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「リモートパワハラ」に、普通の上司が陥りやすい理由

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職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止対策を企業に義務付ける関連法が2020年6月に施行されました。

厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場において行われる (1) 優越的な関係を背景とした言動であって、 (2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるもの であり、(1)から(3)までの要素を全て満たすものをいう」とされています。

また、パワハラを以下の6種類に分けて具体例を提示しています。

1.相手を殴ったり物を投げつけたりすることなどの「身体的な攻撃」
2.同僚の前で大声で叱責することなどの「精神的な攻撃」
3.気に入らない部下などを仕事から外し、長期間にわたり別室に隔離するなどの「人間関係からの切り離し」
4.業務上明らかに必要ないことやできない業務を強制的にさせることなどの「過大な要求」
5.能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じることなどの「過小な要求」
6.私的なことに過度に立ち入ることなどの「個の侵害」

在宅勤務で注意すべき「第7のパワハラ」

昨年12月に指針のまとまったパワハラ関連法ですが、当然のことながら今回のコロナ禍における在宅勤務(テレワーク)の拡大については予測できていませんでした。

そんな中、普段パワハラ防止研修でお世話になっている私のお客さまからは「在宅勤務で起こったパワハラ」の相談が増えており、厚労省の発表している6種類のパワハラでは分類できない案件も多いのが現状です。

そこで、私は在宅勤務で起こりがちなパワハラを「リモートパワハラ」と名づけて、それを「第7のパワハラ」として企業の人事やコンプライアンス担当者などのお客さまに注意を呼び掛けています。

現在起こっているリモートパワハラとしては「仕事ができないことを理由に職場への出勤を強要する」「気に入らない部下をオンライン会議に呼ばない(グループメールから外す)」「特定の部下に仕事を与えない(指示をしない)」などがあります。

企業の担当者の話によると、リモートパワハラは今までの通常業務ではパワハラをやりそうもないタイプの上司が加害者になることも多いようです。では、どんな上司がリモートパワハラの加害者になるのでしょうか。

急増する「第7のパワハラ」
原因は在宅勤務による目に見えないストレス

在宅勤務では、上司にはさまざまな目に見えないストレスが発生します。若いデジタルネイティブ世代と違い、PCやオンラインに対して苦手意識の強い世代であれば、「にわかテレワーカー」として毎日が新しい知識との格闘になります。

また、上司が毎日顔を合わせて仕事をすることを望んでいるのに対し、部下が上司とのコミュニケーションを電話やメールで済ませたいと思っている世代であれば、なおさら世代間のギャップにストレスを感じることもあるでしょう。

そうした部下とのギャップがないにしても、リモートでの仕事の指示や確認は通常勤務とは違って思い通りにいかないことも出てきます。

今までは指示をすればその場で返事があり、業務の進捗もスムーズに確認できていたのが、メールではタイムラグが発生して、伝わったかどうか不安な気持ちでいる時間が増えることになります。

チャットなど既読表示機能があったとしても、どのように受け取られているか、部下の反応を表情からうかがい知ることはできません。また、部下から資料の確認を依頼された場合、今までは「ご確認をお願いします」と手渡しされ、その場で目を通しながら質問を投げかけることもできました。

しかし、リモートでは「サーバー名○○のフォルダ名××の中にある△△というファイルの確認をお願いします」になり、質問のやり取りも含めて余計な手間が増えることもあります。

さらに、複数名が参加するオンライン会議では、聞く側が音声をミュートにしているケースもあり、相づちやリアクションがないなかで話し続けることにストレスを感じる、といった声も聞かれます。

通信状態が悪いために意思疎通がうまくいかず、「もう一度最初から話してください」などの無駄な会話も起こりがちで、こうしたことが日々のストレスになることも考えられます。

また上司に限ったことではありませんが、家庭などプライベートでの人間関係の悩みや、単身赴任などで孤独感を感じていたリ、在宅での作業環境の悪さや眼精疲労など身体的ストレスも考えられます。

このような、これまでの環境では起こりにくかったさまざまなストレスに加え、「周囲に見られていない」など閉塞した環境への安心感などから、今までの通常業務ではパワハラをやりそうもなかったタイプの上司が加害者になっているのです。

リモートパワハラを起こす「3つの密」

リモートパワハラはコロナウイルスの感染と同じく「3つの密」から起こります。実際に起こっているリモートパワハラの事例と合わせて、「リモートワークの3つの密」をご紹介します。

(1)密な監視や連絡
・部下に在宅での業務状況報告を過度に細かく強要する
・部下に業務時間外のメールや電話での対応を強要する
・部下のWebカメラを一日中オンにさせて過度に監視する

