メンタルタフネス度向上研修によって従業員にどのような変化がみられたか―IT・情報通信業の1企業における効果検証_アイキャッチ

メンタルタフネス度向上研修によって従業員にどのような変化がみられたか―IT・情報通信業の1企業における効果検証

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中川紗江
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 調査研究部 研究員

近年、法改正や健康経営の推進により職場のメンタルヘルス対策に取り組む企業が増加傾向にあると同時に、各企業が抱える課題の解決に重要な役割を果たす心の健康関連サービスも多様化しつつあります。サービス導入を検討している企業にとっては選択肢が増えるのは望ましいことである一方で、自社の状況に合ったサービスを選択するために、情報を集めることがより困難になってしまっているケースも見受けられます。

今後はいっそう、サービス提供事業者には需要側である企業が知りたい情報について、たとえばサービスの効果や信頼性を保証するための情報などを開示していくことが求められるでしょう。そのためには、科学的知見に基づいた検証計画に沿って当該製品やサービスの効果を測定し、加えてエビデンスを対外的に示していくことが求められるのではないでしょうか。

したがって、株式会社アドバンテッジリスクマネジメント(以下ARMとする)が提供している研修などのソリューションについても、その効果を改めて実証的に調べることで一定の品質や信頼性を確保する必要性があります。本記事では、昨年度ARMで実施した効果検証の一事例をご紹介します。

心の健康関連サービス産業における課題や、サービス提供の際に重要となる開示事項については、「職域におけるメンタルヘルス関連サービスの選び方と情報開示の重要性」で詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。

研究の概要

本研究では、国内のIT・情報通信業分野の1企業における従業員98名を対象に、研修前と研修後、および研修後から約1か月後のフォローアップの計3時点で調査を実施し、研修効果を検討することを目的としました。これにより、「職域における心の健康関連サービス活用に向けた研究会1)」の提言における心の健康関連サービス全般に求められる開示項目のうち、「期待される効果」「サービス導入後の有用性評価」「専門家による品質担保」を明らかにしました。

効果検証のターゲットとなる研修

本研究は、当社が提供するソリューションの一つである「メンタルタフネス度向上研修」の効果を測定するために実施されました。

この研修は、認知行動療法の理論に基づいて開発されたプログラムであり、ストレスに対する強さや耐性の測定が可能な当社独自の指標であるメンタルタフネス度(詳細は後述)の改善を通じて、ストレス対処力の育成を導きます。実施形式は集合型研修もしくはオンライン研修であり、いずれも研修時間は3時間です。

メンタルタフネス度向上研修は、図1のように大きく分けて3つのステップから構成されています。

メンタルタフネス度向上研修の流れ
図1 介入プログラムの内容

なお、今回の効果検証では、先行して研修を受講する介入群と、検証期間終了後に研修を受講する待機群の2グループに対象者を振り分けました。参加者が研修を受講するタイミングについては、各自の業務状況などに合わせて希望制による振り分けとなったため、非ランダム化比較試験デザイン2)と呼ばれる方法でのグループ比較となりました。

調査項目

本研究では、当社のパルスサーベイツールであるアドバンテッジ ピディカ(以下ピディカとする)を通じてメンタルタフネス度の測定を行いました。

先の研修概要において少し触れたように、メンタルタフネス度とはストレスに対する強さや耐性を測定することが可能な当社独自の指標です。Lazarus & Folkman(1984)のコーピング理論をもとに開発され、「ものごとの受け止め方(認知)」と「反応としての行動」を工夫することで、ストレス要因から受ける影響をコントロールするためのスキル、すなわちストレス対処スキルを測定します。「仕事における自己認識」「プラスの認知・行動」「マイナスの認知・行動」の3領域、11因子から構成されています(表1参照)。

