メンタルヘルス対策は、企業が負うべき責務であり、持続的・安定的な組織成長を目指すうえでも重視すべき課題の一つです。今回は、メンタルヘルス対策の重要性と、企業が実施すべき具体的な取り組み、注意点などについて解説します。
メンタルヘルス対策では、従業員がいつでも安心して悩みを相談できる体制が不可欠です。心理専門家による「アドバンテッジ カウンセリング」は、24時間365日対応し、従業員の前向きな行動変化をサポートします。
目次
メンタルヘルス対策とは

まずは、メンタルヘルス対策の基本的な考え方を整理していきましょう。
メンタルヘルス対策の定義
メンタルヘルス対策とは、従業員の「心の健康」を守り、働きがいと安心感を育むための一連の取り組みのことです。これは単に「メンタルヘルス関連の病気を防ぐため」だけでなく、従業員が自分らしく働き続けられる環境を整え、組織の生産性やエンゲージメントを高めることまでを視野に入れた、大きな枠組みを指します。
厚生労働省は、職場のメンタルヘルス対策を一次予防・二次予防・三次予防の3段階に分類しています。
一次予防:ストレスをためない職場環境づくりや、働き方の見直しなど、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組み
二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切なケアによって悪化を防ぐ取り組み
三次予防:メンタルヘルス不調からの回復支援や、職場復帰後の再発防止を含む取り組み
近年では、メンタルヘルス不調の背景や症状が多様化しつつあります。従来から存在する「うつ病」だけでなく、さまざまな疾患や状態に対応できる形で、従業員の職場適応を支援していくことが必要です。3段階の予防を組み合わせた総合的なメンタルヘルス対策がより重要となります。
参考:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」
セルフケアと組織的なケア【4つのケア】
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、職場におけるメンタルヘルスケアを進める仕組みとして「4つのケア」を掲げています。
【4つのケア】
| セルフケア | 従業員がメンタルヘルスに関する正しい知識を持ち、理解していること。また、自身のメンタルヘルス不調の兆候に気づき、適切に対処すること。 |
| ラインによるケア | 管理職が部下の不調を早期に察知し、必要に応じて相談に対応すること。また、職場環境の把握、改善に取り組むこと。 |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 社内の産業保健スタッフによる、メンタルヘルスケアに関する施策の企画・立案や、従業員の復職支援を担うこと。 |
| 事業場外資源によるケア | 外部の専門機関と連携し、社内だけでは対応しきれない相談や専門的な支援を受けられるようにする仕組み。カウンセリングやメンタルヘルスに関する研修などを提供するEAP(従業員支援プログラム) はこれに該当します。 |
メンタルヘルス対策では、これら4つのケアが継続的かつ計画的に実施されることが重要です。それぞれの取り組みを充実させるとともに、適切に連携できる体制を整えることで、一次予防から三次予防までを網羅した包括的なメンタルヘルス対策が実現します。
参考:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~
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企業においてメンタルヘルス対策が重要な理由

従業員一人ひとりの心の健康が守られることで、組織全体が安定し、持続的に成果を生み出せます。ここでは、企業がメンタルヘルス対策に取り組むべき主な理由を解説します。
メンタルヘルス対策は企業が負うべき義務だから
メンタルヘルス対策は法律で定められた企業の責務です。企業は、労働契約法第5条に基づき、従業員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っており、これには身体的な安全だけでなく、精神的な健康への配慮も含まれます。
また、労働安全衛生法第3条1項においても、快適な職場環境の実現および労働条件の改善を通して、従業員の安全と健康を確保することが義務づけられています。従業員がメンタルヘルス不調に陥り、企業が適切に対応しなかった場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があるのです。
心身ともに健康に働ける職場づくりが求められているから
メンタルヘルス対策は不調者への対応だけでなく、すべての従業員の心の健康レベルを高めることも目的としています。快適な職場環境はストレスを軽減し、モチベーションや創造性を高める要因です。心身の健康が保たれていることで、従業員は意欲的に仕事に取り組めます。
生産性を高め、組織成長につながるから
心身が健康であると、従業員は集中力と判断力を最大限に発揮し、仕事の質や効率が高まります。ストレスが少なく意欲的な状態は心理的安全性を高め、チーム内の連携やコミュニケーションが活発化します。これにより課題解決力やイノベーションが生まれ、組織の持続的な成長につながるのです。
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離職率を下げ、人材の流出を防ぐから
心身ともに健康に働けるよう配慮されていること、休職しても無理なく復帰、職場適応を支援することも、メンタルヘルス対策の目的です。メンタルヘルス不調は、離職の大きな要因の一つです。不調の早期発見・早期対応ができる体制を整えると、休職や退職による人材流出を防げます。
段階的な復職をサポートする仕組みや制度を整えることは、従業員に「大切にされている」という安心感を与え、定着率の向上につながります。結果的に採用費用の抑制にもつながり、経営的メリットも大きいでしょう。メンタルヘルス対策は今や「当たり前のもの」という認識が広がる中で、より積極的に取り組む企業は、採用市場での評価の高まりが期待できます。
ハラスメント対策につながるから
メンタルヘルス対策は、ハラスメントの発生を防ぐうえでも重要な取り組みです。悩みを幅広く相談できる体制が整っていれば、ハラスメントなどの職場の問題を早期に把握し、迅速に対応することも可能です。また、メンタルヘルスに関する学びを通して、自己理解や他者への配慮が深まると、ハラスメントにつながりかねない攻撃的な言動や誤解が生まれにくくなります。
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企業が実施すべきメンタルヘルス対策

