「セルフモニタリング」とは?ストレスを見逃さないための気づきと理解を深める技法

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新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に伴って各企業におけるリモートワークが進みつつある昨今、従業員の健康維持のためにセルフケアの重要性がより高まりつつあります。以前、「【ストレスと上手に付き合うための認知的評価とコーピング:理論編】」においてストレスと上手に付き合っていくためには自分に合ったコーピング(ストレス対処)を知り、そのレパートリーを増やすことが有効であることをご紹介しました。

しかしながら、ストレスというものは極めて個人的な体験であり、きっかけとなる出来事(ストレッサー)もその程度も人によって異なります。また、ストレスは就職、結婚などのライフイベントによって引き起こされることもあり、明らかな精神的苦痛を伴うものだけとは限りません。

日常的に経験する些細なストレッサーによって生じるストレスもあれば、自分ではそうとは気づかないうちに実はストレスを抱えていたという可能性もあります。したがって、わたしたちが適切なストレスマネジメントを行うためには、まず自身が直面しているストレッサーやストレス反応を理解することが不可欠です。

そこで、本記事では自身の認知や行動について客観的な気づきをもたらすための技法である「セルフモニタリングSelf-Monitoring)」について取り上げます。

セルフモニタリングとは

セルフモニタリングとは、スナイダー(1974)によって、「周囲の状況や他者の行動に基づいて、自己の行動や自己呈示(自分をより良く見せようという意図に合わせた振舞いをすること)が社会的に適切であるかを観察し、自己の行動をコントロールすること」と定義されています。

たとえば、以前は問題なく着ていた洋服のウエストがきつくなったという状況から自身が太ったことに気づき、健康のために食生活を見直してみる、といった日常生活における行動変容もセルフモニタリングによるものと言えるでしょう。

このように、わたしたちは普段からあまり意識することなく簡便なセルフモニタリングを行っていますが、セルフモニタリングは認知行動療法における技法の一つにも取り入れられており、一連のプロセスに意識して取り組み習慣化することで、より効果的なストレス介入や望ましい行動変容が期待できます。

セルフモニタリングの方法

では、ストレスマネジメントをより意識したセルフモニタリングを行うにあたり、具体的には何をすればいいのでしょうか。ここでは、セルフモニタリングのやり方についての一例をご紹介したいと思います。最初に、あなたの日常生活を振り返り、ストレスの原因となりそうな出来事がなかったかどうか思い出してみてください。

どんな些細な出来事でも構いません。むしろ、これくらい別に大した事ではない、と自分では思っているような出来事が思わぬストレッサーとなっている可能性もあります。少しでもモヤモヤしたり引っかかったりしたような出来事があれば、どうしてそう感じたのか原因まで遡ってみると良いでしょう。

ここで最も重要なのは、自分がどのようなストレス体験をしているのかに「気づく」ことです。

次に、ストレス体験の概要を整理出来たら、その中身について細かく分解し、書き出していきます。このとき、大きく分けて5つの視点から観察を行うように心がけてください。

1. ストレスが生じる状況(ストレッサー)
2. ストレスが生じた時に頭に浮かんだ考え
3. ストレスが生じた時の気分・感情-
4. ストレスが生じた時の身体反応
5. ストレスが生じた時の行動

 
セルフモニタリングは、ストレスが生じる状況(ストレッサー)とストレスが生じた時のさまざまな反応に対して行います。注意点は、「具体的」かつ「客観的」な事実を抜き出すことです。

では、以下のストレス体験の例について観察してみましょう。

例)Aさんは、三か月前から会社で新しいプロジェクトを任され最初は張り切っていたが、近ごろは思うように進まず内心焦っている。誰かに相談したくても上司も同僚も皆忙しそうだし、こんな些細な事で相談しても良いものかと思うとなかなか相談出来ずにいる。もっとちゃんとやらないと、と思うのにそのプロジェクトのことを考えると憂うつな気分になり、頭痛がしたり胃がキリキリと痛んだりする。また、寝つきが悪くなったので、寝る前にお酒を飲むことが増えた。

ストレッサーに該当しそうなものとしては、以下のような内容が挙げられます。
・三か月前から会社で新しいプロジェクトを任された
・近ごろは思うようにプロジェクトが進んでいない
・周りの人になかなか相談できない

なお、「上司も同僚も忙しそうだ」というのは、現時点ではあくまでもAさんの主観であるため取り除き、客観的な事実のみを記述します。続いて、「頭に浮かんだ考え」、「気分・感情」、「身体反応」、「行動」についても同じように観察します。

・頭に浮かんだ考え…「もっとちゃんとやらないといけないのに」「こんなことでは全然ダメだ」「自分はこの仕事に向いていないのかもしれない」
・気分・感情…「焦り」「憂うつ」「不安」「イライラ」
・身体反応…「胃がキリキリ痛む」「寝つきが悪い」「頭痛」
・行動…「寝る前にお酒を飲む」

