両立支援等助成金(りょうりつしえんとうじょせいきん)とは、育児・介護・不妊治療等と仕事を両立できる職場にするために、会社(事業主)が制度づくりや運用改善に取り組む際、その費用や体制整備を後押しする助成金のことで、取り組み別にコースがあり、各コースによって支給される金額が異なります。
育児や介護をしながら働く人が増える中、企業には「休業する従業員がいても現場が回る運用」を前提に、両立支援の環境整備が求められています。両立支援等助成金は、こうした体制づくりを後押しする制度ですが、実務では「申請書を書けば終わり」というものではありません。実際には、就業規則や社内規程は整えたのに現場で使われない・休業が出るたびに担当者が毎回バタつく・証憑が揃わず差し戻しになる…こうした運用のつまずきで、時間も労力も消耗しがちです。
そこで本記事では、厚生労働省による最新の資料「両立支援等助成金 支給申請の手引き(2025(令和7)年度版)」をもとに、各種コースの概要、対象者をどう考えるか、必要な規程・記録・証憑を何から揃えるか、提出先と手続きの流れなどをわかりやすく解説します。
読了後には、経営・人事労務・現場などの関係部署が同じ手順で動ける状態になり、「休業する従業員がいても現場が回る」運用設計まで見通せるようになるはずです。
両立支援等助成金を活用するには、申請要件を満たすだけでなく、休業者が出ても現場が回る継続的な管理体制づくりが欠かせません。「ADVANTAGE HARMONY(アドバンテッジ ハーモニー)」は、休業者の一括管理と対応履歴・リマインド機能で、担当者任せになりにくい運用を支援します。
目次
両立支援等助成金とは|制度の概要を解説

両立支援等助成金について、制度の目的や全体像について解説します。コース選定や申請手続きで迷わないために、しっかりと前提を押さえましょう。
両立支援等助成金が目指すこと|育児・介護・不妊治療等と仕事の両立を支える取り組みを後押し
この助成金の取り組みにおいて目指すことは、大きく2つです。
1つ目は、両立支援の制度を「導入・整備」することです。たとえば育児休業の取得促進、介護両立支援制度(時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、深夜業務制限など)の整備、働き方の選択肢を整える、不妊治療や女性の健康課題に配慮した制度づくりなど、コースごとに求められる取り組みを実行すると、支給対象になります。
2つ目は、制度を「運用」して成果につなげることです。手引きや支給要領では、単に制度が存在するだけでなく、面談、情報提供、引き継ぎ、原則原職等への復帰、一定期間の継続雇用など、運用の実態が確認できる設計になっています。
つまり、この助成金は制度を作る費用の補填というより、離職防止の仕組みを回すための投資を後押しするものと覚えておくと良いでしょう。
対象は「事業主」|個人向けではなく会社側の制度整備・運用が前提になる
両立支援等助成金は、従業員本人が個人で申請して受け取るものではなく、会社(事業主)が申請し、会社に支給される仕組みです。
厚生労働省による手引きでは、申請窓口が都道府県労働局であることに加え、令和7年度の両立支援等助成金は原則として中小企業事業主を対象としていることが示されています。ただし、育休中等業務代替支援コース(手当支給等)については、業種を問わず「常時雇用する労働者数300人以下」の事業主が対象となる場合があり、コースごとに要件が異なる点には注意が必要です。
そのため、令和7年度版で案内されている両立支援等助成金(1〜6コース)については、「中小企業事業主が対象」という原則を踏まえつつも、例外的な要件が設けられているコースがあることを理解したうえで、自社が支給対象となるかを手引き・支給要領で確認することが重要です。(各コースの詳細は次章「両立支援等助成金の主なコースと支給額(令和7年度版)」でも詳しく解説します。)
両立支援等助成金の主なコースと支給額

引用:厚生労働省「両立支援等助成金 支給申請の手引き(2025(令和7)年度版)」
両立支援等助成金は、取り組みテーマ別にコースが分かれており、要件(何を、いつまでに、どんな記録で示すか)と支給額がコースごとに異なります。この点を理解せずに制度設計を始めると、「やったはいいが、このコースの支給要件に合っていなかった」「対象者や対象期間の切り方が違っていた」といったやり直しが起きてしまいかねないため、まずは自社課題(男性育休の定着、介護離職、復職後の離職、代替要員の確保、柔軟な働き方の整備、不妊治療との両立支援等)から逆算して、該当コースの要件と整合するよう制度設計するようにしましょう。
