「健康経営の取り組み、正直どう思ってる?」従業員1,000人に聞いた調査結果を大発表!~従業員を巻き込んで推進するためのポイントは○○?~

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年々高まる健康経営への熱を背景に、健康経営優良法人認定制度への申請企業数は増加傾向にあります。毎年、健康経営度調査票(以下、調査票)の設問が一定数改訂されているため、引き続き認定を受けるためには、企業は継続的な施策の見直しと数値改善を行わなければなりません。また、健康経営優良法人(大規模法人部門)ホワイト500(以下、ホワイト500)の認定も、年々難易度が上昇しており、企業には健康経営の本質的な推進が求められています。

さて、健康経営の本質的な推進のためには、従業員の理解を得た上で、取り組みを推進することが重要です。従業員の健康経営への理解を促し、施策へ能動的に参加してもらうことで、健康データの数値を改善していくことが求められるなか、果たして従業員の声を正確に拾えているのか、不安な企業も多いでしょう。

そこで当社アドバンテッジリスクマネジメントは、健康経営に対する従業員の実態調査を目的とし、一般企業に勤める従業員1,000人(人事と経営層を除く)を対象としたインターネット調査を実施しました。
さらに、今回は当社の健康経営コンサルタントと人事部の健康経営推進担当とともに、結果を踏まえての考察や、従業員と企業が一体となった本質的な健康経営推進のために必要なことは何かを考えてみました。

【調査概要】
《調査名》健康経営に関する実態調査
《調査対象》一般企業に勤める人事・経営層を除く従業員1,000名
《調査期間》2023年3月29日~2023年3月30日
《調査方法》インターネット調査
《有効回収数》1,000

【健康経営コンサルタント、健康経営推進担当の紹介】

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営コンサルタント
組織ソリューション2部
風間 聖也

2021年入社。製造・建設・IT業界を中心に健康経営優良法人認定へ向けた体制構築コンサルティングに従事。認定の支援に留まらず、支援において顕在化した健康課題に対する組織改善コンサルティングも得意としている。

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営推進担当
人事部 副部長 兼 健康管理室 副室長
木浦 佑輝

2014年入社。採用、人事制度、人材育成などの人事業務全般のほか、従業員の健康と活力向上のための健康経営の推進を担当。健康経営優良法人(ホワイト500)6年連続認定、健康経営銘柄2年連続選定を受ける。

~アドバンテッジJOURNAL編集長より~
当記事は調査結果の内容とそれに関する考察内容で構成されておりますが、あまりにも力を入れて制作してしまったため、非常に長い記事となってしまいました…。話のつながりという意味では、最初から最後まで記事の流れを通してそのまま読んでいただけると幸いですが、目次の中から気になるテーマを選んでご覧いただいても構いません。是非お時間のある時に最後まで読んでいただけると嬉しいです

健康経営に対する従業員の実態調査230628グラフ-01

従業員の半数以上は健康経営に“関心なし”

まず健康経営の取り組みに対する関心有無を聞いたところ、「関心はない(36.7%)」が最も多く、「どちらかというと関心はない(20.1%)」と合わせると、半数以上の56.8%が「関心はない」という結果になりました。

また、「自身が勤める企業の健康経営方針やその計画についての理解を問うと、「指針や計画が公表されているかわからない(42.2%)」が最も多く、次いで「理解していない(31.7%)」、「だいたい理解している(21.9%)」と続きます。「詳細に理解している」は、4.2%に留まっています。

なお、健康経営銘柄やホワイト500などの取得有無別の回答結果(※1)をみてみると、健康経営銘柄を取得している企業の従業員ほど、健康経営への関心は高い傾向にあることがわかりました。一方で、同銘柄を取得しているにも関わらず、「内容を理解していない」「わからない」と回答している従業員も一定数存在することから、健康経営に対する明文化が課題であることも伺えます。
(※1)健康経営優良法人認定の取得状況は、調査回答者の認識によるもので、当方にて正確な情報を確認しているものではありません。

