従業員がセクハラ被害を相談してきた時、人事担当者は被害者の心理を理解しながら、迅速かつ適切に対応する必要があります。また、セクハラ加害者への指導や処分をして終わりではなく、企業全体で再発防止への取り組みを継続していくことが重要です。今回は、社内でセクハラの相談をされた際の対応手順やNG対応、再発防止策について詳しく解説します。
目次
職場におけるセクハラの定義と、企業への影響

はじめに、職場におけるセクハラの定義や、企業に与える悪影響、セクハラ防止のために企業が負う義務について確認しておきましょう。
職場におけるセクハラとは
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、職場内で行われる性的な言動により、従業員の労働条件が悪くなったり、就業環境が悪化したりすることです。男女雇用機会均等法において、セクハラは2つの型に分けられます。
①対価型セクシュアルハラスメント | 職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること |
②環境型セクシュアルハラスメント | 性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること |
<セクハラに該当する発言例>
- 恋愛や性に関するテーマで話しかける
- 社内や取引先などに性的な内容の噂を流す
- 性的な冗談やからかい
<セクハラに該当する行為例>
- 異性の身体に意味もなく触る
- デスクにセクシャルな写真を置く
- 執拗に食事やデートに誘う
近年は同性同士でのセクハラや、女性から男性に対するセクハラも存在します。また、LGBTQの立場をあえて強調するような言動も、セクハラを招く要因になりかねません。
参考:厚生労働書「(労働者向け)悩んでいませんか?職場でのセクシュアルハラスメント」
セクハラ問題が企業に与える影響とリスク
セクハラ被害を受けた従業員は、仕事への意欲や生産性が低下してしまうおそれがあります。また被害者がメンタルヘルス不調に陥ったり、精神疾患を発症したりして休職・退職に追い込まれると、人材不足を招くおそれもあるでしょう。場合によっては、企業としての法的責任を問われ、被害者から損害賠償訴訟を受けることもあり、社会的信頼性を失いかねません。
加えて、セクハラは被害者本人だけではなく、セクハラ行為を見聞きする周囲の従業員の士気を下げ、不快な思いをすることで間接的なハラスメントになる可能性もあります。セクハラ問題に適切な対応をとらない組織に従業員が失望すれば、さらなる人材の流出や企業イメージの低下にもつながります。このように、セクハラ問題は企業運営そのものにも大きなリスクとなるでしょう。
セクハラ防止は企業の義務。関連法令をチェック
セクハラ被害の相談に対して適切な対応をとることは、企業に課せられた法的義務であり、対応を怠ると違法行為として責任を追求される可能性があります。
・セクハラ防止のための雇用管理上の措置(男女雇用機会均等法第11条)
企業は、セクハラ防止のために適切な措置をとらなければなりません。この義務に違反した場合は、行政指導や勧告、企業名公表の対象となる可能性があります。
・安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
企業は、従業員が安全で健康に働けるよう配慮すべき安全配慮義務を負っています。セクハラ防止措置を怠った場合、安全配慮義務違反として損害賠償義務が発生するおそれがあります。(民法第415条)
・使用者責任(民法第715条)
従業員がセクハラを行った場合、企業は使用者責任として賠償義務を負う場合があります。従業員の選任・監督に相当な注意を払っていたと認められれば免責されることもありますが、セクハラ問題において免責される事例は稀です。
・不法行為責任(民法第709条)
セクハラ行為が組織的に行われたものである場合、企業そのものが不法行為の責任を問われる可能性があります。
セクハラを相談された時の流れ

