職場で考える妊婦

マタハラ(マタニティハラスメント)とは?具体例や関連法律を解説

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妊娠・出産を理由として不利益な取り扱いを受けたり、嫌がらせを受けたりすることを「マタハラ(マタニティハラスメント)」と呼びます。マタハラ防止の取り組みは、法令により事業主が負う義務ですが、具体的な取り組み方がわからない、ハラスメントについての理解が進んでいないなど、課題を感じている企業も多いかもしれません。今回は、マタハラの定義やセクハラ・パタハラとの違い、職場のマタハラ対策、関連法令について詳しく解説します。

マタハラとは

上司に移動を命じられる妊婦

はじめに、マタハラ(マタニティハラスメント)の定義や、マタハラに該当する行為例、セクハラやパタハラとの違いについて押さえておきましょう。

マタハラの定義

マタハラ(マタニティハラスメント)とは、職場において女性の従業員が妊娠や出産、育児を理由に不利益な取り扱いを受けたり、上司や同僚から嫌がらせや不快な言動を受けたりして、就業環境を害されることです。「マタニティ(maternity)」は母性/妊娠中の、「ハラスメント(harassment)」は嫌がらせという意味を持ちます。

なお、法令や指針においては「マタニティハラスメント」という呼称は使用されておらず、マタハラ、パタハラ、ケアハラ(介護をする従業員へのハラスメント)をまとめて、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」としています。

マタハラ防止は企業の義務

2017年に男女雇用機会均等法および育児・介護休業法が改正され、従来から禁止されていた妊娠・出産、育児を理由に解雇や減給をする「不利益取り扱い」に加えて、上司や同僚による妊娠・出産・育児休業に対するハラスメントについても、防止措置を講じることが新たに事業主に義務づけられました。

厚生労働省は、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主に課せられた義務であるとして、総合的な対策を講じるよう呼びかけています。

セクハラ・パタハラとの違い

マタハラに似た概念として、「セクハラ」「パタハラ」があります。セクハラ(セクシュアルハラスメント)は性的な言動や、それらをきっかけとして生じるトラブルによって従業員の就業環境が害されたり、不利益な取り扱いを受けたりすることです。近年は、男性から女性へのハラスメントだけではなく、同性間や女性から男性に対してのハラスメントもみられます。また、LGBTQに関連するハラスメントもこれに該当します。

パタハラ(パタニティハラスメント)は、パートナーの妊娠・出産を機に、育児休業の取得や時短勤務など、育児をする男性に対して行われるハラスメントです。パタニティは「父性」と訳されます。

マタハラと認められる種類と具体行為例

厚生労働省では、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(いわゆるマタハラ)について以下のように示しています。

職場における上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」等の就業環境が害されることです。

引用:厚生労働省

マタハラ(職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)は、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が対象とする制度や措置の利用を阻害する「制度等の利用への嫌がらせ型」と、妊娠したこと、育児休業を取得することなどに対して嫌がらせ的な発言や行為をはたらく「状態への嫌がらせ型」があります。

具体的には、以下のような言動が該当します。

【制度等の利用への嫌がらせ】

  • 産休・育休の取得について相談したところ、「休みをとるなら、昇進はできないよ」と言われた。
  • 時短勤務制度を利用して復職したら、「周りの人の負担が増えるだけで使い物にならない」と言われた。

【状態への嫌がらせ】

  • 妊娠を理由に、プロジェクトチームのメンバーから外された。
  • 「繁忙期で人手が足りない時期に妊娠するなんて迷惑」と悪口を言われた。
  • 産休から復帰したら、「まだ赤ちゃんなのに保育園に預けるなんてかわいそう」と言われ続けた。

また以下のような例も、従業員の労働の権利に反する不利益な取り扱いに当たります。

【従業員の労働の権利に反する不利益な取り扱い】

  • 妊娠中でも同じ業務を続けたかったが、「外回りの営業は大変だよね」と一方的に判断され、同意なく別部署への異動を命じられた。
  • 妊娠したことを上司に伝えたところ、「他の人を雇うから辞めてほしい」と言われた。

