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従業員がいきいきと働くために役立つマインドフルネス

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これまで筆者はマインドフルネスが心身の健康のみならず、仕事のパフォーマンス向上、よりよい対人関係などにも役立つことを紹介してきました※1

さらに、近年においては人事労務や産業保健の分野で、「いきいき」、「ウェルビーイング※2」、「幸福」といったキーワードも着目されるようになっており、従業員のよりポジティブな面を向上させる施策を探している企業も増えているようです。マインドフルネスはそのような場面でも役立ちます。

従業員のポジティブな状態を維持・向上させるには、組織の健康度を高めることが前提となります。そのためには、職場環境改善やスキル教育などを行い、組織と個人の両面からアプローチしていくことが必要です1)。そこで個人のスキル教育として役立つであろう内容の1つがマインドフルネスです。

本記事は、従業員がいきいきと働きながらよりよい人生を過ごし、職場の同僚などへも良い影響を与えるコミュニケーションができるようにするため、マインドフルネスをどう役立てられるかを解説します。

ネガティブな状態だけでなくポジティブな状態にも注意を向ける

マインドフルネスとは、今の瞬間に生じている自分の身体感覚、および思考や感情などに注意を向けながら、それらにとらわれないようにするプロセスです。

ヒトは進化の過程で、危険な状況を避けるために、頭を自動的に素早く働かせて分析、判断する能力を高めてきました。その結果、自分の思考や感情についても、危険のシグナルとなるネガティブな側面に真っ先に注意を向けやすいという特徴があります。その特徴に気づくことは、マインドフルネスの重要な要素です。

一方で、自分の心の様々な動きに気づくということは、ネガティブな状態への気づきもあれば、ポジティブな状態への気づきもあります。大変な仕事でストレスを感じている中でも、時にはちょっとした達成感や働きがい、また同僚の優しさなどを感じる場面もあるでしょう。

そうした場面に、より多く気づく能力が高まることで、多少ストレスの負荷がかかる状況にあっても、自身の成長につながるきっかけを見つけやすくなり、いきいきと働くための基礎力をつけることができるのです。

自らの幸せやいきいきとした状態により気づけるようになれば、それらを感じるのはどんな時で、そこで自分がどんなアクションをしているのかということを把握しやすくなります。

例えば、美味しい料理を食べている最中に、その美味しさを最大限に感じられるような能力が高まったらどうか、と想像してみると、それがどれほど幸福感を高められるか分かりやすいのではないでしょうか。

仕事において、例えば忙しい時に調べ事を頼まれたなど、必ずしも気の進まなかった作業をする状況もあります。しかし調べ事をすることによって自分の興味だけでは得られなかった知識を得られて充実感を得ることもあるでしょう。

ほんのわずかであっても、その充実感を捕まえて十分に感じることができるのであれば、人生で出会う幸せの総量は必然的に多くなります。

自分がポジティブになれる状況を知り、その状況に自分を持っていく機会を増やし、幸せやいきいきとした状態に関連するアクションをより多く実行することで、ポジティブな状態を体験できる可能性がさらに高まっていきます。言い換えれば、幸せへの感受性を高めることができるわけです。

まとめると、従業員のストレスを減らすといった目的だけでなく、働く上でのポジティブな状態をより体験できるようになるためのトレーニングとして、マインドフルネスの実践が有用な可能性があるということになります。

マインドフルネス実践による従業員のポジティブな状態を促進するエビデンス

職場でマインドフルネスを実践することで、ポジティブな状態をより体験できるようになることは、科学的な研究が積み重なり、だんだんと明らかになってきています。

イースト・ロンドン大学心理学科のティム・ローマス講師らが、職場でマインドフルネスのプログラムを提供して効果を調べた研究を集め分析しています。

その結果によれば、ストレスや燃え尽き症候群(バーンアウト)といったいわゆるネガティブな状態の改善に加え、仕事のパフォーマンスやコンパッション(思いやり)/共感性、ウェルビーイングといった状態の向上にも効果が見られていました2)

明確な結論を出すにはさらなる研究が必要ですが、マインドフルネスを実践することによって個人のポジティブな諸側面が向上している事に加え、思いやりや共感性などの対人コミュニケーションに重要な能力も高まっている点が注目に値します。

人生の意味の理解に役立つマインドフルネス

マインドフルネスの実践は、働く人々の職場でのポジティブな状態を高めるだけでなく、人生全般にわたる良い影響も期待できます。その指標として用いられる概念の1つに「人生の意味」があります。