なお年代別では、若い年代ほど関心・方針の理解度が高い傾向にあることもわかりました。ワークライフバランスや労働への価値観の違いの現れだと推測されます。

【健康経営コンサルタント&推進担当が解説!】

コンサルタント(風間):従業員への健康経営の浸透に関しては、調査票のQ17「全社方針の明文化」(以下)で問われていますが、優良法人認定の取得状況別で分析してみると、SQ1選択肢内の5~8にあたる、「従業員の理解度の確認」「意見の募集」「議論の場の用意」の点で、ホワイト500と健康経営優良法人の差が大きく開いています。
具体的には、選択肢5~8の全てにおいて50pt以上の開きがあります。“従業員の健康経営への関心や方針の理解を促進する取り組みが十分にできているかどうか”が、ホワイト500とそれ以外とを分ける要因の1つなのかもしれません。

令和4年度 健康経営度調査票 Q17 SQ1


また、健康経営方針も、どこまで従業員に理解してほしいのかを整理したほうが良いでしょう。個人的には、会社としての重要健康課題の内容と理由およびそのリスク、課題に対するアクションとその効果・検証・結果などについて、従業員から関心・理解をもってもらえると理想的なのではないかなと思います。
その範囲を整理できたら従業員に向けて発信し、さらには従業員が意見を述べる場を設けるといった、従業員の積極的な健康経営参画を受け入れる環境・風土の形成も、従業員の健康経営への関心や理解を促進する上で重要になりますね。
なお、社外向けに良い数値ばかりを開示・アピールしていては、従業員からの共感を得られないでしょう。会社の健康課題・経営課題の改善のために必要な事項の整理と、方針の発信を社内外に進めていくことが求められると考えます。

――健康経営を推し進めるにあたり、従業員に対してどこまで理解を求めるのか、その整理をした上で発信していくのが重要だということですね。

コンサルタント(風間):仰るとおりです。また、この結果を見て改めて感じるのは、自身の健康リスクを実感できていない人が、健康経営に関心を持つことは非常に難しい、ということですね。

――そうですね。健康経営は単に“従業員の健康状態の改善”にとどまらず、その先の“パフォーマンス向上”や“働きやすさの実現”も大切な目的だと思うのですが、そこまで理解を醸成するのは難易度が高い印象を受けます。
当社の健康経営推進担当として、木浦さんはどう考えますか?


推進担当(木浦):仰るように、働きやすさおよびパフォーマンス向上までを範疇とする健康経営の理解を、従業員に得てもらうことは非常に難しいと考えます。一方で、健康経営における改善は、会社が半強制的に「やろう!」と促すのではなく、いかに“従業員に主体的に動いてもらうか”が最終的には重要だと思います。その意味で、従業員の理解は必須ですね。

――当社において、健康への関心醸成や健康リテラシー向上を推進するにあたり、難しさはありましたか?

推進担当(木浦):ありましたね。これは当社に限らないと思いますが、“関心がない人の動機づけ”は容易にはいきません。というのも、健康への意識が低い人は、「感覚的には健康だから大丈夫だろう」と思い込んでいるケースが多いんですね。一方で、健診結果を見てみると、数値が非常に悪いことが度々見受けられます。
そのため、そういう人に対しては、「健診結果を正しく読み取って、何から動いていけば良いのか、まずは考えましょう」という声かけから始めました。
こうした“健康課題を実感してもらうこと”および“改善行動のサポート”がきっかけとなり、健康経営を「自分ごと」にしてもらえると嬉しいですね。

――当社で実施しているストレスチェックでは、健康経営方針の理解度やそれに対する意見、会社に期待する活動も調査していますよね。これらの活動は、健康経営を改めて考えたり、場合によっては健康経営に自ら参画したりする機会になると思います。実際、従業員からの声は集まっていますか?

推進担当(木浦):そのような声は結構いただきますね。「こうしたテーマの取り組みをしてほしい」という声もあれば、具体的な施策のリクエストなどもあり、健康経営の計画を立てる際に参考にしています。それらをもとにセミナーやeラーニング、イベントなどの案内を、地道にですが継続して、健康への関心やリテラシーの向上につなげています。

――自分たちの意見や要望が健康経営の取り組みに反映されていることが感じられれば、従業員の健康経営への参加意欲も高まりますね!

