【マインドフルネス】セルフケアからリーダーシップまで

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最近、「マインドフルネス」という言葉をインターネットのwebサイトやテレビ、新聞、雑誌など様々な所で見聞きするようになりました。

検索傾向を調べられるGoogleトレンドで確認した所、今から10年前の2009年4月時点での「マインドフルネス」の人気度を3とすると、2019年4月では40と10倍以上人気度が高まっていることが分かります(図1)。

図1. マインドフルネスのweb上での検索傾向(Google トレンドのデータを元に筆者作成)

日本において人気度の急激に高まった転換点は、2016年6月でした。おそらく、この月にテレビで放送された、ストレス対策の1つとしてマインドフルネスを紹介した番組の反響が大きかったのではないでしょうか。番組内では、マインドフルネスの瞑想の方法も紹介されていました。

こうしたことから、マインドフルネス=瞑想でストレス改善に効く、というイメージをお持ちの方も多いのではないかと思います。実は、マインドフルネスはそれだけにとどまりません。

本記事ではマインドフルネスの基本を解説し、そうしたイメージを超えた様々な魅力と意味、ビジネス領域での活用法についてもお伝えしたいと思います。

マインドフルネスとは?

前節であげたテレビ番組に出演し、マインドフルネス瞑想の方法を紹介していた早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭氏によれば、マインドフルネスとは「今の瞬間の現実に常に気づきを向け、その現実をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情にはとらわれないでいる心の持ち方、存在の在り様」1)と説明される状態です。

「今の瞬間の現実に常に気づきを向ける」とは図2のようなイメージになります。

図2. 時間軸上における今の瞬間のイメージ

人が思い悩んでいる時、たとえば仕事で失敗してしまったことを何度も思い出したり、次のプレゼンでうまくできるかどうか不安になったりと、だいたい時間軸上の過去か未来の思考に注意が向いてしまっています。そのため、今現在目の前にある仕事に集中できず、手がおろそかになってしまうのです。

そんな時、自分の注意が過去や未来についての思考に向いている事実にまず気づくことが大切です。

それからそうした思考に注意をうばわれないようにし、代わりに現在の自分が知覚している自分の身体の外側にある環境中の刺激(光、音、におい、触感など)、また自分の内側にある身体の感覚などに注意を戻すことが、マインドフルネスのプロセスの最初の一歩になります(図3)。

図3. 自分の身体の内側にある刺激と外側にある刺激

基本は身体感覚へ注意を向けること

身体感覚とは、たとえば身体の各部分が温かい、冷たい、かゆい、じわじわするなど、自分の身体で感じる感覚全般のことであり、様々なものがあります。

マインドフルネスの練習のためには、一定のリズムで繰り返されている刺激に注意を向けると取り組みやすく、ちょうど息を吸って吐く呼吸のプロセスで感じる、空気が通り抜けていく部分の身体感覚(鼻、のど、おなかなど)がその刺激に該当します。

そのため、マインドフルネスの瞑想では呼吸が注意を向ける対象としてよく使われています。呼吸などの身体の感覚に注意を集中することで、過去や未来に飛んでいる自分の思考を、「今、ここ」の視点から客観的にながめられるようになり、思考にとらわれにくくなります。

こうしたマインドフルな気づきの一連の流れが、必要な時にうまくできるようになると、目の前の作業への集中をとり戻すことができ、余計なストレスを感じることなく、生産性の向上につながりうる行動がとれるようになるのです。

ストレス対策としてのセルフケアで教育する内容として、理想的な方法と考えられます。自分の身体感覚に注意を向ける作業は、座禅のように座って行う瞑想だけでなく、様々なポーズをとって身体感覚に注意を向けるヨガや太極拳などもあります。

また、歩いているときの足の感覚、何かを食べているときの味や口の中の感覚、食器洗いをしているときの手にかかる水の触感など、日常生活の中の色々な場面でも実施可能です。

マインドフルネスの効果

マインドフルネスに関連したプログラムは、米国の有名企業等で実施されていることもあるためか産業領域でも注目されており、特に2010年代に入ってから労働者を対象にした研究も増加しています 2)。心身の健康をはじめ、様々な心理的・生理的状態への効果が明らかになっています。

2019年2月には、ダイヤモンド社より『ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ]マインドフルネス』が刊行され、感度の高いビジネスパーソンが注目するキーワードとしての認識が高まっています 3)

同書では、マインドフルネスや瞑想を実践する人の特徴として、①集中力が強化される、②ストレス下で平静を維持できる、③作業記憶(ワーキングメモリー)*1が優れている、④寛容になりチームワークがよくなるといった利点があることが、研究結果を引用しながら述べられていました。

マインドフルネスが有益な状況は、対人場面においても当てはまります。「この人は信用ならない」「嫌いな人だ」など、相手に対して生じる自分の思考や感情に注意をとられてしまうと、ビジネス上必要なコミュニケーション行動が取りづらくなってしまいます。