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出生時両立支援

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)は、男性が育児休業を取りやすい会社にするために、会社が職場の環境づくりをしたうえで、実際に一定日数以上の育休取得者が出たときに助成金が支給されるものです。「制度があります」と言うだけではなく、支給されやすくする準備と、実際の取得、両方が要件として確認されます。
支給額は、第1種は1人目が20万円です。さらに、育児休業を取りやすくするための雇用環境整備の措置を4つ以上行っている場合は、1人目が30万円になります。2人目・3人目は10万円です。次に第2種は、男性の育休取得率が上がったなど、決められた達成条件を満たした場合に60万円が支給されます。
注意点として、第2種は同じ会社で1回しか支給されません。さらに、第2種を受け取ったあとには第1種を申請できません。そのため、最初に「第1種から順に申請する方針にするのか」「第2種の申請を優先するのか」を早めに決めて、申請の順番を間違えないようにする必要があります。
進め方のコツは、育児休業を取る人を増やすための動き(社内への周知、休業する従業員が出たときの代わりの体制づくり、仕事のやり方の見直しなど)をしながら、育休取得実績や日数の条件も同時に満たせるように設計しておくことです。
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介護離職防止支援

介護離職防止支援コースは、社員が介護を理由に離職しないように、会社が面談・プラン作成・制度整備などの両立支援を実施し、その実施内容を記録として残したうえで申請することで、助成金が会社に支給されるものです。
このコースで会社が行う支援は、大きく分けて次の2つが軸になります。
① 介護休業の取得と職場復帰を支える支援(面談やプラン作成、復帰までのフォロー等)
② 介護と仕事を両立するための制度を利用しやすくする支援(時差出勤・短時間勤務等の整備や利用促進等)
これらの取り組みを所定の手順で実施し、必要な証憑を整えたうえで申請することで、要件に応じた助成金が会社に支給されます。共通して、面談をして状況を聞き取り、会社としての支援プランを作って実行することが求められます。
支給額はパターンがいくつかあります。たとえば①の介護休業では、連続5日以上取得して、そのあと職場に復帰し、継続して雇用されている場合には40万円が支給されます。②の「介護両立支援制度」は、導入した制度の数や、実際に使われた日数などで支給額の区分が変わります。たとえば「20日利用」と「60日利用」では区分が違う、というイメージです。
あとから慌てないためにも、最初に「自社の課題と運用方針に合う区分はどれか」を整理し、必要な制度・運用を揃えておくことが重要です。そして大事なのは、制度を作るだけでは足りないことです。社内に方針をちゃんと知らせたか、対象者と面談を実施したか、プランを作って実行したか、休業後も雇用が続いているか…こうした「実際に運用した証憑」が前提になります。
なお、本人への支援に加え、休業や制度利用中の業務を支える業務代替支援は別途支給対象となり、あわせて雇用環境整備に取り組んだ場合には加算措置の対象となります。
介護は急に始まることが多いので、申請のためだけではなく「誰が最初に動くのか(管理職・人事労務・現場)」まで決めておくと、制度が形だけになりにくくなります。
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育児休業等支援

育児休業等支援コースは、社員が育児休業を「取りやすく」、そして「復帰しやすく」するために、会社が準備とフォローをする取り組みに対して助成金が支給されるものです。やることはシンプルで、育児休業に入る前に本人の意向や家庭の状況を確認しながら計画を作り、仕事を引き継いで、休んでいる間も必要な情報を届け、戻る前にももう一度話して復帰をスムーズにする、という流れです。
支給額は、育児休業を取り始めたタイミングで30万円、復帰したタイミングで30万円です。注意点として、復帰時の30万円は「取得時に申請した同一の対象者」が復帰した場合のみ対象です。別の人で取り直し、といった扱いはできません。
支給の条件は、以下のとおりです。
- 育児休業前に面談をしてプランを作ること
- 育児休業が始まる前日までに引き継ぎを終えること
- 休んでいる間も会社の必要な情報を伝えること
