健康にかかわる項目についてのチェックシート

人的資本開示で求められる効果を生むウェルビーイング経営。本質的な取り組みに向け必要なこと

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※この記事は、3月25日に行われた「第3回 日経Well-beingシンポジウム」で、当社代表取締役社長 鳥越 慎二の講演「人的資本開示で本格化するウェルビーイング経営~成果を出すための本質的な取り組み~」の内容を編集して配信しています。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 代表取締役社長 鳥越 慎二

プロフィール
鳥越 慎二
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 代表取締役社長
東京大学経済学部経済学科卒業。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院修了(MBA 経営学修士号取得)。大学卒業後、外資系戦略コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーにて保険・金融を始め様々な業界を対象としたコンサルティング業務に従事。1999年、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントを設立。

ウェルビーイング経営は「効果」が問われている

人的資本の開示、健康経営における情報開示によって、人財に関わる情報の可視化の必要性が高まっています。意味のある情報を開示するためには、「成果」を出すことが問われており、また、情報開示項目にはウェルビーイング関連項目が多く重要性も高くなっています。

これを受け、今回は「効果を生むウェルビーイング経営の必要性」をテーマに、なぜ今ウェルビーイング経営なのか、どのような施策が求められているかなどについて解説いたします。そのなかでも、強調したいのが次の三つです。

1.形だけの取り組みではなく、成果が問われること
2.成果を出すために、情報を可視化・課題特定と改善のPDCAを回す必要があること
3.企業と従業員が一体となった取り組みが、ウェルビーイング実現のカギとなること

ぜひこのことを念頭に置いていただければと思います。

ウェルビーイング経営は軌道に乗るまでは、大変なことも出てくると想定されます。しかし、一旦軌道に乗れば、後はスムーズに進められます。何より、確かなウェルビーイング経営の実践は企業価値の向上、従業員の健康的な働き方へとつなげられます。

人的資本の状態を数値化することで、マーケットに評価される時代がくる

現在、ウェルビーイング経営についてさまざまな取り組みがされています。しかし、表面的な概念として捉え、部分的な議論になっているきらいがある点は否めません。本当の意味でウェルビーイング経営を実践するにはデータを管理し効果を確認することが求められる。つまり、科学的に実践することが欠かせないのです。

2020年にアメリカで米国証券取引委員会(SEC)がすべての上場企業に人的資本の開示を義務化しました。日本でも同様の動きが見られ、2021年度に東証がコーポレートガバナンスコードに人的資本の項目を追加しました。現在、2022年夏の指針開示を目指して専門会議が立ち上げられており、人的資本のどういった項目を開示し、評価するか議論が進められています。

2021年9月の経済産業省「第3回 非財務情報の開示指針研究会 事務局資料」によれば、人的資本の開示項目例として、「人材の育成」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス/倫理」が掲げられています。

このうち、健康・安全はウェルビーイングそのものですし、育成や流動性、ダイバーシティでもそれらにひもづく関連の深い項目が多くあります。つまり、人的資本で開示が求められている数値について、かなり多くの部分がウェルビーイングに関することだといえるのです。

既に、健康経営領域では情報開示が評価の対象になっています。数値化された人的資本の状態が、マーケットに評価される時代になっているという理解ができるでしょう。

多くの企業が、開示に必要な情報の収集・集約ができていない

情報の開示に向けて、企業は何をすべきでしょうか。

開示に向けてはいくつかの段階があり、まずは自社がどのステージにいるかを確認することが大切です。まずは情報を収集する段階から始まり、「データベース化」「データ分析・課題の抽出」「効果測定から全体像の把握、クロス分析とPDCA」へとステップを踏みます。

しかし現状では、最初の段階である情報収集が十分にできている企業は決して多くはありません。また、情報があっても散在している、あるいは施策につながっていないのが現状です。

当社とHRプロで2022年3月にウェルビーイング経営に関する調査を行ったところ、健康診断やストレスチェックの結果を管理している企業は約半数にとどまりました。さらに、ウェルビーイング経営を行う上で重要な「エンゲージメント」、「ハラスメント」、「短いサイクルで行うパルスサーベイなど」の調査を実施している企業は、それぞれ37%、19.9%、6.9%という結果がでました。

このことから、多くの企業で、自社従業員のウェルビーイングの実態が把握できていない状況が伺えます。付け加えると、収集した情報に基づいて施策を打っている企業は、わずか数%に過ぎません。こうした中で、人的資本の開示の議論が始まっていることに、当社は大きな危機感を覚えています。

ウェルビーイング経営の成果を生み出すためには、PDCAサイクルの確立が必要

PDCAサイクルのイメージ図

人的資本の開示に向けて、データの収集と管理は欠かせないとお伝えしました。それは間違いなく重要なのですが、一方で単に数値を開示すれば良いというものではありません。ウェルビーイング経営で本当に大事なのは、「効果を生み出すこと」です。

開示したデータで企業の価値が測られ、開示した数値が悪い、あるいは年々悪化しているとなると、企業の価値を大きく棄損することになりかねないのです。つまり、効果の有無を含めて市場で問われていくのです。人的資本の開示が差し迫っている今、ウェルビーイングの施策を行うのは、待ったなしだと言えるでしょう。