セクハラを相談された時には、被害者の心情を理解しながら真摯に対応することが求められます。同時に、再発防止のための対策をとることも必要です。セクハラ被害を相談された際に、人事担当者がとるべき手順は以下の通りです。
<セクハラを相談された際の流れと対応>
- 被害者からの相談/ヒアリング
- 事実確認
- セクハラの有無の判断、処分の検討
- 被害者・加害者への対応
- 再発防止のための対策
- 「あなたが思わせぶりな態度をしたことにも問題があったのでは?」
- 「なぜその場で二人きりになったのですか?」
- 「軽く受け流せば良かったのに」
- 「昔はよくあったことだから」
- 「あなたのことを気に入っているだけじゃない?」
- 「相手もそんなつもりはなかったんでしょう」
- 「もう少し待ってもらえるとありがたい」
- 「また同じようなことがあったら教えてほしい」
- 「おおごとにすると、あなたの社内での居場所がなくなるかもしれない」
- 「あなたの評価が下がるかもしれないから、告発はやめたほうがいいと思います」
1.被害者からの相談/ヒアリング
従業員からセクハラ被害の相談があったら、相談窓口の担当者は従業員の気持ちに寄り添いながら、丁寧にヒアリングを行いましょう。相談内容などの秘密はきちんと守られること、被害を申告した従業員が不当な取り扱い、処分を受けないことを説明します。
なお担当者は、従業員を問いただすような聞き方や、恣意的な判断が加わるような問いかけをしないよう留意してください。
一通り話を聞いた後、ハラスメント行為が発生した日時や経緯、内容などを詳しく書きとめます。相談は1時間弱を目安にするのが好ましいですが、一度で終わらない場合は、別で相談日を設けましょう。
2.事実確認
次に、被害内容が事実なのか当事者に確認を行います。もし被害者と加害者の意見が食い違う場合には、被害者に許可を取った上で、第三者へ聞き取りをしましょう。申告を受けた担当者に最終判断をする権限がない場合は、上司や社長などに報告します。
セクハラ相談を受けた従業員は、被害者の一方的な主張しか聞けないこともあります。もしも被害者からのセクハラの申告が虚偽であった場合、それを鵜呑みにして加害者を処分すると、加害者から賠償責任を受ける場合もあるため、慎重に確認を進めましょう。
3.セクハラの有無の判断、処分の検討
調査内容をもとに、セクハラがあったかどうかを総合的に判断します。社内で判断することが難しい場合は、弁護士などを入れた調査委員会を設置しても良いでしょう。
セクハラがあったと認められた時には、加害者への処分を検討すべきです。処分の内容は、被害者が受けた被害の程度や就業規則、過去の裁判例などを参考にします。具体的には、謝罪や人事異動、減給、戒告、降格などが考えられます。
4.被害者・加害者への対応
調査結果が出たら、セクハラの被害者と加害者へその旨を知らせるとともに、企業としてどのように調査を行ったかを説明します。また、加害者を処分して終わりではなく、被害者が安心して働き続けられるようフォローも重要です。
一方、セクハラと認められなかった場合、被害者が調査結果や企業の判断に納得しないこともあります。被害者が個人的に弁護士を立てて訴訟を起こすケースも考えられるため、事前に弁護士へ相談しておくなどの対応策を検討しておきましょう。
5.再発防止のための対策
問題が解決したら、セクハラが発生した背景などを踏まえ再発防止対策を検討しましょう。具体的な対策が決まったら、継続的に実施していくことが重要です。より効果的なものとするには、定期的に内容の検証・見直しを行うことも大切です。再発防止策については、後ほど詳しく解説します。
セクハラを相談された時のNG対応

セクハラの相談をされた時、担当者が誤った対応をしてしまうと、セカンドハラスメント(ハラスメントの二次被害)を招きかねません。被害者が勇気を出して相談したにもかかわらず、担当者や周囲の従業員からバッシングを受けることでさらなる精神的苦痛を受けてしまいます。さらに大きなトラブルに発展する可能性もあるため、次のような言動に留意しましょう。
セカンドハラスメントについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
被害者を非難する
セクハラはセンシティブな問題です。被害を申告することにも大きな勇気がいるため、相談してきた被害者を否定・叱責するような対応をしてはなりません。「告発してつらい思いをするくらいなら、相談しないほうがましだ」と感じ、泣き寝入りしてしまうこともあります。
一方で、被害者を励ますつもりの発言が、被害者の心をさらに傷つけることもあるため、安易な慰めや励ましはしないよう注意しましょう。
<NG発言例>
セクハラを軽視する
セクハラは、第三者のいないクローズドな環境で行われることも少なくありません。被害を申告しても信じてもらえない、重要な問題と捉えないなど、セクハラ被害を軽視するような対応は、被害者をさらに苦しめることにつながります。
目撃者がいないために証拠が提示できない、加害者が社内での評価・評判の高い人物であった場合に起こりやすいため注意が必要です。
<NG発言例>
問題を放置する
セクハラ問題に対応せず放置すると、被害者が心身に不調をきたし、休職・退職に追い込まれてしまう可能性もあります。穏便に済ませようとして、告発をやめるように促す発言は「真摯に対応してくれない」という印象を抱かれかねません。セクハラの相談を受けたら、事実確認や調査、改善策の検討など、速やかに行動することが大切です。
<NG発言例>
被害者に不利益な取り扱いをする
セクハラの被害者が不当な処遇やペナルティを受けるような対応を取ってはなりません。加害者と被害者を隔離するためとはいえ、被害者本人の希望や了承なく勝手に配置転換をする、被害者に退職を薦める・解雇するなどは適切ではありません。
なお加害者から遠ざける、告発を取り下げさせるだけでは、セクハラ問題の根本的な解決にはならないことに注意しましょう。
<NG発言例>
セクハラの再発防止策