- 復帰前にも面談をして記録を残すこと
- 元の仕事(または同等の仕事)に戻ること
- 申請日まで雇用が続いていること など
「書類だけきれいに作った」では足りず、実際に面談や引き継ぎ、情報共有などを実際に行ったことが確認できる記録がないと通りにくくなります。
ただし、これらは「助成金を受け取るための作業」ではなく、休業前後の不安や業務の混乱を減らし、安心して復帰できる状態をつくるための設計だと捉えるのが重要です。
育休中等業務代替支援

育休中等業務代替支援コースは、育児休業を取得した人や短時間勤務になった人がいる場合でも、業務が滞らないように会社が体制を整える取り組みを後押しする助成金が支給されるものです。
主な支援の形は大きく2つあります。
- 1つ目は、代わりに業務量が増えた社員に「手当(追加の支給)」を出すケース
- 2つ目は、代替要員を新たに採用したり、派遣社員を受け入れたりするケース
令和7年度の案内では、支給額の目安として次の枠が示されています。
- 手当を支給するケース(育児休業の代替):最大140万円(業務体制整備費 最大20万円+業務代替手当 最大120万円。先行して支給される枠あり)
- 手当を支給するケース(短時間勤務の代替):最大128万円(同じく整備費+代替手当。先行支給枠あり)
- 新規雇用のケース(育児休業の代替):最大67.5万円(代替期間に応じて、最短9万円〜)
このコースは特に、「手当を支給した事実」「代替した期間」「業務の見直し・効率化の取り組み」「就業規則等への規定」が確認されやすいポイントです。差し戻しを減らすためには、給与台帳(支給記録)や支給の根拠、業務分担表、引き継ぎ記録など、証憑を最初からセットで残せる形にしておくとスムーズです。
柔軟な働き方選択制度等支援

柔軟な働き方選択制度等支援コースは、育児中の働き方を「本人任せ」にせず、会社が複数の制度を用意し、実際に社員が使ったときに助成金が支給されるものです。ポイントは「制度を置いた」だけではなく、「利用された実績」が必要なところです。
支給額は、制度を3つ導入して利用があれば20万円、制度を4つ以上導入して利用があれば25万円です。支給対象は、1事業主あたり1年度で最大5人までとされています。
注意したいのは、利用実績の見方にルールがある点です。たとえば、同じ期間に別の制度を使っても、その実績を合算できないなど、数え方に制約があります。複数制度を組み合わせる前提なら、手引きのカウントルールを確認したうえで設計するのが安全です。
このコースの狙いは、短時間勤務や在宅勤務などをその場しのぎの「特別対応」にしないことです。そのため、申請手順・承認者・勤怠処理・評価の考え方と、業務代替の体制まで先に整えておけば、「不公平だ」と感じる人が出にくくなります。
柔軟な働き方選択制度等支援コースは、2025年10月1日の改正により要件が変更されています。制度利用開始日等により適用される要件が異なる場合があるため、申請時は最新の手引き・支給要領で確認してください。
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援

不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、不妊治療のための休暇制度や、仕事と治療・体調不良を両立するための制度を会社が整えたうえで、実際にその制度が一定日数以上使われた場合に助成金が支給されるものです。ポイントは「制度を作っただけ」ではなく、「社員がしっかりと利用した実績」が必要になるところです。
令和7年度の案内では、制度の利用を開始した日から数えて1年以内に、合計で5日以上利用があった場合に支給対象になります。区分は3つあり、A(不妊治療)30万円、B(月経)30万円、C(更年期)30万円という構成です。
このコースで大事なのは、まず対象範囲を決めることです。たとえば「誰が対象か」「どんな症状・治療が対象か」「半日や時間単位で取れるのか」など、運用に必要なルールをはっきりさせましょう。
もう一つ大事なのが、プライバシーに配慮した運用です。申請するときに何を出すのか、誰まで情報を共有するのか(上司にどこまで伝えるのか)、証明はどう扱うのか、を文章で明確にしておく必要があります。
制度が使われない一番の理由は、「言い出しにくい」ことです。そのため、相談できる窓口や手順を用意し、利用したことで不利益が出ない(評価が下がる、嫌な扱いをされる等がない)という方針を社内にきちんと周知することで、初めて制度が実際に機能します。
両立支援等助成金申請手続きの流れ|準備から申請まで

