仕事が忙しい、プレッシャーが強い、人間関係の悩みがあるなど、私たちは日々さまざまなストレスを感じながら生活を送っています。”適度なストレス(緊張感)”は、モチベーションやエネルギーにつながり、生活に張りをもたらしますが、度を超えたストレスは、心身に悪影響を及ぼす可能性があります。今回は、ストレスの原因や症状、ストレスへの適切な対処法についてご紹介します。
目次
ストレスとは?
まずは、ストレスについて正しい理解を深めましょう。
ストレスとは?
そもそも「ストレス」とは、物理学において「圧力」という意味で使われていた言葉です。ストレスと聞くと、嫌なことやつらいことを連想するかもしれませんが、広義の「ストレス」には良い・悪いのニュアンスはなく「外部からの刺激を受けて生じる緊張状態」のことを指します。ストレスに対する身体の反応のことを「ストレス反応」、その反応を生じさせる刺激(ストレスの原因)のことを「ストレッサー」と呼びます。
ストレス状態は、風船に例えられることが多いです。この場合、膨らませた風船を押す力が「ストレッサー」、ストレッサーによって風船が歪んだ状態が「ストレス反応」です。風船の状態によっては、押す力(ストレッサー)を跳ね返すこともできます。しかし、跳ね返す力が少ないと風船は歪んだ状態が続き、さらに継続的に力がかかれば徐々にしぼんでしまうでしょう。つまり、同じようなストレスを感じても、その人の状態によって受ける影響の大きさは異なると言えます。
良いストレスと悪いストレス
ストレスは悪いものと扱われがちですが、ストレスが全くない状態が良いのかといえば、そうとも言えません。「適度なストレス(緊張感)」 があると、それに適応するための能力が生まれます。ストレスを乗り越えようと頑張ることで、人は成長し、達成の喜びを得られます。つまり“良いストレス”は、人生の張りや生きがいとなり得るものです。
しかし、その人が適応できる度合いを超えてしまうと、心身に悪影響をもたらす “悪いストレス” となってしまいます。たとえば、希望していた部署への異動や昇進、結婚や出産、子どもの進学などは一般的に喜ばしい出来事ですが、責任が重くなることや環境が変わることなどがストレッサーとなる可能性があるでしょう。そこで頑張りすぎてしまうと、心身に不調をきたすおそれもあります。
働く人を取り巻くストレスの現状
少子高齢化による人手不足、成果主義の導入、経済状況の悪化など、働く人々を取り巻くストレスはさまざまです。厚生労働省が実施した令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業に関することで、強い不安やストレスを抱えていると答えた人の割合は82.2%でした。ストレスの内容を具体的に見ると(同調査・複数回答)、仕事の量(36.3%)が最も多く、次いで仕事の失敗・責任の発生等(35.9%)、仕事の質(27.1%)、対人関係(26.2%)と続きました。この結果からも、働く人の多くがストレスを抱えていることがわかります。
ストレスの原因
私たちの心や体に影響を及ぼすストレスの原因(ストレッサー)はさまざまです。続いては、ストレスの原因となり得る事柄についてご紹介します。
さまざまなストレッサー
ストレスの原因となるものは、主に「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」「生物(生理)的ストレッサー」「心理・社会的ストレッサー」の4つです。
【物理的ストレッサーの例】
騒音、照明、振動、気温や気圧の変化、寒暖差 など
【化学的ストレッサーの例】
大気汚染や悪臭、たばこ、強い香料、薬品 など
【生物学(生理)的ストレッサーの例】
ウイルスや細菌感染、カビ、花粉 など
あるいは、病気、けが、疲労 など
【心理・社会的ストレッサーの例】
家庭環境、職場環境、人間関係 など
仕事や人間関係など…現代におけるストレスの原因
現代におけるストレスは、心理・社会的ストレッサーに起因するものが多いとされ、不安や怒り、焦りや抑うつを伴い、メンタルヘルスの不調を引き起こしやすいとも言われています。
【人間関係】
