会話をしながら歩く上司と部下

リテンションマネジメントとは?成功の要因や導入メリットに取り組み事例も解説

Facebookでシェア ツイート
「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

少子高齢化による労働人口の減少は、企業の人材確保をより困難にしており、今後ますます採用活動は苦戦することが考えられるでしょう。さらに、近年はせっかく採用した従業員がさまざまな理由で定着せず、離職してしまう人材流出が課題となっています。そこで今、新卒・中途採用にかかわらず、従業員の離職防止としてリテンションマネジメントに関心が寄せられています。この記事では、リテンションマネジメントが必要とされる背景や具体的な取り組み事例について解説します。

記事の監修者
柿沼 篤史社会保険労務士 (登録番号)第13230488号
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント マーケティング部
当社のマーケティング活動におけるデータ整備や分析業務に従事。社労士の資格を有しており、健康経営をはじめ当社の事業領域に関する知見をもとにアドバンテッジJOURNALの記事も監修している。

リテンションマネジメントとは

人のアイコンを手の平で映し出す男性従業員

はじめに、リテンションマネジメントとはどのような取り組みなのか、日本の現状とともにみていきましょう。

リテンションマネジメントとは

リテンションマネジメントとは「優秀な人材の離職を防ぎ、その能力を発揮できる状態をつくる人事施策」のことを指し、リテンション(retention)には、「保持」「維持」といった意味があります。人事領域における「リテンション」は、「人材維持」というニュアンスで用いられます。

日本の現状

厚生労働省が実施した「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、2022年度における年初の常用労働者数に対する離職率は15.0%でした。また、2023年に厚生労働省が公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」においては、就職後3年以内の離職率が、新規高卒就職者で37.0%、新規大学卒就職者で32.3%でした。どちらの調査においても、直近10年ほどの離職率は横ばい傾向であることがうかがえます。

一方、厚生労働省の「平成30年若年者雇用実態調査の概況」によると、既に7割以上の企業が若手社員の定着のために何らかの施策を実施しています。中でも「職場での意思疎通の向上」「本人の能力・適性に合った配置」「採用前の詳細の説明・情報提供」は、半数以上の企業が取り組んでいるのが現状です。近年、採用コストが増加傾向にある中で、従業員の早期離職は企業にとっても痛手であり、リテンションマネジメントに取り組む重要性が高まっているといえます。

リテンションマネジメントが必要とされる理由

人の絵が描かれたブロック

リテンションマネジメントの重要性が高まっている背景には、人材不足と人材流出という2つの問題があります。

労働人口減少と転職の増加

少子高齢化による労働人口の減少に伴い、深刻な人手不足に悩む企業は少なくありません。実際、コロナ禍で景気が不透明になりながらも、2021年卒の大卒求人倍率は1.53倍、2022年卒は1.50倍と堅調です。2024年卒は1.71倍とコロナ禍直前の倍率に戻りつつあり、さらに高水準となっています。

参考:
大卒求人倍率調査(2021年卒)
大卒求人倍率調査(2022年卒)
大卒求人倍率調査(2024年卒)

また中途採用市場も2021年上期にはコロナ禍以前の水準を超える市況で、第2新卒~40代のミドルクラスまで幅広い求人が出ており、求職者有利の人材市場であることは明白です。優秀な人材の獲得競争はますます熾烈なものとなっています。新たな人材の確保が難しい状況では、まず優秀な人材の流出を防ぐためのリテンションマネジメントを強化し、今いる従業員を定着させていくことが重要です。

労働者の価値観の多様化

人材流出が止まらないのは、労働者の働く価値観が多様化しているのも大きな要因です。

働く環境やワークライフバランスが重視され、理想の働き方を求めて転職する人も増加しており、特に今の若い世代はキャリア教育を受けてきたため、自分のスキルアップや成長のためにより良い職場を求めることにポジティブな感覚を持っています。

また、Z世代に顕著ですが「会社の役に立ちたい」といった企業への忠誠心よりも、「社会の役に立ちたい」「自分の能力を高めたい」といった社会貢献意欲、自分の能力向上への意識が強いという特徴もあります。 そのため、大手企業からベンチャーに転職する人も少なくありません。