申請でつまずきやすいのは、要件よりも、手続きの順番と証憑の揃え方です。特に、就業規則の整備が必要なコースなのに後追いで直そうとしたり、実施記録が残っておらず証憑不足になったりすると差し戻しが起きてしまいます。この章で解説する準備→実施→書類作成→申請の流れをよく覚えておくと良いでしょう。
ステップ1:ルール確認|該当コースと要件を決める
最初にやるべきは、手引き・支給要領を確認して「どのコースを使うか」と「どの要件で判断するか」を確定することです。ここで注意したいのは、判断が「申請する時期」だけで決まらない場合がある点です。育児休業の開始日や制度の利用開始日など、出来事が発生した日がどのルールに当たるかで、適用される要件が変わるケースがあります。
そのうえで、対象者の条件(雇用形態、継続雇用、利用日数など)と、会社側で必要な整備(規程、周知、面談、プラン)を洗い出します。この整理が先にできていると、問い合わせの確認も短時間で終わります。
ステップ2:事前準備|就業規則・社内規程など「制度の根拠」を整備する
コースによっては、就業規則・社内規程に「制度があること」や「手当を支給すること」など、運用の根拠が書かれていることが前提になります。特に、代替手当、柔軟な働き方、介護の両立支援、不妊治療等の休暇制度は、条文だけあっても現場が迷いやすいので、運用ルール(申請の手順、承認者、勤怠処理、代替の割り振り)まで最低限セットで整えます。
ポイントは、関係部署がつまずきやすい点を先に洗い出し、無理なく運用できる範囲にルールを落とし込むことです。
ステップ3:実施・記録|取り組みを実行し、証憑を揃える
審査で一番大事なのは「やったことが資料で説明できるか」です。面談なら面談記録、プランならプランと実施の履歴、引き継ぎなら引き継ぎ表、情報提供なら送付記録、手当なら支給根拠と給与台帳、制度利用なら勤怠記録と申請書、といった形で、後から追える資料を時系列で残します。
忙しい職場ほど口頭やチャットで済ませがちですが、記録が薄いと確認に時間がかかったり、差し戻しになりやすいです。実施前に「誰が・いつ・何を記録に残すか」を決めておくと、担当者に作業が集中するのも防げます。
実施・記録のフェーズで負担が集中しやすいのが、人事労務担当者です。対象者が複数いる場合や、育児・介護・柔軟な働き方など制度が重なると、進捗や記録の管理が煩雑になりがちです。
「ADVANTAGE HARMONY(アドバンテッジ ハーモニー)」は、休業者や制度利用者ごとの対応状況を一覧で管理し、リマインドや履歴を残せるため、「誰が・いつ・何をやったか」をチームで共有できます。結果として、記録漏れや属人化を防ぎ、助成金申請に必要な証憑を整理しやすい運用づくりを支援します。
ステップ4:書類作成|対象者・対象期間を整理し、申請書類一式を作る
対象者と対象期間を要件どおりに整理し、申請書(様式)と添付書類を揃えます。ミスが出やすいのは、利用日数の数え方、継続雇用の確認、有期・無期など雇用形態による扱い、そして規程と実際の運用のズレです。
添付書類は「審査する側が事実を追えること」が目的なので、時系列で並べ、どの資料がどの要件に対応しているかがわかる形に整えると、確認の往復が減ります。
ステップ5:申請|提出先を確認し、電子申請または窓口で提出する
提出先は、原則として、申請事業主の本社等(人事労務管理機能を有する部署が属する雇用保険適用事業所)の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。申請は窓口提出のほか、対象コースでは雇用関係助成金ポータルを使った電子申請も用意されています。
電子申請は便利ですが、添付漏れやファイル不備があると差し戻しにつながりやすいので、提出前に「添付一覧」と「最終版の証憑フォルダ」を固定してから送るのが実務的です。
ステップ6:差し戻し対応|不足や不備に備え、追加提出できる状態で保管しておく
申請後に確認や追加提出が求められることに備えて、関係書類はすぐ参照できる形で保管しておきます。手引き等には、申請関係書類の控えを一定期間保存する旨が示されています。
もし指摘が来たら、原因を「要件の確認」「証憑の不足」「様式のミス」のどれかに分けて直すと、再度の差し戻しを防ぎやすくなります。
企業が両立支援等助成金を受給するメリット
両立支援等助成金の良いところは、「制度はあるけど使われない」「休業する従業員が出るたびに場当たりで対応する」といった状態から抜け出すきっかけになる点です。助成金の条件に沿って取り組みを進めることで、社内での判断や対応が整理され、経営・人事労務・現場などの関係部署が同じ前提で動きやすくなります。この章では、会社にとって得られる主なメリットを4つ解説します。
