仕事のやりがいだけでなく、従業員と会社との信頼関係をどう築いていくのか——。昨今はエンプロイーエンゲージメント(会社への帰属意識、愛着心)の指標が重要視されているように、従業員のマネジメントや従業員同士のコミュニケーションの在り方について議論が活発化しています。
今回は当社顧客の中から、首都高グループの一員として、構造物点検や施工管理支援など、技術的な業務を担っている首都高技術株式会社様のお取り組みを紹介します。
チーム業務を基本とする同社においては、従業員同士、従業員と会社との信頼関係構築が重要と捉え、2024年に現社長の加古聡一郎氏が就任した後は、全社員を対象とした社長との懇談会や社員の頑張りに対する積極的なフィードバック、オフィス移転に伴うリフレッシュスペースの新設など多様な取り組みを実施。アドバンテッジリスクマネジメント(以下、ARM)が提供するストレスチェックでもエンプロイーエンゲージメントの向上がはっきりと示され、加古氏によると「組織風土の変化に手応えを感じている」と話します。
今回はここまでの成果に至るまでにどのような考えや背景があったのか、組織マネジメントやチームコミュニケーションの観点などを踏まえて、加古氏にお話を伺いました。

※文中の内容および記載の法人名・組織名・所属・肩書きは、すべて取材時点(2026 年2月)での情報です。
目次
「真面目で忠実」だけではない組織風土の進化を図った
まず初めに御社の組織風土について教えてください。
私が親会社である首都高速道路株式会社から移籍し、社長に就任したのが2024年6月でした。社長の立場となって改めて感じたのは、グループ企業全体の特性かもしれませんが、真面目で責任感が強く、職務に対して忠実な従業員が多い組織だなということです。
当社の前身は首都高速道路公団(当時)と関連のある財団法人であり、当時の名残もあって規律に則ってきっちり仕事に取り組む強みがあります。一方で、前例踏襲にこだわりすぎるあまり変化に対して慎重で、新しい取り組みにチャレンジすることは苦手だなという印象がありました。
しかし、元々我々は技術の会社です。高度なスキルと知見で社会インフラの安全・安心を実現しているという自負があります。チームとしても従業員個人としても、すでにたくさん成果を出していることにもっと自信を持っていいはずで、その技術を活かしてもっとチャレンジしてもいいと思います。
そこで首都高速道路の子会社としての受託だけでなく、近年は培ってきたインフラ事業の技術を社会へ還元するかたちで外販事業として積極的に展開しています。みんなが本来の実力を発揮して、外部から良い評価をいただいて自信を持ってほしい。こうした想いが実を結び、外販事業でも成果が出てくるようになりました。こうした成果に対しては随時に表彰し、社内掲示板でも大きく紹介するようにしました。従業員に対して努力を見ていますよ、そしてそれをきちんと評価しますよ、と見える場所で伝えて、感謝を示すためです。

事務所にも足を運び、約290人の全社員ひとりずつ生の声を聞いた
ARM提供のストレスチェックでは、エンプロイーエンゲージメントが近年向上していると伺いました。ほかにどのような施策を行ったのでしょうか?
より安心して働ける組織風土の醸成には、物理的な環境も整えないといけないと考えました。2025年のオフィス移転にあたっては、従業員同士のコミュニケーションを活発化するために会議室の増設に加えて、窓際にファミリーレストラン風のボックス席を配置し、各階に昼食や休憩目的だけでなく、会話を生むためのコミュニケーションを目的としたリフレッシュスペースを設けました。
我々の業務はチーム対応が基本です。そして技術は人の中にある。知識や経験の共有がとても重要で、そのためには円滑なコミュニケーションが欠かせません。
しかし、事業再編などで規模拡大が進むにつれて性別や年代、バックグラウンドの多様化が進んでいるものの、その反面、組織内のコミュニケーションにぎこちなさがまだ残っているなと感じていました。就任後初めての大きな仕事として、その改善のために、大胆にオフィスレイアウトを変えた経緯がありました。
移転後の社内アンケートでは「コミュニケーションが活性化した」「仕事が回しやすくなった」などの好意的な評価が挙がりました。また不公平感が出ることを避け、本社だけでなく各事務所でもリフレッシュスペースを設けて、全社的に従業員同士の関係構築を推進しています。
こうした取り組みの結果、近年のARMのストレスチェックではエンプロイーエンゲージメントのスコアが年々向上しています(※)。会社の取り組みがどのように従業員に影響しているのかを評価する際に、ストレスチェックは非常に重要な指標として役立っています。
≪就任後のエンプロイーエンゲージメントの変化(ptは偏差値)≫
2023年→2024年:+1.4ptの改善(当社顧客全体より2.8pt良好) 当社顧客全体での上昇幅:+0.1pt
2024年→2025年:+0.9ptの改善(当社顧客全体より3.6pt良好) 当社顧客全体での上昇幅:+0.5pt
の変化が見られました。
従業員同士だけでなく、従業員と経営層の関係構築において何かほかに施策を講じたのでしょうか?