このような人材は、給与待遇の良さだけで引き留めることは難しいかもしれません。早期離職を防ぐためには、このような新しい価値観を理解したうえで、エンゲージメント向上に有効なリテンションマネジメントを行うことがカギとなるでしょう。

リテンションマネジメント実施のメリット

ハイタッチをする従業員達

次に、リテンションマネジメントに取り組むことのメリットをご紹介します。

従業員のエンゲージメント向上

リテンションマネジメントを実施することで、「働き続けたい」と感じる企業になれば、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。従業員に「ここで働くことが自分にとってメリットになる」「この会社にいれば成長できる」と思ってもらうことができれば、「会社に貢献したい」という意欲を持って仕事に取り組んでもらえるでしょう。エンゲージメントの向上は、離職防止につながるだけではなく、組織のチームワーク向上にも寄与します。

生産性向上・競争力強化

リテンションマネジメントを行うと人材の入れ替わりを最小限にでき、離職に伴う引き継ぎの負担や、引き継ぎ時の漏れを減らすことができます。また、仕事のノウハウや経験が豊富な人材が社内に多くなることで、仕事のスピードや質の向上、効率化も期待できるでしょう。これによって組織の成長が加速し、業務の生産性向上や企業の競争力強化が実現します。

企業イメージの向上

離職率が低く、人材が定着している状態は、従業員が働き方や就業環境、待遇等に満足していることを意味するため、企業のイメージアップにもつながります。求職者は「人材が流出しにくい」点を企業の魅力の一つとして捉えるため、アピールポイントとしても有効です。人材の獲得競争において有利に働くかもしれません。

「従業員の満足度が高い」というイメージは、投資家などのステークホルダーや顧客にも好印象を与えることから、集客や資金調達においても良い結果を得られる可能性があります。

採用・教育コストの削減

従業員の離職はある程度見込んではいるものの、そのタイミングを計るのは難しいこともあります。欠員補充による対応はあらかじめスケジューリングされているものではないため、退職者の増加によって他の業務とのバランスを取ることが難しい場合もあるでしょう。リテンションマネジメントに成功し、人材が定着すれば、欠員補充のための採用活動を抑えることができます。これにより、採用コストと教育コストの削減が期待できます。

リテンションマネジメント実施のデメリット

電卓で計算する人の手元

企業にとってさまざまなメリットをもたらすリテンションマネジメントですが、デメリットにも注目しておく必要があります。

環境整備のためのコストがかかる

リテンションマネジメントの一環として仕事に集中できる快適な職場環境を作ることを目的に、オフィスレイアウトを変更したり、新たにスペースを作ったりする場合、設備投資の費用が必要となります。また業務効率化のためのITツールや、リモートワークのための機材の導入、福利厚生の拡充にも費用が発生します。このように、リテンションマネジメントを進めるには、ある程度のコストがかかることを理解しておくことが必要です。

中長期的な視点での取り組みが求められる

リテンションマネジメントは、短期間の取り組みでは成果が出にくいものです。特定の施策を打っただけですぐに離職率が改善することは難しいでしょう。組織全体へと効果が波及し、変化が現れるまでには時間がかかることを理解し、中長期的な視点で継続して取り組むことが重要です。

リテンションマネジメントを成功させるコツ

MTGする従業員達

次に、リテンションマネジメントを成功に導くために重要なポイントをご紹介します。

給与・評価での処遇改善

評価制度や報酬体系の見直しも非常に有効な施策の一つです。従業員が報酬の高さだけにやりがいを感じているというわけではないものの、評価基準が曖昧で適切な評価が得られなかったり、スキルや経験に見合わない給与体系であったりすると、従業員の意欲が失われてしまうだけではなく、会社への不信感にもつながってしまいます。

一方、自分の仕事がきちんと評価されていると感じると、モチベーションの維持・向上のみならず、帰属意識や貢献意欲の強化などエンゲージメントにも影響を与えます。

社内コミュニケーション活性化

社内のコミュニケーションを活性化させることも重要です。職場の人間関係、とりわけ「上司が信頼できない、合わない」「職場の雰囲気が悪い」といった問題は、離職を決意させる要因の一つです。意思疎通がスムーズにでき、誰もが気兼ねなく自分の意見を言うことができる職場は、心理的安全性が高く安心して働くことができます。人材の定着が見込まれるだけではなく、チームワークの強化にもつながるかもしれません。