制度整備の費用負担を減らせる
制度を整えて運用を回すには、見えにくいコストがかかります。たとえば、規程の見直し、社内説明に使う資料づくり、面談の工数、業務の組み替え、代わりに負担が増える人への手当などです。助成金は、こうした取り組みを実際に行った会社に対して支給されるため、必要な支出を「ただのコスト」で終わらせにくくなります。
特に手当や体制整備に関する枠があるコースでは、支出に筋が通りやすく、社内で説明しやすくなるのもメリットです。
育児休業・介護による離職を防ぎやすくなる
育児休業や介護で辞めるケースは、「本人の事情」だけが理由ではありません。会社側の準備が足りず、戻るイメージが持てないと離職につながりやすくなります。助成金の取り組みは、休む前後の流れを整える設計になっているため、復帰が現実的になりやすいのが強みです。
介護は急に始まったり、状況が変わったりすることも多いので、相談窓口や判断の流れが整っているほど、本人も職場も無理をしにくくなります。
現場が回る仕組みづくりにつながる
制度が形だけになる原因は、「誰かに負担が寄って回らなくなる」ことです。業務代替や柔軟な働き方に関するコースは、代替の考え方や業務の分担を整理する方向に働きます。
一度整理が進むと、休業のときだけでなく、急な欠員や採用がうまくいかない時期にも強い組織になります。結果として、属人化が減り、現場のトラブル対応に追われる頻度も下がっていきます。
採用・定着のアピール材料になる
採用現場では「制度があるか」よりも「本当に使えるか」が応募者に見られます。両立支援の運用実績がある会社は、育児・介護・不妊治療などライフイベントがある人にとって安心材料になります。男性の育児休業取得や柔軟な働き方の整備は、応募できる人の幅を広げる効果も期待できます。
社内でも、制度利用が特別扱いになりにくいほど、不公平感が出にくくなり、結果として定着につながります。採用広報に載せるなら、「制度がある」だけでなく、利用までの流れがわかる形で示すと説得力が上がります。
両立支援等助成金を申請する際の注意点
担当者としてはちゃんとやったつもりでも、条件が細かいぶん、運用と書類に少しズレがあるだけで差し戻しや不支給につながってしまうことがあります。この章では、実務で引っかかりやすい、両立支援等助成金を申請する際の注意点について解説します。
要件の読み違いが一番多い|「やったつもり」では通らない
助成金は「頑張ったかどうか」ではなく、「条件を満たしているか」で判断されます。たとえば、育児休業の開始日、取得日数の数え方、制度利用回数のカウント、復帰後の継続雇用、面談やプランをいつ実施したかなど、条件が全部そろって初めて対象になります。
また、申請の時期だけで判断できないケースもあります。休業の開始日や制度の利用開始日がいつかによって、適用される要件が変わることがあるため、ここを取り違えると致命的です。安全なのは、手引き・支給要領に戻って、要件を「やること」「記録すること」「期限」の3つに分けて社内タスクに落とすことです。
規程と運用を一致させる|書類だけ整えてもNGになりやすい
就業規則や社内規程は大事ですが、実際の運用とズレていると説明が通りません。たとえば、手当を出すと規程に書いてあるのに給与台帳で確認できない、面談をしたことになっているのに記録がない、申請手順が部署ごとにバラバラで扱いが統一されていない、などです。
申請後も「後から説明できる状態」が求められるので、筋の通った一貫性が重要になります。規程を直したら、社内に知らせた証憑もセットで残しておくとズレが出にくくなります。
証憑は後から作ると説得力が落ちやすい|実施を最初から記録する
差し戻しが出ると「足りない書類を後で足せばいい」と思いがちですが、証憑は後追いで作るほど説得力が弱くなります。面談記録、プラン、引き継ぎ表、情報提供の履歴、勤怠記録、手当支給の根拠などは、実施したタイミングで残しておくのが基本です。
書類を保管しておく期間が定められているため、申請のために慌てて集めるのではなく、最初から「記録する前提」で動くほうが結果的にラクになります。そうすると申請時は「回収」ではなく「整理」になり、担当者の負担が下がります。
期限・提出先はコース別|迷ったら管轄に早めに確認する
申請期限や提出のタイミングはコースごとに違います。条件を満たしていても、期限を過ぎると申請できないことがあります。提出先は原則として、会社の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。