成果を生み出すために何が必要なのでしょうか。これは、PDCAサイクルを確立することに尽きます。このPDCAサイクルにおいては、第一に課題の見える化が求められます。ここで、ウェルビーイングは「バランスが崩れやすい」という特徴を持っていることをご記憶ください。

ウェルビーイングは身体、精神、社会の3つの要素で成り立っており、この3つが満ち足りていることで成立します。裏を返せば、一つでも問題があればウェルビーイングな状態とはいえないということです。また、この3要素は深く相関しています。身体の不調が心の不調につながり、社会的不安が心の問題を引き起こすケースもあります。

例えば、ウェルビーイングの課題の一つとして、従業員の早期離職が浮かび上がったとします。原因を特定することは困難で、生活習慣の悪化(身体)、エンゲージメントの低下(精神)、キャリア志向(社会)との不一致など、複数の要素が絡み合っていることが多いのです。

このため、身体、精神、社会の包括的かつ網羅的なデータを把握しなければならないのです。

散在する情報を一元管理し、課題の発見と適切な打ち手につなげる

ウェルビーイングに関するデータには、健康診断、生活習慣、勤怠、欠勤・休職履歴、ストレスチェック、エンゲージメントなどがありますが、散在していては有効に活用できません。一カ所にまとめて見える化することがとても重要です。一元管理することで自社にとって優先すべき課題の特定ができるようにもなります。

当社では従業員の心身の健康データや、勤怠、休業等の人事労務情報を集約し「見える化」するデータ管理システム「ウェルビーイングDXプラットフォーム」を開発しており、多くのお客様に提供しています。先ほど申し上げたようなデータを一括してダッシュボードで確認できる仕組みが整っており、各セグメントの数値を確認することはもちろん、過去との比較や推移のデータを取ることもできます。

また、さまざまなデータを掛け合わせてクロス分析し、課題解決のヒントが得られるようにもなっています。
データを管理・分析することで課題が特定できたら、次は解決に向けた施策を打ちます。具体的には、研修、eラーニング、福利厚生の充実などが挙げられます。

一方、多くの場合、施策が実施されても効果の測定がされておらず、やりっぱなしになっています。施策の効果を検証するには短いサイクルでパルスサーベイを行うことです。年一回のサーベイでは施策の効果が把握しきれません。

短サイクルのサーベイを組み合わせ、施策の効果を随時、把握・微調整しながら、その上で年一回のサーベイで全体的な変化をみることが求められます。

従業員の巻き込みをできていないのが、多くの企業が抱える共通した課題

最後に、もう一つの重要な観点をお伝えします。当社は多くのお客様の健康経営やウェルビーイング経営を支援しておりますが、その中で共通した課題が浮かび上がっています。それは、従業員が健康経営やウェルビーイング経営の価値を認識していないことです。

健康やウェルビーイングへの関心が薄く、自社の取り組みすら知らないこともあります。要するに、会社だけが一生懸命になっており、従業員に浸透していない、参加意識が薄いということが各企業で起こっています。

その理由の一つは、データの集約が会社に向けてのみ行われており、個人レベルでの巻き込みがされていないからです。企業側がどれだけデータを取り集約・管理しても十分とは言えません。会社側から、個人が健康改善をする意義やウェルビーイング経営の価値を伝えることが欠かせないのです。

その上で、個人側でデータを見ることができるようになれば、より効果的にウェルビーイング経営を推進できるようになります。このため、当社のプラットフォームは個人画面を重視しています。集めたデータを各個人にもフィードバックする仕組みを構築し、さらに、福利厚生と結び付けるなどしながら、個人でPDCAを回すことのサポートも手がけています。

大切なのは会社と従業員、双方が情報を集めて分析し改善して、PDCAを回すことです。企業と従業員が一体となったウェルビーイング経営を実践することで、初めて効果が得られる。そう言っても過言ではないのです。

ウェルビーイング経営を企業価値の向上につなげるチャンスと捉えてほしい

人的資本の開示がこれから本格化します。これに伴い、開示の前提となるデータ管理の重要性が増します。企業の価値を高めるために、開示する情報はより良い内容となっていなければなりません。そのために、ウェルビーイング経営の重要性がますます高まります。

ウェルビーイング経営は効果を生み出さなければ意味がありません。形だけのウェルビーイング経営の時代は終わりました。健康経営にとどまらず、ウェルビーイング経営を推進していく上では、綿密な計画のもと従業員とともに長期的なPDCAを回し続けることが重要です。

実際に施策を展開する健康経営担当者にとっては大変な業務になるかもしれません。様々な効果を出すためには地道な積み重ねも必要になりますが、ウェルビーイング経営に真剣に取り組むことで、企業価値の向上、さらには自社の従業員ひとりひとりの健康的な働き方につなげることができます。

そのような意味で、自社にとって本質的に価値のある前向きなチャンスと捉えることができるのではないでしょうか。ぜひこのチャンスを活かし、企業価値の向上を実現していただければと思います。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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