マタハラが起きる原因と背景

仕事をする妊婦

次に、マタハラが発生してしまう原因や背景について深掘りしていきます。

妊娠や出産、育児への理解不足

男性、女性にかかわらず、妊娠や出産、育児に対する理解や知識が不足していることで、「妊娠していても今までと同じように仕事ができるはず」と思って無理をさせてしまったり、逆に「妊娠中は無理をさせられないから」「仕事と育児を両立させることは大変だから」と本人の意思を踏まえずに簡単な仕事ばかりさせたりと、悪意を持たないままマタハラと認められる発言をすることもあります。

また、妊娠や出産を経験した女性であっても「私は問題なかったから同じように働いて」と、主観を押し付けてしまうことでマタハラにつながるケースもみられます。一部の従業員からは、育休などの制度を利用する従業員が「優遇されている」とみなされ、理解や協力が得られないこともあるかもしれません。

妊娠中のつわりをはじめとした体調不良や産後の回復、育児の大変さ、置かれた環境などはそれぞれ異なります。「事情を知らないから/経験したことがあるからなんでも言っていい」のではなく、相手の立場や状況を慮り、ものごとを考えることが大切です。

一方で「十分な配慮を」と考え、良かれと思って行った対応が、本人の意思を無視したものになっている可能性もあります。意図から外れた「配慮しすぎ」問題についても意識しなくてはいけません。

仕事と育児の両立が難しい職場環境

従業員が働きながら妊娠や出産、育児をする権利は、各法律によって守られていますが、妊娠や出産によって従来のような働き方ができなくなったり、産休・育休で欠員が生じたりすると、他の社員の業務負担が増えてしまいます。

本来は妊娠中や時短勤務の従業員がいても、他の従業員への負担が大きくならないよう企業が配慮すべきですが、その不満の矛先が従業員本人にマタハラ(パタハラ)という形で向いてしまうことがあります。特に中小企業のような人手不足の現場や、長時間労働を是とする職場は風当たりが強くなりがちです。

性別に対する固定観念

性別に対する固定観念も、マタハラを生じさせる原因の一つです。例えば、「子どもは母親と一緒に過ごしたほうがいい」「男性は育児には関与せずがむしゃらに働くものだ」といった、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)がハラスメントを引き起こしていることもあります。

共働き家庭が増加し、働き方改革などが進んでいる現代においては、やや時代錯誤的に感じられるかもしれませんが、特に年齢の高い管理職や経営層にはこのような固定観念、偏った認識を持つ人もいます。

マタハラを放置することによるリスク

書類を見る妊婦

職場におけるマタハラを見逃したり、把握しているにも関わらず対応を怠ったりすると、被害者である従業員は復職へのモチベーションがなくなり、離職を選択することもあります。優秀な人材の流出は、企業にとっても大きな損失です。

また、マタハラの被害者が会社を相手に損害賠償請求を起こす可能性もゼロではありません。ハラスメントへの対応が適切に行えない場合、厚生労働省などから勧告を受ける場合もあります。

マタハラに関連する法律

法律に関連するアイテム

次に、マタハラ防止において企業が遵守しなければならない各種法律について解説します。これらの法律に違反した場合、企業は罰則を受ける可能性があります。

労働基準法

労働基準法では、産前、産後の従業員に関する取り扱いについて、以下のような定めがあります。

産前休業の取得    出産予定日から6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間以内)の従業員が休業を希望した場合は、就業させてはならない(労基法65条1項)。
産後休業の取得従業員の請求の有無にかかわらず、出産日の翌日から8週間は就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した従業員が請求し、かつ、医師が支障がないと認めた業務には就業させることができる(労基法65条2項)。
解雇禁止期間産前産後休業の期間、およびその後30日間の解雇の禁止(労基法19条)。
軽易業務への転換     妊娠中の従業員が、負担の軽い業務への転換を希望した場合は、それに応じなければならない(労基法65条3項)。
残業制限妊娠中、産後の従業員から、残業や深夜勤務、休日勤務の免除の希望があった場合は、残業させてはならない(労基法66条)。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法第9条第3項では、妊娠・出産に関して、厚生労働省の定める内容を理由として解雇や不利益な取り扱いをすることを禁じています。また同法第11条2項では、妊娠・出産に関して、当該の女性従業員の就業環境が害されることのないよう、従業員からの相談に応じ、適切な体制の整備や雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めています。