セクハラの再発防止策は、継続的に行っていく必要があります。最後に、企業が取り組むべきセクハラ防止に向けた対応を紹介します。
セクハラに対する社内規定の整備と周知・啓発
セクハラを含む、各種ハラスメント対応についての社内規定を作成し、企業がどのような姿勢でハラスメント問題に対応していくのか、方針やルールを明確にします。それらの内容は全従業員に向けて周知・啓発し、再発防止につなげましょう。
併せて、「ハラスメントは全従業員が取り組まなければならない重要な課題である」と、トップが積極的に発信することでハラスメント防止意識を高め、未然防止を目指します。
セクハラ防止のための従業員の知識・意識の向上
セクハラのようなハラスメント問題は、誰もが「加害者」「被害者」のどちらにもなる可能性があります。なかには、自覚なくセクハラと認められる言動をしている従業員もいます。性別役割分担意識に基づく偏見や思い込みなど、個人のアンコンシャス・バイアスがセクハラにつながるケースもありますので、どのような行動、言動がハラスメントなのかを理解し、セクハラ防止意識を高めてもらうための研修を、全従業員に向けて実施することが望ましいでしょう。
研修では、職場で起こるハラスメントの種類や具体例を伝え、自身の考え方や行動について振り返りながら、行動変容へとつなげていけるような内容を扱います。
セクハラを含むハラスメント相談窓口の設置
社内にハラスメント専門の相談窓口を設け、早い段階でトラブルを察知し、コミュニケーション改善や人事異動などで解決を図ることも重要です。社内で相談できない場合、最悪の状況になるまで我慢してメンタルヘルス不調に陥ったり、突然の退職につながったりするおそれもあります。
相談者のプライバシーの保護はもちろん、内容を誰が確認してどのように対処していくのか、相談によって不利益を被るおそれがないことなど、安心して相談できる環境が整っている点をしっかりと周知しておくことが大切です。相談しやすい環境づくりは、当事者を守ることにつながるだけではなく、企業にとっての訴訟リスクや離職防止としても効果的です。
パルスサーベイによる実態把握
セクハラが発覚した職場では、それが氷山の一角である可能性も視野に入れておきましょう。ハラスメントは、立場の強い人から立場の弱い人に向けて行われていることが多いため、実態が顕在化しづらいという特徴があります。他にもセクハラ被害に遭っている人がいないか、また起きそうな職場環境ではないかをチェックするためにも、簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のパルスサーベイを実施し、ハラスメントの早期発見やハラスメント発生の予兆把握につなげましょう。
セクハラを相談されたら迅速かつ適切な対応を

セクハラは従業員同士の問題ではなく、企業全体で対応しなければならない重要な問題です。セクハラ被害の告発があった場合には、速やかに事実関係の調査と適切な措置をとる必要があるため、スピーディな対応ができるよう社内規程を整備しておきましょう。また、セクハラを再発させないためには、従業員のハラスメントに対する知識や防止意識を向上させていくことも求められます。ハラスメントは顕在化しづらい問題であるという特徴を踏まえ、サーベイ等で実態の把握を行い、セクハラを生じさせない環境づくりを進めましょう。