ストレスの原因で一番多いとされるのが人間関係です。自分の思い通りにならないことや、人に合わせなければならない、相手に配慮しなければならない、などの気遣いをストレスと感じる人も多いでしょう。仕事では上司や同僚、後輩との関係、顧客との関係などが、プライベートでは親子や親戚、パートナーや恋人、友人との関係、近所付き合いなどが挙げられます。
【仕事】
残業が多い、休暇が少ない、有給がとりにくい、仕事量が多い、責任が重い、転職したなどがストレスになり得ます。一方で、仕事がなく、時間を持て余してしまうような状況でもストレスを感じやすいでしょう。
また、自分の仕事にやりがいを感じることができずやる気が出ない、キャリアへの不安、解雇や倒産といったリスクへの不安などもあります。一般的には良いこととされる「昇進」も、責任が増える、環境が変わるといったことが強いストレスになることもあるでしょう。
【プライベート】
家事全般、育児など、家庭の事柄をストレスに感じることがあります。結婚や出産や子育て、子供の受験などのライフイベントもストレス要因となり得ます。
ストレスを溜めやすい性格
ストレスは人によって感じ方が変わります。特に「物事はこうしなくてはいけない」という思い込みが強い傾向にある人は、ストレスを感じやすい、溜め込みやすいとされます。
【ストレスを溜め込みやすい人の性格・特徴】
- 競争心が強い
- せっかち
- 融通が利かない
- わがまま
- 真面目で責任感が強い
- 完璧主義
- 心配性
ストレスがかかることで起こる心身の不調
ストレッサーに適応しようとして心身に生じた反応を「ストレス反応」と言います。それらは心理的反応、行動的反応、身体的反応に分けることができます(「ストレス反応の3分類」)。
時間の経過とともに不調の種類は変わり、ストレッサーに触れてまもなく生じる一次的反応、ストレスに適応・抵抗しようとすることで起こる二次的反応があるほか、二次的反応によってエネルギーを消耗してしまった結果、重篤な反応としてストレス関連疾患を引き起こすこともあります。一見ストレスに関係ないと思われるような症状も、実はストレスが原因だったというケースも多くあるでしょう。
【精神面・心理面の不調】
気分が沈む、やる気が出ない、イライラする、マイナス思考に陥る、集中して考えることができない、自分を責めてしまう、強い不安や緊張を感じる、憂鬱な気分で悲しくなる
【身体的な不調】
頭痛やめまいがする、胃痛・腹痛を感じる、寝つきが悪くなる、動機や息切れがする、下痢や便秘がある、強い疲労感がある、食欲が落ちる、あるいは増加する
【行動の変化】
落ち着きがなくなる、急に泣き出してしまう、他人との交流が苦痛になって避けるようになる、お酒やたばこの量が増える、身だしなみを気にかけなくなる、食べすぎてしまう、仕事でミスを繰り返す
ストレスが心身にもたらす影響について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
ストレスに対処する方法
ストレス反応が長く続くような場合は、過剰なストレス状態に陥っているサインかもしれません。これらの症状に気づいたら、ストレスと上手に付き合うための方法(コーピング)を実践してみるのがおすすめです。また、重い症状があったり長期間続いたりする時は、専門家(精神科、心療内科)に相談することも検討しましょう。
自分の思考のクセを知り、物事の捉え方を変える
自分の考え方や行動思考などを知っておくことで、ストレスが溜まりにくくなります。つい悪い方向に考えてしまう心のクセや思考パターンを、専門用語で「認知の歪み」と言います。自身の認知の歪みを知っておくと、次に同じようなストレスを抱えた時に、「いつもの考え方のクセが出てしまっている。でも実際はきっと悪いことじゃないはず」などと捉えることができ、気持ちが楽になることもあります。
また、ストレスを感じた時に、問題点や良くないことばかりに注目するのではなく、うまくいっていることに注意を向けたり、目指す状態にフォーカスしたりするのもよいでしょう。ものの見方を少し変えてみるだけでも、ストレスが軽減される可能性があります。
湧き上がる自身の感情にとらわれず、自分が本当に大切にしたいことのために集中する「心理的柔軟性」を高めることも効果的です。
