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【ジョブ・クラフティング】日々の仕事でやりがいを持って働くための手法

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近年、働き方改革や新型コロナウイルス感染症の流行などによって私たちを取り巻く仕事環境は著しく変化しており、従業員たちはより柔軟に、かつ主体的に働くことを求められるようになりました。本記事では、従業員自らが従来の働き方に様々な工夫を加えることで自らの仕事を主体的に作り上げていく「ジョブ・クラフティング」についてご紹介します。

ジョブ・クラフティングとは何か

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ジョブ・クラフティング(job crafting)とは、アメリカのレズネスキー博士とダットン博士によって提唱された概念であり、「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義されています(Wrzeniewski & Dutton, 2001)。たとえば、自身が持っている知識を生かせるようにタスクに変更を加えてみることや、自分の仕事の意義を改めて見つめ直してみることなどがジョブ・クラフティングに当てはまります。

会社や組織に所属して働く人々にとって、自分のやりたい仕事だけを選り好みして働くことはできません。上司からの指示・命令に従って、時には自身の不得意な仕事や、あまり興味のない仕事にも取り組まざるをえないこともあるでしょう。そのような状況においても、従業員たちがジョブ・クラフティングを通じて仕事に対する認識や行動を主体的に変化させることで、仕事に対して前向きに取り組めるようになったり、新たな視点からやりがいを発見できたりする可能性が考えられます。

したがって、ジョブ・クラフティングは従来のトップダウンアプローチ的な働き方とは異なり、従業員たちが自ら仕事の特徴を形づくり、自分のニーズやスキル、または好みに合わせるために職務上の要求や職務資源のレベルを調整していく、ボトムアップアプローチ的行動であると言えます。

ジョブ・クラフティングの3つの次元

レズネスキー博士たちはジョブ・クラフティングについて、「タスク・クラフティング」「関係性クラフティング」「認知的クラフティング」の3つの次元に分類しています(図1参照)。

図1 ジョブ・クラフティングの3つの次元

1点めのタスク・クラフティングは、私たちが普段取り組んでいるタスクの量や内容、タスクに取り組むための方法そのものを変化させることを意味します。ここで言うタスク(課業)とは、私たちのジョブ(仕事)を構成する基礎単位となるものです。すなわちタスクの量や内容、方法等を変えるということはジョブの変更を意味し、さらには当該個人にとっての『仕事経験』を変えることにもつながります。タスク・クラフティングの例としては、技術に興味をもつ人事の採用担当者が、採用候補者を引きつけたりコミュニケーションをとったりするために、ソーシャル・メディアを活用するタスクを追加することなどが挙げられます(Berg, Dutton, & Wrzesniewski, 2013)。

2点めの関係性クラフティングは、タスクを遂行する上でかかわりを持つ他者、つまり同僚や顧客との関係性において変化を試みることを指します。なぜならそのような他者の存在が、個人に対して自身の仕事をどのように捉えるかについての手がかりをもたらし、仕事経験にも影響を及ぼす可能性があると考えられているためです。例として、社内における部署横断型のプロジェクトに参加し、それまであまりかかわりのなかった部署の同僚とも積極的にコミュニケーションを増やす、といったことも関係性クラフティングにあたります。

3点めの認知的クラフティングは、個々のタスクや自身の請け負っている仕事全体についてどのように捉えるのか、仕事に対する認識や考え方を変えてみることを意味しています。Wrzesniewski & Dutton(2001)では、看護師が自らの仕事を単に高度な技術的ケアを提供するものとしてだけでなく、医療の質の保証や選択の自由、自己決定といった患者の権利を擁護、支援するもの(patient advocacy)として捉えなおすといった例が挙げられています。

このようにジョブ・クラフティングに3つの次元を想定することにより、公式的な職務規定が厳格で、タスクの量や質を物理的に変えることが難しい場合においても、認知的クラフティングを通して自らの仕事経験を変化させることが可能となります。

ジョブ・クラフティングの効果に関する実証研究

これまでの研究によって、ジョブ・クラフティングはワーク・エンゲージメントや職務満足度の向上、長期的なバーンアウトの減少、Well-beingの改善などに効果がある可能性が示されてきました(たとえば Tims, Bakker, & Derks, 2013)。そこで今回は、従業員がジョブ・クラフティングへの取り組みを促進することによって得られる効果を実証的に調べた国内の研究についてご紹介します。

東京大学の櫻谷先生たちのグループによる研究では、国内の民間企業および民間精神科病院の従業員42名を対象に、ジョブ・クラフティングを学ぶことが出来る介入プログラムを実施し、ジョブ・クラフティングがワーク・エンゲージメントに及ぼす影響について介入の前後で比較しました(Sakuraya, Shimazu, Imamura, Namba, & Kawakami, 2016)。

