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労働環境とは?日本の労働問題と改善策、企業が行うべき労働環境の改善義務について解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

企業には、従業員が安心して働ける労働環境の整備が欠かせません。労働安全衛生法でも、労働環境を維持するために企業が負うべき責務が定められており、法令遵守とともに職場の実情に合った改善が重要です。

労働環境の改善には、多面的なアプローチが必要です。メンタルヘルス対策もその一つ。「アドバンテッジ カウンセリング」は、心理専門家によるカウンセリングを通して、従業員のメンタルヘルス保持を支援します。

労働環境とは

植物を背景に積まれたイラストが描かれた6個のサイコロ

はじめに、労働環境の定義および日本の労働環境が抱える課題、そして「職場環境」との違いについて整理します。

労働環境とは

労働環境とは、従業員が働くうえで影響を受けるあらゆる要素のことです。労働時間や賃金、人間関係、設備や空間、福利厚生制度など、物理的・心理的・制度的な条件すべてを含みます。

労働安全衛生法第3条第1項においては、「快適な職場環境の形成と労働条件の改善を通じて、労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と示されています。労働環境を整えることは、企業が果たすべき法的義務の一つです。

「労働環境」と「職場環境」の違い

職場環境は、オフィスの設備や人間関係など職場内の要素を指します。一方、労働環境は、労働時間や制度、就業形態など働くうえでの総合的な条件を指す、より広い概念です。両者は連動しており、職場環境の改善が労働環境全体の改善につながります。

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日本の労働環境問題

木目のある床に置かれた付箋まみれのPC

日本の労働環境は、「働き方改革」や法改正により改善がみられる一方で、依然として長時間労働とメンタルヘルス不調という深刻な課題を抱えています。

厚生労働省の「令和7年版過労死等防止対策白書」によると、精神障害による労災認定件数は統計開始以降初めて1,000件を超え、特に外食産業などで過重労働のリスクが指摘されました。発症要因は「職場の人間関係」や「ハラスメント」が増加傾向にあり、働く人の心理的負担が深刻化しています。これに加えて、人手不足による業務過多や中小企業での労務管理体制の遅れも課題を悪化させる要因となっています。

企業の労働環境整備は、従業員の健康を守り、法的責務を果たすことはもちろん、安定的な経営と持続的な成長を目指すうえでも不可欠な取り組みです。

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労働環境の構成要素

緑ある場所に置かれた、健康や安全、環境を表すイラストや文字が描かれた3つの丸い木

労働環境を構成する主な要素は以下の通りです。安定的な企業成長を目指すうえでどれも不可欠な要素となります。

労働条件勤務時間、賃金、休日・休暇、福利厚生といった、雇用契約に基づく待遇
物理的環境オフィスの配置、空調や照明の快適さ、騒音レベル、職場の清潔さなど、五感に訴える物的側面
人間関係上司・同僚・部下間での円滑なコミュニケーション、協力体制、組織内の意見の通りやすさ(風通し)など
心理的環境業務における裁量の度合い、仕事の負荷(ストレス)、ハラスメントの有無や、それらを予防する仕組み
安全衛生労働災害を未然に防ぐ対策、感染症の予防、衛生的な作業スペースの確保など、健康と安全を守る措置

労働安全衛生法で定められる企業の義務

黄色の背景に5つの労働者を表す丸い木と天秤を覗く虫眼鏡

労働安全衛生法では、安全管理と衛生管理の両面で企業に法的義務を課しています。この法律の遵守は、労働災害や事故を未然に防ぎ、従業員の健康を守るうえで不可欠です。義務を果たすことは、罰則を回避するだけでなく、企業の信頼性や生産性維持にも直結します。

適切な作業環境の確保(健康被害の防止)

騒音防止、作業に適切な気温・室温の確保、有害物質の管理など、あらゆる作業環境において従業員の健康に悪影響を及ぼすことがないよう、措置を取らなければなりません。

主な関連法令:労働安全衛生法 第22条事務所衛生基準規則 第5条など

法令に定められた基準や管理方法を必ず確認し、健康を最優先した作業環境の維持・改善を徹底しましょう。

事故や災害などの危険防止の措置

クレーンなどの機械装置の適切な管理や安全装備の設置、爆発物や発火性物質、ガスなどに対する事故防止など、労働災害の発生を未然に防ぐための措置を講じる必要があります。

主な関連法令:労働安全衛生法 第20条第37条第44条労働安全衛生規則など

従業員が安心して働ける労働環境の安全確保を継続的に行いましょう。

従業員の心身の健康管理

定期健康診断の実施、常時50人以上の事業場における年1回のストレスチェックなど、従業員の心身の健康保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずることが義務づけられています。

