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パワハラの”根本的原因”を解決する管理職教育とは?

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2020年6月に「パワハラ防止法」が施行されました。法施行という社会的な動きがあったことで、パワハラへの意識が高まっている様子がうかがえます。
2022年4月には中小企業にも対象が拡大し、ますます関心が高まることでしょう。

しかしながら、パワハラ防止教育を実施していても「パワハラが改善につながっている実感がない」「行為者にパワハラをしている自覚がない」などと悩まれる企業のご担当者のお声も多く挙がります。行為者となり得る管理職に自覚を持ってもらうためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。

※本記事は、9月27日に当社が実施したセミナー「パワハラの”根本的原因”を解決する管理職教育とは?」の内容(一部)を編集して配信しています。

後編はこちら

パワハラ対策への取り組み状況や企業の課題感

当社アドバンテッジリスクマネジメントが人事労務担当者向けに実施した調査(2021年5月実施)によると、2020年6月に法施行対象となった企業は、約7割がパワハラ対策を計画的に実施していると回答していました。そのうち2割以上が「十分に実施できている」としており、企業におけるパワハラ対策はおおむね順調に進んでいることが、うかがえます。

2020年度、2022年度のパワハラ対策の実施度に関するアンケート結果

あかるい職場応援団」には、「ハラスメントの7つの対策」が掲げられていますが、本記事では、そのうちの一つ「教育をする」にフォーカスしてお伝えします。

いわゆる「パワハラ防止指針」においては、企業に義務づけられるパワハラ防止措置10項目と、パワハラ防止のために行うのが望ましい取り組み4項目があります。

後者では、「コミュニケーション活性化・円滑化のための研修等」が挙げられており、
・日常的なコミュニケーションや定期的な面談実施
・感情をコントロールする手法についての研修
・コミュニケーション・スキルアップについての研修
・マネジメントや指導についての研修

について記載されています。

しかし、当社が実施した調査では、これらの研修を実施したという割合は半数以下にとどまり、啓発系の研修と比較し、まだ取り組みが進んでいないことがわかります。

パワハラ防止のために実施していることの割合

また、パワハラ問題における課題では「行為者にパワハラをしている自覚がない」が最も多く挙げられ、2年連続でワーストとなりました。行為者への教育、行動変容はハラスメント問題の立ちはだかる壁といえるのではないでしょうか。

研修講師が語る!
パワハラの根本的原因にアプローチする管理職教育とは

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 研修講師米田 久美子

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 研修講師
米田 久美子(よねだ・くみこ)

九州大学法学部法律学科卒業後、放送局に勤務。
2008年よりEQ理論をもとにした採用育成プログラム提供会社に入社し、2010年株式会社アドバンテッジリスクマネジメントに移籍し、現在に至る。
2020年はオンライン研修のプログラム開発や講師育成にも従事。

実際に、パワハラ行為者になってしまった方と個別面談をすると、本人には悪気がなく、「こんなこともハラスメントになるの?」と驚かれるケースも少なくありません。こうした気づきも大きな一歩ではありますが、パワハラ防止教育においては、啓発系や知識付与型の研修には限界があると考えています。

ハラスメントの問題をなくしていくために

「ハラスメント防止には、風通しの良い職場をつくることが大切」といわれることがあります。では、「風通しの良い職場」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。年齢や役職に関係なく思ったことが言える職場、良い報告だけではなく悪い報告も言いやすい職場、「心理的安全性」の高い職場・・・これらを総じて、「コミュニケーションが活発であり、かつその質が良い」ことがキーワードになるといえるでしょう。

では、どのようなコミュニケーションが必要なのでしょうか。

「道具的コミュニケーション」と「自己充足的コミュニケーション」

コミュニケーションは、主に「道具的コミュニケーション」と「自己充足的コミュニケーション」に分けられます。「道具的コミュニケーション」とは、目的達成のために相手を動かしたいとき、その目的を達成するために使われるコミュニケーションです。

「●日までに資料を作ってほしい」や、「●件アポイントを取ってほしい」などがその例です。職場ではよく「道具的コミュニケーション」が発揮されています。そしてもう一つの「自己充足的コミュニケーション」は、相手を動かすためではなく、コミュニケーションを行うこと自体に目的が置かれているものです。

例えば、「最近調子はどう?」といったものです。特に管理職の皆さんにおいては、こうしたコミュニケーションを使い分けることが大事といえるでしょう。しかし、これらのコミュニケーションにはメリット・デメリットがあるので注意が必要です。