(2) 密な会議や打ち合わせ
・過度な回数や時間で部下とのオンライン会議を設定する
・部下に一日に何回もメールを送って即時の返信を強要する
・業務時間外で「1対1のオンライン飲み会」への参加を強要する

(3)密な質問や説教
・部下に何回も電話をしてPCやオンラインに関する質問をする
・部下の体形変化や身だしなみについての質問や説教をする
・部下の住環境や子供の教育についての質問や説教をする

リモートパワハラの加害者にならないために実行すべき2つのポイント

今後在宅勤務が継続することを考えると、今後はリモートパワハラにはますます注意が必要になってきます。では、加害者にならないためにどうすればいいのでしょう。2つのポイントをご紹介します。

一つ目は、上司自身が「ITリテラシー」や「リモートリテラシー」を高めることです。上司が在宅勤務に対する部下のマネジメントに不安になったり、自分の業務に自信がなかったりすることが部下への攻撃につながることがあります。会社のマニュアルやIT担当者に頼るだけでなく、自分から勉強しましょう。

特に、今後必要になるのはメールやチャットによる会話能力です。具体的には「文章発信能力」です。口頭での部下への指示や確認の能力は身に付けているはずですが、それを文章で伝えることになると勝手が違います。

デジタルネイティブ世代との文章での会話にいち早く慣れましょう。身に付けていただきたい文章表現能力を以下に挙げておきます。

・自らがチャットのリアクションやスタンプなどの機能を活用して、部下が文章で会話しやすい雰囲気を作り出す
・部下の行動に対して「期待しているよ」「助かったよ」など、文章で褒める言葉や感謝の言葉を投げかける
・職場での会話のように言い間違いを即時に修正したり謝罪したりすることができないため、チャットなどでは送信後に相手に嫌な思いをさせることがあることを意識して、送信前に文章を確認する習慣を身に付ける   ――など

二つ目に、部下の仕事の評価を業務プロセスや意欲ではなく、「成果」で判断するようにしましょう。通常業務と違い、リモート環境では部下の評価を業務プロセスや意欲で細かく管理することには限界があります。

また、「部下を業務プロセスや意欲で評価しよう」という考え方がリモートパワハラにつながることもあります。

「在宅勤務にすると部下は仕事をサボる」という性悪説ではなく、「サボれば成果が出ないから部下は仕事をする」と部下を信じて、コミュニケーションは必要最小限にすることで加害者とならないよう注意しましょう。

一方で、部下も配慮すべき点があります。

・上司とのオンライン会議では、社会人として最低限の服装や身だしなみを心がける
・上司からのメールやチャットにはできるだけ早く反応をする、または返信までの期限を伝えるなど上司が安心するように自分の状況と併せて報告する
・自宅のWebカメラの角度を調整して生活感のあるものを映さない、できる限り自宅の雑音をシャットアウトするなどを徹底する

リモートパワハラは通常の職場で起こるパワハラと違い、「周囲に見られない」「目撃者がいない」という閉塞した環境で起こるため、発見が遅れたり気づかれないケースが多かったりすることが特徴です。もし、被害に遭っていると思うのであれば、自分一人で抱え込まずに、早めに相談窓口に相談しましょう。

無意識に出る差別・不快用語にも注意が必要

最後に、リモートに慣れていない「にわかテレワーカー」の方には、部下との会話の中でIT用語が思い浮かばず、無意識のうちに差別・不快用語を使ってしまうことがあるので注意してください。

「カメラをオフに (顔が映らないように) してください」と言うところを「顔を無しにしてください」、「マイクをオフに (音が出ないように) してください」を「音が聞こえないようにしてください」など、体の不自由な状態を表す発言には気をつけましょう。

働き方の多様化が進み、対面コミュニケーションが当たり前ではなくなってきました。部下を信じること、そして成果で評価することが今後ますます重要になってきます。これまでと環境が異なることを受け入れ、マネジメントの意識を変えていくことがリモートパワハラ防止につながっていくでしょう。

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【筆者プロフィール】

キティこうぞう(本名:鬼頭 幸三)
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント シニアコンサルタント
1987年株式会社名鉄百貨店入社。労働組合の役員を10年以上、また、2000年からの6年間は、名鉄百貨店労働組合執行委員長を務め、社員のカウンセリングにも関わる。その後、同社人事部で、採用および社員の人材教育・キャリア開発に従事。 アドバンテッジリスクマネジメント入社後は、労働組合や人事部での経験をもとにした、コミュニケーションやメンタルヘルスに関する研修や講演を行っている。

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