エスペック社が取り組む組織づくり~ストレスチェックを起点にした経営と現場の対話~【特別対談】

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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ストレスチェックの結果を、単なる年次イベントで終わらせない。結果を経営の言葉で受け止め、役員会で共有し、現場のアクションへ落とし込み、さらに社員の声へフィードバックしていく――。

環境試験器の世界トップメーカーとして、研究開発・製造・サービスの各現場を抱えるエスペック株式会社では、ストレスチェックとエンゲージメントの結果を、経営と現場をつなぐ対話の起点として活用してきた。その成果もあり、現在、同社の離職率は2024年度2.3%、2025年度はそれよりも低い水準で推移しており、従業員の定着率も高い。

しかし2022年に就任した荒田 知社長が感じたのは、数字の奥にある「見てもらえていない」という現場の感覚だった。本対談では、就任時の課題認識から、アクションプランの具体化、ダイレクトコミュニケーション、そして今後の組織づくりの展望までを伺った。

※文中の内容および記載の法人名・組織名・所属・肩書きは、すべて取材時点(2026年 9月)での情報です。

右:エスペック株式会社 代表取締役社長 荒田 知様
左:株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 代表取締役社長 鳥越 慎二

エスペック株式会社(https://www.espec.co.jp/)

事業内容: 環境試験器を中心に、二次電池関連機器、計測・評価システム/半導体関連装置などの開発・製造・販売を行うほか、受託試験、コンサルティング、校正、レンタル、アフターサービスなど、環境試験に関するトータルソリューションを提供

従業員数:連結1,898名(2026年3月31日現在)

ストレスチェックの結果を、経営と現場をつなぐ対話へ

鳥越 御社には、10年以上前から弊社が提供するストレスチェックをご利用いただいています。長く継続していただいていること自体、当社としても大変ありがたく感じています。一方で、近年はストレスチェックを実施するだけでなく、その結果をどう組織改善につなげるかが、より重要になってきました。いまだ多くの企業がストレスチェックの活用に頭を悩ませています。

社長に就任された2022年当時、組織に対してどのような課題を感じていらっしゃいましたか。

荒田 一番大きかったのは、経営と現場との距離です。ストレスチェックの結果を見たときに、現場からは「経営層は現場を見てくれていない」「頑張っても評価されていない」と受け止められているのではないか、と感じました。私自身、工場やモノづくりに携わってきましたので、現場との距離感についての課題はわかっていました。ただ、役員を含め、上に行くほど現場を見ている“つもり”になってしまう面がある。そこに気づかされたのが大きなきっかけとなりました。「対話」と「納得感のあるマネジメント」が大きな改善ポイントであると感じました。

鳥越 現場の経験を経て役員となっている方も多くいらっしゃると思いますが、上の立場になると途端にコミュニケーションに課題が生まれてしまうということは往々にしてあります。

荒田 そうですね。役員それぞれに経験はありますし、育ってきた環境で築かれた自分なりのスタイルがあり、コミュニケーションもできていると思っている。ただ、それが社員に伝わっているかは別です。だからこそ、結果を見て終わりではなく、役員自身が現場に関心を持ち、具体的に動く必要があると考えました。

鳥越 こうした取り組みを続ける中で、ストレスチェックはどのような位置づけで活用されているのでしょうか。

荒田 ストレスチェックは健康状態を測るだけではなく、経営と現場との関係性を映し出す経営指標の一つだと考えています。結果を見て終わりにするのではなく、対話とアクションにつなげることを重視しています。現場からどのような声が出ているのか、経営のメッセージがどのように受け止められているのかを確認するバロメータとして活用しています。

鳥越 ストレスチェックを単なる調査ではなく、経営と現場をつなぐための対話の起点として活用されているわけですね。

アクションプランを「本当に動ける内容」にする

鳥越 御社の運用で特徴的なのは、結果報告が社長・役員層まで届き、さらに部長・マネージャー・リーダー層がアクションプランを策定し、本部長、役員会へと上がっていく流れがあることです。トップダウンで見る仕組みと、現場から上げる仕組みの両方が整理されています。

荒田 ただ、最初からうまくいっていたわけではありません。アクションプランも、抽象的な表現のままだと実行に移せません。部長やマネージャー陣が書いたものを集めて役員が見ているはずなんですが、同じように役員たちに書いてもらったところ、これでは具体的に何を実行するのかが見えにくいと感じました。そこで、『ここはもう少し具体化した方が良い』とフィードバックを行い、複数回見直してもらいました。最終的には私も議論に加わりながら内容をブラッシュアップしていきました。最初は戸惑いもあったと思いますが、回を重ねるごとに内容が充実し、役員の本気度も高まっていったと感じています。生産現場であれば、「社員との距離感」を意識するのではなくて、「3Sや安全、危険箇所の確認、疲れている人がいないかを見ることなど、やるべきことがあるだろう」と。現場に降りて、危なそうな場所がないか、困っている人がいないかを見る。疲れていそうな人がいれば一声かける。その一声が「見ている」「関心を持っている」というメッセージになります。そこをまずはやりなさい、と伝えました。