問い合わせをするなら、会社情報、対象者の状況、実施日、規程、証憑が手元にあると話が早く進みます。社内でも「期限管理は誰がやるか」を決めておくと、提出漏れなどの事故が減ります。
同じ内容で二重取りできない場合がある|併給・重複の可否を確認する
「同じ労働者」「同じ理由」で重複して受給できない場合があります。さらに、出生時両立支援コースでは、第2種の回数制限や、第1種との組み合わせの注意点など、コース内でもルールがあります。
複数コースを検討するなら、どの取り組みをどのコースで出すのかを先に決め、対象者と期間が重ならないように整理する必要があります。ここが曖昧だと、後から調整できず「どれも通らない」状態になりかねないので注意です。
両立支援等助成金に関して相談可能な問い合わせ先と相談する前の準備
両立支援等助成金は、会社の状況によって必要な手続きが大きく変わる制度です。たとえば、就業規則や社内規程があるか、対象者の雇用形態はどうか、休業や制度利用がいつ始まるか、といった条件で必要な手続きや書類が変わることがあります。ネットで調べて理解しようとしても、最後は「自社の場合はどうなる?」で止まりがちです。
そこで現実的なのは、早めに管轄へ確認して、要件や必要書類のズレを最初の段階で潰すことです。ただし、聞く側の情報が揃っていないと、一般的な説明しか返ってきません。この章では、どこに相談すればいいかと、事前に何を用意しておけば話が早いかを解説します。
問い合わせ先|都道府県労働局
相談先の基本は、会社の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。コースの要件に当てはまるか、提出先はどこか、電子申請が使えるか、添付書類は何が必要かなど、申請に直結する内容は最終的にここで確認するのが確実です。
連絡するときは、「何をやりたいか」(育児休業、介護、不妊治療、業務代替など)がはっきりしているほど話が具体的になります。まずは該当しそうなコースを1〜2個に絞ってから問い合わせるとスムーズです。
相談する前の準備|会社情報・対象者状況・実施予定・規程・証憑
問い合わせの前に、最低限この5つを揃えておくと話が早くなります。
- 会社情報:所在地、事業規模など(中小企業に当たるか確認に使う情報)
- 対象者の状況:雇用形態、休業・制度利用の予定、開始日、利用日数、継続雇用の見込み
- 実施予定:面談やプランをいつやるか、社内周知をどうするか
- 規程:就業規則・社内規程の該当箇所(制度や手当の根拠になる部分)
- 証憑(用意できる資料):勤怠、面談記録、引き継ぎ資料、給与台帳など
これが揃っていると、質問が「対象ですか?」で終わらず、「この条件を満たすには何を用意すればいいか」という実務の話になります。電子申請を使う予定なら、添付ファイルをどこまで準備できているかも伝えると、差し戻し対策の相談がしやすくなります。
両立支援等助成金に関するよくある質問
申請を進める中で出やすい実務の疑問についてまとめました。
Q:申請してから支給決定まで、どれくらいかかる?
かかる期間はケース次第です。内容や書類の整い具合、追加提出の有無、混み具合で変わるため、「何日で出る」と一律には言えません。
Q:支給された助成金は課税対象?会計処理はどう考える?
法人が受ける助成金は、一般に収益(益金)として扱われ、税金計算に影響します。いつ収益に計上するかは、「入金日」だけでなく「支給が決まって権利が確定した日」が論点になることがあります。
Q:申請後に会社情報(住所・社名など)が変わったらどうする?
一般論で「大丈夫」とは言えません。変更の内容とタイミングで対応が変わるため、基本は 変更が決まった時点で管轄へ連絡して確認すべきです。
Q:休業や制度利用が途中で変更・中止になった場合はどうなる?
これも一律には言えません。期間変更や中止があると、対象期間や要件の満たし方に影響することがあるためです。基本の動きはシンプルで、
- 変更が起きたら労務へ即共有する
- 変更内容を記録に反映する(申請書、勤怠、社内申請、面談メモなど)
- 要件への影響と必要書類を管轄に確認する
この「連絡・記録・確認」をルール化しておくと、後で整合が崩れにくくなります。
Q:同じ従業員で複数回の申請はできる?
できるかどうかはコースごとのルール次第です。対象期間や申請単位、過去の受給状況、重複受給の制限で変わります。対象者ごとに「いつ・何の制度を使ったか」「何の申請をしたか」を一覧で管理し、今回が二重申請にならないかを確認してください。
Q:審査では何が見られる?現地確認や追加提出はある?