実際どんなことをしてる? 従業員が認識している健康経営の取り組み

自社で実施している健康経営の主な取り組み内容を聞いたところ、以下のような内容が挙がりました。

【健康経営コンサルタント&推進担当が解説!】

――健康経営の取り組みと一言でいっても、多種多様なものがありますね。

コンサルタント(風間):TOP3は従業員個人の健康に直接関わる事柄のため、認知・参加率は高いですよね。続く4~7位も会社の制度に関する事柄のため、テーマとして目に付きやすいというのもあるのでしょう。また、ランキング外にはなってしまいましたが、従業員1,000名以上の企業では、健康をテーマにした「研修・セミナー」や「食生活・運動機会にまつわるイベント」を実施するところも多く、イベントの参加率や満足度を集計しているケースもありますね。

――当社のお客様からは、特に「出産・子育てと仕事の両立(5位)」および「ワークライフバランスの推進(6位)」に課題がある/注力したい、という声が最近増えてきた印象です。

コンサルタント(風間):「出産・子育てと仕事の両立」や「ワークライフバランスの推進」に関しては経済産業省から公表された、「健康・医療新産業協議会 第8回健康投資WG 事務局説明資料」においても言及されており、調査票内では新たに「仕事と育児・介護の両立支援に関する取組」についても評価対象とすることが検討されています。昨今の社会課題をふまえても、今後の健康経営において重要テーマになりそうです。

メリットを感じている人は「仕事のモチベーション向上」につながった実感アリ

自社が行う健康経営の取り組みに対して、ずばり従業員はどのように感じているのでしょうか。直接的なメリットを感じているかを聞いたところ、「どちらかというと感じる(42.8%)」「感じる(14.1%)」と、メリットを感じる回答はあわせて56.9%、「どちらかというと感じない(30.5%)」、「感じない(12.7)」と、メリットを感じない回答はあわせて43.2%となり、メリットを感じる回答がやや上回っています。
なお、年代別で見ると、20代や30代といった“若手世代”ほど、メリットを感じている傾向があることもわかりました。

メリットを感じる理由を聞いたところ、「自身の健康に気を遣うようになったから」が59.1%と最も多く、次いで「自身の健康状態に改善を感じたから」(48.6%)と続き、健康意識の向上や、健康状態の改善にメリットを挙げる人が多いようです。

4位には「仕事へのモチベーションが向上したから(17.3%)」という回答も挙がっており、健康経営が従業員のモチベーションアップや生産性アップに結びついていることがうかがえます。
また、6位の「会社への信頼や帰属意識が高まったと感じたから」という回答は、特に40~60代の割合が相対的に多くなっていました。

さらに、健康経営優良法人認定の取得状況別で分析してみると、健康経営優良法人の上位企業になるほど、メリットとして「自身の健康状態に改善を感じたから」「仕事のモチベーションおよびパフォーマンスの向上」「上司や同僚との関係性の良化」の回答割合が多いということがわかりました。
「健康経営銘柄・ホワイト500認定企業」と「認定を取得していない企業」で、それぞれの回答割合を表したツリーマップを見ると、前者のほうが健康状態以外の指標でもメリットを実感しているようです。健康状態の改善が仕事の面でポジティブな効果として現れていることが推測されます。

【健康経営コンサルタント&推進担当が解説!】

コンサルタント(風間):健康経営優良法人の上位企業ほど、健康状態やその先の指標まで改善を実感しているというのはすごく面白いですね。健康経営コンサルタントとしてはとても勇気づけられます! 健康経営の取り組みは数多くありますが、いずれも一度の実施だけでは企業側が理想とする効果を得ることは難しいでしょう。従業員・企業双方がメリットを享受するためには、継続的な施策への参加が必須です。
一方で、一部の健康意識が高い人や健康経営へ好意的な感情がある人を除き、従業員にとっては、継続的な施策への参加は、正直ハードルが高いでしょう。したがって、最初はインセンティブを用意することを含め、健康以外の側面でメリットを与えることも効果的だと思います。継続的な参加をした先に、健康経営の本来のメリットを理解してもらう方が、スムーズかつ従業員としても受け入れやすいルートになるのでないでしょうか。