就任してから毎年、全社員と懇談会を実施しています。業務のことでもプライベートとの両立に関わることでも、何でもいいから日頃会社に対して感じていることや意見を聞かせてほしいと。
社長室に書類を提出したときについでに一言二言話す、という偶発的な機会を待っていたら、何年経っても全員と話せません。そのため、各事務所には自分が足を運ぶかたちで機会をセッティングしました。1年目は管理職・非管理職を分けて30回以上懇談会を行いました。3ヵ月かかりましたが約290人、全社員から本当に様々な意見や要望を聞くことができたんです。これにより、お互い「対面で話せた」という感覚を持てるようになります。また担当役員も同席して私と同じ内容を聞いてもらい、対策をすぐに考えられるようにしています。
内容は、職場環境や勤務制度など、「そこまで正直に言ってくれるのか」というほど。ディスカッションになると時間が足りないので、最初に「結論や回答は導き出せないかもしれないが、一旦皆さんの要望や意見を聞かせてほしい」と伝えて、1時間30分ほどランチも交えながら話を聞きました。
懇談会での意見はその後の取り組みにつながっていますか?
社員たちの声はその後の施策に反映されています。具体的な例として、2025年4月に定年制度を60歳から65歳に延長しました。これまでも60歳以降も嘱託社員として働いていただいている方が多くいますが、これから60歳を迎える方は65歳までは正社員というかたちで一緒に働いていただきたい。また常日頃から「長く安心して働いてもらえる会社にしたい」というメッセージを社内で発信しており、懇談会の声はこの施策実現に向けて背中を押す力となりました。
その他、従前から実施していた出産祝い金を増額したり、永年勤続表彰の表彰金も大幅に増やしたりしました。育休取得には周囲のサポートも必要ですから、育休の社員がいる該当部署には育休職場応援一時金も設けました。懇談会は就任2年目の2025年も全社員を対象に実施し、今後の施策につなげていくつもりです。
社員ファーストの組織マネジメントと経営トップからのメッセージ発信
社長としての取り組みについて話を伺ってきましたが、会社全体に声が届かないとなかなか組織風土や行動は変わりません。組織マネジメントで意識されていることはあるのでしょうか?
従業員の意識改革や行動変容って、トップダウンで強制することではないですよね。会社はみんながそれぞれ自信とやりがいを感じながら働いていただくところですから。会社の業績目標を最初に掲げて、それに向けて従業員にムチを打つことを私は良しとしません。むしろ先に従業員の気持ちがあって、結果として会社の業績につながるという考えです。
常に社員に伝えていることはそういった「社員ファースト」の姿勢であることです。私と従業員は対等であり、私自身の姿勢も見られています。人の考えや姿勢は小さいコミュニケーションに表れるものですから、普段から年齢を問わず私は必ず「○○さん」と、親愛と敬意を込めて呼ぶようにしています。
「ギブアンドテイク」という言葉は少しビジネスライクに聞こえるかもしれませんが、当社の場合は「会社が従業員に対して何をギブできるか」を常に意識しています。ただそれも私が心の中で思っているだけではダメでしょう。社長と社員の直接対話はもちろん、普段から幹部会議を通じても、経営トップが積極的に発信し、社員のマインドに働きかけることが大切です。
就任当時も、社員ファーストの意思を示す経営基本方針を作成し、紙に印刷して役員会議で配りました。昨年も声に出してその場にいる経営層の全員に伝えましたし、役員のメンバーは毎年同じわけではないので、これからも声に出して伝えていくつもりです。役員には「現場の部長にも共有してください」と必ず伝えています。地道に発信することで、他の従業員の方にも伝わっていくと思います。
例えばハラスメントに類する問題が起こったときも、ルール上の指導処分だけではなく、トップとして従業員に明確なメッセージを示すことが大切だと思っています。特定の事象についてメッセージを発するわけではないですが、全社員に向けてハラスメントに対して有耶無耶にせず会社として断じて許さない姿勢を都度示すことで、会社は心理的に安全な場所であると、従業員に感じてほしいと思っています。
今後の展望についても教えてください。
高い専門知識とスキルで事業の中核を担っている従業員は、自ずと高いワークエンゲージメントを持って取り組んでいる、というイメージが強いかもしれません。しかし、それを個人のやりがいや満足度だけに頼っていてはダメだと思います。従業員が誇りを持って仕事に取り組める環境や機会を、会社がしっかり提供しないといけない。結局組織が何をしてやれるか、信頼関係の構築なんです。結果的にそれが、業績につながっていくのだと思います。
現在、社内には新卒採用の人もいれば、キャリア採用の人、私のように親会社から移ってきた人もいます。離職率は非常に低く、近年の若年層の離職はほぼありません。新卒採用だけでも今年は十数人が入社し、今後も組織規模は大きくなっていくでしょう。当社は技術承継が企業価値につながっています。色々なバックグラウンドを持つ人たちが集まるなかで、相互理解を深めて世代やキャリアを問わず技術を共有する。そのために、より対話やコミュニケーションが生まれやすい組織風土を醸成したいと考えています。