メンタルヘルス対策は、単に「不調者への対応」にとどまりません。企業には、メンタルヘルス不調の予防から早期発見、職場環境の改善までを体系的に取り組むことが求められます。ここでは、企業が実施すべきメンタルヘルス対策についてご紹介します。
職場環境を改善し、ストレス要因を減らす
長時間労働の是正や業務の再配分、リモートワークやコアタイム制度などの柔軟な勤務制度の整備などによって、業務負担を軽減します。また、物理的な作業環境の改善にも取り組み、ストレス要因を減らしましょう。
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職場のコミュニケーションを改善する
1on1ミーティングや、部署内のチームランチ、雑談タイムなど、コミュニケーションの場を意識的に設けます。チーム内の信頼関係が深まり、心理的安全性が高まることで、働きやすい環境が整うだけでなく、チームメンバーの不調や変化を早期に察知できる可能性も高まります。
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メンタルヘルスに関する研修を行う
従業員一人ひとりがメンタルヘルスやストレスケアについて理解し、自分や周囲の変化に気づけるようになるために、メンタルヘルスに関する研修を行います。研修は全従業員を対象に、定期的に実施しましょう。
一般従業員、管理職、人事担当者など、階層ごとに分け、それぞれの役割に応じた内容で実施できると理想的です。eラーニングなどによるフォローアップも組み合わせながら、学びの定着と行動変化を促します。
<研修の内容例>
- 一般従業員向け:セルフケア、ストレス対処について学ぶ研修
- 管理職向け:部下への声かけや面談の方法、不調がみられる際の適切な対応手順などを学ぶ研修
ストレスチェック結果を活用する
ストレスチェック結果は個人に速やかにフィードバックし、客観的なストレス把握と、適切なセルフケアを促しましょう。また、部署単位で集団分析を行えば、組織内の課題やストレス要因を的確に把握できます。その結果に基づき、職場環境改善のPDCAサイクルを回すことで、より精度の高いメンタルヘルス対策につながります。
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悩みを相談できる窓口を設置する
幅広い悩みに対応できる相談窓口を設けます。窓口は誰でも利用でき、従業員が抱える問題が深刻化する前でもサポートを受けられることを周知し、「相談はポジティブな行動である」「気軽に利用してほしい」というメッセージを発信しましょう。相談窓口は、社内の産業保健スタッフが担当する場合もありますが、外部のカウンセリングサービスを活用することも有効です。
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復職支援・フォローアップ体制を整える
メンタルヘルス不調により休職した従業員の復職支援も重要です。復職後、業務に慣れてからも再休職を防ぐためフォローを継続します。上司は勤務状況の確認や日常的なコミュニケーションを通じ、従業員の変化に気を配ります。ストレスを抱え込まないよう、上司、人事、産業保健スタッフが連携し、継続的なサポート体制を築くことが大切です。厚生労働省の手引き(心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~)を参考にするほか、以下の記事でも詳しく紹介しています。
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外部専門機関や産業医と連携する
産業医や保健師、カウンセラーなどの専門職、さらに外部専門機関と連携し、専門的なアドバイスを受けましょう。自社の課題やニーズを明確にし、それにマッチしたサービスを選定することで、より効果的なメンタルヘルス対策の推進が可能になります。
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企業がメンタルヘルス対策を成功させるためのポイント

