従業員のキャリア自律を促すため、企業はどのように支援していくべきでしょうか。キャリア自律が注目される背景や取り組みを行うメリット、具体的な支援施策、進め方を詳しく解説します。キャリア自律の実現に向けて企業が取り組むべきことは、制度整備だけではありません。従業員がキャリアについて気軽に相談できる機会を作ることも重要です。
心理専門家によるカウンセリングサービス「アドバンテッジ カウンセリング」は、認知行動理論を活用し、自身の考え方や行動への気づきを促します。キャリアや仕事の悩みに寄り添うキャリアカウンセリングとしても活用でき、従業員のキャリア自律をサポートします。
目次
キャリア自律とは?

はじめに、キャリア自律の意味と、似た言葉との違いを整理します。
キャリア自律とは
キャリア自律とは、従業員が自分のキャリアについて主体的に考え、意思決定を行い、必要に応じて企業や周囲の支援を活用しながらその実現に向けて行動することです。自分の強みや弱み、価値観、経験、スキルなどを整理した上で、将来の方向性を考え、必要な知識や能力を身につけるなど、継続的にキャリア形成に取り組んでいきます。
自らの意思で選択・決断し、行動することが基本ではありますが、すべてを一人で行う必要はありません。また、従業員に転職や独立を促すことを意味するものでもありません。企業から提供される学習機会やキャリア面談などの支援を活用しながら、組織における自分の役割や将来を考え、自分なりのキャリアを築いていくという考え方です。
キャリア自律とキャリア自立、キャリア開発、セルフ・キャリアドックとの違いとは
キャリア自律と似た言葉との違いは以下の通りです。
| キャリア自立 | 他者に頼ることなく、自ら考え行動すること。「キャリア自律」とは外部のサポートの有無が異なる。 |
| キャリア開発 | 従業員がキャリアを築くために必要な能力や経験を得られるよう、企業などが行う支援や取り組みのこと。キャリア開発の主体は企業にあるが、キャリア自律の主体は従業員にある。 |
| セルフ・キャリアドック | 企業がキャリアコンサルティングや研修などを通じて、従業員の主体的なキャリア形成を継続的に支援する仕組みのこと。セルフ・キャリアドックの取り組みを通して、「キャリア自律」を実現する。 |
【関連コンテンツ】
キャリア開発とは?企業が取り組む重要性と具体的手法
キャリア自律が注目される背景

働き方や雇用を取り巻く環境が変化する中、企業と従業員双方にキャリアの捉え方を見直すことが求められています。ここでは、キャリア自律が注目される背景を解説します。
働き方やキャリアに対する価値観の多様化
リモートワークやフレックスタイム、副業など、柔軟な働き方が広がったことで、私生活に重きを置いて働きたい人や、複数の仕事を経験したい人など、「どう働くか」の価値観は多様化しています。また、管理職を目指す、専門性を高めるなど、描くキャリアの形も一様ではありません。
働き方の選択肢が増えたことで、自らの意思でキャリアを選択していくことも求められるようになりました。こうした背景から、従業員が自身の価値観や強みを踏まえてキャリアを考える「キャリア自律」に注目が寄せられています。
終身雇用制度の衰退と雇用形態の多様化
かつての日本企業では、長期雇用や年功序列制度を前提に、企業が異動や配置、昇進などを通じて従業員のキャリアを主導する傾向がありました。しかし、社会情勢や産業構造の変化などにより、こうした従来の日本型の雇用慣行は衰退しつつあります。専門性を重視するジョブ型雇用や中途採用など、人材の活用方法も多様になっています。企業が従業員のキャリアを一律に描くことが難しくなる中では、従業員自身がスキルや経験を磨き、将来のキャリアを主体的に考える必要性が高まっているのです。
人的資本経営やリスキリングへの注目
人的資本経営やリスキリングへの関心が高まっていることも、キャリア自律が注目される背景の1つです。人的資本経営においては、人材を資本と捉え、その能力を引き出すための投資が重視されます。
また、変化し続ける社会や市場に対応していくには、従業員が新たな知識やスキルを継続的に身につけることも求められます。企業にとっても、従業員が自身の強みや目指す方向性を理解し、必要な学びを選択できる環境を整えることは、人材の能力向上と活躍、ひいては経営戦略の実現につながる重要な取り組みです。
参考:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
【関連コンテンツ】
人的資本経営とは?求められる背景や取り組み方「3P5F」を解説
キャリア自律は優秀な人材が離職すると思われがち?

