認知行動療法の効果とエビデンス1

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新設国家資格の公認心理師時代に入り、我が国においても科学的で効果的な心理支援の実践が求められています。その際のキーワードとなるエビデンス・ベース・プラクティス (EBP、エビデンス=科学的根拠に基づく支援実践) を念頭に置きながら、メンタルケアの心理支援におけるエビデンスについて考えます。

心理療法のエビデンスとは

臨床心理におけるエビデンスとは、Iという介入 (Intervention、例えば50分16回のうつ病の認知行動療法の支援) によって、Oという結果 (Outcome、例えば職場復帰ができる) が得られるだろうという関係性 (効果) についての科学的な根拠の事です。

ここで難しいことは、一見効果があるように見えても、それがプラセボ効果*1時間的変化*2、平均への回帰*3など、I以外の要因に基づく場合があることです。したがって、Iという介入による本当の効果だけを取り上げてエビデンスを検討しなくてはなりません。このことは次に述べる研究の質に関係します。

EBPと研究の質

アメリカ心理学会 (APA) (2006) によれば、エビデンス・ベース・プラクティス (EBP) とは「クライエントの特性、文化、選好に照らし最善の利用可能な研究成果を臨床スキルと統合する」事と定義されます。医療分野でのムーブメントに触発され、臨床心理の分野でもこの20年間で世界的にEBPが広がりを見せてきました。

ここで重要なことは「最善の利用可能な研究成果」は質の高い研究から生み出されるということです。一般的に臨床心理支援の研究法は6種類に分類されます。

研究法によってエビデンスの階層があり、質の高い順に並べると1) システマティックレビュー(ランダム化比較試験など特にエビデンスの質の高い研究を整理・統合した総説論文)、2) 個別のランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)、3) 準実験、4) 観察研究、5) 事例研究、6) 専門家の意見となります。

6) から順に見ていきましょう。6) 専門家の意見は一見良さそうですが、データに基づかないと人間個人の思い込みによるバイアスが発生しやすくなります。

5) の事例研究は、特定のクライエントへの介入事例を研究し効果を検討するものです。日本では盛んで、仮説構築には良いかもしれませんが、EBPの観点からは外的妥当性(研究対象以外にも一般化できる可能性)が低いと考えられます。

4) の観察研究は、介入を行なわず観察だけを行う研究です。例えば、現在ストレスが非常に高い人が今後うつを発症するかを将来に向かって観察するといった「コホート研究」や、逆に現在適応障害で休職している人の過去の業務特性を調査するといった「ケースコントロール研究」があります。これらも、「時間的変化」や「平均への回帰」などの問題があります。

3) の割り当てがランダム化されていない準実験もエビデンスの質としては十分でありません。

ランダム化比較試験 (RCT)

いよいよ2) 個別のランダム化比較試験 (RCT) ですが、ここまでくるとかなりエビデンスの質が高まります。RCTは臨床研究での黄金律とされ、参加者を介入群 (心理支援をする群) と比較する対照群にランダムに割り付けます。

なぜランダムな割り付けが必要かというと、介入I (例:認知行動療法による支援) 以外の要因がアウトカムO (例:職場復帰できる) に与える影響*4を最小限にし、介入IのアウトカムOへの真の効果を検討できるようにするためです。

先ほどのうつ病の職場復帰の例では、手厚い休職規定がある (例えば、休職の上限期間が長い、長期休業補償が手厚い) という要因が、職場復帰に影響を与える可能性もあります。もし、介入対象者を多様な企業からランダムに割り付けられれば、その影響を減少させることができるわけです。

PICOとは

RCTでは、研究で効果を知りたい仮説をPICOと呼ばれる内容で設定します。PはParticipant (参加者) 、IはIntervention (介入) 、CはComparison (比較対照) 、OはOutcome (結果) の略です。

先の例では、P (うつで休職中の企業社員) に対し、I (認知行動療法の16回) の介入をした場合、C (精神分析の介入をした社員) と比較して、O (職場復帰) の効果が高いという仮説を検討します。

