従業員が悩みや不安を抱えたとき、気軽に相談できる窓口が社内にあるかどうかは、職場の安心感を大きく左右します。しかし、適切に運用しなければ「機能していない」「意味がない」と思われてしまう可能性もあるでしょう。今回は、社内相談窓口の設置目的や、運用成功のポイントをご紹介します。
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目次
社内相談窓口とは

はじめに、社内相談窓口の概要について説明します。
社内相談窓口とは
相談窓口とは、職場環境に起因するストレスやメンタルヘルス不調、ハラスメントなど、従業員が直面する悩みについて相談できる場です。心身の健康を守り、安心して働ける環境を整えるために欠かせない取り組みです。
なかでも社内相談窓口は、人事労務やコンプライアンス部門の担当者、産業医、保健師、カウンセラーなどが担当します。最大のメリットは、「職場の事情を熟知した人物」が対応する点です。内部事情に詳しいため、状況に即した柔軟な判断や、問題解決に向けた迅速な組織対応が期待できます。
社外相談窓口とは
社内相談窓口の他に、社外相談窓口もあります。社外相談窓口とは、外部の専門機関へ相談対応を委託する形で設置されるものです。EAP(従業員支援プログラム)事業者のカウンセリングサービス、弁護士による法律相談、国や自治体が設置する公的相談窓口などがあります。
社内相談窓口と社外相談窓口の違い
2つの違いやメリットについてそれぞれ整理していきましょう。
| 社内相談窓口 | 社外相談窓口 | |
| 位置づけ | 企業が相談体制を構築する上で中核となる窓口 | 社内相談窓口を補完・代替する役割 |
| 主な担当者 | 人事労務、産業医、保健師、カウンセラー等 | EAPサービス提供会社、弁護士、外部専門機関 |
| メリット | 迅速な組織対応:事情を熟知しており、異動や職場改善など即座に対処が可能 | 高い匿名性と専門性:社外の第三者が対応するため、心理的ハードルが低く、客観的な視点で専門性の高い助言が得られる |
| デメリット | 相談内容の漏洩や評価への影響を懸念し、従業員が躊躇する場合がある | 職場環境の詳細が伝わりにくく、具体的な改善アクションまで時間がかかる |
なお、国や自治体の公的窓口は従業員の個人利用となるため、企業の「相談窓口の設置義務」を果たしたことにはなりません。企業が責任をもって対応する「社内相談窓口」を軸にしつつ、社外相談窓口を補完的に活用していくことで、従業員が安心して声を上げられる環境を整えられます。
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社内相談窓口が必要な理由と企業の設置目的

次に、社内相談窓口が必要な理由とその設置目的についてご紹介します。
社内相談窓口が必要な理由
労働安全衛生法第69条では、事業者に対し「労働者に対する健康教育及び健康相談」、「その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置」を講じる「努力義務」を定めています。これには、従業員の心の健康を守るための取り組みも含まれます。
加えて近年は、パワーハラスメントを始めとする職場のハラスメント問題が社会的に注目されており、2022年4月にはパワハラ防止法の適用対象がすべての企業に拡大されました。労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法においても、企業には「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」として、相談窓口の設置と従業員への周知が求められています。
また、厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」においても、「4つのメンタルヘルスケアの推進」として「労働者の相談に応ずる体制の整備」を求めています。近年のメンタルヘルス不調者や休復職者の増加により、メンタルヘルス対策の強化が一層重要となっているのです。
従業員が悩みや不安、メンタルヘルス不調を抱えた際に早期に相談できる場があることで、問題の深刻化を防ぎ、休職・離職、業務パフォーマンスの低下といったさまざまなリスクの回避につながります。
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社内相談窓口の設置目的
社内相談窓口の設置目的は、従業員が抱える悩みや不安を気軽に相談できる場所を設け、安心して働ける職場環境をつくることです。悩みを打ち明ける場があると、従業員は早い段階で助けを求められ、問題の悪化を防げます。
また、相談行動そのものにも心理的負担の軽減効果があり、悩みを共有すれば「気持ちが楽になる」「心が軽くなる」などポジティブな変化が生まれることが期待されます。相談内容に応じて産業医や外部の専門機関につなぐことで、従業員はより適切な支援を受けられるでしょう。
安心して利用できる窓口の存在は、従業員に「この企業は自分達を大切にしてくれる」という安心感や信頼感を与え、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。離職率の低下、生産性の向上、採用市場での競争力強化など、経営面でのメリットももたらします。
なぜ、社内相談窓口が意味ないと言われてしまうのか

