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なぜ社内のキャリア面談は機能しにくいのか― 臨床心理士が語る“社内面談の限界”と外部キャリアカウンセリング活用のポイント

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鈴木潤也
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 「人」ソリューション部 臨床心理士・公認心理師

「社内の面談では本音が出ない」「社員の強み・弱みが把握できないまま育成している」こうした声は、現場でしばしば聞かれますが、従業員個人の問題というよりも、「会社としてキャリア面談やキャリアカウンセリングをどう設計すべきか」という人事やマネジメント双方の判断の難しさを映し出しているとも言えます。

厚生労働省のデータでも、将来のキャリア形成に不安を持つ従業員が存在することが示唆され、その背景には “自分の強み・弱み・今後の方向性を整理できていない状態” が潜んでいます。こうした状況の中、従業員一人ひとりの“自己理解”を深めるために、社外専門家によるキャリアカウンセリングの活用が注目されるようになっています。

会社におけるキャリアカウンセリングとは

そもそもキャリアカウンセリングとはどのようなものでしょうか。多くの企業で行われているキャリア面談との違いを解説いたします。

キャリアカウンセリングと社内のキャリア面談の違い

キャリアに関する対話の場として、「キャリアカウンセリング」と「社内のキャリア面談」は混同されがちですが、目的・立場・守秘性・組織との関係性において明確な違いがあります。両者の特性を理解し、適切に使い分けることが、人材育成や定着支援の質を高めるうえで重要です。

【キャリアカウンセリング】
組織の人事判断や意思決定からは切り離された中立的な立場で行われ、企業が従業員支援の一環として導入する場合であっても、実施者はキャリアコンサルタント等の専門家が担います。面談内容の守秘性は非常に高く、原則として組織に共有されることはなく、転職や異動を含めて選択肢を制限せずに扱える点が特徴です。キャリアへの迷いや将来不安が強い場合や、上司・組織には直接相談しづらいテーマを抱えている場合、中立的な立場で自己理解を深めたい場合、さらにはメンタル面やライフイベントを含めた長期的視点での整理が必要な場面において、特に有効な支援手法といえます。

【社内のキャリア面談】
社内のキャリア面談とは、組織内の上司や人事担当者、制度上定められた面談者が実施するもので、個人のキャリア意向を把握しながら、会社の人材配置・育成・登用といった組織運営につなげていくことを主な目的としています。これは人材マネジメントの一環として位置づけられ、面談内容は一定の範囲で組織内に共有・活用されることを前提としています。そのため、組織方針やポスト、各種制度といった条件のもとで対話が行われ、異動や昇格、育成方針の検討、キャリア意向の定期的な把握、能力開発や配置のすり合わせ、さらには組織としての中長期的な人材計画の策定などの場面において、有効に機能する取り組みといえます。

社内面談では本音が出にくい理由

「職場での対話に関する定量調査」の図

社外の専門家によるキャリアカウンセリングが、組織の意思決定から切り離された第三者による支援であり、高い守秘性のもとで本人の価値観や迷い、本音までを扱えるのに対し、社内のキャリア面談は、上司や人事が担う人材マネジメントの一環であり、一定範囲で情報共有されることを前提とした仕組みです。この構造的な違いは、「社内のキャリア面談では本音が出づらい」という現象を生みやすく、その傾向はデータ上も明確に示されています。

たとえば、パーソル総合研究所が全国の正規雇用就業者6,000名を対象に実施した「職場の対話に関する定量調査」では、上司との面談において「本音で話せている割合が2割未満」と回答した人が51.2%に上り、過半数の従業員が、上司との面談でほとんど本音を話せていない実態が明らかになっています。また、「職場で本音を話せる相手が1人もいない」と回答した割合も50.8%に達しており、面談機会が設けられていても、心理的に本音を表出できていないケースが極めて多いことが示されています。さらに、本音が出づらい理由として、同調査では「評価が下がるのではないか」「不利益な扱いを受けるのではないか」「話した内容が意図せず周囲に共有されるのではないか」といった評価・拡散・関係性に関するリスク意識が、従業員側に強く存在することが示されています。これらは、社内のキャリア面談が評価・異動・昇格と密接に結びついているという制度上の特性に由来するものであり、面談者のスキルや姿勢以前に、構造的に「安全に本音を出しにくい場」として認識されやすいことを意味していると言えるでしょう。