コミュニケーションを活発にする取り組みについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。

従業員の満足度や組織の課題の把握

MTGする従業員の上に書かれたサーベイの文字

リテンションマネジメントを実践するにあたり、まずは自社の現状と課題を明らかにすることが求められます。「従業員が離職を選択するに至った理由」や「部署やチーム内で生じている問題」などを、定量的、定性的に把握しましょう。例えば、組織の状態を把握するためにサーベイを実施する、ヒアリングの機会を設けるなどの方法があります。それらの結果を分析し、解決すべき課題を設定しましょう。

キャリアアップ・キャリア形成支援

従業員が成長できる機会や環境を提供し、キャリアアップやキャリア形成の支援を行うことも重要です。従業員のスキルや能力が向上することは、自社にとって有益であるだけではなく、従業員にとってもやりがいや成長を感じられるため、組織で働き続けるモチベーションにつながります。

従業員の健康管理・メンタルヘルス対策

心身に不調を抱えたまま働き続けることは難しいため、従業員の健康管理やメンタルヘルスケアにも力を入れることが求められます。健康診断やストレスチェックを受けてもらって終わりではなく、それらのデータを有効に利活用し、従業員の心身の健康維持・向上を目指す具体的な施策につなげる、誰もが利用できるカウンセリング窓口を設置し、メンタルヘルス対策を強化するなどの取り組みが大切です。

リテンションマネジメントの取り組み事例

外を眺める女性の後ろ姿

最後に、離職防止に有効なリテンションマネジメントの取り組み事例をご紹介します。

【キャリア形成支援】TOPPANエッジ株式会社(旧 トッパン・フォームズ株式会社)

TOPPANエッジ株式会社(旧トッパン・フォームズ株式会社*掲載当時)は、従業員一人ひとりが働きがいを感じながら、それぞれの能力を最大限に発揮できる環境作りを行っています。 

  • 職種や勤務地などについて、従業員自ら希望を申告できる制度や、社内公募制度を導入
  • 新入社員に1年間OJTトレーナーをつけ、自己評価・上司評価を行い、評価と面談によってキャリア形成を支援
  • 入社1~3年目、またキャリアの転換期となる35歳社員を対象に、キャリア形成の理解を深める研修を実施
  • 階層別研修の実施
  • 会社が認定した資格は、資格取得にかかる受験金額全額を援助

参考:厚生労働省「人材育成事例007」

【メンタルヘルス対策】株式会社シー・キューブド・アイ・システムズ

株式会社シー・キューブド・アイ・システムズは、従業員のメンタルヘルス対策としてストレスチェックを起点とした取り組みを行っています。

  • ストレスチェックを実施するだけではなく、結果を受けて組織改善に向けた取り組みを推進
  • カウンセリングサービスを導入し、従業員が安心して悩みを相談できる窓口を提供
  • 管理職は毎月、メンタルヘルスケア対策に関するe-ラーニングを受講

リテンションマネジメントを実施して従業員の離職防止を

笑顔で腕組みをしている従業員たち

求職者に有利な人材市場、若者の働く価値観の変化によって、リテンションマネジメントの重要性はますます高まっています。リテンションマネジメントは、従業員の定着率向上と優秀な人材の流出防止につながる重要な施策です。今後、少子高齢化はさらに加速していくと予想されます。優秀な人材を新卒で確保することが難しくなるだけではなく、中途採用市場での人材争奪戦も激しくなるため人材のリスクが懸念されます。魅力のある企業作りは、付け焼刃ではできません。

今こそ、ポテンシャルの高い人材の育成や働きがいのある職場作りといったリテンションマネジメントへの取り組みが重要です。

(Visited 1,395 times, 1 visits today)

【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

この著者の記事一覧

Facebookでシェア ツイート

関連記事RELATED POSTSすべて見る>>