社内相談窓口は、しばしば「意味がない」と指摘されることがあります。その理由を紐解いていきましょう。
相談しても解決/改善につながらないと思われている
企業は「窓口を設置した」という形式面を整えていても、従業員から見ると「相談しても何も変わらない」と感じられることもあります。相談の事実を「受け止める」だけで終わってしまい、対応されないまま曖昧にされてしまったり、問題解決や組織改善までつながらなかったりするケースは少なくありません。
その背景には、相談内容を適切に関係部署へ共有する仕組みや改善フローが整っていないことなどがあります。「相談しても動いてくれない」「何を言っても無駄に終わる」という諦め感が広がると、企業への不信感が強まります。窓口は次第に形だけの存在になり、従業員は問題を抱えていても声を上げなくなってしまうのです。
相談内容が他者に知られてしまうのではという不安がある
「相談したら異動・評価に影響するのでは」「上司に伝わってしまうのでは」と心理的ハードルを感じると、社内相談窓口そのものを避けてしまいます。担当者が人事と兼務している、守秘義務の説明が不十分、相談対応のプロセスが不透明などの状態では、従業員は安心して悩みを打ち明けられません。実際の運用状態そのものよりも「本当に秘密を守ってもらえるのか」という不安が、利用を妨げる要因となります。
専門性が不十分で適切な対応が期待できない
相談窓口での対応には、傾聴力の他、法律や制度、メンタルヘルスに関する一定の知識などある程度の専門性が求められます。しかし、実際には担当者が十分な研修を受けずに対応しているケースもあり、「マニュアル的な対応だった」「親身に聞いてもらえなかった」と従業員が不満を持つこともあります。また、対応に一貫性がなければ、「あの人の意見は反映されたのに、私の話は聞いてもらえない」などの不信感につながり、利用がさらに控えられてしまうでしょう。
このようなケースでは、従業員にとって「相談しても無駄」「かえって不安になる」窓口にもなりかねません。単に窓口を設けるのではなく、相談内容が適切に扱われ、必要な対応につながると実感できる設計と運用が不可欠です。
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社内相談窓口設置の流れ

次に、社内相談窓口の設置検討から運用開始までの流れを解説します。適切な段階フローと、ポイントをおさえ、有意義な社内相談窓口の設置を目指しましょう。
①衛生委員会などで設置を検討する
まずは衛生委員会などの場で、設置の方針、ルールなどを検討しましょう。従業員アンケートなどを活用して現場のニーズを把握するとともに、「どのような相談を受け止め、どんな課題を解決したいのか」を整理して、窓口に求められる役割や優先課題を明確にします。
また、相談対応の人員体制や相談の方法(対面・電話・オンライン等)、設置後の周知方法や内容についても検討が必要です。社内の相談窓口だけで十分か、社外相談窓口の併設が必要かも議論します。
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②相談体制を構築し、担当者の研修を実施する
相談内容に応じた適切な対応ができるよう、相談体制を構築します。厚生労働省のメンタルヘルス指針に照らして、一般的には事業場内産業保健スタッフ(衛生管理者、産業医、保健師、人事労務管理スタッフなど)が相談に対応します。担当者には、メンタルヘルスの基礎知識や傾聴スキルの他、守秘義務の履行などが求められるため、必要に応じて事前研修や定期的なスキルアップ研修を実施しましょう。
加えて、社内の他の専門家からもサポートを受けられるよう、連携体制を整えます。外部専門機関の支援につなげられる体制も構築しておくと、社内だけでは対応が困難なケースにも速やかに対処できます。
③相談窓口を開設し、従業員らへ周知する
体制が整ったら、従業員やその家族に対し、開設を周知します。周知内容の例は以下の通りです。
- 相談できる内容
- 相談を受ける担当者
- 申し込み、予約方法
- 相談後の流れ
- 個人情報の取り扱い
- 相談によって従業員が不利益を受けない旨
周知方法は、イントラネット掲載、リーフレット配布、掲示、メールやチャットの配信、朝礼や研修での口頭説明などがあります。複数の方法を組み合わせ、安心して利用してもらうために丁寧に、繰り返し伝えることが大切です。特に小規模な企業では、「誰が相談したのかわかってしまうのでは」という不安が利用のハードルになりやすく、匿名での相談可否や情報共有の範囲を明確に伝えることが重要です。
④相談窓口を運用する
運用開始後は「相談しやすい雰囲気づくり」と「継続的な改善」が重要です。相談者のプライバシーを守り、不利益な取り扱いが決して行われない体制を徹底することで、安心して声を上げられる環境をつくります。
相談窓口が適切に機能するよう、定期的に運用状況を確認し、必要に応じてルールや対応体制を見直しましょう。相談内容を「個人のこと」として終わらせず、傾向を整理・分析し、職場環境の改善に活かせば、組織課題の早期発見にも役立ちます。
社内相談窓口の運用を成功に導くポイント