――当社の取り組みの一つ、ウォーキングイベント「あゆみ」は、本当に多くの従業員が楽しく参加している印象です。

推進担当(木浦):そうですね。代表の鳥越をはじめ、経営層も多く参加してくれていますし、社内からも好意的な言葉をいただいています。ただし、このウォーキングイベント「あゆみ」を含め、取り組み単体で、従業員に健康状態の改善まで効果を感じていただくのは、なかなか難しいかと思います。「目標を達成すれば、景品を貰えるのが嬉しい」「社内の人と一緒に歩くことが楽しい」という声をいただくことがあり、これが取り組みが上手くいっている理由のひとつでもあると考えています。
全社を対象として行うポピュレーションアプローチの取り組みは、「楽しい」「嬉しい」のようなポジティブな感情を持ちながら、従業員に継続的に参加をしてもらうことが重要です。ポジティブな感情を抱くことこそが、取り組みが習慣化されたり、ほかの健康関連の取り組みにも興味を持ったり、あるいは普段から健康を意識するようになることにつながっていくのだと思います。その結果、最終的に健康状態の改善と仕事への好影響を従業員に体感してもらえるのではないでしょうか。

――健康経営優良法人の上位企業の回答者ほど、「取り組みの内容に魅力を感じるから」と回答しています。上位企業は従業員が参加してみたいと感じられる、効果的な取り組みを行っているのかもしれないですね。

メリットを感じない理由は「効果を感じられない」!人事の一方的施策との声も

一方で、従業員が自社の健康経営における取り組みのメリットを感じていない理由には、どのようなものがあるのでしょうか。

健康経営に対する従業員の実態調査230628グラフ-09

メリットを感じない理由としては、「取り組みによる変化や効果を実感できないから」という回答が最も多い52.4%で、次いで「人事側の一方的な取り組みに感じるから(21.3%)」、「従業員の不満や要望に応えるような取り組みだと感じられないから(17.3%)」と続き、「施策後のフィードバックや情報発信がないから(15.6%)」といった声も挙がります。
さらに年代別でみてみると、20代・30代は「施策後のフィードバックや情報発信がないから」の回答割合が高い傾向にありました。

【健康経営コンサルタント&推進担当が解説!】

――従業員がメリットを感じない施策の原因は何でしょうか。

コンサルタント(風間)施策を実施すること自体が「ポーズ」になっている、という点が背景にはあると思います。「他社がやっているから」「調査票で回答しなければならないから」などの理由で行われる施策は、目的が従業員に周知されておらず、効果検証もデザインされていないため、従業員からしてもメリットを感じようがないですよね。従業員にどのようなメリットを享受してほしいのかがデザインできていない企業は、そもそも課題の特定ができていないケースが多いようです。企業として意義のある施策を講じるためには、健康経営戦略マップから状況を整理したうえで、デザインすることが重要になってきます。そのため、経営課題から逆算しつつ、健康経営の施策・取り組みを戦略的に実施することこそが、企業・従業員双方に良い結果をもたらすポイントです。だからこそ、企業には適切に構成された戦略マップの作成をおすすめしています。

――確かに、施策を実施すること自体が目的化してしまっては、社内周知も難しく、従業員は施策のメリットを感じることができませんね。一方で、企業としては必要な施策だとしても、従業員にメリットを感じてもらえずに、施策の参加率が低いというケースもあるかと思います。

推進担当(木浦):私も健康経営を推進するために、様々な施策を行っていますが、施策の参加率が上がらなかったり、eラーニングを全然受講してもらえなかったりすることも実際にあります。そのようなときには、「個別のアプローチ」をすることが有効だと考えます。例えば、当社では長時間労働や健診結果によって優先順位はつけつつも、「全従業員と保健師が面談する機会を設ける」という活動をしています。その際に、健診結果を踏まえて、対象者には「このeラーニングだけでも受けてほしい」とお願いをするんですね。
このように“個別で直接話されている”という状況から、“自身の健康状態の改善に関連するものが案内されているのだ”と理解してもらうことで、従業員の施策受講率にも変化が見られますね。施策の内容だけを発信して従業員にメリットを感じてもらうよりも、こちらから的確な案内をすることで従業員自身へのメリットを理解してもらうことが重要だと思います。