この研究における介入プログラムは、図2のような流れで行われました。研修は1回につき120分間であり、臨床心理士によって実施されました。また、各回ともに1グループあたり9名~13名で構成される4グループに分けて実施されました。

図2 介入プログラムの流れ

また、介入プログラムにおける研修の内容は、それぞれ次の通りでした。

研修1回目

  • ジョブ・クラフティングの紹介(30分)
  • ケース・スタディによるジョブ・クラフティングの学習(30分)
  • 自身の仕事生活における個人的なクラフト・ストーリーの共有(30分)
  • ジョブ・クラフティング計画の立案(30分)

研修2回目

  • 参加者各自によるジョブ・クラフティング計画の振り返り(15分)
  • グループでの振り返りの共有(30分)
  • 実現可能かつ持続可能なジョブ・クラフティングについてのディスカッション(30分)
  • ジョブ・クラフティング計画の修正版の作成(30分)

研究のアウトカムは、主要評価項目としてワーク・エンゲージメントが、副次評価項目として心理的苦痛がそれぞれ測定されました。あわせて、介入プログラムが操作的に適切なものであったかを確認するために、ジョブ・クラフティングについても評価しました。評価時点は、ベースライン(Time1)、ジョブ・クラフティング研修2回目(Time2)およびフォローアップ(Time3)の3時点でした。

分析の結果、ワーク・エンゲージメントのスコアは2.61(Time1) → 2.74(Time2) → 2.79(Time3)と推移し、ジョブ・クラフティングを高めるための介入プログラムがワーク・エンゲージメントに対して有意なプラスの効果を示すことが示されました。

図3 介入プログラム前後のワーク・エンゲージメントの推移

また、この介入プログラムの前後におけるジョブ・クラフティングは向上し、心理的苦痛は改善していました。

したがって、介入プログラムによるジョブ・クラフティングの改善を通じて、ワーク・エンゲージメントの促進および心理的苦痛の軽減に効果を及ぼす可能性が明らかになりました。Sakuraya et al. (2016) の研究結果は、これまでの観察研究における知見とも一貫しており、ジョブ・クラフティング介入の有効性を実証的に示すものとして意義のあるデータでしょう。さらに、介入プログラムによってジョブ・クラフティングの3次元のうち認知的クラフティングが最も改善される可能性も示されました。この理由としては、認知的クラフティングは「仕事に対する認知」を変化させる行動であり、他の2つのジョブ・クラフティングに比べて実践が比較的容易なためかもしれません。

その一方で、この研究には対照群の設定やサンプルサイズ、追跡調査期間などいくつかの限界があることも指摘されています。特に、タスク・クラフティングや関係性クラフティングのスキルを実生活の場に移すには時間がかかる可能性が考えられるため、介入効果を明らかにするためにはより長期間に渡って介入の効果を検証する必要があると述べられています。

まとめ

本記事では、ジョブ・クラフティングについてご紹介してきました。
ポイントは以下のようにまとめられます。

  • ジョブ・クラフティングとは、「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義されています
  • ジョブ・クラフティングにはタスク・クラフティング、関係性クラフティング、認知的クラフティングの3つの次元があります
  • ジョブ・クラフティングには、ワーク・エンゲージメントを促進させ、心理的苦痛を軽減させる効果が期待されます

日々の業務に対する捉え方を少し変えてみるだけでも、ジョブ・クラフティングの第一歩となります。皆さんも自身の仕事にやりがいを持ってよりいきいきと働くために、ジョブ・クラフティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。

【引用文献】
Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 26, 179-201.
Berg, J. M., Dutton, J. E., & Wrzesniewski, A. (2013). Job crafting and meaningful work. In B. J. Dik, Z. S. Byrne, & M. F. Steger (Eds.), Purpose and meaning in the workplace. (pp. 81-104). Washington, DC: American Psychological Association.
Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2013). The impact of job crafting on job demands, job resources, and well-being. Journal of Occupational Health Psychology, 18, 230-240.
Sakuraya, A., Shimazu, A., Imamura, K., Namba, K., & Kawakami, N. (2016). Effects of a job crafting intervention program on work engagement among Japanese employees: A pretest-posttest study. BMC psychology, 4, 1-9.

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【筆者プロフィール】

中川紗江
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 調査研究部 研究員
ストレス科学・産業組織心理学・精神生理学が専門。嘱託・非常勤講師として同志社大学心理学部その他多数の大学・専門学校で心理学関連の講義および実習を担当(2015年4月~2018年2月)。また、京都府立医科大学神経内科および滋賀医科大学脳神経外科学講座で心理士として認知症患者を対象とした知能検査を担当(2009年4月~2018年2月)。分担執筆「感情制御ハンドブック」(2022年刊行)北大路書房

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