持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会

人的資本経営とは?求められる背景や取り組み方「3P5F」を解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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従業員が持つ知識や能力を「資本」と見なし、その価値を高めていくことで中長期的な企業価値向上を目指す「人的資本経営」を取り入れる企業が近年増えています。施策としては、従業員への教育訓練、職場環境の改善などがあり、各企業によってその戦略はさまざまです。人的資本経営が求められる背景や実現に向けた変革の方向性、取り組むための「3つの視点」と人材戦略に求められる「5つの共通要素」を解説します。

人的資本経営と

人事管理と企業成長のコンセプト画像

経済産業省によると

”人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方”

と定義付けされています。(※)

企業の資本は「有形資本」と「無形資本」に分けられます。人的資本は「自然資本」や「知的資本」「社会・関係資本」と同じ無形資本の中の1つです。従業員の能力や経験、イノベーションへの意欲などが人的資本にあたります。

企業を支える人材を投資対象とし、持続的な企業価値の向上につなげる経営のあり方、 つまり人的資本への投資は「コスト」ではなく、近年では「企業価値向上に向けた戦略投資」と捉えられるようになっています。

※引用:経済産業省「人的資本経営とは」より

人的資本経営が求められる背景

会議をする男女

人的資本経営が求められている背景には、人材や働き方が多様化していること、今後の企業戦略として人材の確保や育成が重要であることが挙げられます。それぞれを詳しく見ていきましょう。

1. 人材や働き方が多様化しているため

少子高齢化で労働人口が減少していく中、人材や働き方が多様化していることが背景に挙げられます。非正規雇用や外国人従業員、育児や介護などのさまざまなバックグラウンドをもつ人材が雇用される中、従来と同じような画一的な労働形態のままでは経営も上手くいきません。

リモートワークや時短勤務など個別の事情を理解して、各々がパフォーマンスを発揮できる環境を整え、それぞれが最大限に活躍できるような人的資本経営が求められています。

2.今後の企業成長に人材が重要な資産になるため

今後の社会では自然環境や社会的価値観の変化によって、事業に関連する法改正や倫理問題が生じる可能性があります。そのためESG観点から見たネガティブ要素の排除と、新たなビジネス環境への適応が必要です。将来的な事業リスクを回避しつつ、安定した事業運営と収益確保が求められるのです。

また、急激な経済成長下において、多くの市場環境は競合企業が飽和するレッドオーシャン状態にあります。 さらに社会価値の変化から既存ビジネスモデルの成長余地は少なく、消費者側の目線にたつ新しい事業形態が優位に立っています。
企業視点の4P(製品・価格・場所・プロモーション)から消費者視点での4C(価値・コスト・利便性・コミュニケーション)、とりわけ消費者にとっての価値を重視することが必要です。

このように、企業を成長させるためには「リスクを排除した安定的なビジネス運営」と、「新しいサービス形態を可能にするイノベーション創出」の2軸で経営していく必要があります。
そのためには、 自社のビジネス戦略に適した人材の獲得や育成が必要となり、人的資本経営がその企業戦略の根幹となるでしょう。

人的資本経営実現へ向けた変革の方向性

企業は各社が企業理念や存在意義に立ち戻り、従来の経営の在り方から、人的資本経営へ柔軟に変化することが求められています。 2020年5月には経済産業省により「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0) 」が公表され、企業の今後の羅針盤となる「変革の方向性」を次のように示しました。

変革の方向性

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~ 」

変革のポイント
人材戦略に関しては、経営陣のイニシアチブで経営戦略との紐付け・取締役会による管理/モニタリング、さらに人材戦略の積極的発信による従業員や投資家との対話強化が重要になってきます。 このような人材戦略の変革が、持続的な企業価値の向上の基盤になると考えられています。

人的資本経営に取り組むための「3つの視点」

人的資本経営を取り入れるために、現場でどのように推進すれば良いかがまとめられた「人材版伊藤レポート1.0」では、運用のための「3つの視点」(3P)と人的資本の「5つの共通要素」(5F)が提唱されています(「3P・5Fモデル」)。

出典:経済産業省 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 2020.9.30

まずは、人的資本経営に取り組むための3つの視点(3P)から詳しく見ていきましょう。

※経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~ 」を参考に当社作成

1. 経営戦略と人材戦略の連動

人的資本経営に取り組むには、経営戦略と人材戦略を連動させることが重要です。経営戦略の目標達成のために重要な要素を特定し、人材アジェンダを設定します。人材戦略の具体的な内容については、後述の(5F)を参照してください。

とりわけ重要なのが、①CHROの設置です。 CHROとは、「Chief Human Resource Officer(最高人事責任者)」の略称で、人材戦略における人事機能すべての統括者であり、従業員・投資家を含むステークホルダーとの対話を主導する人材のこと。

経営視点と人事視点の両面から人材戦略を起案し、企業全体の発展を促します。 CEOやCHROは、人材戦略の実現に向けて解消すべき課題を抽出・整理し、経営陣らと議論を進めます。改善の進捗状況も都度共有することが大切です。

