期の問題解決につながります。
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④【すぐにできる取り組み】コミュニケーション促進
従業員同士のコミュニケーションを促す工夫も大切です。フリーアドレスやリフレッシュスペースの設置、社内SNSの導入といった物理的な工夫が有効です。
ただし、本質的な問題改善には心理的安全性の向上が欠かせません。1on1ミーティングで上司との信頼関係を築くほか、コミュニケーション研修を実施し、誰もが安心して発言し、意見が否定されない組織風土を醸成していくことが重要です。
上司と部下が1対1で面談を行う「1on1」の実践ノウハウを身につける研修です。模擬体験やロールプレイを通して現場感覚でシミュレーションを行い、現代型リーダーシップ行動としての1on1のノウハウを習得します。
⑤【すぐにできる取り組み】物理的環境の整備
従業員が日々集中して働ける環境をつくるため、作業環境の整備を行いましょう。例えばオフィス内であれば、空調や照明の調整、動線の確保などです。リモートワークの場合はネット環境の構築補助、必要な備品・機器の提供などが挙げられます。
⑥【すぐにできる取り組み】業務負担の軽減
業務量が著しく多い、従業員の持つ能力やスキルと難易度が見合わない状態では、モチベーションや生産性低下のみならず、心身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。業務の分担や責任範囲を見直す、進め方の裁量をある程度チームや個人に委ねるなどして負担を軽減しましょう。業務の属人化を防ぐうえでは、マニュアル整備や複数担当制の導入が有効です。
⑦【中長期的な取り組み】柔軟な勤務制度の導入
従業員のニーズに合わせ、リモートワーク、時短勤務、フレックスタイム制度といった柔軟な働き方制度を導入します。ライフステージや家庭環境、個人の事情に応じた働き方を選べることで、一人ひとりが働きやすい職場環境が実現します。制度を意義あるものとして活用していくためには、周囲が制度について理解し、利用しやすい雰囲気づくりが大切です。
⑧【中長期的な取り組み】成長・キャリアアップの支援
従業員の成長を後押しする取り組みは、働きやすい職場環境の実現に不可欠です。キャリア研修を実施するなど、従業員が自律的にキャリアを考える機会を設けます。
新入社員にはメンター制度やOJTで不安を和らげ、早期の定着と自信を支援しましょう。さらに、社内公募制度や資格取得支援で挑戦を促します。従業員の自主性を尊重し、成長を促す仕組みづくりが職場環境の改善につながります。
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⑨【中長期的な取り組み】人事評価制度の見直し
明確な基準があり、透明性・公平性の高い人事評価制度と、それが正しく反映される給与体系を整備しましょう。能力や成果だけでなく、業務のプロセスや努力を評価に含めることも有効です。より多面的・客観的に従業員を評価するには、360度評価などの活用も検討してみましょう。納得度の高い評価は、従業員のモチベーションにも好影響を与えます。
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⑩【中長期的な取り組み】法定外の福利厚生の充実
法定外の福利厚生を充実させることも、職場環境改善の一助となります。特に、ワークライフバランスの実現にかかわる取り組みは、従業員の働きやすさにかかわり、長期的な定着を目指す観点からも重要です。
【例】
- 住宅手当
- ファミリーサポート休暇、リフレッシュ休暇
- 家事代行、ベビーシッター、介護サービス利用料の補助
- 人間ドックなど法定外検診の補助
- スポーツクラブ、宿泊施設、レジャー施設などの優待
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職場環境改善の成功事例4選

最後に、職場環境改善に成功した企業の事例をご紹介します。
株式会社富士薬品
富士薬品は、復職者の不安軽減のため、段階的に勤務できる「軽減勤務制度」を導入しました。人事部と現場が連携し、利用前から利用後まで細やかにケアする体制を構築。チーム全体で協力的に関与することで、安心して復職できる環境が整い、個人とチーム両方の生産性向上につながっています。
参考:内閣府「全ての人が活躍できる働き方の推進に向けた事例集」
株式会社ケーケーシー情報システム
ケーケーシー情報システムは、週3日の定時退社日の設定や「ワークスタイル変革プロジェクト」で職場環境を改善しています。社内アナウンスの徹底で定時退社の意識を浸透。さらに、テレワークとフリーアドレスを導入し、物理的環境を変革しつつ、部門を超えたコミュニケーション活性化を促しています。
参考:商工労働観光部 労働政策室「職場づくりモデル事例」
埼玉県教育局
埼玉県教育局は、メンタルヘルス対策として職場環境改善に取り組んでいます。丁寧な受検推奨でストレスチェックの高い受検率を達成。集団分析後のワークや職場訪問を通じ、現場の良い事例を収集・公開しています。改善を「課題解決」だけでなく「長所を伸ばす活動」と位置づけることで、現場が自発的に取り組めるよう工夫しています。
参考:厚生労働省 こころの耳「職場のメンタルヘルス対策の取組事例」
コマツキャステックス株式会社
コマツキャステックスは、グループ全体でメンタルヘルス対策を推進し、ストレス診断結果と総合健康リスクに基づき高リスク職場を毎年選定しています。選定職場では、管理職研修後に職場全員参加型の環境改善活動を継続的に実行し、改善成果を出しました。「小さな活動でも最後まで継続する」ことを意識して、取り組みを進めています。
参考:厚生労働省 こころの耳「職場のメンタルヘルス対策の取組事例」
一人ひとりがいきいきと働ける職場へ

職場環境は、設備や人間関係、労働条件など多様な要素から成り立ちます。従業員の健康と安心を守ることは企業の責務であり、職場環境を改善することで、生産性向上や離職防止といった効果が得られ、組織の持続的な成長にも貢献します。現場の声を取り入れ、継続的な見直しと改善を行いましょう。