メンタルタフネス度の因子一覧
表1 メンタルタフネス度の因子一覧

メンタルタフネス度は性格ではなくスキルであり、開発・向上が可能なものと位置づけられています。したがって、これらの因子の中でも特に「プラスの認知・行動」を増やし、「マイナスの認知・行動」を減らすことで、メンタルタフネス度を高められる可能性があります。

また、先行して研修に参加した介入群に対しては、研修の満足度や理解度、研修で学んだ内容の活用場面などを尋ねる研修後アンケート調査もあわせて行いました。

効果検証の流れ

効果検証は2025年9月から11月にかけて、次のような流れで行われました。(図2)

効果検証の流れ 介入群と待機群の違い
図2 効果検証の流れ

今回の効果検証では、研修前と研修後、および研修後から約1か月後のフォローアップの計3時点でメンタルタフネス度を測定し、介入群には研修終了後に研修後アンケート調査も実施しました。また、効果検証への参加同意は、初回のメンタルタフネス度調査時に取得しました。

結果

本研究では効果検証への参加に対し同意を得られた98名に対し、メンタルタフネス度調査および研修後アンケート調査(自由記述形式の回答を含む)を実施し、定量・定性の両面から研修効果の検討を実施しました。

メンタルタフネス度調査の分析結果

メンタルタフネス度調査の分析においては、効果検証への参加同意が得られた98名のうち管理職19名を除外した79名(介入群51名、待機群28名)を対象に、研修前(1回目)・研修後(2回目)・フォローアップ(3回目)の3時点において各因子の偏差値比較を実施しました。
その結果、プラスの認知・行動因子の「前向きに考え直す行動」「問題解決行動」では、待機群のスコアは2回目の調査で一時的に低下した一方で、介入群のスコアは1回目から3回目にかけて上昇傾向を示しました(図3)。したがって、本研修はメンタルタフネス度の因子の中でも特にプラスの認知・行動の改善に一定の効果を示すことが明らかとなりました。

介入群と待機群のメンタルタフネス度の各因子におけるスコアの変化
図3 メンタルタフネス度の各因子におけるスコアの変化

一方で、複数の因子においては、研修前の1回目調査の時点で介入群と待機群のスコアに差が見られました。今回の検証では、参加者の業務状況などを考慮しながら希望制によるグループ分けを行ったため、介入群に対しては研修を受講する直前に1回目調査への回答を求める形となりました。したがって、メンタルタフネス度の学習に向けたモチベーションが高まっている状態で回答した結果、介入群の方が初回調査のスコアが高くなったのかもしれません。

研修後アンケート調査の集計結果

研修後アンケート調査の集計では、介入群51名のうち回答を得られた49名のデータを対象としました。

最初に、研修に対する満足度および理解度についての回答を求めたところ、研修全体についての満足度は、「満足(38.8%)」と「やや満足(53.1%)」を合わせると、参加者の9割以上の方が満足したと回答していました。次に研修内容の理解度については、「よく理解できた(42.9%)」と「ほぼ理解できた(53.1%)」を合わせると、こちらも全体の9割以上の方が理解できたと回答しています。
続いて、「この研修は、仕事に役立ちそうだと思いますか」という質問に対する回答は、図4の通りでした。「とてもそう思う」「ある程度そう思う」の回答を合わせて、参加者の8割を超えました。

「この研修は、仕事に役立ちそうですか」という質問に対する回答結果
図4 「この研修は、仕事に役立ちそうですか」という質問に対する回答結果

「この研修で、今後の改善・向上につながる気づきや学びを得られましたか」という質問では、全体の9割弱の参加者が「とてもそう思う」「ある程度そう思う」と回答しており(図5)、実際に『研修で得られた気づきや学びを活用できそうな場面』についても自由記述形式で尋ねた結果、以下のような回答が得られました。

「この研修で、今後の改善・向上につながる気づきや学びを得られましたか」という質問に対する回答結果
図5 「この研修で、今後の改善・向上につながる気づきや学びを得られましたか」という質問に対する回答結果