「キャリア自律を促すと、優秀な従業員が社外に目を向けて離職してしまうのでは」と懸念する企業もあるでしょう。しかし、キャリア自律そのものが離職を招くわけではありません。キャリア自律が離職を招くケースでは、従業員が自身の強みや将来像を明確にできても、社内で挑戦や成長の機会を見つけられず、望むキャリアを実現できない状態になっています。一方、定着につながる企業では、社内のキャリアパスや挑戦機会が可視化されており、従業員が「この企業にいれば、描いたキャリア像を実現できる」と思える環境が整っています。
企業がキャリア自律を促すメリット

企業が従業員のキャリア自律を促すメリットを整理します。
従業員のエンゲージメント・生産性が向上する
従業員が自身のキャリアについて考え、必要な学びや行動を自ら選択できる環境を整えることで、仕事への目的意識が高まりやすくなります。自分の成長と仕事とのつながりを実感することで、従業員のエンゲージメントが高まり、業務にもより主体的に取り組めるようになるでしょう。また、身につけた知識やスキルを業務改善や課題解決に活かすことで、個人のパフォーマンス向上も期待できます。こうした従業員が増えることは、組織全体の生産性向上にも貢献します。
離職防止・採用力強化につながる
キャリア自律を支援することは、従業員の定着を促す上でも重要です。社内でどのようなキャリアを描けるのか、その実現に向けどのような成長機会があるのかを示すことで、「この企業でキャリアを築いていきたい」と感じてもらいやすくなります。また、キャリア自律に関する企業の取り組みが社内外に伝われば、働く環境や成長機会を重視する人材から選ばれるきっかけにもなるでしょう。結果として、離職防止と定着率の向上、採用力の強化につながります。
適材適所の人材配置と柔軟な組織作りが実現する
従業員が自分の強みや希望するキャリアを把握・表明し、企業側もその情報を踏まえて配置などを検討することで、個々の能力や適性を活かした人材配置が可能となります。キャリア自律の取り組みを通して、多様な経験やスキルを獲得した従業員が活躍することは、組織の柔軟性を高め、新たなアイディアや価値の創出にも寄与します。
変化に対応できる人材が育ち、競争力が高まる
企業を取り巻くさまざまな環境が変化し続ける中では、企業が求めるスキルを従業員に一律的に与えるだけではなく、従業員自身がその変化を捉え、必要な知識や能力を主体的に学び、獲得し続けることが求められます。キャリア自律を促すことで、社内業務だけでは得にくい知識や異なる分野の視点を取り入れる機会も増えます。新たな学びを業務に活用することで、これまでにない発想やイノベーション創出につながり、変化に対応できる組織の実現、企業の競争力強化につながるでしょう。
キャリア自律推進における企業の課題・注意点

キャリア自律の取り組みを進めるにあたり、企業側が押さえておきたい課題や注意点を確認しましょう。
キャリア自律の意識には個人差がある
従業員のキャリアに対する考え方や、主体的な意識を持てているかどうかは、個人差があります。これまで企業主導でキャリアを形成してきた人に、突然「今後どうなりたいか」と問いかけても、困ってしまうこともあるでしょう。
また、昇進や出世を目指すことだけがキャリア形成ではなく、今の仕事を続けたい、極めたいと考える人もいます。一律に主体性を求めるのではなく、この先のキャリアを考えていくための情報や機会を従業員に提供し、個々の価値観に応じて選択できることが大切です。
キャリア自律推進が転職の契機となる可能性がある
キャリア自律を促すことで、従業員が自身のスキルや市場価値を意識するようになり、社外に目を向ける可能性があります。社外での学びや交流を通じて新たな選択肢を知れば、転職をキャリアの1つとして考えるケースもあります。一方で、キャリア自律の取り組みは、従業員が現在の仕事にやりがいや成長機会を見出すことにもつながるでしょう。
キャリアの悩みを相談できる環境が不足している
キャリアの悩みは本人だけでは整理しきれないことも多い一方で、悩みを相談できる場所が足りないことも課題の1つです。また、管理職自身がキャリア自律に対する理解が少ないと、上司と部下がキャリアについて一緒に考えたり、上司がサポートしたりする機会が作られず、後回しになってしまうことも課題です。
企業が取り組む具体的な支援方法・施策