従業員が必要/不必要と感じている健康経営の取り組み 「自分ごと化」がカギに

次に、従業員が健康経営の取り組みで必要と思っているもの、不必要と思っているものを最大3つ、それぞれ聞いてみたところ、以下のような結果となりました。

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従業員に必要/不必要と感じられている施策を整理してみると、ハイリスクアプローチ(対個人向けの施策)が「必要」、ポピュレーションアプローチ(対組織向けの施策)が「不必要」と綺麗に分かれる形になりました。

健康経営に対する従業員の実態調査230628グラフ-12

従業員が不必要と感じている取り組みも、健康経営の推進においては欠かすことができません。実際、従業員に必要性を感じない取り組みとして挙げられた、「研修セミナー」のようないわゆる「ヘルスリテラシーの向上」や「運動機会増進施策」は、調査票でも挙げられている項目です。
特にホワイト500以上の認定を受けるためには、網羅的に取り組む必要があります。併せて、従業員が不必要と感じる取り組みをどう社内浸透させていくかが課題になるでしょう。

【健康経営コンサルタント&推進担当が解説!】

――網羅的な施策の実施と改善において、企業はどのように推進していけば良いのでしょうか。

コンサルタント(風間):先ほども挙がったように「自分ごと化」がカギになると思います。個人に対する施策が主なハイリスクアプローチ従業員もその意義を理解しやすく、参加率は高くなります。一方、ポピュレーションアプローチは、従業員にとっては“全社に向けた、自由参加の案内”のような形に映るため、自分に直接関係する施策として捉えづらい側面があります。
また、「成果の分かりやすさ」という観点においても、“実施することで何を得られるか”が見えづらいと、従業員はなかなか行動に移しづらいですよね。
加えて、社内イベントやセミナーなどの施策は、昨年のものを踏襲する形が多くなると思います。その施策に参加することの重要性や、施策の成果を定期的に発信していかないと、「施策の焼きまわし感」が従業員に伝わってしまい、必要性を感じ取れなくなってしまう恐れがあります。

――たしかに挙げていただいた要因から、従業員は「参加する理由」よりも「参加しなくても良い理由」を見つけやすくなっているのかもしれませんね。

コンサルタント(風間):繰り返しになりますが、やはり従業員の健康への関心および企業の健康経営方針の理解が重要です。健康経営先進企業に最近見られる動きとして、「個人KPIレベルまで落とし込んだ健康経営の推進目標を設定する」というものがあります。
推進目標には例えば、「平均睡眠時間は〇時間以上」「30分程度の運動を週に〇回以上行う」「飲酒は週○日、○○mlまで」「喫煙をしない」などがあり、毎年個人KPIと生産性などを掛け合わせた分析を行っているようです。
そして、推進目標や分析結果を社内外へ適切に発信することで、従業員は健康経営の目標や成果が「自分に近いもの=自分ごと」として捉えることができ、社内の取り組みの意義を理解しやすくなります。加えて、先ほどお話しした「インセンティブ」や「楽しさ」というポジティブな要素を施策に組み込むことで、参加率および将来的な数値改善にもつながってくると思います。

――普段施策を実施する立場として、木浦さんはポピュレーションアプローチの難しさとポイントはどこにあると思いますか?

推進担当(木浦):例えば、「食生活改善」をテーマに施策を実施するにしても、従業員“全員”が食生活について関心があったり、改善の必要性を感じていたりすることはないでしょう。そのため、そもそも各々の施策に対して不必要だと感じる従業員がいるのは仕方がないことであり、また自然なことでもあると思うんですね。
そのため、全社に対して案内はするものの、全従業員が対象にならなさそうな施策に関しては、先ほどの「個別のアプローチ」の考え方で、必要性のある従業員に個別に問いかけて説明し、案内するのが重要だと思います。必要な施策を必要な人に届けるためには、ハイリスクアプローチの手法を組み合わせることが効果的かもしれませんね。

――ポピュレーションアプローチの中でも、“インセンティブやポジティブな感情を与えることで全体に参加を促すことができるもの”と、“従業員の中でも特に参加してほしい人に対して、個別にその必要性を説く形で参加を促すもの”があり、それぞれ施策の範囲や内容に応じて適切に使い分けることがポイントになりそうですね。さらに、健康経営方針への理解が伴っていれば、より効果的かもしれません!