ストレスに適切に対処するための思考方法については、下記の記事でもご紹介しています。
友人や家族、カウンセラーに相談する
困った時やつらい時、誰かに話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になることがあります。一人で抱え込まず、家族や友人、同僚に相談し、異なる視点からの考え方や意見を聞いてみるのもよいでしょう。話すことで自分の中で解決策が見つかったり、新たな考え方を取り入れることによって、ストレスが軽減されたりする可能性もあります。
また、第三者であり、気兼ねなく話すことができるカウンセラーに相談することも一つの方法です。ストレスによって心身が深刻な状態になってしまう前に、対策を打つことが大切です。カウンセリングは、ストレスケアの最初のステップとして気軽に活用してみましょう。地域の保健所や精神保健福祉センター、職場の健康相談窓口など、相談できる場所は複数あります。職場に関する問題は、産業医に相談するとよいでしょう。
自分なりのストレス解消法を見つける
ストレスへの対処法は多種多様なものがありますので、自分に合った方法を取り入れることがおすすめです。自分がリラックスできること、楽しいと感じることをやって、ストレスから離れましょう。ストレスの対処法をいくつかリストアップしておく「コーピングリスト」を作るのもよいでしょう。
睡眠と休養を十分に取る
睡眠は、肉体的な疲労回復はもちろんのこと、脳の休息という役割もあります。忙しいと睡眠不足に陥りがちですが、睡眠不足は心身に大きなストレスとなり、ストレスへの耐性も低くなってしまいます。
十分に睡眠がとれていないとイライラしやすくなったり、ミスが増えたりと、さらにストレスを生じさせる可能性もあります。睡眠の質を上げるために、寝具を心地よいものに替える、寝室の温度や湿度を調整するなど、睡眠環境を整えることも大切です。
また、忙しいとついシャワーで済ませてしまうこともありますが、疲れが溜まってきたなと感じたら、ゆっくりと湯船に浸かって体を休めるのも効果的です。体が温まって全身の血行が良くなると、副交感神経が優位になってリラックス効果を得られるとされます。
【人事の方へ】従業員向けのストレス対処法
ストレスに対する社員研修の実施
従業員に、ストレスに上手に対処できる方法を学んでほしいとお考えであれば、企業が学びの機会を提供することも有効です。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、自分の「考え方のクセ」を振り返り、困難に対して前向きに対処するスキルを習得する「メンタルタフネス度向上研修」を提供しています。親しみやすい観点で整理された「ストレスを感じやすい考え方のクセ」について触れ、段階的に検討するワークで自分自身の認知も振り返ります。
※メンタルタフネスとは:困難に直面しても、悪い感情に振り回されずに前向きに対処できる能力
従業員が気軽に利用できるカウンセリング窓口の設置
従業員がカウンセリングを利用できるよう窓口を整えることも重要です。窓口は、ストレスによって心身が深刻な状態になる前でも気軽に利用できることを発信し、積極的な活用を呼びかけましょう。
「アドバンテッジ タフネス カウンセリング」は、心理専門家によるカウンセリングサービスです。対面でのカウンセリング以外にも、メールやオンライン面談、SNSを使ったチャット相談など、従業員が気軽に利用できる相談方法をご用意しています。
従来の傾聴型のカウンセリングだけでなく、出来事に対する考え方や、行動に変化を起こすことを目的とした「認知行動療法」のアプローチまで行えるため、ストレスとうまく付き合うヒントを得られます。
自分なりの方法でストレスに対処しよう
仕事や人間関係など、ストレスの原因となる外部の刺激はさまざまなものがありますが、人によってストレスの感じ方や、ストレスに対する耐性は異なります。また、同じ人でも、年代やライフステージによってストレスの要因は変化する可能性があるでしょう。ストレスに対応できる心身を保つためには、こまめにストレスを解消するなど、ストレスとうまく付き合う自分なりの方法を身につけることが有効です。