鳥越 荒田社長のように、経営トップから発信し、本気度を伝えていくことは非常に重要なんです。ただ色々な企業様のお話を伺っていても、社長が添削をして書き直す、という事例は初めてです(笑)。
御社のアクションプランを拝見すると、非常に明確で、問題点に対する活動と時期までしっかりと落とし込めていることが素晴らしいです。

荒田 役員にアクションプランを考えてもらった後に私と1on1をしたのですが、その際「マネージャーにも協力をしてもらって、とにかく現場の意見を吸い上げてくるように」と伝えました。それらをリストにまとめて色付けをして「これをやる」と決めてもらう。私もそれに対して目は通しますが、あとは地道にやってもらうだけです。とにかく、挙がった声に対して何らかのフィードバックをしていくように、と伝えています。

鳥越 トップと現場でしっかりと意思疎通をしたうえで実践するというのはなかなかできることではありません。

荒田 私自身、教えることが好きなことも影響しているかもしれませんね。そして「モノをつくる前に“人”をつくれ」という考え方を大切にしています。どれだけ良い製品や技術があっても、それを生み出し、磨き、次につないでいくのは人です。いかに従業員が活躍できる環境を整えていくか、そしてその結果として働きがいや会社とのつながりが高まる。まだ課題は残っていますが、それに向き合い続けることが必要です。

現場の声を、経営が受け止めて返す

鳥越 そうした取り組みを続けた結果、現場にはどのような変化が見られたのでしょうか。現場からはどのような反応がありましたか。

荒田 わかりやすいのは「聞いてくれてよかった」という声です。例えば、残業時間や労働負荷の問題があります。お客様先で製品の調整を行う仕事では、長い場合2、3週間現地に入ることもあります。家庭のこともありますし、ストレスやモチベーションへの影響も大きい。そうした声が上がってきたことで、人員配置や帰宅頻度の見直しなど、具体的に対応できることが見えてきました。

鳥越 現場のマネージャーだけでは解決できないこともありますからね。配置や予算のように、権限を持つ層まで上がらなければ動かせない課題も多い。ストレスチェックの結果も踏まえて、色々なレベルで現場とのすり合わせを行っている成果なんですね。

荒田 まさにそうです。工具や道具が足りない、あれば便利なのに予算がない、という声もあります。そういうものは必要に応じて優先的に予算をつける。すべてにすぐ対応できるわけではありませんが、少なくとも声を上げたことに対して、「関心を持っている」という姿勢を見せなければだめだと。何らかのフィードバックを返すことが大切だと思っています。

鳥越 従業員同士の交流を深めるような施策も大事ですが、仕事の領域そのものにおいて「会社の一員として大切にされている」と感じられるかがエンゲージメント向上に関係します。御社の取り組みは、その土台づくりに効いているように見えます。

役員と社員が直接話す「ダイレクトコミュニケーション」

荒田 役員と社員が少人数で話すダイレクトコミュニケーションの場も設けました。昨年は、10年後の将来像を描いたESPEC VISION2035を全社員に発表したこともあり、全役員で社員と直接話す場をつくっています。だいたい1対10くらいの単位で、全社員を対象に行っています。まずは個人のビジョンを考えてね、と投げかけるのですが、「仕事の話に限らなくて良いよ」と伝えると、例えば、資格を取りたい、こういう仕事をしてみたい、生活も含めてこうなりたい、と次々と出てきます。そしていつの間にか「これをするためにはどうしたら良いですか」と相談会のようになっていきますね(笑)。

鳥越 人は自分のやりたいことと会社の方向性が一致するとエンゲージメントが高まります。でも、いざ「あなたは何をやりたいの?」と話を投げかけても、あまり考えられていない人が多い。会社と個人のビジョンをつなぐ場をつくること、さらに少人数というのは非常に理想的ですね。

荒田 そう言っていただけるとありがたいです。自分がどうなりたいかを言語化できる人は、伸びる可能性を感じます。

鳥越 御社が行っているダイレクトコミュニケーションは、単なる意見交換ではなく、社員が自分のキャリアや働き方を見つめ直す機会にもなっているのだと思います。

従業員との距離感を縮めるためのメッセージ

荒田 やはりそうはいってもエンプロイーエンゲージメントへの課題は残っています。

毎月、社内イントラサイトに「社長メッセージ」の枠があり、そこで「明るい仕事相談室」という人生相談のようなコーナーを設けています。質問は部門ごとに順番を回して募集し、従業員の仕事の悩み、メンタル面の悩みなどに、月に数問ほど回答しています。これは「従業員との距離感をなんとか縮めたい」という思いで始めました。結構ストレートな内容もありますね。それらの質問に対して答えを教えるというより、読んだ人が少し考えられるような返し方を意識しています。これまで200件くらい回答して、数が増えてきたのでアーカイブで見られるようにしています。