2. 「As is‐To beギャップ」の定量把握

人材アジェンダごとに設定したKPIに対し、現在の姿(As is)と目指すべき将来の姿(To be)のギャップを見える化(定量化)します。人材戦略が経営戦略と連動しているかを判断し、人材戦略を絶え間なく見直していくためには、このギャップを把握する必要があります。重要なのはギャップの大小ではなく、「どう埋めるか」という戦略です。

改善すべき指標の変化や、従業員のスキル、経験等特性を示す人事データは、人事情報基盤として常に整備し、効率的にデータを収集・分析できる体制を整えておくと良いでしょう。定量把握する項目や評価指標は、経営陣と議論するために、進捗状況とあわせて一覧化しておきましょう。

3. 実行プロセスを通じた企業文化の定着

ギャップが見える化できたら、次に戦略を立てて実行し、ギャップを埋めるべくPDCAを回しながら、企業文化へと定着させていきます。そうすることで、経営戦略と人材戦略の連動度を高められます。

定着に向けた具体的な施策としては、企業理念や自社事業の成功につながる行動・姿勢が従業員に浸透するよう、評価の仕組みを検討したり、CEO・CHROと従業員との対話の場を設けることです。従業員との対話は、自社の優れた文化や、見直すべき文化などについて考えるきっかけになるだけではなく、従業員の帰属意識の醸成にもつながります。

人的資本経営の人材戦略に求められる「5つの共通要素」

人的資本経営の人材戦略に求められる5つの共通要素

※経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~ 」を参考に当社作成

続いて、人的資本経営において求められる、人材戦略の「5つの共通要素」(5F)を紹介します。 多様な個人が活躍できるような人材ポートフォリオ(※)を形成するとともに、個々人・チームを活性化する施策を打ち、生産性の向上・イノベーションの創出につなげるといったことが提唱されています。

※人材ポートフォリオとは:戦略達成に向け、人材の構成をタイプ別に可視化し、適切な人材構成を組む手法

1. 動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用

まずは中期的に必要とする人材の質と量を整理し、現状とのギャップを明確にした上で、人事施策を立案します。それを踏まえた早急な再配置を行います。

また新卒一括採用に限定しない学生採用や、博士人材等の専門人材の積極採用など、中期的な人的資源の充実につながる人材ポートフォリオを構築しましょう。

2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

企業価値向上に必要なイノベーションの原動力は、多様な個人の掛け合わせから生まれます。そのため、専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むとともに、成果につながる環境を整えます。

多様なキャリア採用や外国人材を取り込む際は、それぞれの能力が発揮されるように配置や役職の検討を行い、定期的にモニタリングしましょう。また多様な人材をマネジメントできる管理職を養成することも重要です。

3. リスキル・学び直し

人的資本経営を推進するにあたって、人材戦略の一環として「リスキル」を促す場合があります。例えば、経営戦略上DX人材が必要と判断される場合は、社内での人材育成や人材登用へ投資することも考えられます。

企業は、従業員の自主的なキャリア形成を積極的に支援する施策も検討しましょう。まずは組織として不足しているスキルや専門性を特定し、スキルを伝播するための人材登用、リスキル・学び直しと連動する処遇や報酬、制度を見直します。学ぶことや挑戦することの姿勢を称える文化を醸成することも大切です。

4. 従業員エンゲージメント

従業員の能力を十分に発揮させるために、やりがいや働きがいを感じられる環境を整備することも重要です。自社にとって重要なエンゲージメント項目を設定し、従業員のエンゲージメントを定期的に図り把握しましょう。

また従業員の健康状態も、個人・組織パフォーマンス向上に向けた重要な投資です。健康経営やウェルビーイングの視点を踏まえ、従業員エンゲージメントを高める取り組みを行うことが大切です。

5. 時間や場所にとらわれない働き方

マネジメントの在り方や、業務プロセスの見直しを含め、組織としてどう対応できるかが求められています。リモートワークを円滑にするために業務デジタル化を推進しつつも、一方で従業員が出社し顔をあわせて仕事を進めることの意義や有効性を再考し、リアルワークとリモートワークの最適な組み合わせを実現しましょう。

人的資本経営に取り組み持続的な企業価値の向上を

会議をする男女

人的資本経営とは人材を「資本」と捉えて投資し、従業員の価値を最大限に引き出して持続的に企業価値を高める経営手法です。人的資本経営に取り組むには、経営戦略と人材戦略を紐づけ、多様な個人が活躍できるような人材ポートフォリオを形成し、現在と未来の姿のギャップを可視化することが重要です。さらにPDCAを回しながらギャップを埋め、人的資本経営の実現へと導きましょう。

こうした取り組みを行うためには、データを継続的に収集し、リアルタイムで分析できる仕組みを取り入れることも重要です。企業が行う施策と従業員のセルフマネジメントの両軸での「PDCAサイクル」により、人的資本経営の実現へと導いてください。

Well-beingDXP

アドバンテッジリスクマネジメントでは、人事労務関係のデータを集約し、 そこから見える組織・従業員個人の全体像を把握して、最適な施策実行と効果分析まで網羅的に導くサービス「アドバンテッジウェルビーイングDXP」も提供しています。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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