コロラド州立大学の「意味と目的センター」の創立センター長で心理学教授のマイケル・シュテーガー氏によれば、人生の意味とは、「人々が自分の人生について把握し、理解し、意味を見出す程度であり、自身の人生において目的や使命、包括的な目標をどれだけ認識しているかが伴う」と定義されます3)

皆様は、身の回りの人や憧れの人物などで、人生の目的をしっかりと見出して日々行動しているような方を思い浮かべられるでしょうか?もし思いつくのであれば、その人が周囲にどれほど魅力を放っているか想像しやすいと思います。

実際に、人生の意味を実感できる人は心身が健康で長生きをし4)、職場においても、職務を越えた自発的な行動や組織へのコミットメントが良好であることもわかっています5)

人生を意義深く過ごせている従業員は、人生をよりよく過ごすために健康的な行動をとり、会社においても周りの人々に良い影響を与える可能性があり、職場の風土を良好にするために重要な人材と考えられるでしょう。

これらのことから、健康経営を推進する際に従業員の健康意識を高めることや、いきいきとした職場づくりをしていく方法の1つとして、従業員が人生の意味を実感できるようなプログラムを提供することも有望と考えられます。

マインドフルネスを実践することで、人生の意味をどれくらい実感できるかの効果を調べた研究を集めて分析した結果によれば、中程度※3の効果が期待できることが示されており6)、マインドフルネスのプログラムは有力な方法と考えられます。

また、人生の意味についてより積極的にとりあげてアクションを促したいという場合には、認知行動療法の一種であるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)※4という方法も有用です。

まとめ

本記事では、従業員のポジティブな面に着目して職場のいきいき度を向上させるためにマインドフルネスが活用できること、そしてそのエビデンスについて紹介しました。

マインドフルネスに関する取り組みで自分の心の様々な動きに気づく練習をすると、ストレスへの気づきだけでなく、ポジティブな状態への気づきも促進されます。

これにより、ポジティブになれる状況についての理解が深まり、適切な行動をとる機会を増やすことができます。職場を活性化させるための人材育成の方法の1つとして、マインドフルネスの実践を取り入れてみてはいかがでしょうか。

※1 「【マインドフルネス】セルフケアからリーダーシップまで
マインドフルネスとは?身につけるための方法を解説
※2 well-being: 日本語訳としては「幸福」や「厚生」,「善き生」「福祉」など様々に訳される、それらの語の包括的な概念を指す。近年ではそのまま「ウェルビーイング」とされることが多い。
※3 慣習的に、効果の大きさが小、中、大の三段階で表される
※4 「第3世代の認知行動療法」とも呼ばれる。「いま、この瞬間」自分の中にある思考や感情を受け入れながら(アクセプタンス)、自分自身が大切にしたいことに向かって行動パターンを作り上げる(コミットメント)ための心理療法やトレーニングのこと


文献
1) 小林由佳. (2017). 職場のポジティブメンタルヘルス: 個人と組織の well-being を高めるアプローチ. 情報の科学と技術, 67(3), 123-127.
2) Lomas, T., Medina, J. C., Ivtzan, I., Rupprecht, S., & Eiroa-Orosa, F. J. (2019). Mindfulness-based interventions in the workplace: An inclusive systematic review and meta-analysis of their impact upon wellbeing. The Journal of Positive Psychology, 14, 625-640.
3) Steger, M. F. (2009). Meaning in life. In S. J. Lopez & C. R. Snyder (Eds.), Oxford handbook of positive psychology (pp. 679-687). New York, NY: Oxford University Press.
4) Czekierda, K., Banik, A., Park, C. L., & Luszczynska, A. (2017). Meaning in life and physical health: systematic review and meta-analysis. Health Psychology Review, 11(4), 387-418.
5) Schlechter, A. F., & Maharaj, I. (2007). Meaning in life and meaning of work: Relationships with organisational citizenship behaviour, commitment and job satisfaction. Management Dynamics: Journal of the Southern African Institute for Management Scientists, 16(3), 24-41.
6) Chu, S. T. W., & Mak, W. W. (2019). How Mindfulness Enhances Meaning in Life: A Meta-Analysis of Correlational Studies and Randomized Controlled Trials. Mindfulness, 1-17.

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【筆者プロフィール】

土屋政雄
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 上級研究員
産業保健心理学を専門としてACT Japan:The Japanese Association for Contextual Behavioral Science 理事(2018年4月 - 2021年3月)やマインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント・セラピーの専門家として講演等を行う。著作物(監訳) 『マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル 職場のためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』 星和書店

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