ビジネス環境が大きく変化していることに伴い、働き方の多様化が進んでいます。ワークスタイルの変化はストレスにもつながりやすく、働く人のメンタルヘルス悪化が懸念されています。また、ビジネスのスピードが加速しているという文脈でも、自律的な人材の育成は欠かせません。今後の人材育成のヒントとして、「メンタルタフネス」と呼ばれる概念があります。今回は、メンタルタフネスが求められる理由や、メンタルが強い人、弱い人の特徴、メンタルタフネスを高める方法をご紹介します。

目次
メンタルタフネスとは

はじめに、メンタルタフネスの定義と、働く上でメンタルタフネスが重要である理由について解説します。
メンタルタフネスとは?
「メンタルタフネス」とは、「困難が降りかかった時に、ネガティブな感情に振り回されるのではなく、解決に向けた行動を起こせる能力」です。人はストレスに直面すると、自分なりに解決策を考えて行動に移しますが、その時どのような方法でストレスに向き合うかは人によって異なります。この個々の差が「メンタルタフネス」の違いです。
例えば、ストレスの原因は同じでも、直面した時に激しく落ち込む人もいれば、ほとんど気にしない人もいます。前者はストレスへの向き合い方が不得手な人であり、後者はそれが上手な人といえます。
「メンタルタフネス」は、生来持っている「性格」ではなく、開発できる「スキル・能力」です。ストレスへの向き合い方を学ぶことで、困難なことが生じてもスムーズに解決できるようになります。
なお当社アドバンテッジリスクマネジメントでは、ストレス反応・エンゲージメントと相関する当社独自の指標として「メンタルタフネス度」を用いています。
メンタルタフネスが求められる背景
厚生労働省の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業生活に関することで強いストレスを感じている労働者の割合は82.7%にのぼります。終身雇用・年功序列といった従来の日本型雇用システムが衰退し、成果主義への移行も要因の一つです。従業員は常に成果を求められ、よりストレスの強い環境に置かれているともいえるため、メンタルタフネスの高さが一つのカギとなります。
また、変化のスピードが早い現代のビジネス環境においては、より主体的に業務を進めていける、自己成長型の人材が求められるようになりました。困難な壁にぶつかった時でも物事を前向きに捉え、自ら課題を解決していく力がより重要視されるようになっています。
このように、さまざまなストレスを感じながら働く労働者のメンタルタフネス度を高めていくことは、企業運営・持続的な成長という点でも不可欠といえます。
メンタルが強い人の特徴

メンタルヘルスを高める方法を知る前に、メンタルが強い人/弱い人のそれぞれの特徴について把握しておきましょう。
メンタルが強い人の主な特徴として、以下の4つが挙げられます。
- ポジティブ思考で自己効力感が高い
- 自己肯定感が高い
- 自己理解が深い
- 周囲の意見に流されない
ポジティブ思考で自己効力感が高い
メンタルが強い人は、ポジティブ思考で自己効力感が高いことが特徴です。困難な状況に直面しても、「きっと自分ならうまくやれるはず」「きっとできる」と自分を信じることができます。もし失敗しても悲観的になりにくく、「次は成功するだろう」「これは成長するチャンスだったんだ」と、素直に受け入れ、気持ちを切り替えて前に進んでいけます。
自己肯定感が高い
自己肯定感が高いことも、メンタルが強い人の特徴といえます。自己肯定感とは、自分の存在そのものに価値があると感じ、今の自分をありのまま受け入れる感覚のことです。”自分”という軸を肯定的かつ明確に持っていて、「失敗しても自分の価値は変わらない」と、必要以上に自分を責めることをしません。強いストレスがかかる状況でも、落ち着いて、自分の信念に基づいた行動がとれます。
自己理解が深い
どんな時にストレスを感じやすいのか、あるいは特定の場面における自分の思考パターンを把握しており、自分の性格や考え方を深く理解できています。自分を客観視できるため、ストレスを抱えてしまった時にも、どのように対処すべきかの見通しを立てて、意識的に自分をコントロールし、解決していくことができます。
「鈍感力」が高い
周囲の意見に流されない自分の軸を持っていて、良い意味でマイペースな「鈍感力」の高い人であることも特徴です。ストレス要因となりそうな物事をあえて意識せず、うまく受け流すスキルがあると、必要以上にストレスを抱え込まずに済みます。また、自分と他人が違う考えを持っていることを理解して適切な距離感を保てるため、無理して周りに合わせることがなくなります。
メンタルが弱い人の特徴

