マインドフルネスを活用したパワハラ防止教育の可能性とは

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2019年に労働施策総合推進法が改正され、パワーハラスメント対策が法制化されました。そのため、企業においては様々な対策を実施しているところでしょう。

2020年1月には厚生労働省よりいわゆるパワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)も公布され、事業主の責務や望ましい取り組みとして、パワハラに関する研修の実施があげられています。

パワハラ指針の中で、パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、事業主が行うことが望ましいとされている取り組みの1つに、感情をコントロールする手法やコミュニケーションスキルアップについての研修があると示されています。これにはいろいろな方法がありますが、マインドフルネスに関するプログラムもその1つになりうるかもしれません。

マインドフルネスのパワハラ予防に関係するエビデンス

マインドフルネスを練習するメリットとして、これまで紹介してきた記事ではメンタルヘルスをはじめとした心身の健康、リーダーシップ、ウェルビーイング、人生の意味などを向上させる様々な点を紹介してきました。
【マインドフルネス】セルフケアからリーダーシップまで
従業員がいきいきと働くために役立つマインドフルネス

また、マインドフルネスの練習によって攻撃性に関わる「感情制御」能力(つまり感情をコントロールする能力)も向上するのではないかという期待もされています ※1。

イースト・ロンドン大学心理学科のティム・ローマス博士らが、職場でマインドフルネスのプログラムを提供して様々な指標の効果を調べた研究を系統的に35件(対象者3,090名分)集め、メタアナリシスという方法で分析しています ※2。

その結果、感情制御能力が向上するかについて、現在集まっているデータでは弱い関連しか見られず、積極的に感情制御能力を向上させるという結果は得られませんでした。そのため、職場で実施されるマインドフルネス研修が感情をコントロールする能力自体を向上させられるかどうかについてはまだ不明な点が多いようです。

一方で、同研究では「コミュニケーションの活性化や円滑化」の土壌となる、思いやりや共感性については高められる可能性が示されています。したがって、マインドフルネスの教育を単独で、または他の研修や施策と合わせて実施することで、従業員の思いやりやコミュニケーションスキルを向上させ、ハラスメント行動防止につながりやすくなる可能性が考えられます。

「人間関係からの切り離し」の抑制に役立つマインドフルネス

職場におけるパワハラに該当する言動の1つとして、指針で示されている類型に「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」があります。これは、労働者の仕事外しや無視、職場で孤立させるといったハラスメント行動にあたります。マインドフルネスは、人間関係からの切り離しをする行動の抑制に役立つという研究結果もあります。

ワシントン大学のアレックス・ラムジー博士らは、2つの研究によってマインドフルネスの実践がハラスメントにおける人間関係からの切り離しを防ぐ可能性を検証しています ※3。研究1では、51名の小中学校教師に対して、マインドフルネスに基づくエクササイズのワークショップを1回実施したグループと、何もしなかったグループに分け、ワークショップ実施前と2週間後の状態を比較しました。

その結果、他者を排斥する程度を表すスコアがワークショップ実施グループにおいて改善していました。ラムジー博士らによれば、この結果は、マインドフルネスの実践が、他者を排斥する傾向を和らげることを実証した初めての研究ということです。

この研究で行われたマインドフルネスに基づく介入とは、以下のような内容でした。
・仕事で経験する諸問題についてのグループディスカッションでスタート
・次に職場でのいじめ、無視、同僚との対立などの問題にフォーカスし、それらについてマインドフルネスの観点でディスカッション
・マインドフルネスストレス低減法のエクササイズを体験
・ホームワーク(5分で終わるエクササイズの詰め合わせ)

研究2では、大学生100名を対象に、5名以内のグループごとに実験室に来てもらい、マインドフルネス体験グループと、非体験グループに無作為に振り分けました。マインドフルネス体験グループ参加者は、5分間のレーズン・エクササイズ(五感を使いながら干しブドウに注意を向けて食べるマインドフルネスの体験方法)を体験しました。

その後、実験参加者は、コンピューター上でボールをパスしあうゲームに参加し、そのためにチームメンバーを選ぶ役割を与えられます。メンバーを選ぶための情報として、以前のゲームでそれぞれのメンバーが何回選ばれたか知らされました。

これは、選ばれた回数の少ないメンバーを選ぶほど、人間関係からの切り離しの傾向が少ないという仮説を検証するためのものでした。メンバーを選んだ後、実験参加者は社会的排斥(仲間外れにされること)の研究でよく使われるサイバーボール課題(図)を元に作られたゲームを行いました。

これは、コンピューター上で架空のプレーヤーとボールをパスしあうものです。

図.サイバーボール課題
以下の論文(CC BY 4.0)のFigure1を本記事著者が翻訳した; Sokunbi et al. (2014) PLOS ONE 9(5): e95146.

この研究の場合は、4人のゲームで、実験参加者以外の3人のプレーヤーはコンピューターが動かしており、うち1名のコンピュータープレーヤーにはボールが回ってこないように設定(排斥される対象)されています。排斥されるコンピュータープレーヤーは、ゲームの初期に数回ボールを受け取りますが、その後は完全にボールを回されなくなるため、排斥されるプレーヤーにボールを回すかどうかは、実験参加者次第になります。

ゲームの結果、事前情報に基づきチームメンバーを選ぶ過程では、マインドフルネス体験の有無による違いはなかったものの、ゲーム中のプレー状況に基づき誰にボールをパスするかの決断をする過程では、マインドフルネス体験をした者は排斥される対象のプレーヤー以外へのパス回数が少なかったことが明らかになりました。

つまり、より平等なパス回し行動をとったということになります。このことから、マインドフルネスは、排斥の対象となっている者を排斥するか否かの決断に影響するという可能性が考察されています。

まとめ

本記事では、パワハラ行動の予防として、マインドフルネスの教育が感情コントロールやコミュニケーションスキルの向上に有効かどうかについて解説しました。現段階で分かっているエビデンスからは、マインドフルネスの教育は、従業員の思いやりやコミュニケーションスキルの向上に役立ち、人間関係からの切り離しや仲間外しをする行動の抑制につながるといった可能性が明らかになっています。

マインドフルネスは、パワハラ行動を全般的に予防するエビデンスが現段階では不足していますが、職場における良好な人間関係構築の一助となる従業員向け研修としての可能性が期待できます。

文献
※1) Gillions, A., Cheang, R., & Duarte, R. (2019). The effect of mindfulness practice on aggression and violence levels in adults: A systematic review. Aggression and violent behavior, 48, 104-115.
※2) Lomas, T., Medina, J. C., Ivtzan, I., Rupprecht, S., & Eiroa-Orosa, F. J. (2019). Mindfulness-based interventions in the workplace: An inclusive systematic review and meta-analysis of their impact upon wellbeing. The Journal of Positive Psychology, 14, 625-640.
※3) Ramsey, A. T., & Jones, E. E. (2015). Minding the interpersonal gap: Mindfulness-based interventions in the prevention of ostracism. Consciousness and cognition, 31, 24-34.

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【筆者プロフィール】

土屋政雄
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 主任研究員
産業保健心理学を専門としてACT Japan:The Japanese Association for Contextual Behavioral Science 理事(2018年4月 - 2021年3月)やマインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント・セラピーの専門家として講演等を行う。著作物(監訳) 『マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル 職場のためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』 星和書店

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