新入社員が入社後1ヵ月~半年足らずで「辞めたい」と届け出るケースは少なくありません。その主な理由として理想と現実とのギャップや、価値観の違いによるものが挙げられます。今回は、新入社員が辞めたいと思う理由や主な価値観の違い、新入社員/若手社員の早期離職を防ぐための対策を紹介します。

目次
新入社員が「辞めたい」と思う4つの理由

新入社員/若手社員の早期離職を防ぐには、「辞めたい」理由を知っておく必要があります。主な理由は以下の通りです。
仕事内容に不満がある | ・事前に開示されていた仕事内容と異なる ・希望の部署や配属と違っていた |
労働条件に不満がある | ・残業時間が長い、サービス残業がある ・休日が少ない、有給休暇を取りにくい |
報酬が割に合わないと感じる | ・給与(手取り額)が思っていたより少ない ・残業代が一部しか出ない、業績悪化により賞与の支給がなかった |
職場の人間関係が良好ではない | ・上司や同僚との人間関係に悩みストレスを抱える ・ハラスメントの被害を受けた ・社内に相談できる人がいない |
このほか、近年では企業が“ホワイトすぎる”という理由で離職する若者も増えています。 叱られることがなく、負荷のある仕事を任せられないために「成長の実感が湧かない」「(同世代と比べて)焦りを感じる」といったように悩むことがあります。
厚生労働省の調査「学歴別就職後3年以内離職率の推移(令和3年10月公表)」によると、新規学卒者の1年目の離職率は1割以上、3年目では3割以上という結果が出ており、離職率3割は長年続く見込みです。
参考:厚生労働省「学歴別就職後3年以内離職率の推移(令和3年10月公表)」
新入社員の離職はコスト面でも大きな損失

新入社員が短期間で辞めてしまうのは、企業の採用コスト面にとってもダメージが少なくありません。 新卒学生の就職に関する調査・研究を行っている『就職みらい研究所』が発表した「就職白書2020」によると、2019年度新卒採用1人当たりの平均コストは、93万6,000円かかっています。採用コスト以外にも教育コスト、さらには離職率が上がり求人が減ることで採用効率が下がり、企業価値毀損コストもかかってきます。
参考:就職みらい研究所「就職白書2020」
新入社員と上司の価値観のギャップが離職を加速させる

新入社員/若手社員の離職率を加速させている要因として、上司との価値観のギャップが大きいことも考えられます。『月刊総務』が総務人事担当者を対象に実施した「Z世代のマネジメントについての調査」によると、Z世代社員のマネジメントに難しさを「とても感じる」「やや感じる」と回答した人が55.7%という結果でした。難しさを感じる理由の1つに、「上司世代の社員が価値観をシフトできていない」という声もあるようです。
参考:月間総務「Z世代のマネジメントについての調査」
若者の価値観の変化については「ゆとり教育」「少子高齢化」「情報量の増加」など、さまざまな要因が関係しているとされています。一方でマネジメントを取り巻く状況も、「組織の簡素化・人員削減」「成果主義」「管理職のプレイングマネージャー化」などが進み、自分が新入社員時に教わってきた環境とは大きく変わりつつあるのが現状です。
どちらが正しいというわけではなく、「価値観が異なる」という事実を受け止め、新入社員/若手社員に対する関わり方、また新入社員/若手社員自身の考え方も柔軟に変えていく必要があります。
新入社員と上司の間で起きる主な価値観の違い

新入社員/若手社員の離職を防ぐためには、まずどのような価値観の違いがあるのかを知っておく必要があります。具体的に見ていきます。
ワークライフバランスの考え方
近年では国が出産や育児、介護などさまざまなライフステージにおいて選択的に生きられる社会を目指し、多様な働き方の推奨や、心身ともに健康な状態で働くウェルビーイングの実現を目指す取り組みを推進しています。このような時代背景もあり、ワーク・ライフ・バランスを重視する新入社員も多く見られます。
『月間総務』の調査によると、Z世代社員の仕事に対する価値観において、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向にあると感じている担当者の割合が96%にも上りました。
参考:月間総務「Z世代のマネジメントについての調査」
このように、仕事とプライベートを両立させたいと思う新入社員/若手社員は少なくありません。また採用応募時の説明と異なり、労働時間が長い・休日が少ない、在宅ワークよりも出社が主だったなどを想定外と感じて辞める新入社員もいるようです。
そのため企業側は入社後の働き方がどのようになるのか、あらかじめ明確にしておく必要があります。そのほか上司のマネジメント不足により、労働環境が悪化している可能性も否定できません。
会社への帰属意識

図表:一般社団法人日本能率協会「2020年度新入社員意識調査」を参考に当社作成
一般社団法人日本能率協会「2020年度新入社員意識調査」によると、新入社員の「お金以外の働く目的」は、「仕事を通じてやりがいや充実感を得ること」「自分の能力を高めること」「社会の役に立つこと」という回答が上位を占めます。一方で、「会社の役に立つこと」「お客様の役に立つこと」という回答が非常に少ないことがわかります。
この結果から、新入社員/若手社員は「会社や組織のために働くよりも、社会や世の中、あるいは自分のために働きたい」という価値観を持ち、会社や組織に対する帰属意識は低い傾向があると推測できるでしょう。そのため、新入社員/若手社員のエンゲージメントを高めるようなアプローチが求められています。
参考:一般社団法人日本能率協会「2020年度新入社員意識調査」
仕事に対する評価の仕方