メンタルヘルス対策は、単に制度を整えるだけでは成功に結びつきません。続いては、実効的な取り組みとして組織に根付かせていくためのポイントをご紹介します。
取り組み事例参考:厚生労働省「メンタルヘルス対策のポイント」
トップと現場が一体となって推進する
経営トップがメンタルヘルス対策の重要性や方針について発信し、組織課題として取り組むことが不可欠です。これにより、従業員の参加意識を高められます。さらに、情報発信や研修を継続的に実施し、「全員で取り組む」意識を浸透させることが重要です。トップと現場が協働し、形骸化の防止が成功のカギとなります。
【取り組み事例】
経営理念とともに、それを実行する「社員の心得」の1つに「心身の健康」を明記し、社内外に提示。それに基づく施策を展開しています。(IT産業)
効果を検証し、取り組みをアップデートする
企業文化や人員構成の変化に合わせて進化が必要です。制度導入で終わらせず、評価指標を設定し、アンケートやヒアリングで従業員の声を活かしながら、評価・効果検証・改善を継続していくことが求められます。
【取り組み事例】
心の健康づくり計画を策定し、メンタルヘルス評価指標を設定。ストレスチェックに基づく高ストレス者数や傷病手当金給付者数などの指標で現状を評価し、新たな対策の立案・効果検証を行っています。(運輸業・大規模)
企業のメンタルヘルス対策における注意点

メンタルヘルス対策に取り組む際の注意点を押さえておきましょう。
個人情報保護の徹底
従業員の健康に関する情報は、個人情報保護法(第2条3項)における要配慮個人情報に該当します。本人の同意なく健康情報を取り扱うことは原則として認められていないため、企業は従業員に対して、健康情報の収集や利用範囲、保存期間などについて丁寧に説明し、同意を得ましょう。
管理職や人事担当者、相談窓口の担当者など、情報に触れる可能性のある従業員については、個人情報保護についての研修を行います。記録媒体を問わず厳重なセキュリティの下で保管し、第三者が容易に閲覧できないよう管理を徹底します。
不利益な取り扱いの禁止
メンタルヘルス不調を理由とする解雇や雇止め、退職勧奨、不当な配置転換、雇用契約更新の拒否など、従業員に対する不利益な取り扱いは禁止されています。従業員の健康確保という目的を逸脱した措置は認められません。
「メンタルヘルス」の特性を踏まえた取り組みの推進
メンタルヘルス不調は、職場内外の複数のストレス要因が複雑に絡み合って生じるため、その多要因性を理解することが不可欠です。また、心の不調を抱える従業員への誤解や偏見、不当な評価のリスクも存在します。さらに、問題が人事異動や配置転換といった人事労務管理と密接に関わるため、効果的な対策には人事部門との連携が不可欠です。これらの特有の性質とリスクを把握したうえで、取り組みを進める必要があります。
参考:労働者の心の健康の保持増進のための指針
個人で行うセルフケアの方法とは

セルフケアとは、自分自身のメンタルヘルス不調の兆候にいち早く気づき、自発的にケアに取り組むことです。主なセルフケアの方法をチェックしておきましょう。
【職場でできるセルフケア】
- 軽いストレッチ、深呼吸する
- 好きな飲み物を飲む
- 休憩やランチで気心知れた同僚と会話する
【職場でできるセルフケア】
- 軽いストレッチ、深呼吸する
- 好きな飲み物を飲む
- 休憩やランチで気心知れた同僚と会話する
セルフケアについて詳しくは以下の記事で紹介しています。
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メンタルヘルスにおけるセルフケアの重要性。職場や自宅でできるセルフケア方法やポイントを解説
職場でメンタルヘルス不調者が発生する原因と不調のサイン

最後に、職場におけるメンタルヘルス不調を引き起こす主な要因と、その兆候についてご紹介します。
メンタルヘルス不調が発生する原因
職場でのメンタルヘルス不調の背景には、職場の人間関係や業務の負荷、ワークライフバランスの実現度など、多面的な要因があります。特に、人間関係のトラブルやハラスメント、長時間労働や過重なノルマなどは代表的なストレス要因です。単なる「個人の性格や捉え方の問題」だけではなく、「職場環境や組織風土の問題」として捉える視点が必要です。
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メンタルヘルス不調のサイン
メンタルヘルス不調は、必ずしも本人が自覚しているとは限りません。普段からコミュニケーションをとり、周囲が「いつもと違う」様子に気づくことも、早期発見と対応につながります。主なサインは以下の通りです。
【心理面でのサイン】
- 気分の落ち込みやイライラ
- 集中力や意欲の低下
- 興味、関心の喪失
【身体面でのサイン】
- 睡眠の質の低下
- 食欲の変化
- 頭痛、疲労感の継続
- 胃腸の不調
【行動の変化によるサイン】
- 遅刻、欠勤、早退の増加
- 無断での長時間の離席/回数の増加
- ミスの増加
- 発言の量や勤務態度の変化
- 髪型や服装の乱れ
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部下のメンタル不調のサインとは?様子がおかしいと気が付く管理職に。
職場全体で「心の健康」を守る体制づくりを

メンタルヘルス対策は、個人任せにせず組織課題として企業が率先して推進することが求められます。従業員のセルフケアと併行し、企業や専門家が積極的にケアを進める姿勢も大切です。対策を意義あるものにするためには、継続的な実践と改善が不可欠であり、研修などを通して組織全体の意識を高める体制を確立しましょう。