育児・介護休業法

育児 ・ 介護休業法第10条では、育児休業等の申出・取得等を理由とする解雇や不利益な取り扱いをすることを禁じています。また子どもの看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置について申出ることや、制度の利用を理由とする解雇、不利益な取り扱いについても禁止しています。(第16条、第18条の2、第20条の2、第23条の2)

併せて、同法第25条では、育児や介護に関する制度を利用する従業員が、周囲からの言動によって就業環境が害されることのないよう、適切な体制の整備、雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めています。

マタハラ防止のための企業の取り組み

研修を受ける社員達

続いては、マタハラを防止するため、企業に求められる取り組みについてご紹介します。

マタハラ防止方針の策定・周知

まずは、マタハラを含むハラスメント行為を許さないという企業方針を明らかにし、どんな行為がハラスメントに該当するのか、ハラスメントが起こった場合の対応や処分などについて、すべての従業員に対し周知・啓発を行います。就業規則に明記する、社内報やメール、会社のホームページなどに掲載し、浸透を図りましょう。

マタハラの原因となりうる環境の是正

妊娠中の従業員が体調不良などで通常通りに業務を遂行できなかったり、産休・育休などを取得したりすることで、他の従業員の業務量が増えるなどすると、負担が増えたことによる不満を感じてマタハラが発生してしまうこともあります。

そうならないためにも業務の分担を見直す、人員を補充する、欠員をカバーできるようさまざまな業務に対応できる体制を整えておくなど、マタハラの原因となる環境をつくらない配慮も重要です。

ハラスメント防止に向けた社内研修の実施

すべての従業員を対象に、ハラスメント防止のための研修を実施し、問題意識を高めることも大切です。管理職の場合は、責任者として適切な対応策を学ぶ必要があります。

アドバンテッジリスクマネジメントでは、ハラスメント防止に役立つ各種研修プログラムを提供しています。

ハラスメントが発生しにくい職場づくりを目的に、個々の意識・行動の変容を促す「メンタルタフネス度向上研修」も効果的です。

ハラスメント発生リスクや実態の把握

定期的にサーベイを実施し、マタハラを含むハラスメントの発生リスクの把握につとめることも重要です。ハラスメントに関連する指標や質問を設置し、匿名で意見できる環境を整えると良いでしょう。現状や傾向を把握することができれば、課題の早期発見や改善に向けた施策の立案が可能になります。

ハラスメント相談窓口の設置

マタハラを含め、ハラスメントの相談を一元的に引き受ける窓口を設置しましょう。従業員に相談窓口の存在を周知するとともに、プライバシーに配慮していることや、相談内容が評価に影響しないことなど、誰もが安心して利用できる環境であることを明示します。

マタハラが発生した場合の対応方法

ステップと書かれた黒板

万が一、マタハラが発生してしまった場合に備え、適切に対応できる体制を整えておくことも大切です。
ハラスメント発生時の主な対応の流れは以下の通りです。

<マタハラ対応の流れ>
①事実関係を速やか、かつ正確に確認する
②マタハラの事実が確認された場合は、速やかに被害者に対する配慮の措置を実施する
③マタハラ行為者に対する処分、措置を行う
④再発防止措置を講じる

実効性のあるマタハラ対策を進めましょう

会議をする妊婦

共働き家庭の増加もあり、妊娠、出産を経ても仕事を継続する女性は今や珍しい存在ではありません。マタハラ防止への取り組みは、法律にも示された企業の義務です。従業員が安心して妊娠、出産、子育てができるよう、実効性のあるマタハラ対策が求められます。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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