ストレッサー

図1 セルフモニタリングの結果を整理したもの

このようにストレス体験を細かく書き出し整理することで、自分がどのような状況でストレスを感じやすいのか、またストレスが生じた際は自身にどういう変化が生じるのか、などの傾向を客観的に理解することが出来ます。ただし、最初から全ての要素を詳細に書き出すことは困難です。

まずは自分からも他人からも観察可能な「行動」から振り返ってみることから始めてみましょう。

睡眠問題の改善におけるセルフモニタリングの活用

ストレス対策におけるセルフモニタリングの活用について、先述のセルフモニタリングの方法において「寝つきが悪い」「寝る前にお酒を飲む」など睡眠関連のストレス反応が挙げられていたことをふまえ、今回は従業員の生産性を高めるために企業が解決すべき課題の一つでもある睡眠問題に対するセルフモニタリングの効果を調べた研究をご紹介します。

トッドとミュラン(2014)は、セルフモニタリングが睡眠衛生行動(睡眠の質や量を向上させるための行動)を増やすかどうかを検証するため、大学生190名を対象に実験しています。まず、対象者を3つの群、すなわち(1)睡眠日誌を用いてセルフモニタリングを実施する群、(2)(1)に加えて反応抑制トレーニング※1を実施する群、(3)対照群のいずれかに無作為に割り当てました。

睡眠日誌および対照群が毎日記入したアンケートは以下の通りです。

図2 トッドとミュラン(2014)のアンケートの内容

実験で評価したアウトカムは、3つの睡眠衛生行動指標(寝室や睡眠環境を安らかにする、空腹やのどの渇きを感じたまま寝ることを避ける、寝る前に不安やストレスを引き起こすような行動を避ける)の頻度の自己報告で、実験前後の2回測定しています。

その結果、(1)および(2)のセルフモニタリング実施群は対照群に比べて、寝る前に不安やストレスを引き起こす行動を1週間の内で平均0.8日多く避けていました(効果の大きさを表す指標[d = .42]では、小、中、大の内中程度に該当)。セルフモニタリング実施群である(1)と(2)の間に差はみられず、セルフモニタリングに追加の反応抑制トレーニングの効果は確認されませんでした。


これらのことから、睡眠日誌をつけるなどのセルフモニタリングをするだけでも、自己の睡眠パターンを客観的に把握することが可能となり、寝る前に不安やストレスを引き起こす行動を避けるといった睡眠衛生行動の改善に繋がる可能性が示唆されました。

まとめ

本記事では、自己の認知や行動に対する客観的な気づきを得るために有効なセルフモニタリングの方法や、睡眠問題に対するセルフモニタリングの効果についてご紹介しました。セルフモニタリングは誰でもすぐに始めることができ、また、繰り返し行うことによって自身のストレス反応のパターンを把握しやすくなるため、セルフケアの実践においても有効な手段であると考えられます。

ストレス対策の一つとして、セルフモニタリングに取り組んでみてはいかがでしょうか。

脚注
※1目標指向的な睡眠衛生行動(例 寝室や睡眠環境を安らかにする)を実行するためには、個人にとって支配的もしくは好ましい反応(携帯電話をベッドに持っていく、テレビをつけるなど)を抑制する必要があり、先行研究でも反応抑制が大学生の睡眠衛生行動を有意に予測することや反応抑制トレーニングの実践が健康行動を改善することが報告されています。

トッドとミュラン(2014)では、反応抑制トレーニングとしてコンピューターを用いたGo/No-go課題を実施しています。Go/No-Go課題では、スクリーン上に赤と緑の水平または垂直の長方形が順番に表示され、赤い長方形が表示された試行では素早く反応し(Go)、緑の長方形が表示された試行では反応しない(No-Go)よう求められ、1日あたり250回の試行を行いました。

引用文献
Snyder, M. (1974). Self-monitoring of expressive behavior. Journal of personality and social psychology, 30, 526-535.
Todd, J., & Mullan, B. (2014). The role of self-monitoring and response inhibition in improving sleep behaviours. International Journal of Behavioral Medicine, 21, 470-477.

参考図書
熊野宏昭・伊藤絵美・NHKスペシャル取材班 監修 (2017) 「キラーストレス」から心と体を守る!マインドフルネス&コーピング実践CDブック 主婦と生活社出版

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【筆者プロフィール】

中川紗江
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 調査研究部 研究員
ストレス科学・産業組織心理学・精神生理学が専門。嘱託・非常勤講師として同志社大学心理学部その他多数の大学・専門学校で心理学関連の講義および実習を担当(2015年4月~2018年2月)。また、京都府立医科大学神経内科および滋賀医科大学脳神経外科学講座で心理士として認知症患者を対象とした知能検査を担当(2009年4月~2018年2月)。

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