・ 仕事でミスやトラブルが発生した場面
・ 自身のストレスが溜まってきたと感じたとき
・ ハードルの高い仕事や、自身の処理能力だけでは対処困難な状況に直面したとき
・ 逆境に立たされたとき
・ イライラしているとき
・ マイナス思考に陥りそうなとき
・ 業務において上長や同僚との人間関係が重要となる場面

一方で、これから改善を目指したいメンタルタフネス度の因子については、「前向きに考え直す行動」と回答した人が25人と最も多く、全体の半数以上を占めました(図6)。

改善したいメンタルタフネス度の因子についての図
図6 改善したいメンタルタフネス度の因子について

理由としては、「自分に一番足りていないと思うため」「事前の調査でスコアが低い傾向にあったため」「ネガティブに考えがち・悪い方に考える癖があるため」といった回答が得られました。

この結果と、メンタルタフネス度調査において「前向きに考え直す行動」のスコアが調査の回を重ねるごとに上昇傾向を示したことを踏まえると、改善すべきであるという問題意識が受講者自身にあることによって望ましい方向への行動変容が生じ、メンタルタフネス度のスコア上にも変化が表れるのではないかと考えられます。

他にも、「気分転換行動」や「相談行動」を改善したい因子として選択した受講者も見受けられ、全体の8割以上がプラスの認知・行動の因子の改善を求めていることが明らかとなりました。

まとめ

今回は、ARMが提供するメンタルタフネス度向上研修に関する効果検証の事例をご紹介しました。

■ 国内IT・情報通信業の1企業の従業員を介入群と待機群の2グループに分け、メンタルタフネス度向上研修の前後およびフォローアップ時点のメンタルタフネス度を比較することで、研修の介入効果を検証しました。
■ メンタルタフネス度調査の結果を分析したところ、介入群においては「前向きに考え直す行動」と「問題解決行動」のスコアが調査を重ねるごとに上昇し、この研修がメンタルタフネス度の因子の中でも特にプラスの認知・行動の改善に一定の効果を示すことが明らかとなりました。
■ 研修で得られた気づきや学びを活用できそうな場面としては、ミスやトラブルが発生したときや仕事で対処困難な状況に直面したとき、上長や同僚との人間関係が重要となるときなどが挙げられました。
■ 受講者の半数以上がメンタルタフネス度の改善したい因子として「前向きに考え直す行動」を挙げるなど、全体の8割以上がプラスの認知・行動の因子の改善を求めていることが分かりました。

本事例が、心の健康関連サービスを検討されている企業や担当者にとって、導入検討時の一助となれば幸いです。

脚注
1)この研究会は、健康経営を推進する企業、心の健康関連のサービス提供事業者、学識者等とともに設置されたものであり、従業員支援プログラム(Employee Assistance Programs;以下EAPとする)およびデジタルツールを用いたメンタルヘルスサービス(Digital Mental Health;以下DMHとする)に着目して、企業が心の健康関連サービスを選択するために必要な情報開示項目の整理や、サービスの選択を支援するためのツールのプロトタイプを開発・検証を行うことを目的としている。

2)非ランダム化比較試験とは、対象者を無作為に割りつけるのではなく、研究者の判断や参加者の希望などを元に群分けを行った上で、介入群と対照群(本検証では待機群が対照群に該当)を比較する研究デザインのことを指します。

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【筆者プロフィール】

中川紗江
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 調査研究部 研究員
ストレス科学・産業組織心理学・精神生理学が専門。嘱託・非常勤講師として同志社大学心理学部その他多数の大学・専門学校で心理学関連の講義および実習を担当(2015年4月~2018年2月)。また、京都府立医科大学神経内科および滋賀医科大学脳神経外科学講座で心理士として認知症患者を対象とした知能検査を担当(2009年4月~2018年2月)。分担執筆「感情制御ハンドブック」(2022年刊行)北大路書房

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