社内相談窓口を適切に運用していくためのポイントをチェックしておきましょう。
相談対応の質・専門性の向上
担当者によって対応が異なると、相談者の不信感を招きかねません。相談の受け方や対応後の流れなど、対応の基準やルールを定めたマニュアルを作成します。また、専門性の高い内容にも対応できるよう、窓口の担当者には研修プログラムなどを通して継続的に学びの機会を提供しましょう。各分野の専門家との連携体制構築も不可欠です。
誰もが気軽に利用できる環境づくり
相談者の性格や相談内容によっては、「相談すること」そのものに心理的な負担を強く感じている場合もあります。相談方法を複数用意する、就業中以外の時間にも受付枠を設けるなど、相談のハードルを下げる工夫を行いましょう。お試しカウンセリングを受けてもらう、利用者の声を紹介するなども有効です。
相談窓口の信頼性の確保
相談内容や個人情報は厳重に取り扱い、相談者の同意なく第三者に情報を開示しないこと、相談したことによって不利益を受けないことを明確に周知しましょう。初回の相談から問題解決/改善までの一連の流れを明文化し、共有することで、プロセスの透明性を確保します。
また、寄せられた相談の傾向をもとに、メンタルヘルス課題やハラスメント傾向など職場の状態を分析し、職場環境改善につなげましょう。改善に向けた取り組みや結果を共有することで、「相談すると職場が良くなる」というポジティブな認識が広がります。これにより、従業員の相談行動をさらに後押しできます。
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外部相談窓口の活用
外部相談窓口を同時に活用することも効果的です。中立的な立場の第三者が相談を受ければ、従業員は社内の人間関係や評価への影響を不安に思うことなく、本音を話しやすくなります。法律的な問題を伴うケースや、役職者が当事者となっているケースなど、社内で扱いにくい相談にも対応可能です。外部機関によっては、相談内容を匿名でフィードバック可能な場合もあるため、個人の特定を避けながら組織課題を把握できます。
社内相談窓口運用時によくある課題

社内相談窓口の運用時に生じやすい課題には、以下のようなものがあります。
- 「形だけの窓口」になり、実質的に機能していない
- 窓口の存在や利用方法が周知不足で、認知されていない
- 相談手段が限られている、または手続きが煩雑で利用しづらい
- 従業員からの信頼を得られず、利用が進まない
- 担当者の数や専門性が不十分で、運営リソースが乏しい
- 相談しても改善につながらず、「対応しても意味がない」と思われている
- 対応にばらつきがあり、適切な対応ができていない
これらの課題は、前述した【社内相談窓口の運用を成功に導くポイント】で解説した通り、窓口対応における専門的な研修による対応の均一化や、相談後の改善プロセスを明確化し、「対応しても意味がない」という不信感を払拭することが重要です。これらの課題を解決し、従業員が安心して利用できる環境を構築しましょう。
形だけで終わらせず「相談しやすい窓口」へ

社内相談窓口は、ただ設けるだけでは本来の役割を果たせません。従業員が安心して相談でき、企業として適切な対応ができてはじめて、メンタルヘルス不調の予防やハラスメントの早期発見などにつながります。社内体制だけでは十分な専門性の確保が難しい場合は、外部相談窓口との併用も有効です。第三者に相談対応を委託することで、相談者の不安をやわらげるとともに、企業側も専門的な視点からのサポートを受けられます。社内・社外の力を組み合わせ、誰もが気軽に相談窓口を利用できる環境を整えましょう。