図表:当社独自調査
新入社員/若手社員が自分の能力や適性と、実際の職務に求められるものの間にギャップを感じていることも考えられます。「想像していたよりも自分は仕事ができない」「一生懸命しているのに上達しない」といった理想と現実のギャップに悩む社員もいるようです。
当社の独自調査でも、経験の浅い若手社員は仕事の裁量が少なく、「仕事を任せてもらえない」と考えている社員が多いことがわかっています。さらに20代後半になると「自分のやりたいことと会社が目指す方向が違う」と感じ、会社との適合感や仕事の見通しを持ちにくい社員が増加しており、これらは結果的にエンゲージメントの低下にもつながっているでしょう。
仕事を通じた成長意欲
一方で上司世代が新入社員/若手社員に対し、いわゆる「若者世代/Z世代」として一括りにしてしまう結果、「今の時代、若手の価値観に合わせて労働時間を減らさないと」「負担をかけないような仕事を」という思惑が働き、それが新入社員/若手社員にとっては逆効果になっていることも多々あります。
『リクルートワークス』による若手社員への調査「大手企業における若手育成状況調査報告書」によると、職場を「ゆるい」と感じる若手社員は3分の1以上に上り、45.6%が「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」と感じています。
上司の想像で新入社員/若手社員の考えを“察する”のではなく、一人ひとりと対話し、それぞれの考えや理想をキャッチアップすることが重要です。
参考:リクルートワークス「大手企業における若手育成状況調査報告書」
新入社員/若手社員の「辞めたい」をなくす3つの離職防止策

「価値観が異なる」という事実を受け止めたうえで、新入社員や若手社員に対する管理職の関わり方を変える必要があります。さらに、新入社員/若手社員自身の物事の捉え方や考え方を柔軟にすることも必要です。ここからは、新入社員/若手社員の離職を防ぐ対策として4つの方法を紹介します。
対策①双方向コミュニケーションを活発化させる
新入社員/若手社員と管理職の双方向で、コミュニケーションを頻繁かつ恒常的に行いましょう。具体的には、週次に1on1ミーティングを行うことが挙げられます。週に10分程度であっても定期的に続け、「いつでも気軽に話せる時間がある」と新入社員/若手社員に感じさせることが重要です。
意見を尊重しながらフィードバックをすることは、得られた気づきによってモチベーションを高め、自主性のある人材に成長することにもつながります。メンタルケアもこまめに行えるため、新入社員/若手社員の不安も払拭できるでしょう。
対策②管理職のマネジメントスキルを向上させる
新入社員/若手社員のワークエンゲージメント向上のため、管理職がエンゲージメントの重要性を理解し、管理職自身のマネジメントスキルをアップさせる必要があります。
<管理職に必要なマネジメントスキル>
- 部下に対する適切なフィードバックや指導ができるコーチングスキル
- 部下の感情や自身の感情を正しく認識し、適切な行動が取れる感情マネジメントスキル
- プロジェクトの進捗が滞りなく行われているかをマネジメントできるスケジュール管理スキル
- 課題に対して適切な目標設定を行い、推進していく課題解決スキル

アドバンテッジリスクマネジメントは、上記のようなマネジメントスキルを育む管理職向けの社員研修プログラムを多数提供しています。

また、組織や人が変わる感情能力を向上させるEQ(感情マネジメント力) 向上研修も提供しています。
対策③新入社員/若手社員に物事の柔軟な捉え方・考え方を持ってもらう
管理職が新入社員への関わり方を変えると同時に、新入社員自身にも「柔軟な物事の捉え方や考え方」を持ってもらう必要があります。
人にはそれぞれ捉え方や考え方の癖があり、陥りやすい思考パターンがあります。例えば、「上司に挨拶をしたのに、素通りされた。」という状況が起こった時の思考パターンを見てみましょう。
<人それぞれの思考パターン>
- パターンA:「聞こえなかったのかな」→「次は大きな声で挨拶しよう」と思う。
- パターンB:「無視するなんて」→嫌な気持ちになる。同僚に悪口を言う。
- パターンC:「嫌われているのかな」→先輩を避けるようになる。顔色を伺うようになる。
このように認知のパターンによって、対処行動がポジティブに働くか、ネガティブに働くかが異なります。思考パターン自体はその人の行動を支えている場合もあり、必ずしも悪いものではありません。ただし、その思考パターンが自分を辛くし、目標達成の阻害要因になるようであれば、別の捉え方や考え方を選択することも必要になるでしょう。
価値観の違いを受け入れ、新入社員も働きやすい職場づくりを

新入社員の離職を防ぐためには、管理職側による新入社員への関わり方を変える必要があります。一方で、新入社員自身も、ストレスを乗り越えるための物事の柔軟な捉え方や考え方を持つなど、双方で取り組むことがウェルビーイングの実現のためにも重要です。価値観の違いを認めたうえで、新入社員が「辞めたい」と思わない、働きやすい職場づくりを目指しましょう。