企業のリスクを減らすハラスメント防止対策について

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はじめに

メンタルヘルスとは直訳すると「精神保健」、もっとやわらかく言うと「こころの健康を保つ」ということです。今、多くの企業でこころの健康が保てなくなって仕事ができなくなり、会社を休んだり、会社を辞めたりする人が増えています。

わが国ではうつ病で病院に通う人は100万人を超えているといわれています。この国で、これだけ多くの人がこころの健康の問題を抱えているのです。企業においてもこれらの傾向は同様で、多くの労働者がこころの健康の問題を抱えています。

近年における経済のグローバル化、IT技術革新による情報化の進展により企業間の競争が激しくなり、企業活動もスピード化が進む一方で、経営の効率化のためのリストラクチャリングや年功序列と終身雇用の廃止を含めた成果主義人事制度の導入など、労働者の労働環境の変化も急速に進んでいます。

一方で、労働者サイドでも少子化や核家族化で個人主義傾向が進み、対人関係のスキル不足から「七五三現象」などと呼ばれる「就職後3年以内に中卒の七割、高卒の五割、大卒の三割が離職する現象」が起こっています。

企業と労働者のミスマッチは今後も増えていく可能性も否めません。そして、企業と労働者のミスマッチの中で発生している問題の一つが「ハラスメント」です。

ハラスメントの現状と課題

企業の担当者に社内のハラスメント案件(被害者から相談があり懲罰対象になったものも含め案件化した被害)の内容を聞くと、加害者側が故意にハラスメントを行なった悪質なケースは少なく、多くの案件は加害者が意図せずに「そんなつもりはなかった」と弁明する案件でした。

これは、ハラスメントという言葉の意味が企業に浸透していないことが原因と考えられます。

ハラスメントを日本語に訳すと「いじめ」や「嫌がらせ」となってしまいますが、実はハラスメントの本当の日本語訳は「悩ませる」や「苦しめる」という意味で、これは加害者の意図ではなく、被害者側の心情を意味する言葉なのです。

ここを企業としてしっかり理解していないと、ハラスメントの被害が増えることになるのです。

パワハラの定義と事例

厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」とされています。

また、「優越的な関係を背景とした言動」については、上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優越的な関係を背景に行われるものも含まれるとしています。以下に、パワパラで裁判になった事例を記載します。

◎【扇風機の風を当ててパワハラ(毎日新聞 平成22年7月)】
外資系消費者金融会社の部長は約半年間、喫煙者である部下に「たばこ臭い」などと言って業務用大型扇風機の風を「強風」にし、後方から1日中風を当て続けた。その部下はうつ病になり、1カ月間休職した。東京地裁はこれをパワハラと認め、慰謝料など総額146万円の支払いを命じた。

◎【「指輪を外せ」の発言がパワハラ(名古屋高裁 平成19年10月)】
部下がいつもしていたシンプルな銀の結婚指輪を上司が気に入らなかったのか「目障りだから、そんなチャラチャラしたものは外せ」と部下に命じた。部下は何も反論しなかったが、指輪を外すことは拒み続けた。ある日、いつものように朝6時に車で家を出たが、会社には風邪で休むと伝え海に向かい、焼身自殺をした。結婚指輪は遺体にはなく、自宅の妻の小物入れの中にあった。ほかにも厳しい叱責を受けながら、上司の「結婚指輪を外せ」という要求だけは拒み通し、かけがえのない妻との関係の証を無傷のまま残したのだ。裁判所はパワハラと認め、労災と認定した。

なお、パワハラの傾向として上記の事例にある「指輪を外せ」のような、プライバシーに過度に立ち入ることで被害を訴えられる案件が増えていることに注意が必要です。

その他の事例としては、「深夜に上司から電話があって、タクシー代わりに飲み屋から家まで車で送らされた」「私事都合を理由に年次有給休暇を申請したら、私事都合の内容について根掘り葉掘り聞かれた」「ランチのときに個人の宗教について聞かれたので答えたら、否定されて悪口を言われた」など、仕事に直接関係ない案件でパワハラ被害が起こっていることを企業として知っておくことも大切です。

また、最近ではSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)において、部下や後輩への強制的な友達申請、および友達申請後の過剰なコメント書き込み、そして「いいね」やコメントの強要などのパワハラ被害があることも書き加えておきます。

パワハラ未然防止のためのコミュニケーション

パワハラを未然に防ぐには、普段から周りの人と良好なコミュニケーションを築いていくことやパワハラの加害者にならないための部下や後輩への正しい指導方法を理解して実践していくことが重要です。