社内面談では難しい「自己理解の促進」

社内のキャリア面談は、人材配置や育成方針を検討するうえで欠かせない仕組みである一方、構造的な特性から、従業員の本音や内面的な迷いが表出しづらいという課題を内包しています。上司や人事が面談者となり、内容が一定範囲で組織に共有・活用される前提がある以上、従業員は無意識のうちに「評価される場」「不利益を避ける場」と捉えやすく、結果として当たり障りのない意向表明にとどまるケースが少なくありません。この前提を理解したうえで、従業員一人ひとりのキャリア形成を本質的に支援するためには、社内面談だけではカバーしきれない要素が存在します。その一つが、自己理解の促進です。

自己理解が進むために必要な条件

キャリア形成において重要なのは、単に「どの部署に行きたいか」「どの仕事に興味があるか」といった表面的な希望だけではなく、「自分は何に価値を感じ、どのような場面で力を発揮しやすいのか」「どのような違和感や迷いを抱えているのか」といった、内省を通じた自己理解です。しかし、評価や処遇と結びつく社内面談の場では、こうした内面的なテーマを十分に掘り下げることは難しく、本人自身も言語化しきれないまま面談が終わってしまうことが往々にしてあります。

では、自己理解を深めるために何が必要なのでしょうか。第一に必要なのは、組織の期待や評価軸から一度切り離された、安全な対話の場です。加えて、経験や価値観を言語化するプロセスを支える専門性、すなわち問いの立て方や整理の視点が不可欠です。自分一人で内省しようとしても、思考が堂々巡りになったり、既存の自己イメージから抜け出せなかったりすることは珍しくありません。そのため、第三者の視点を通じて、自身の経験や感覚を客観的に捉え直す支援が有効となります。

「会社が求める強み」と「本人が感じている強み」のズレ

この点で重要なのが、「会社が求める強み」と「本人が感じている強み」のズレです。組織側は評価結果や業務実績をもとに、論理的・効率的に強みを定義する傾向がありますが、本人は必ずしもそれを自分の強みとして実感しているとは限りません。反対に、本人が「こうした仕事にやりがいを感じる」「この関わり方こそ自分らしい」と感じている要素が、組織の評価軸では十分に拾われていない場合もあります。このズレを放置したままキャリアを議論すると、配置や育成のミスマッチ、本人の納得感の低下、ひいてはエンゲージメントや定着への悪影響につながりかねません。

会社でのキャリアの方向性の明確化が進まない背景

従業員のキャリアの方向性を明確にしたいと考え、面談や制度を整えても、実際には「方向性が定まらない」「話してはいるが整理が進まない」という状況に直面する企業は少なくありません。その背景には、本人の意欲や能力の問題ではなく、キャリアの方向性を考える場の構造があります。

キャリアの方向性は“誘導”ではなく“言語化”が必要

キャリア形成において重要なのは、会社や上司が方向性を示すこと自体ではなく、本人が自分の言葉でキャリアの方向性を理解し、語れる状態になることです。キャリアの方向性は、「この方向が良い」「この経験を積むべきだ」といった外部からの誘導によって定まるものではなく、本人の経験、価値観、強み、違和感が整理され、言語化された結果として初めて、納得感を伴って明確になります。

しかし実際の職場では、この言語化が十分に進みにくい環境にあります。PwC Japanが実施した「グローバル従業員意識/職場環境調査(Hopes and Fears)」では、「上司が反対意見や議論を奨励している」と感じている日本の従業員は23%にとどまり、キャリアや仕事観について率直に内省・言語化する土壌が十分に整っていないことが明らかになっています。

このような環境下では、社内のキャリア面談においても、「組織にとっての最適解」や現実的な配置論が先行しやすく、本人の内側にある曖昧な感覚や葛藤を、評価や処遇と切り離して言語化する時間を確保することは容易ではありません。その結果、キャリアの方向性が「決まったこと」にはなっても、「腹落ちしたこと」にならないケースが生まれやすくなります。

だからこそ、キャリア形成の初期段階で必要なのは、結論を急ぐことではなく、「何を大事にしているのか」「どのような場面で力を発揮してきたのか」「どこに違和感を覚えているのか」といった要素を、安心して言語化できるプロセスです。

社外の専門職がキャリアカウンセリングを行う意義

社外の専門家によるキャリアカウンセリングでは、組織の都合や前提条件を一旦脇に置き、本人の経験や価値観、不安や迷いをフラットに扱うことができます。その結果、本人にとっても「結論を出す場」ではなく、「考えを整理する場」として対話に向き合いやすくなり、キャリアに対する内省が一段深まります。

