ヨガマットをもってハイタッチする同僚たち

ポピュレーションアプローチとは?効果的な取り組み事例や実施手順

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従業員が心身ともに健やかな状態で働けるよう、健康課題の改善や健康増進に向けた行動変容を促す方法の一つに、組織あるいは従業員全体を対象とするポピュレーションアプローチがあります。ポピュレーションアプローチを成功に導くには、現状の分析や効果の検証が重要です。今回は、ポピュレーションアプローチの意義や実施の流れ、企業の事例などを解説します。

ポピュレーションアプローチとは?

マラソンランナーで運動している人の足

はじめに、ポピュレーションアプローチの意味や重要性について解説します。

ポピュレーションアプローチとは

ポピュレーションアプローチとは、疾病のような健康に悪影響を及ぼすリスクの有無や高低にかかわらず、組織や集団全体に働きかけて全体のリスクを下げる取り組みのことです。健康増進の取り組みのなかでは、一次予防に該当します。

リスクを抱える人だけではなく、健康な人や自身が抱えるリスクに気づいていない従業員にも同様のアプローチを行うことで、健康状態の維持・改善、あるいは将来的にリスクを抱える可能性を減らすことにもつながります。

【ポピュレーションアプローチの取り組み例】

  • 社内でスポーツレクリエーションを実施する
  • スポーツ施設やジムの利用に補助を出す
  • 健康応援メニューとしてカロリーや塩分に配慮した食事を提供する
  • 生活習慣改善に役立つ情報を発信する
  • ストレスケアに関するセミナーを実施する
  • メンタルヘルスに関する相談窓口を設置する

ポピュレーションアプローチの特徴と課題

ポピュレーションアプローチは特定のハイリスク者だけでなく、組織全体に対して広く効果を発揮します。集団全体の健康リスクを捉えた時、一般的には低リスク者の割合が多く、ハイリスク者は少ない傾向にあります。このアプローチにより低リスク者に対する健康意識向上、疾病予防の効果が出やすいことから、全体的な健康維持・リスク低減が期待できます。
また、ポピュレーションアプローチは全体に同じアプローチを行うため、ハイリスク群の定義や該当者の選定などのプロセスを経る必要がないのも利点といえます。
さらに、自社の健康経営に関する社内理解促進にもつながります。従業員の健康リテラシー向上や一次予防も重要ですが、健康経営の実施意義に関する従業員の理解を得ることがその後の改善の基盤となります。

一方課題としては、従業員一人ひとりに対するサポートが十分に行えない点が挙げられます。「本当に参加してほしい人に参加してもらえない、届けたい人に届かない」という課題が生じることもあるでしょう。このようなケースでは、そもそもポピュレーションアプローチという手法が適切でないこともあるため、別の手法をとったほうが効果が出る可能性があります。
ポピュレーションアプローチ以外の手法については、後ほど詳述いたします。

もともと健康への意識が高い人は、ポピュレーションアプローチによる効果が出やすいですが、そうでない人の意識を変容させ、生活や行動改善につなげることは難しいかもしれません。不十分な介入では、健康格差が生じる、あるいは拡大してしまう可能性もあるでしょう。

ポピュレーションアプローチが注目を集める背景

廊下で談笑する社員たち

健康経営への意識の高まりや働き方改革推進の流れを受け、近年は従業員の健康管理について積極的に取り組んでいくことの重要性が認知されつつあります。ポピュレーションアプローチは、従業員の健康維持・向上というメリットがあるだけではなく、健康経営実現に向けた取り組みの一つとして、経営的な観点からも大きな意義があるといえるでしょう。

健康経営は「従業員の心身の健康が、企業の重要な資本の一つになりうる」という考え方のもと、企業が従業員の健康に配慮し、健康維持・増進のため投資や制度構築を行うことで、企業の価値向上や、生産性・収益性の向上が期待できる経営手法といわれています。

健康経営において自社の全従業員の健康維持・増進を目指したときに、「集団へ効率的にアプローチする」「健康課題が発生する前に予防する」という観点は重要であり、その実現にポピュレーションアプローチは基本となる手法です。

ポピュレーションアプローチのメリット

笑顔でミーティングする社員たち

ポピュレーションアプローチを行い、従業員の健康維持・向上が実現されることは、企業にとっても好影響です。続いては、ポピュレーションアプローチのメリットを解説します。

従業員の健康意識の向上

ポピュレーションアプローチによって、従業員に健康について触れる・考える機会が提供されると、組織全体の健康意識の向上やリテラシーの定着が見込めます。なるべく階段を使って移動する、食事のバランスに気を遣う、など、それほどハードルの高くない取り組みであれば、習慣の変容を促せる可能性もあるでしょう。
健康に関する意識が変われば、他の健康施策に対する注目度が高まったり、参加率が上がったりすることも期待できます。