以下に、パワハラ未然防止のために大切なコミュニケーション技術の一部を紹介します。

① 相手に指示・命令・依頼をするときはアイ(Ⅰ)メッセージを使う

「あなたは」を主語にした ユー(You)メッセージは相手をイヤな気持ちにして人間関係が壊れます。「私は」を主語にした アイ・メッセージは相手を不愉快にさせず指示などを出すことができます。パワハラをする人はユー・メッセージを使うことが多いです。

「もっと早くやりなさい!」「この仕事を手伝ってくれ!」というユー・メッセージの指示を、「早くやってもらえると(私は)嬉しいよ」「この仕事を手伝ってくれると(私は)助かるよ」という アイ・メッセージの指示に切り替えましょう。

② 質問するときは相手が答えやすいオープンクエスチョンを使う

クローズドクエスチョンは「YES」「NO」で答えられる質問です。オープンクエスチョンは「なぜ」「いつ」「どうして」など疑問詞の入った質問で「YES」「NO」で答えられません。

仕事でクローズドクエスチョンを使うと、相手が背景や理由など補足情報を伝えづらく、人間関係を悪化させる可能性があります。パワハラをする人はクローズドクエスチョンの質問で相手を追い詰めることが多い傾向にあります。

部下に書類の作成を頼んで進捗状況を確認するときは「頼んだ書類はもうできたのか!」では部下を追い詰めることになるので、「頼んだ書類はどうなっているかな?」とオープンクエスチョンで質問しましょう。

同様に、会議などで部下に自分の意見の感想を聞くときは「私の言っていることは間違っているか?」ではなく、「私の意見についてどう思う?」と部下が答えやすい質問をしましょう。

③ 相手を指導するときは自分との共通点を指摘する

指導をするときに自分との違いを指摘すると、相手からの信頼がなくなり、人間関係が悪くなります。自分との共通点を指摘すると相手からから信頼され、人間関係が良くなります。

パワハラをする人は相手を指導するときに「私が若いころは君みたいなミスは絶対しなかったよ」「私は君と違ってそんな仕事の進め方をしないよ」と、自分との違いばかりを指摘して人間関係を悪化させることが多いです。「私も若いころに君と同じミスをしたことがあるよ」など自分との共通点を指摘しましょう。

パワハラの加害者にならないための指導方法

まず大切なことは「指導の対象は何か」をしっかり理解することです。指導の対象は部下や後輩ではなく、「部下や後輩の行動」です。

パワハラをする人は指導の対象を部下や後輩自身に設定をして指導をすることが多いのです。そうすると、部下や後輩をしかる(叱責する)ときに、まずは本人を否定してしまうことになります。

「君はダメな人間だ」「お前はのろまな奴だ」「あなたは人間失格」などの人格否定に始まり、「男のくせに情けない」「これだから地方の田舎者は困る」「親はどんな教育をしてきたんだ」など、相手の性別や出身や身内を否定する拡大否定に発展し、そして「お前はいつもそうだ」「何をやらせてもダメだ」などの全面否定にエスカレートしていくのです。

指導の対象は部下や後輩の行動です。まずは、その行動がどれくらい不十分でどれだけ期待値と離れているかを明確に示すことが大切です。そして、その行動をどう変えたらいいかまで示すのが本当の指導です。

部下や後輩の仕事のやり方がダメであるのなら、仕事のやり方のどこがダメで、それをどう変えればいいのかまで部下や後輩に示すことが必要なのです。

なお、指導のときに注意する点として「相手の目を見て話す」ことも大切です。パワハラをする人はパソコンの画面を見ながら指導をする人が多いです。部下や後輩から見れば、そのような指導は「無視されている」と捉えられることが多いようです。

そのような指導は仕事や仕事に向かう意欲や向上心を妨害することで、パワハラに発展していくから注意が必要です。

また、部下や後輩をしかる(叱責する)ときには、併せて「ほめる」ことも忘れないようにしましょう。パワハラをする人は相手の悪いところを指摘するのが得意です。

逆に、相手の良いところを指摘するのは苦手です。言いかえれば、相手の悪いところを見つけるのは得意ですが、相手の良いところを見つけるのは苦手なのです。普段から、人の良いところを見るクセをつけて、良いところを見つけたら積極的にほめるトレーニングをしておくことも「正しい指導」をするために必要です。