メンタルが弱い人には、以下のような特徴があります。
- ネガティブな感情を引きずりやすい
- 自己肯定感が低い
- 他人の顔色をうかがってしまう
ネガティブな感情を引きずりやすい
メンタルが弱いタイプの人は、ネガティブな感情を引きずりやすい傾向があります。物事を後ろ向きに考えがちで落ち込みやすく、過去の失敗を思い出してしまったり、「次もまた失敗するかもしれない」と感じたりして、ネガティブな感情に支配されがちです。気持ちを切り替えることが苦手で、プレッシャーが強いと本来の能力を発揮できなくなってしまいます。
自己肯定感が低い
自己肯定感が低いことも、メンタルが弱い人の特徴の一つです。本来、ミスや仕事の評価と人間性は切り離して捉えるべきですが、メンタルが弱い人は自分に自信がなく、「ミスをする自分はダメな人間なんだ」「なぜあの人にできて、自分はできないのだろう」と、自分を責めたり、他の人と比べたりします。仕事の進め方や成果を褒められても、自己評価が低いために「お世辞で言われているだけだ」と捉えてしまいます。
他人の評価を気にする
客観的な視点で自分を捉えることが苦手で、自分の考えが持てず、他人の顔色や評価を気にしすぎる傾向がみられます。自分が否定されることを避けるために、指示を受けなければ業務を進められない、他の人の意見に同調しがち、なかには自分で決めるべきことまで他人に判断を委ねてしまうケースもあります。
メンタルタフネスが高まることがもたらす影響やメリット

メンタルタフネス度の向上は、従業員個人のみならず、企業にとってもさまざまなメリットをもたらします。
【個人】モチベーションアップ
メンタルタフネス度が高まると、自信と熱意を持って仕事に取り組めます。新しいことや難しいことを頼まれたり、イレギュラーな事態が起こったりしても、前向きな思考で乗り越えて成長につなげられます。成功体験を重ねることで、モチベーションをさらに高めていくこともできるでしょう。
【個人・組織】メンタル不調の未然防止
メンタルタフネス度が高いと、ストレスにもうまく対処できるようになります。自分のストレスサインに早めに気付き、適切なケアができるため、メンタル不調の未然防止が可能です。メンタル不調による休職や離職者が出にくくなることは、企業にとってもメリットとなります。
【組織】エンゲージメント・生産性向上
従業員のエンゲージメントや、生産性の向上にも良い影響を与えることが期待できます。メンタルタフネス度が高い状態だと、モチベーションが高くポジティブな思考を維持できているため、自分の能力やスキルを最大限発揮できるようになるでしょう。
また、自分の軸をしっかりと持っている一方で、意見が対立しても「否定された」と感じることなく相手の気持ちを素直に受け入れられるため、建設的なコミュニケーションが増え、職場が活性化します。そのような状態が維持されれば、組織への愛着やチームの連帯感が芽生え、エンゲージメント向上にも寄与するでしょう。従業員がより主体的に仕事に取り組めるようになり、ひいては組織の生産性アップにもつながります。
メンタルタフネスを高める方法