鳥越 社長が直接、社員の悩みに向き合う場があるのは大きいですね。しかも、単発ではなく毎月続けている。継続されているからこそ、社員にとっても「見てくれている」「答えてくれる」という感覚が積み上がっていくのだと思います。

荒田 楽しみにしてくれている社員もいるようです。営業所の社員が本社に来た際「毎月読むのを楽しみにしています」と直接言いにきてくれました。パート社員の方から「面白いから見てみてください」と勧められて実際に見てみたら面白かった、と。そういう声を聞くと、続ける意味があると感じます。

鳥越 経営トップの言葉は、制度以上に強いメッセージになります。特に、悩みに対して正解を示すだけではなく、「そういう考え方もある」「一度立ち止まって考えてみよう」と促すような返し方は、社員の認知や行動の変化にもつながります。

社長が毎月社員向けに発信するメッセージ内の「明るい仕事相談室」に寄せられた質問と社長からの回答
(画像はアドバンテッジリスクマネジメントにて編集。実際の発信形式とは異なります)

荒田 社員との距離を縮める取り組みという意味では、現場主体で進んだ象徴的な事例として、工場のユニフォームの見直しもありましたね。本社従業員の服装をカジュアルOKとした一方で、工場のユニフォームは従来のままでした。それってどうなんだろう、と考えていたところ、「我々が企画するので変えさせてほしい」と工場のメンバー自らの申し出がありました。最初は真っ黒なデザインが出てきて、「これはちょっと…」と却下しましたが(笑)。

会社として一方的に決めたというより、「こういうものがいいんじゃないか」「だったらこうしてみたらどうか」と、現場から提案が出てきたのは良かったですね。実際に着るのは社員ですから、自分たちで考えて、自分たちでつくるという形になったのは良かったと思っています。

鳥越 こうした取り組みを進める一方で、最近はコミュニケーションそのものに難しさを感じる企業も増えています。ハラスメントを意識するあまりコミュニケーションを避ける風潮もあります。ですが、コミュニケーションの場がないと、成長にも、働きがいにもつながりにくくなります。

荒田 コミュニケーションの場は、人事部門などが年間計画として段取りしてくれています。私が参加するだけでなく、仕組みをつくり、動かしてくれる人がいることも大きいですね。

鳥越 自然に任せるのではなく、会社として対話の場を設計し、継続する。これはとても重要です。先ほどの社長への質問コーナーも非常に良いお取り組みですよね。御社にとっては普通のことと捉えていらっしゃるかもしれませんが、ある程度仕組み化して、能動的に動かしていくことは簡単ではありません。その観点でいくと、御社はこれだけコミュニケーションの場があるのに、コミュニケーションにおいてそこまで大きな問題が起きていないことが素晴らしいですね。

人を生かす文化を、次の成長につなげる

鳥越 最後に、御社の組織づくりについて、今後どのような状態を目指していきたいとお考えですか。

荒田 創業以来、目標に向かって想いを尽くしてやるという姿勢が、当社の根幹にあると思っています。一人で背負わざるを得ない場面もありますが、周囲が支え、必要な時には教えてくれる人が現れる。明文化されているわけではありませんが、自分のキャリアを振り返っても、そうした仕組みが会社の中にあったのだと思います。

鳥越 人が資本であり、一番の資産であるという考え方が、制度や取り組みの前提にあるのですね。

荒田 はい。人を大切にしながら、会社として成長していく。そのためには声を集めるだけでなく、会社として返していく。現場との対話を続け、声を受け止め、必要なことを具体的に動かしていきたいと考えています。

鳥越 「人をつくる」という言葉には、荒田社長ご自身の人への向き合い方も表れているように感じます。教えることが好きで、相手が自分で気づけるように関わる。その姿勢が、現場との対話や社員へのメッセージにもつながっているのですね。 本日はありがとうございました。ストレスチェックやエンゲージメントの結果を、経営と現場をつなぐ対話に変えていく。御社の取り組みは、まさにその実践例だと感じました。

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【筆者プロフィール】

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アドバンテッジJOURNALは、働くすべての人へ「ウェルビーイングな働き方と組織づくり」のヒントを発信するメディアです。導入企業数3,190社/利用者数630万人を超えるサービス提供実績と、健康経営銘柄に5年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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