このPICOの設定からも解るように、認知行動療法に効果があるというエビデンスは、全般的なものではなく、特定の対象者、特定の比較対象、特定のアウトカムをセットにした形で検討されるものです。なお、比較対象には他の心理療法だけではなく、投薬治療、通常の治療 (Treatment as Usual) 、プラセボなど様々あります。

これまで多かった介入待機群(waiting list)を対照とする事は期待効果などのために質が低いとされる傾向にあります。Outcome (結果) も、疾患の寛解診断、尺度得点 (うつならSDSなど) 、生産性、QOLなど色々考えられます。RCTでは介入の効果の量を統計的に計算し、効果の大きさを検討することができます。

Cohenのdなどの標準化平均差 (SMD) や、リスク比率などが一般的ですが、少々専門的なため説明は省略します。効果量の計算は日本ではまだ少ないようですが、世界の一流学会誌では、有意性 (偶然ではなく統計的に意味のある差があること) だけでは不十分で、効果量を記載しないと論文が掲載されないと言われています。

またRCTであっても各研究の質評価は重要で、色々な評価のチェックリストがありますがCONSORT*5などが著名です。

まとめ

認知行動療法の効果エビデンスを検討するには研究法が大変重要で、特にランダム化比較試験 (RCT) は黄金律とされます。またエビデンスとは、特定のPICOの状況でどのようなクライエントに対しどのようなアウトカムをもたらす効果があるかの根拠を意味します。

次回はエビデンスに関する最強の研究法である1) システマティック (系統的) レビューを概観し、認知行動療法のメンタル疾患に対する高い効果について見ていきます。

引用文献および参考文献
1) American Psychological Association Presidential Task Force on Evidence- Based Practice. (2006). Evidence-based practice in psychology. American Psychologist, 61,271-285.
2) Torgerson, D. J., & Torgerson, C. J. (2008). Designing randomised trials in health, education and the social sciences: an introduction. Springer. (D. J. トーガーソン・C. J. トーガーソン 原田 隆之・大島 巌・津富 宏・上別府 圭子 (2010). ランダム化比較試験 (RCT) の設計 ヒューマンサービス、社会科学領域における活用のために 日本評論社)
3) 丹野 義彦 (2015). 臨床心理学 (New Liberal Arts Selection)  有斐閣 
4) 原田 隆之 (2015). 心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門  金剛出版

脚注
*1 偽の介入にもかかわらず、期待により発生する効果のこと。
*2 時間経過による環境変化や自然治癒など。
*3 尺度のスコアなどが平均に近づいていく統計的現象。
*4 介入I以外の要因がアウトカムOに与える影響のことを、専門用語で交絡と言います。なお、交絡の小さい状態を内的妥当性が高いと言います。
*5 国際的に広く活用されている研究報告の統合基準。ランダム化比較試験に関する基準も含まれています。

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【筆者プロフィール】

奈良元壽
帝京平成大学 健康メディカル学部 臨床心理学科教授
早稲田大学法学部卒業。米国ノースウェスタン大学経営大学院ケロッグスクール修了(MBA)。筑波大学大学院カウンセリング修士課程修了。早稲田大学大学院 人間科学研究科 後期博士課程(臨床心理学)中退。1993年(株)フォーサイトを創業し代表取締役。日本の先駆けとしてEAP、認知行動的カウンセリング、コーチングなどに取り組む。2009年、(株)アドバンテッジリスクマネジメント(現東証一部上場)との合併に伴い、同社執行役員(カウンセリング部門、研究開発部門、組織コンサルティング部門担当)、アドバンテッジ心理学総合研究所代表を兼務。2015年 帝京平成大学(池袋) 健康メディカル学部 臨床心理学科教授、現在 同学科長。早稲田大学、白百合女子大大学院 非常勤講師。公認心理師、社団法人公認心理師の会 産業・労働・地域保健部会委員

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