基本は書類での確認です。見られるのは「要件に合っているか」「対象者・対象期間が正しいか」「規程と運用が矛盾していないか」「取り組みを示す資料が揃っているか」です。追加提出が出やすいのは、面談記録や周知方法、引き継ぎ、情報提供など実施した事実が書類から読み取りにくいときです。
Q:不支給になったらどうする?
最初にやるのは、理由を特定することです。多くは「要件が一部足りない」「書類と運用のズレ」「証憑不足」「期限・提出要件のミス」など、手順の問題で起きます。「どの要件が足りなかったのか」「どの資料で説明できなかったのか」を分けて、次回の改善点に落とすのが大事です。
両立支援を単なる制度で終わらせずに職場改善までつなげるには
両立支援は「柔軟な働き方の仕組み」を置けば終わり、ではありません。実際は、休業する従業員が出ても現場が回るように、仕事と人の動きを設計する話です。制度だけ作って運用を決めないと、負担が偏って不満が出たり、上司の判断がバラバラになったりして、結局使われなくなります。この章では、制度を使える状態にし、ストレスや離職の火種を減らすための考え方を解説します。
制度導入が形骸化する原因|現場負担の偏り・運用ブレ・不公平感
制度が形だけになる原因は、シンプルに運用が決まっていないことです。たとえば、代わりに誰がやるのかが曖昧、負担が増えた人への手当や評価がはっきりしないなどです。申請のやり方が部署ごとに違い、上司が判断を避けて、その場の交渉になる…。こうなってしまうと、使う側は言い出しにくく、残る側は不公平に感じて疲れてしまいます。
助成金で求められる周知・面談・プラン・規程は、このブレを減らすための土台です。最低でも「どの業務を誰がカバーするか」の考え方だけでも決めておくと、制度が使われやすくなります。
運用を回す仕組み|業務の見える化と代替の仕組み化
回るかどうかは気合いではなく設計の問題です。やることは順番に整理しましょう。
- 仕事を一覧にする(各自の頭にある仕事をリスト化)
- 優先順位を決める(止められない仕事、後回しでいい仕事)
- 引き継ぎを型にする(テンプレを作る)
- 代わりにやる人のルールを決める(手当・評価・役割)
育児休業も介護も不妊治療も、違うのは理由だけで一時的に人員配置や業務調整が必要になる点では共通しています。共通のやり方を作っておくと、毎回の場当たり対応から抜け出せます。助成金は、その仕組みを社内に定着させるきっかけとして使うのが一番効率的です。
ストレスチェックと組織改善につなぐ視点|両立支援とメンタヘルス不調の予防を同時に進める
両立支援が回らない職場では、特定の従業員に業務負荷が偏りやすく、職場内の関係性にも悪影響が出やすくなります。結果として、ストレスや不調の芽が育ちます。ストレスチェックは、心の負担を把握し、集団分析を職場改善に活かす一次予防の手段とされています。
両立支援の運用設計と、ストレスチェックの集団分析を一緒に見ると、「どの部署に負担が偏っているか」が見えやすくなります。改善の優先順位もつけやすい。制度を整える、現場が回る、ストレス要因が減る。この流れを同時に進めるのが、離職防止にもつながります。
ストレスチェックの結果を職場改善につなげるには、集団分析から「負担が偏っている部署や要因」を把握し、打ち手を整理することが重要です。「アドバンテッジ タフネス」は、集団分析結果を通じて職場の傾向を可視化し、改善検討の材料を整理しやすくします。
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まとめ|両立支援等助成金は「制度理解」より「運用で成果」を出すのがゴール
両立支援等助成金は、育児休業・介護・不妊治療などのライフイベントに対応するために、会社が制度を整え、運用し、記録として残すことを後押しする制度です。令和7年度版では主な6コースと支給額の枠が示されており、申請は手引きに沿って「年度要件の確認→規程整備→実施と証憑→書類→提出(電子申請含む)→差し戻し対応」の順で進めると事故が減ります。助成金を活用すること自体より、休業が出ても現場が回る仕組みを作り、離職を防ぐことが本当の成果です。
参考:
厚生労働省「2025(令和7)年度 両立支援等助成金のご案内」
厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」
厚生労働省「両立支援等助成金 支給申請の手引き(2025(令和7)年度版)」
厚生労働省「両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制度等支援コース)支給申請の手引き(2025(令和7)年10月版)」
厚生労働省 東京労働局「両立支援等助成金申請のご案内(全コース共通)」
厚生労働省「雇用関係助成金ポータル」