キャリア自律を促すには、従業員が自分の価値観や強みを理解し、必要なスキルを習得し、実際の仕事で活用・挑戦できる環境を整えることが重要です。企業では、まずキャリア面談や研修などの基礎的な施策から導入されることが多いですが、近年はキャリアカウンセリングやセルフ・キャリアドックなど、自己理解やキャリアに関する相談を支援する取り組みにも注目が集まっています。ここでは、キャリア自律を支援する代表的な施策を、「自己理解」「学習」「挑戦機会」の観点から紹介します。
【自己理解】キャリア研修を実施する
キャリア研修を行い、従業員が自身の価値観や強み、今後目指したい方向性を見つめ直す機会を設けましょう。研修では、将来の目標を考えるだけでなく、これまでの経験を振り返り、身につけたいスキルや行動を整理できる内容にするとよいでしょう。入社時だけでなく、一定の勤続年数、職位などに分け、それぞれの年代や課題に応じた内容で実施することが望ましいです。
【自己理解】キャリア面談を行う
将来のキャリアについて、定期的に上司と話し合う機会を設けることで、自身のキャリアを考えるきっかけが作れ、キャリア自律の意識が向上します。1on1やフィードバック面談などの機会を活用し、従業員がどのような仕事に関心を持っているのか、これからどのような経験やスキルを身につけたいのかを確認し、必要な支援を一緒に考えましょう。
上司には、本人の強みや希望を引き出し、実現に向けた選択肢を示す役割が求められます。コミュニケーションやコーチングに関する研修を行うなど、管理職へのフォローも併せて行うことが大切です。
キャリア面談は、上司との対話を通じて成長やキャリア形成を支援するものであるのに対し、キャリアカウンセリングは専門家による中立的な立場から、本人の悩みや希望を整理することが目的です。必要に応じて両者を組み合わせることで、社内でのキャリア形成と、より客観的な自己理解の両面を支援できます。
【関連コンテンツ】
1on1とは?ミーティングの進め方やオンラインでの注意点をご紹介
なぜ社内のキャリア面談は機能しにくいのか― 臨床心理士が語る“社内面談の限界”と外部キャリアカウンセリング活用のポイント
【自己理解】キャリアカウンセリングを活用する
上司との1on1では話しにくい悩みがあったり、キャリアについての考えを整理しきれなかったりすることもあります。社内外の専門家に相談できるキャリアカウンセリングを活用することも1つの方法です。キャリアカウンセリングでは、これまでの経験や価値観、将来の希望などを整理しながら、本人が今後のキャリアについて主体的に考えられるよう支援を行います。
【関連コンテンツ】
キャリアカウンセリングとは?メリットや企業への導入方法を紹介
【学習】リスキリング・学習機会を提供する
eラーニングや社外研修、資格取得支援、留学など、従業員が必要なスキルを習得できる機会を提供しましょう。企業の経営戦略や今後必要となる人材像を踏まえて、習得を推奨するスキルを明確にすることが求められます。併せて、従業員が自身の興味やキャリアに合わせて学べる選択肢も用意すると、主体的な学習につながりやすいです。
【挑戦機会】キャリアパスを提示する
従業員が社内で将来のキャリアを描くには、どのような仕事やポジションがあり、それぞれにどのような経験・スキルが求められるのかを把握することが重要です。職種や役職ごとの役割、求められる能力、キャリアの選択肢などを複数提示することで、「次に何を目指せばよいか」「そのために何を学べばよいか」を考えやすくなります。また、企業が求める人材像や組織の方向性を示すことも、個々のキャリア観と企業の目指す姿を結びつける上で有効です。
【挑戦機会】社内で挑戦できる機会を提供する
従業員が社内でキャリアを広げていけるよう、社内公募制度や社内FA制度、ジョブポスティングなどを導入し、従業員が希望する仕事や部署に挑戦できる機会を設けましょう。プロジェクトへの参加やジョブローテーションなど、現在の業務とは異なる経験を積める場も有効です。応募条件や選考基準、実際の事例などを明確にし、従業員が「制度を利用すればキャリアを変えられる」と実感できる運用につなげることが重要です。
また、従業員が自ら仕事の進め方や周囲との関わり方、仕事の捉え方などを工夫し、仕事をよりやりがいのあるものに変えていこうとする考え方「ジョブ・クラフティング」を促すことも、キャリア自律の足がかりとなります。
【関連コンテンツ】
ジョブ・クラフティングとは?メリットや実践手順、おすすめ研修例を紹介
キャリア自律に取り組む企業の成功事例