業種別にみる、従業員が課題と感じていることとは

職場環境で自身が感じている課題を聞いたところ、「長時間労働の是正(23.6%)」や「管理職のマネジメント力向上(23.1%)」、「公正な人事評価(21.9%)」の回答が目立ちました。

さらに業種別の回答結果をみてみると、運輸・輸送/教育/流通・小売/宿泊・飲食/出版・印刷業界がとくに「長時間労働是正」への課題を感じていることが分かりました。
また、教育・金融/保険・商社業界では、「メンタルヘルス不調の対応・改善」が多く回答されており、業界特有の課題が垣間見えたほか、業界によって生じる健康課題にも違いがあることがうかがえます。

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【健康経営コンサルタント&推進担当が解説!】

――業界の傾向も含め、自社の本質的な課題を見つけるにはどうすれば良いのでしょうか。

コンサルタント(風間):まずは他社との比較が重要になってくると思います。調査票については、“該当の設問に対し回答企業の何%がチェックをつけているのか”が分かる、マクロデータ(※2)が経済産業省から公表されています。同データを用いて、ホワイト500平均や優良法人平均、業種平均と比較することで、自社の課題を分析・特定することをおすすめします。その後、「良くない結果」をどのように捉えて、何をしていくかを従業員へメッセージとして発信していきます。さらに、メッセージに対して率直なフィードバック(以下、FB)を従業員からもらう姿勢も大事になってきます。
自社にとって都合の良い指標や項目に取り組む「チェリーピッキング」的な健康経営をしてしまう企業は、今後社内外から評価されることはないでしょう。自社の本当の経営課題・健康課題に対して本質的に取り組む企業こそが、従業員・投資家からの信頼を得ることになりそうです。
(※2)経済産業省健康経営度調査結果集計データ

――当社を例に聞きたいのですが、自社特有の健康課題をどのように拾い上げ、取り組みを進めていますか?

推進担当(木浦):当社のここ1年の健康課題のひとつに、「長時間労働」がありました。要因は複数ありましたが、過去に比べると長時間労働になってしまう社員が増加した状況でした。健康課題として拾い上げるというよりも、従業員のストレスチェック結果や勤怠データなどからすぐにわかる事柄のため、データを確認することで健康課題として認識できました。長時間労働は会社の業務に直接紐づく事柄のため、健康経営から直接アプローチするのはなかなか難しいテーマです。そのため、特にこの課題の解決には「経営層の理解」が必須と考えました。そこで、経営層の理解を得るために、先ほど話に上がった通り、マクロデータの分析内容を活用しました。
経営層も長時間労働の状況や、自社の過去の労働時間との比較は分かっていたとしても、他社平均と比べた際の自社の立ち位置までは把握しきれていない部分もあるかと思います。だからこそ、調査票のマクロデータで分析した数値を伝えることが重要でした。
例えば、「ホワイト500の長時間労働の平均値はこのくらいですが、当社はこの値よりも高くなっています。そのため、この程度まで長時間労働を減少させたいです」と、ベンチマークを示しながら経営会議で説明しました。経営層に対して私たちの体感と他社比較から見る現実のギャップを、数値を用いて顕在化し、取り組みの必要性を問いかけることは、企業が健康経営を推進していく上でもはや前提となっていますね。

健康経営の意義発信と、取り組みを形骸化させないポイント

健康経営の取り組みに対する関心度や理解度、必要性など、従業員側のリアルな声を聞いてきましたが、「課題解決のサービス導入や取り組みを実施した場合、積極的に活用/参加したいか?」という問いに対しては、「そう思う」「どちらかというとそう思う」を含めると73.3%が“そう思う”と積極的な姿勢がみられました。

健康経営に対する従業員の実態調査230628グラフ-15

企業が健康経営を推進するにあたり、健康経営の意義発信・社内浸透はもちろんのこと、健康経営実現に向けた網羅的な取り組みおよび健康経営を形骸化させない工夫が不可欠です。取り組みを実施するにあたり、重要なポイントは企業や取り組みの内容に応じて複数あると思いますが、最後に健康経営を推進する上で常に大切な3つのポイントを紹介します。