■道具的コミュニケーション
メリット:物事を動かしやすい
デメリット:風通しが悪くなる可能性や言い方ややり方によってハラスメントになる場合がある

■自己充足的コミュニケーション
メリット:良好な人間関係構築に有効
デメリット: 仕事が進みにくくなったり、ハラスメントの「個の侵害」に該当してしまったりする場合がある

いかがでしょうか?
指導のつもりだった、訴えられることはしていない・・・など、自分にとっては「コミュニケーションのつもりだった」という場合でも、伝え方ややり方によって受け手にハラスメントであると認定されてしまう可能性が潜んでいるのです。

ハラスメント行為者の気づきを促すために

ハラスメント行為者と面談をすると、その人が自分でも意識できていなかった考えに気づくことがあります。ハラスメントの状況をひもとくと、100%無垢(むく)な気持ちで悪気なく行ったものではなく、潜在的に「相手より自分の方が上の立場である」「相手より自分の方が正しくありたい」「こうであるべきだ」といった気持ち、業務上のプレッシャーによる焦りやイライラが含まれていることが、ほとんどです。

パワハラ行為者が、自身の「無自覚」にとってしまった問題言動があることを知り、行動を改善していくことが必要なのです。

管理職の皆さんは、プレイングマネジャーとして活躍されている人が多く、自身の業務に追われるなかで、部下とのコミュニケーションも推進しなければなりません。そのようななか、自分の潜在的な気持ちに気づかず、焦りがある状態でコミュニケーションを取ろうとすると、成果をつかみとるどころか、足を引っ張ってしまうことにもなりかねません。

このように、理想のイメージと現実との大きなギャップを是正するためにも、管理職が自身の無自覚な気持ちに気づき、行動を改善していくことが大切です。

無自覚の偏見=アンコンシャス・バイアスとは?

あなたは、「アンコンシャス・バイアス」という言葉を聞いたことがありますか。アンコンシャス・バイアスとは、先入観や思い込みによって偏った見方をしてしまうことを指します。自分自身では気づかない無意識の偏見であり、特に女性や若者、マイノリティー(少数派)に対して現れやすい現象ですが、身近な場面でもよく見られるものです。

例えば、「12時に待ち合わせてランチに行きましょう」というとき、あなたはいつ到着しますか。5分前、もしくは時間ぴったりでしょうか。あるいは5分過ぎ、といった方もいらっしゃるかもしれません。あなたにとって「普通」と思っていたことは、他の方にとっては「普通」ではないかもしれません。

まずはその状態に気づくことが重要なのです。同じように、自分にとっては「普通」のことで、よかれと思って言ってしまったことが、受け手にとっては違和感や不快感がある、ということも考えられます。ハラスメントの問題には、往々にして「アンコンシャス・バイアス」が潜んでいます。

ハラスメント教育として、「アンコンシャス・バイアス」に関するプログラムも効果的でしょう。知識の付与、啓発系の教育研修も意味がないとはいえませんが、情報をインプットできるものには書籍やeラーニングなどがあり、さまざまなツールで代替できます。

多忙な管理職の時間を割いて研修を実施するからには、「体験する」「体験を通じて気づいてもらう」ことに意義があります。自分にとっての「普通」が他の人にとっての「普通」でないことに気づくために、ワークショップや意見交換を行うことが重要です。

また、ネガティブな感情が無自覚に漏れていないかに気づき、行動を整えることも重要です。自分の内側を掘り下げていく機会は、日々の業務に追われているなかではあまりないでしょう。自分が気づけていない気持ちや感情を知るだけでも大きな一歩となります。

パワハラ教育において人事労務担当者が意識すべきこと

人事労務担当者の皆さんは、パワハラ行為者の意見を受け止め、否定しないことが重要です。懲罰の気持ちではなく、サポートの立場であることを忘れないようにしましょう。「一緒に考えていきましょう」という雰囲気づくりをしていくことで、安心・安全の場が築かれ、問題解決へと進みやすくなります。

ぜひ、気づきを与えることを意識し、体験を重視した研修などの教育機会を検討してはいかがでしょうか。

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【筆者プロフィール】

米田久美子
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 研修講師
九州大学法学部法律学科卒業後、放送局に勤務。 2008年よりEQ理論をもとにした採用育成プログラム提供会社に入社し、2010年株式会社アドバンテッジリスクマネジメントに移籍し、現在に至る。 2020年はオンライン研修のプログラム開発や講師育成にも従事。

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