従業員のキャリア自律に取り組む企業の成功事例をご紹介します。
参考:厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2024」大賞受賞企業より
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
専門部署「キャリアデザインセンター」の設置やセルフ・キャリアドックを導入。全管理職研修や年代別セミナー、個別対話を通じて社員の主体的な学びと成長を支援しています。結果としてキャリア研修受講者の95%以上が「考えを深められた」「有意義な時間だった」と肯定的に回答し、社員が自発的にキャリアを考える風土醸成や定着率向上を実現しています。
住友生命保険相互会社
「人財共育」の理念のもと、希望に応じた配置を行う「マイキャリア運営」や1on1、年間最大20万円の自己啓発費用補助等の各種支援等を導入。その結果、希望キャリアへの配置率は90%以上を維持し、3年間で約4,300名が費用補助を活用するなど、全社で主体的な学びとキャリア自律が加速しました。
西日本電信電話株式会社
「知る・相談する・学ぶ・挑戦する」の4本柱で支援を展開。自己啓発支援として公募型の越境型研修、交流研修実施した他、社内ダブルワーク制度を活用しキャリアコンサルタント資格を持つ社員による「キャリア相談窓口」を設置しました。結果、キャリア相談の相談件数は15ヵ月で860件(満足度94%)に達し、資格取得者数も前年比1.4倍となるなど、社員の挑戦と行動変容が大きく進んでいます。
キャリア自律施策の失敗例

キャリア自律の施策は、制度や研修を用意するだけでは十分な効果を発揮しません。ここでは、企業が陥りやすい失敗例を紹介します。
| 失敗するケース | 成功するためのポイント |
| 研修をやるだけで終わる | 研修後の1on1や学習、挑戦機会の提供までを一連の取り組みとして行う |
| キャリア自律を従業員に任せきりにする | 必要な情報提供、相談の場を企業側が整える |
| 管理職の理解が不足している | 中長期的な成長を支援できるよう、管理職にも教育を行う |
| 社内の選択肢が少ない | キャリアパスや職務を可視化し、社内公募などの機会を設ける |
| 離職防止だけを目的にする | 従業員の成長と企業の成長を両立させる視点を持つ |
取り組みを意義あるものにするためには、このように具体的な行動までつなげることがポイントです。
キャリア自律の具体的な進め方

従業員のキャリア自律に関する取り組みは、自社の課題や人材戦略に合わせて段階的に進めていきましょう。
【STEP1:現状の把握】
まずはアンケートや面談などを通じて、従業員のキャリア意識や現状の課題を把握します。
【STEP2:施策設計】
次に、経営戦略と人材戦略を踏まえて目指す状態を明確にし、キャリア研修や学習機会の提供など、必要な施策を設計します。
【STEP3:従業員への周知/利用状況の把握】
施策の目的や活用方法を従業員へ周知した上で実施し、アンケートや面談などで効果を確認しましょう。
【STEP4:施策効果のPDCAを回す】
得られた結果や意見をもとに施策を見直し、改善を続けることで、自社に合ったキャリア自律の仕組みを構築できます。
キャリア自律が変化に強い組織を育てる

キャリア自律は従業員任せにせず、人材戦略に沿った目標設定と研修・1on1・社内公募等の施策連携が不可欠です。成長支援と挑戦の環境を整えることで、従業員の主体的なキャリア形成と組織の持続的成長を両立できます。