次に、最近パワハラを防止する指導法として注目されている「コーチング」について話しておきます。指示命令型の「ティーチング」に対して、コーチングは「質問型」の指導法です。ティーチングは相手に答えを与える指導法ですが、コーチングは「相手から答えを引き出す指導法」です。

たとえば、仕事のやり方を決定する際に「この方法でやりなさい」ではなく、「君ならどんな方法でやる?」「何かいい方法はあるかな?」と質問をして、最良の答えを自分で考えさせて見つけさせることを重視する指導法です。

同様に、仕事のスケジュールについても「〇月〇日までに完成させなさい」ではなく、「どんなスケジュールで進めようか?」「いつまでに完成できるかな?」と自分で考えさせたり、仕事でトラブルが発生したときには「すぐに〇○して××しなさい」ではなく、「こんなときはどうしたらいいと思う?」「君ならどうする?」と自分で答えを見つけさせて、相手の答えに対して「なるほど、いいね」「目の付け所がいいね」などとほめたり、「じゃあ、まずは何をしようか?」「具体的にどんな動きをすればいいかな?」などと重ねてコーチングを進めていくのです。

セクハラおよび注意すべきハラスメント

セクハラについては、かなり前から未然防止の教育が進んでおり、被害者が直接的な不利益を受ける悪質な「対価型セクハラ」は減少しているように思いますが、加害者が「そんなつもりはなかった」と弁明する「環境型セクハラ」は減っていないようです。

気をつけてほしいのは、「結婚したほうがいいよ」「スタイルがいいね」などの性的な冗談やからかい、「彼氏いるの?」「子どもは作らないの?」などの性的な内容の質問、「手を握る」「肩をたたく」などのちょっとした身体的接触です。

また、厚生労働省は2014年7月に異性間だけでなく同性間の言動も職場のセクハラに該当することを盛り込んだ男女雇用機会均等法の改正指針を施行しました。厚生労働省によると、全国の労働局に寄せられる相談で、同性間のセクハラ被害を訴えるケースが増えていることから指針に盛り込んだとのことです。

男性同士のセクハラに該当する事例としては、「男性部下に対して風俗店に行くことを強要する」「職場の宴会で裸になることを強要する」「性的なからかいやうわさ話をしたりする」などで、女性同士のセクハラに該当する事例としては、「女性上司が女性の部下をしつこく食事に誘う」「なぜ結婚しないのかと聞く」「更衣室で胸を触る」などです。

こちらも徹底が必要です。そして、厚生労働省から男性や女性だけでなく性的マイノリティの方への被害もセクハラの対象となることが発表されています。今後のセクハラ教育には、性的マイノリティの方への理解もメニューに加える必要があるでしょう。

なお、「女性だけにコピーなどの補助的業務をさせる」「女性だけにお茶くみをさせる」など、性に関する固定観念や性別役割分担意識に基づく差別や嫌がらせであるジェンダーハラスメントや「妊娠した女性に対してフルタイムで働けなくなったことへの嫌味を言う」「妊娠で体調が悪くても無理に出勤や仕事をさせる」「出産を理由に解雇や異動をしたりする」など、職場において妊娠や出産した者に対して精神的・肉体的な嫌がらせをするマタニティ・ハラスメント、「男性労働者に対して行われる育児休業制度等の子の養育に関する制度の利用に関するいやがらせ」などのパタニティ・ハラスメントについても未然防止の教育が必要です。

まとめ

ハラスメント未然防止について話してきましたが、各企業で早急に実施してほしいのはハラスメント防止に関する規約を整備し、同時に企業のトップから「当社はハラスメントを絶対に許さない」という強いメッセージを組織に周知するとともに、管理監督者に研修を実施して、ハラスメントを防止する対策に取り組むことです。

また、日頃のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の中で、すべての社員に「いろいろな人の立場を理解して受け入れる能力(受容力)」と「いろいろな人の気持ちを理解して思いやる能力(共感力)」を身につけさせ、その能力を向上していくとともに、企業内の人権教育を進めて、「価値観や物事の考え方は人によって違い、それぞれの人の価値観や考え方を認めあう」という企業の風土を築いていくことも重要です。

最後に、各企業の人事担当者や人権教育担当者の方には、「21世紀職業財団 ハラスメント防止コンサルタント」という認定資格を紹介しておきます。ハラスメント未然防止対策の立案、検討、実施の一助となるでしょう。詳細は21世紀職業財団のHPを参照してください。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 研修講師

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