組織全体の健康リスク低減

ポピュレーションアプローチは、組織全体の健康リスクを下げることができます。結果として、高リスク者、高ストレス者といった治療を要する人の数を減らす、あるいは疾病の発症率を減少させる、といった効果が期待できます。例えば、飲酒や喫煙は、個人で選択するものにも見えますが、身近な人や集団の影響を受け習慣化することも少なくありません。つまり、集団全体を対象に禁煙キャンペーンなどを実施することには一定の効果があると見込まれます。

ただし、すでに高リスクに該当している人の行動改善を目指すことは非常に困難であることを念頭に置き、適時ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチを使い分ける取り組みが求められます。
また、組織全体の健康意識を向上し、健康状態を改善することができれば、従業員の医療費削減にも寄与するでしょう。

心身の不調によってパフォーマンスが十分に発揮できないと、業務の効率が悪化したり、ケアレスミスによるトラブルを招くおそれがあります。プレゼンティーイズム(心身の不調を抱えながら働いている状態)が改善されると、従業員のモチベーションや集中力が高まり、生産性の向上が期待できるでしょう。

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ

カルテに記入する医者

企業が健康管理を推進する際のアプローチ方法として「ポピュレーションアプローチ」の他に、「ハイリスクアプローチ」があります。

ハイリスクアプローチとは、健康にかかわるリスク要因を持つ人をターゲットにして実施する健康指導・取り組みのことです。スクリーニングによって高リスクと判断された人に働きかけるため、全体への波及効果は小さいものの、費用対効果が高いとされています。

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチは、二者択一ではなく対象や課題に合わせて併用することで相乗効果が生まれます。

【ハイリスクアプローチの例】

  • リスクが高まる一定年齢を対象にした生活習慣病検査(血圧や血糖値など)
  • 高リスク者に対し個別の保健指導を行う(禁煙や食事療法など)

ポピュレーションアプローチの導入ステップ

チェックシートにチェックをつける人の手

より効果の高いポピュレーションアプローチを行うには、組織全体の特性をしっかりと分析し、対象となる従業員層と改善すべき課題を一致させたうえで、取り組みを進めていく必要があります。続いては、ポピュレーションアプローチを導入するためのステップを解説します。

現状を把握し健康課題を洗い出す

まずは、現状把握と健康課題の洗い出しを行いましょう。
ストレスチェックや定期健康診断データ、生活習慣に関するアンケートなどを活用すると、定量的な分析が可能です。健康診断の事前問診やアンケートなども、健康に関する関心や生活習慣の観点でも情報を拾うことができる重要な材料です。
ポピュレーションアプローチの「全社的なリスク低減のためのアプローチ」という目的を踏まえ、自社の全体的な課題や傾向を広い視点で探すことが重要です。

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アドバンテッジ ウェルビーイング DXP」は、ストレスチェックや健康診断、勤怠などの従業員データを集約し、一元管理。
健康診断結果とストレスチェックのデータを掛け合わせたクロス分析などによって、ポピュレーションアプローチの効果をより高める分析が可能となります。課題を把握しやすくなるほか、施策の立案にも役立てることができます。

アドバンテッジタフネス×pdCa(ピディカ)

「TOUGHNESS」×「pdCa」は、自社の課題把握と解決にお役立ていただける、サーベイを起点とするワンストップサービスです。従業員のメンタルヘルスやエンゲージメント状況をセンサスで定点観測。高精度な現状把握を可能とするパルスサーベイとの組み合わせにより、ポピュレーションアプローチにおける健康課題の洗い出しや目標設定、取り組み実施後の評価など、あらゆる分析にお役立ていただけます。

優先順位を付け目標設定を行う

続いて健康課題に対して優先順位を付け、目標を設定します。下記の要素を考慮して各課題を評価し、特に重要度の高いものから優先して取り組みを始めましょう。

ポピュレーションアプローチが適しているかも同時に見極めます。分析結果を参考に、具体的な数値を掲げて目標を設定すると、ポピュレーションアプローチの実施前後の比較がしやすく、効果の検証がスムーズにできます。

ポピュレーションアプローチは、広く案内することはできるものの、従業員に届きにくい・自分ごと化されづらい側面もあります。この点に注意し、どういったスケジュール感でどのくらいの長さで実施していく必要があるのか、それが最後まで継続できそうかなど、目標設定と同時に綿密な計画を立てることが重要です。