主な関連法令:労働安全衛生法 第66条労働安全衛生規則 第43条第44条など

法令の遵守はもちろん、従業員が能力を最大限に発揮し続けられるよう、企業は健康管理体制の強化を継続的に行うことが求められます。

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安全衛生の管理体制

企業は業種や規模に応じ、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医などの専門管理者を配置する義務があります。これは、健康管理や職場巡視を通じた従業員の安全と健康の保護、労働災害の防止のためです。また、常時50人以上の事業場には、衛生委員会(または安全衛生委員会)の設置が義務づけられ、労使一体で安全衛生について審議します。

主な関連法令:労働安全衛生法 第13条(産業医)第12条(衛生管理者)第18条(衛生委員会)第19条(安全衛生委員会)労働安全衛生規則 第13条第15条

参考:労働基準監督署「安全衛生管理体制のあらまし」

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法令で定められた労働環境の基準がある

紺にオレンジのラインがある服を着た人が温度計を見せる様子

労働安全衛生規則や事務所衛生基準規則といった関連法規では、働く人の安全と健康を守るために、事業者が整備すべき労働環境の基準が定められています。特に作業現場の環境条件は、従業員の身体的・精神的な健康に直接関わるため、確認しておきましょう。

  • 気候的条件:気温・湿度・気圧・風速・紫外線など、気候による影響
  • 物理的条件:照明・騒音・振動など、物理的刺激による影響
  • 科学的条件:化学物質・ガス・蒸気・病原体など、化学的・生物学的要因による影響

労働環境が悪くなる原因

計算機とマグカップ、書類に立てかけられた虫眼鏡があるデスク

労働環境の悪さは、単に「人間関係が悪い」「長時間労働が多い」といった表面的な問題だけでなく、組織独自の価値観や風土に由来しているケースもあります。ここでは、労働環境を悪化させる主な要因について解説します。

暗黙のルール・組織文化

「上司の残業に付き合う」「有給を取りにくい」など、組織独自のルールや古い文化は、職場のストレス要因となります。特に「昔からのやり方が当たり前」という風土が根強い組織では、これが問題として認識されにくい傾向があります。その結果、長時間労働やサービス残業の常態化を招きかねず、暗黙の決まりになじめない従業員が大きなストレスを抱えてしまうのです。

職場の人間関係の悪さ

職場の人間関係の悪化は、労働環境全体に悪影響を及ぼします。ギスギスした雰囲気や適切なコミュニケーション(質問や意見)の欠如は、トラブル発生時のスムーズな解決を困難にします。その背景にあるのは、業務多忙による疲労や、相手を思いやる余裕のなさなどです。この状態が続くと心理的安全性が低下し、従業員は安心して働けず、結果としてメンタルヘルス不調や離職を招くおそれがあります。

実態に即さない制度・規則

労働条件を定める制度や規則が不十分なまま運用されたり、曖昧な状態、あるいは形骸化したりしていることは、労働環境を悪化させる一因となります。こうした問題が放置されやすい背景には、「昔からのやり方が当たり前になっている」「制度の不備を指摘しづらい」など、改善に向けた取り組みが進みにくい組織文化が根付いていることが挙げられます。

企業が取り組むべき労働環境の改善策

機嫌が良くなる様子を表すイメージの表情のイラストと矢印のサイコロ

労働環境の改善は、従業員の健康と安全を守るだけでなく、企業の生産性や定着率にも直結します。続いては、企業が実践すべき労働環境改善の取り組みを解説します。

【心理的環境】メンタルヘルス対策の推進

従業員の心の健康を守ることは、労働環境改善の要です。企業は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「3段階の予防」と、「セルフケア、ラインケア、産業保健スタッフ、事業場外資源」の「4つのケア」の観点から対策を推進する必要があります。具体的には、ストレスチェックの活用、産業医・保健師による相談体制の整備、メンタルヘルスケア研修など、幅広い取り組みが大切です。

そして、これらのメンタルヘルスに関する方針や実施計画は、衛生委員会が中心となって協議し、課題を共有・改善していきます。現場の声を反映させ、企業と従業員が一体となって対策を推進することが求められます。

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【心理的環境】相談窓口の設置

メンタルヘルス不調やハラスメント、職場の悩みなど、さまざまな相談に対応できる窓口を設置しましょう。外部の専門家に委託する方法もあります。相談内容の取り扱い方や不利益な取り扱いをしないことなどを明確に周知し、従業員が安心して利用できる仕組みを整えます。

【安全衛生】アンケート・サーベイの実施

職場の課題を把握するためには、定期的なアンケートやサーベイの実施が有効です。匿名形式で行うことで、従業員は率直な意見を述べやすくなり、現場が抱える課題や潜在的な不満を早期に発見できます。アンケート結果や実現の可否を含めた改善方針は社内にも公表し、実際に取り組みへ反映しましょう。「意見が届く職場」として認識してもらうことで、さらなる従業員の理解と協力を得られます。

【人間関係】社内コミュニケーションの促進

良好なコミュニケーションは、チームの心理的安全性を高め、働きやすい職場を実現します。1on1ミーティングの実施や社内チャットの活用など、コミュニケーションの機会を意識的に設けます。