健康経営に対する従業員の実態調査230628グラフ-16

ひとつずつ詳しく解説していきます。

ポイント① 従業員の健康意識を見定める

健康経営の施策を企画・実行する前に、「自社の従業員はどのような健康意識を持っているのか」を把握することが効果的です。健康への意識は高いものの、なかなか健康習慣をルーティン化できない従業員が多い企業の場合、健康セミナーやeラーニングといった健康について学ぶ施策を中心に実施してもあまり効果的ではないでしょう。健康経営施策をより効果的に実施するためには、その対象となる従業員の特徴を理解することが大切なのです。

<従業員の特徴の捉え方① 健康意識の把握>
まずは「健康に対して興味・関心があるか」や「これから生活習慣を変えたいと思っているか」というような、従業員意識について把握するところから始めてみるのが良いでしょう。ストレスチェックを含む比較的大規模な社内サーベイを実施する際に、健康意識に関連する設問も用意することで、従業員意識に関する調査をスムーズに実施することが可能です。

<従業員の特徴の捉え方② 分析によるタイプ分類>
さらにもう一段上の方法として、「健康への意識」と「行動習慣」を重ね合わせる分析もおすすめです。健康への興味・関心という設問に加え、食生活や運動習慣などの行動習慣についても調査をし、その回答結果をクロス分析させることで、より解像度の高いペルソナを立てることができます。

例えば、株式会社電通が実施した「第15回ウェルネス1万人調査」では、生活者の健康意識・行動をクラスター分析し、以下の7タイプに分類しています。

  • デジタルヘルスケア層
  • 心身ともに健康志向層
  • クラシック健康生活層
  • メンタル不安層
  • 気持ちくらいは前向き層
  • 健康低関心層
  • 何もかも無関心層

このように、従業員の「健康への意識」と「行動習慣」を関連づけて従業員をタイプ分類することができれば、より実態に即した施策の立案および従業員への案内が可能になるでしょう。具体的には、「健康意識が低くかつ生活習慣の改善も必要な従業員には、保健師との面談機会を設ける」や「健康増進への関心はあるものの何から始めれば良いのかわからない従業員には、セミナーやeラーニングを案内する」、「健康習慣が定着しない従業員には、他の従業員と一緒に参加できるイベントを案内する」などのように、それぞれの分類に適した施策を実施できるようになります。
また、タイプの分類は、施策の実施だけでなく、その後の効果検証にも役立てることが可能です。

ポイント② 従業員を惹きつける取り組みの進め方「継続ドライバー」

継続ドライバーとは、“従業員が健康経営の施策に継続的に参加したくなる要素”のことです。この継続ドライバーを意識して施策を実施することで、参加率の向上や従業員の継続的な参加につながります。

<各施策の効果を高める具体的方法>

  • 有形/無形のインセンティブを与える
  • 交流や励まし合いが生まれるコミュニティ環境をつくる
  • ゲーム性のある競争やストーリーで楽しい感情を与える

例えば、当社の人気施策であるウォーキングイベント「あゆみ」では、チームを組んでコミュニケーションを深めてもらう、個人戦・チーム戦で平均歩数を競う、というような工夫を施しています。最近では歩数に応じて会社が寄付をするといった試みも行っています。
このように、各施策の参加率および継続率を高めるために、継続ドライバーを取り入れることも重要なポイントになるでしょう。

ポイント③ 効果検証で従業員の変化を捉え、次の施策へ

最後のポイントは「効果検証」です。各施策の実施により、その前後で何が変わったのかを定量的に見ていきましょう。検証時には、セミナーやイベントの参加後にアンケートを取り、そのアンケート結果をストレスチェックや健康診断などのデータと掛け合わせて参加者の健康状態の変化を確認するなど、多角的に検証することが重要です。
なお、スムーズな効果検証のために、複数稼働しているツールを集約して、1つのプラットフォーム上で分析することをおすすめします。