【課題の検討時に考慮したい要素】

  • 自社の健康経営推進において重要か・効果がありそうか
  • 緊急性があるものか
  • 予算を含め、実現可能性があるか
  • 従業員の関心が高い/取り組みやすい課題か
ワンポイント
健康課題は、五段階評価や点数を付けるなど、明確な評価基準を設けるとわかりやすいでしょう。

取り組みの評価・改善を行う

アプローチの実践後は、取り組みの振り返りと改善を行います。目標がどの程度達成されたか、従業員の反応も含め評価しましょう。

【主な評価方法】

  • ストラクチャー(構造):人や予算、体制の評価
  • プロセス(過程):参加した従業員の反応など、活動の質に対する評価
  • アウトプット(事業実施量):イベントなどの実施回数や従業員の参加率
  • アウトカム(結果):目標の達成度

ポピュレーションアプローチ実施時のポイント

健康状態や健康への興味・関心の度合いは、従業員によって異なります。なかなか自分事として捉えてもらえない従業員に対して、頭を抱えている担当者も多いかもしれません。まずは、従業員の健康意識について把握することが重要です。

ストレスチェックの際に、健康意識に関する設問を加えておくとスムーズでしょう。調査後は、従業員の「健康への意識」や「行動習慣」を重ね合わせたうえで、「無関心層」「少し興味あり層」「関心高い層」「準備段階層」「実行層」などといった形で分類します。その後、どの層が多いのか、または特に働きかけるべき層はどこかなどを検討し、アプローチの優先度や方法を工夫します。

以下の記事では、ポピュレーションアプローチ施策実施の際に役立つポイントを詳しく紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。

ポピュレーションアプローチの取り組み事例

マラソンしている男女

最後に、企業のポピュレーションアプローチの取り組み事例を3つご紹介します。

三菱食品株式会社|年間52週にわたる「健康カレンダー」発信

三菱食品株式会社では、社内のイントラネットで、毎週健康にまつわる情報やTipsを発信する「健康カレンダー」という取り組みを実施。情報を発信して終わりではなく、社員に自分ごと化してもらうために、各本部・支社の健康増進担当者が各々の方法で健康情報を社員に届けています。担当者は、“情報のラストワンマイル”の役割を担い、多様なアイデアのもと独自のアクションプランが策定されています。

その他健康経営に関するお取り組み内容については、こちらのインタビューで詳しくご覧いただけます。

東イン株式会社|従業員全員で取り組む「健康推奨日」の制定

東イン株式会社では、健康に良いことをする「健康推奨日」を月2回設定し、運動に特化したことを従業員にしてもらう日を設けています。また、健康推奨日にはプロの鍼灸師を招き、体のメンテナンスのための施術を受けられるようにしました。

<結果>
取り組みを始めたことで職場全体に運動習慣が定着した他、体のメンテナンスやケア意識が高まりました。また、腰痛や肩こりを訴える人が減った、体の痛みを訴えて休職する従業員がいなくなったなどの効果がみられました。

南双サービス株式会社|健康習慣を継続・定着させる社内施策

南双サービス株式会社は、「正しい姿勢を保つと腹囲が減る」というアドバイスを参考に、全社で姿勢矯正クッションを導入しました。クッションの使用が定着した結果、現在は7割の従業員が日常的に使用しているそうです。

また、「ベジファースト」について周知して意識を高めてもらうと同時に企業の一部費用補助のもと、仕出し弁当に生野菜を付けて提供し、普段からベジファーストを実践・習慣づけられるようにしています。

<結果>
健康に関するアンケートでは、「食生活に気を遣うようになった」と回答した社員が7割を超えるなど、健康意識の向上がみられました。

静岡部品株式会社|予防を重視した取り組みを複数実践

静岡部品株式会社は、静岡県との連携で血圧測定習慣化促進事業を実施し、血圧リスクを見える化しました。また社内に健康チェックコーナーを設ける、毎月「健康の日」を定めてヘルシー弁当を提供するなどし、予防を重視した取り組みを行っています。

<結果>
特定保健指導を受けた従業員は5年間で半数以下に減少し、取り組みが成果に結びついています。

事例参考:健康経営優良法人2023 中小規模法人部門

従業員の健康意識を高め、行動変容を促そう

窓の外に向かってくつろぐ女性

ポピュレーションアプローチは、従業員の健康意識の向上のみならず、組織全体の健康リスクの低下、健康施策・健康経営に対する理解促進など、企業にとってもさまざまなメリットをもたらす取り組みです。より高い効果を発揮するためには、健診データやストレスチェックの結果などを分析したうえで、健康課題に合致した取り組みを進めていきましょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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