これが顕著に影響してくるのが、リーダーとフォロワーの関係がチームのアウトプットに影響してくる、リーダーシップの領域でしょう。

シンガポールマネジメント大学のレブらの研究 4)では、上司のマインドフルネスが良好だと部下のパフォーマンスやワークライフバランスが良好になり、バーンアウト(情緒的消耗感)やパフォーマンスによくない逸脱行動が少なくなるといった関連が見られました。

こうした研究を受け、マインドフルネスのトレーニングにより注意の安定性、コントロール、効率などを高め、認知、感情、行動、生理の諸側面がうまく機能し、パフォーマンスや対人関係、ウェルビーイング*2などが良好な状態になるといったモデルも提案されています(図4) 5)

マインドフルネスの特性が向上すると、リーダーシップを発揮するうえで良好な状態になる可能性が考えられます。

図4. マインドフルネスが個人及び職場に及ぼす影響プロセスのフレームワーク(Good et al., 2016を参考に筆者作成)

マインドフルネスをトレーニングすることで、個人の健康や心理的特徴等が良好になることは多くの研究で明らかにされてきています。今後は、個人内の効果だけでなく、職場全体へどう波及していくかについて、さらなる研究で明らかにされることが望まれます。

まとめ

2010年代後半から、わが国においてもマインドフルネスがストレス対処の方法をはじめとしてビジネスシーンでの活用まで関心が高まってきています。マインドフルネスの実践により、自分の身体感覚を中心とした、今の瞬間の現実に注意を向けることが意図的にできやすくなります。

これにより、目の前にある仕事に集中しやすくなり、対人場面において自分の中に生じる思考や感情とうまくつきあえるようになることで効果的なコミュニケーション行動もとれるようになり、結果的に職場全体に好影響がもたらされる可能性があります。

マインドフルネスに関するトレーニングや研修は、現在のストレスの多寡に関わらず、どんな方でも練習に取り組めるので、職場で従業員に提供しやすい方法と思われます。

脚注
*1 working memory: 行動の目標をしばらくの間だけ憶えておく、目標遂行のために必要なこころのメモ帳と例えられる。記憶の働きにおいて、必要がなくなれば消去され、新たな情報に更新されていき、読解や学習、思考などの働きを支える機能である。脳内機構として、記憶すべき対象に向けた注意を維持する際に役立つと考えられる背外側前頭前野(DLPFC)、記憶すべき対象とそうでない対象がある時にその間の認知的葛藤を「モニター」して、不必要な情報を抑制する際に役立つと考えられる前部帯状皮質(ACC)、記憶すべき対象に注意を移行する役割を担っていると考えらえる頭頂小葉領域(SPL)のネットワーク制御がスムーズであることが、ワーキングメモリの働きを支えていると考えられている 6), 7)。
*2 well-being: 日本語訳としては「幸福」や「厚生」、「善き生」「福祉」など様々な訳語が当てられてきたが、そうした語の概念を含む包括的な概念として考えられる 8)。近年ではそのまま「ウェルビーイング」とされることが多い。個人レベルから広義の社会レベルまでを評価する視点があり、個人レベルでは主観的なウェルビーイングの評価法として、回答者の生活全般等への認知的な評価である「生活評価」(幸福感、健康観、満足度など)がよく用いられる 9)。

引用文献
1) 熊野宏昭.マインドフルネスそしてACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)へ―二十一世紀の自分探しプロジェクト―.東京:星和書店;2011.
2) 土屋政雄.セルフケア技法の新しい展開―マインドフルネスによるストレスへの対応―.産業精神保健.2013; 21:137-144.
3) ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳 2019 ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] マインドフルネス ダイヤモンド社
4) Reb, J., Narayanan, J., & Chaturvedi, S. (2014). Leading mindfully: Two studies on the influence of supervisor trait mindfulness on employee well-being and performance. Mindfulness, 5, 36-45.
5) Good, D. J., Lyddy, C. J., Glomb, T. M., Bono, J. E., Brown, K. W., Duffy, M. K., … & Lazar, S. W. (2016). Contemplating mindfulness at work: An integrative review. Journal of management, 42, 114-142.
6) 苧阪満里子 (2002) ワーキングメモリ―脳のメモ帳. 新曜社.
7) 苧阪満里子 (2016) ワーキングメモリとこころの発達. 学術の動向, 21, 4_63-4_66.
8) 金井雅之. (2015). ソーシャル・ウェルビーイング研究の課題. ソーシャル・ウェルビーイング研究論集, 1, 7-22.
9) 浦川邦夫. (2018). 格差は主観的なウェルビーイングに影響を与えるのか. 日本労働研究雑誌, 60, 31-43

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【筆者プロフィール】

土屋政雄
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 主任研究員
産業保健心理学を専門としてACT Japan:The Japanese Association for Contextual Behavioral Science 理事(2018年4月 - 現在)やマインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント・セラピーの専門家として講演等を行う。著作物(監訳) 『マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル 職場のためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』 星和書店

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