また、この効果分析に関しては、ポイント①で紹介した、健康意識層の従業員タイプ分類を用いることで、「適切な施策を実施できたか」「本来意図していた施策の効果が従業員に現れたのか」などの分析まで可能になります。「健康セミナーに参加した『健康低意識層』の従業員に意識変容はあったか」「生活習慣づけイベントに参加した『生活習慣を変えたい層』の従業員は行動変容につながったか」というレベルでの効果分析は、健康経営の本質的なPDCAにつながります。
加えて、「ある施策への参加の有無による、健康指標の値の差」を分析することも可能です。参加した方が良好/改善が見られる場合、それを従業員にFBすることで、参加意欲の向上につなげることも狙えるでしょう。

このように各施策を構造立てて分析しつつ、アウトカム指標への関連性のチェックおよび戦略の見直しをしていくことで、より意味のある施策の実施が可能になり、ひいては健康数値の改善を実現できるようになるはずです。

コンサルタント(風間):とはいえ、最初からポイントを踏まえた健康経営の推進は、なかなか大変だとは思いますので、効果的な健康経営を実施できるかどうか不安な方は、是非当社にお気軽にご相談ください。

推進担当(木浦):「誰に健康経営の何を訴求するか」がズレてしまうと、たとえ多種多様な施策を実施したとしても、健康経営を効果的には進めることができないんですね。改めて勉強になります! 当社はこれまでも、従業員の健康リテラシーの尺度や生活習慣など健康経営に関する多くの調査してきました。さらにその調査結果に属性データをクロス分析する形で、全社としてどのような層の従業員がいるかについては分析を進めてきましたが、今後はよりタイプを分解・分類して把握していきたいと思います! 明日にでも相談させてください!笑

コンサルタント(風間):はい、もちろんです!笑

まとめ:本質的な健康経営推進に向けて大切なこと

健康経営は従業員が健康かつモチベーション高く仕事に取り組んでもらうことを目的としており、健康経営の実現は、企業にとってポジティブな効果をもたらします。一方で、健康経営に対する受け止め方や考え方は従業員一人ひとり異なるため、健康経営の推進は一筋縄ではいきません。そういった中で、まずはやれる範囲の取り組みをしっかりやり切ることが大切です。そして試行錯誤を繰り返しながら、従業員と企業、ひいては社会にとって良いものを生み出す素晴らしい取り組みにしていきましょう。

<コンサルタント:風間より一言>
健康経営に取り組むことが、従業員だけでなく、取り組む企業にとってもメリットが大きいことは、研究レベルでも徐々に明らかになっています。そのため、形式的ではない本質的な健康経営の推進が望まれるわけですが、今回お話しした内容を実施できている企業はとても少ないのが現状です。もちろん、いきなり全てを完璧に取り組むことは難しいでしょう。“調査票の提出時期に健康経営推進者が不健康になる”というような冗談も、もう言いたくありません(苦笑)。まずは、やれる範囲の取り組みを一つずつしっかりやり切ることが大切です。これからも健康経営のコンサルタントとして情報提供やコンサルティング等の支援を続け、本質的な健康経営を推進される企業が少しずつでも増えていくことに寄与したいと考えています。

<推進担当:木浦より一言>
当社の健康経営推進担当として、より効果が出るような戦略・作戦を考え、ポピュレーションアプローチ・ハイリスクアプローチを組み合わせながら施策を実施しています。ただ、正直「なかなか思った通りに結果は出ないものだな」と感じていますね。そのため、世の企業の健康経営を推進されている方の苦労もよくわかります。一方で、健康経営は従業員と企業、ひいては社会にとって良いものを生み出す素晴らしい取り組みだとも、強く思っています。これからも地道にひたむきに、試行錯誤を繰り返していきたいですね。同じように健康経営を頑張っている他の企業の皆さんとともに、健康でいきいきと働ける世の中を作っていけたらと思います。

健康経営の推進をサポート! アドバンテッジリスクマネジメントのサービス

人事労務関係のデータを集約し、 そこから見える組織・従業員個人の全体像を把握、最適な施策実行と効果分析まで網羅的に導くプラットフォームサービス「アドバンテッジ ウェルビーイング DXP

健康的で働きやすい職場づくりをサポートするため、専門のコンサルタントが、健康経営度調査の作成にあたりカギとなる「推進計画」の土台づくりを支援する「アドバンテッジ健康経営支援サービス」。
従業員のヘルスリテラシー向上を目指す施策の策定、推進にもご活用いただけます。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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