メンタルタフネスを構成する要素の中で特に核となるのが、「プラスの認知・行動」「マイナスの認知・行動」です。仕事の量・難しさや職場の人間関係、評価などは自分では変えにくいものですが、この自分自身の「認知」や「行動」は変えられるものです。
無理だと諦めて問題から逃げたり、感情的になったりする「マイナスの認知・行動」を減らすことと併せて、前向きに考え直す、問題解決に向けた行動を起こす、周りに相談する、気分転換をするなど、「プラスの認知・行動」を増やすことで、メンタルタフネス度を高められるでしょう。
具体的には以下のようなアクションに取り組んでみましょう。
自身の思考のクセを把握する
人にはそれぞれ考え方の「クセ」があるものです。困難な壁にぶつかった時、悪い未来を想像して身動きがとれなくなったり、ついネガティブな方向に捉えて不安になったりすることがあるかもしれません。
【「思考のクセ」の例】
- 自分のせいだと思い込む
- 「〇〇すべきだ」とルールで縛る
- 悪い方に決めつける
- 根拠もないのに悲観的になる
マイナスの認知を減らすには、こうした思考のクセ(認知の偏り)に気付いて修正することが大切です。認知の偏りは誰にでもあるもので、無意識に行われています。例えば、「ミスを指摘されると、自分を全否定されたように感じてしまう」「失敗しそうな状況になると、過去の失敗を思い出してネガティブな感情でいっぱいになってしまう」などもその一つです。具体的にどのような状況で思考のクセが出てしまうのか、自らと向き合い把握していくことで、苦手な場面に遭遇してもやり過ごせる思考をつくります。
前向きで柔軟な思考を身に付ける
自身の思考のクセを把握することに加え、前向きで柔軟な思考を身に付けましょう。ネガティブな思考に陥りそうな状況やストレスに遭遇した時、「ここまでできたから大丈夫」「次はうまくいく」「今回の失敗はたまたまかも」と、ものの見方を意識的に変えることで、気持ちが楽になります。
衝動的に浮かんだ考えや感情のままに動くのではなく、「今、自分にとって大切なこと」に意識を向け、そのために集中する「心理的柔軟性」を高めることも有効です。
小さな成功体験を積み重ねる
日常の中でクリアできる小さな成功体験を積み重ねることも効果的です。「ここまでできた」という達成感を繰り返し味わうことで、「自分はできる」という自信が育まれ、やがて大きな目標を達成するためのモチベーションとなります。成功体験を習慣化できれば、無意識のうちに成功につながるパターンを作り上げられるでしょう。まずは小さな目標を達成することからはじめ、徐々に大きく、難しい目標に挑戦していくことがポイントです。
自分に合った方法でストレスに対処する

ストレスを乗り越えようと無理に頑張るのではなく、一度ストレスから離れて、心に余裕をつくることも大切です。お気に入りの飲み物を飲んでひと休みする、好きな音楽を聴く、ストレッチをするなど、ストレスを感じた時にすぐに取り組めるようなものも用意しておきましょう。自分に合ったストレス解消方法をリストアップした「コーピングリスト」を作るのもおすすめです。
メンタルタフネス度を高める研修を実施する
紹介してきたような取り組みは、正しい知識を学ぶことで身に付いていきます。従業員一人ひとりがストレスについて理解を深め、適切な対処をとれるようにするためには、企業側が研修・教育機会を設け、意識を高めていくことが必要です。
当社アドバンテッジリスクマネジメントでは、従業員のメンタルフネス度向上にお役立ていただける各種研修プログラムをご用意しています。
自分の認知(思考)のクセを把握する

組織としてメンタルタフネス度を高める仕組みを取り入れることは、メンタルヘルスケアやエンゲージメント観点の対策のみでなく、健康経営推進や離職対策、ハラスメント防止にもつながります。いまだからこそ、メンタルタフネス度向上に目を向けてみてはいかがでしょうか。
「メンタルタフネスハンドブック」では、プラスの認知を増やすコツ、マイナスの認知を減らすコツをご紹介しています。自身のメンタルタフネスを高める方法はもちろん、部下に対してどうすべきかについても触れています。