キャリアカウンセリングがもたらす心理的安全性

社外の専門家によるキャリアカウンセリングの特長の一つが、高い心理的安全性です。面談内容が人事評価や組織判断に直接結びつかないという前提があることで、本人は「まだ答えが出ていないこと」「言語化できていない違和感」「自信のなさ」なども率直に口にしやすくなります。こうした安全な環境下での対話は、単なる相談対応にとどまらず、本人が自分の考えを試行錯誤しながら言葉にしていくプロセスそのものを支えます。

結果として、キャリアの方向性が外部から与えられるのではなく、本人の中から納得感をもって立ち上がるという点に、社外支援ならではの価値があります。

社内施策と外部支援をどう組み合わせるか

社内施策と社外の専門家によるキャリアカウンセリングは、どちらか一方で完結させるものではなく、役割の異なる仕組みとして組み合わせることが重要です。

外部キャリアカウンセリングで自己理解やキャリアの軸が言語化されたうえで、社内のキャリア面談では、その内容を踏まえて現実的な配置や育成を検討する。この流れができることで、社内面談は「本音を引き出す場」から、「整理された考えをすり合わせる場」へと進化します。結果として、本人の納得感を高めながら、企業としても人材活用の精度を上げることが可能になります。キャリア形成を個人任せにするのではなく、社内と社外の支援を組み合わせて支える仕組みとして設計することが、これからの人事施策の重要な視点といえるでしょう。

訪問型カウンセリングと社内施策との組み合わせ

当社が提供する訪問型カウンセリングを活用した社外の専門家によるキャリアカウンセリングを社内施策と組み合わせることは、キャリア支援とメンタルヘルス支援を整理しながら、相互に補完させるうえで有効です。訪問を担当するのは、臨床心理士、公認心理師、産業カウンセラー、精神保健福祉士のいずれかの資格を保有した専門職であり、心理的負荷やストレス反応、自己評価の歪みといった内面の状態にも専門的な視点から関わることができます。そのため、キャリアの悩みとメンタル面の影響が絡み合っているケースにおいても、本人の状態に応じた安全な整理が可能になります。

社内のキャリア面談や人事施策が「配置や育成の判断につなげる場」であるのに対し、訪問カウンセリングは「一度立ち止まり、本人の心理状態や考えを整える場」として位置づけることができます。

また、事前に本人の同意がある場合には、本人の意向や整理された内容を会社側に共有しながら支援を進めることも可能であり、守秘性と組織連携のバランスを取ることができます。たとえば、訪問カウンセリングを通じて本人の自己理解やキャリアの軸が整理されたうえで、社内面談ではそれを踏まえた配置や育成方針のすり合わせを行う、といった分業が機能すると、本人の納得感を損なわずに人事施策を進めることができます。

人事としては、訪問カウンセリングを「問題対応」ではなく、社内施策を円滑に機能させるための下支えとなる外部専門支援として設計することが、全体最適につながるといえるでしょう。

こうした考え方のもとで提供されている訪問型カウンセリングサービスについては、以下よりご確認いただけます。
▶︎ 「訪問カウンセリングサービス」の詳細はこちらからご確認いただけます。

まとめ

従業員のキャリア形成を支援するうえで重要なのは、社内面談だけで方向性を定めることではなく、本人が自らの経験や価値観を言語化し、納得して選択できる状態を整えることです。外部の専門職によるキャリアカウンセリングは、心理的安全性の高い環境で自己理解を促進し、社内施策の質を高める有効な補完手段となります。人事として重要なのは、キャリア支援を「制度を用意すること」で終わらせるのではなく、社内面談と社外支援をどう役割分担させるかを見極めることであり、結果として、個人と組織の双方にとって持続的なキャリア支援につながります。

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【筆者プロフィール】

鈴木潤也
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 「人」ソリューション部 臨床心理士・公認心理師
青山学院大学大学院 教育人間科学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得満期退学(修士(心理学)/青山学院大学)。教育機関にてスクールカウンセラーとして勤務。その後、複数の教育機関内の学生相談室でのカウンセリングを経験。精神科クリニックで心理士として勤務。私立大学にて講師として従事。2016年に、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントへ入社し、カウンセリングサービス提供部隊に参画。以後、同部署にてカウンセリング対応、カウンセリングの効果検証・学会発表に関する業務を担当し、カウンセリングで得た知見をアカデミックな領域に展開し、日々より良いカウンセリングサービスを提供するために活動。現在は訪問カウンセリングのプロダクトマネジメントを担当し、必要な方にカウンセリングサービスをお届けできるよう日々活動を続けている。

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