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【人間関係】ITツールを活用した業務効率化

チャットやプロジェクト管理ツールなどのITツールの導入は、業務効率化、職場のコミュニケーション改善にも効果的です。対面で話す機会が少ない環境でも気軽に相談しやすくなり、人間関係のストレス軽減につながるほか、チーム間の連携も取りやすくなります。導入効果を最大化するには、従業員への操作研修や利用ルールの整備も必要です。

【労働条件】柔軟な働き方を支援する制度の導入・活用推進

リモートワーク、フレックスタイム、短時間勤務制度など、柔軟な働き方を支える制度は、ワークライフバランスの実現と人材定着に貢献します。制度を「使える」だけでなく「使いやすい」状態にするためには、管理職の理解と積極的な利用促進が不可欠です。育児・介護などとの両立支援の施策を単独で導入するよりも、働きやすい労働環境づくりの一環として統合的に整備することで、持続可能な制度運用が可能となります。

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【物理的環境】作業環境の改善

労働安全衛生法および関連法規に基づき、作業環境の見直しと整備を行います。従業員が利用する休憩スペースやトイレ、更衣室なども、基準に従って設置運用しましょう。

【労働環境の改善には、助成金の活用も】

労働環境改善にはコストが伴うものの、条件に合致する場合国の助成制度を活用できる場合もあります。費用負担を抑えつつ施策を進められるめ、ぜひ確認してみてください。

【制度例】

  • 働き方改革推進支援助成金
  • 両立支援等助成金
  • 人材確保等支援助成金 など

労働環境の改善策を実施する際の注意点

吹き出しが描かれた積み木が落ちないように支える手元

労働環境の改善は、一度で完了するものではありません。最後に、労働環境改善を円滑に進めるためのポイントをご紹介します。

現場の意見を取り入れる

上層部が一方的に方針を決めるのではなく、先述したアンケートやヒアリングを通じて課題や要望を可視化し、従業員とともに改善を進める姿勢が大切です。また、匿名の相談窓口やカウンセリングは、労働環境の問題を早い段階でキャッチする役割も果たします。相談の内容や傾向を分析することで、組織全体の課題を把握できる可能性があります。

制度を活かす職場環境づくり

労働環境の改善は、制度の整備で完結するのではなく、従業員がその制度を無理なく活用できる職場環境づくりも重要です。休暇や制度を利用しやすい雰囲気づくり、困りごとを相談しやすいコミュニケーション環境、現場の声を踏まえた運用改善などが制度の実効性を高めます。こうした環境が整うことで、育児や介護との両立支援をはじめ、休職・復職、柔軟な働き方などの制度が最大限に活かされます。

労働環境改善の成功事例

空間に浮かぶ電球や本が描かれたイラストと黒いPCを触る人

最後に、労働環境改善の取り組みを行っている企業の事例をご紹介します。

【DXによる業務効率化】カナツ技建工業株式会社

建設業のカナツ技建工業株式会社は、DXを軸に業務効率化と働きやすい職場づくりを推進しています。ICTによる3次元作図やMR測定、写真管理などで現場管理を効率化し、RPAやワークフロー導入で事務作業も自動化。さらに、リモート会議の活用により移動時間を削減し、生産性向上に寄与しています。

参考:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」

【メンタルヘルス対策】三菱電線工業株式会社

電線メーカーの三菱電線工業株式会社は、ストレスチェックやメンタルヘルス風土評価尺度(WIN)調査で職場のストレス状況を可視化し、事業所別課題に対応した施策を実施しています。保健師による相談、全員面談、復職支援で不調の早期発見・再発防止を強化。さらに、従業員参加型ワークショップで意見交換を促し、主体的に働きやすい職場づくりを進めています。

参考:厚生労働省「こころの耳」

【多様な働き方の推進】日本アイ・ビー・エム株式会社

情報システム関連サービスを手がける日本アイ・ビー・エム株式会社は、「時間と場所を選ばない働き方」を推進しています。多様な労働時間制度や在宅・サテライトオフィス勤務を整備し、チャットやオンライン会議を活用。育児・介護との両立を実現しつつ、公正な評価制度を徹底することで、従業員が自律的に働き方とキャリアを選べる環境を構築しています。

参考:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」

労働環境を改善し組織の基盤を強化

植物があるオフィスで働く従業員の人々

労働環境の整備は、単なる法令遵守にとどまらず、従業員が健康で安心して働ける職場の実現、安定的な組織経営を目指す観点からも重要な取り組みです。改善の施策は、組織や働き方の変化に応じて継続的に見直していきましょう。現場の声を反映し、実効性のある取り組みを積み重ねていくことが、企業の持続的な成長を支えるカギとなります。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
アドバンテッジJOURNALは、働くすべての人へ「ウェルビーイングな働き方と組織づくり」のヒントを発信するメディアです。導入企業数3,200社/利用者数600万人を超えるサービス提供実績と、健康経営銘柄に4年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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