アドバンテッジJOURNAL-article感情を温度で数値化?イライラと向き合うアンガーマネジメントの手法 「スケールテクニック」とは

感情を温度で数値化?イライラと向き合うアンガーマネジメントの手法「スケールテクニック」とは

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以前、「アンガーマネジメントとは何か?怒りをコントロールするために実践したい考え方のポイント」という記事で、「怒り」のメカニズムや、怒りをコントロールしストレスを軽減する「アンガーマネジメント」の第一歩についてお話ししました。本記事ではそれを踏まえ、アンガーマネジメントの方法についてより詳しくご紹介します。

「怒る」ことは「損」なこと

みなさんは「怒ることは得か損か?」と聞かれたら、何と答えますか。たぶん「損」と答えるでしょう。以前の記事で、「人間以外の他の動物は自分や自分の子どもの身を守るために怒りという感情を表すが、人間は相手に何かを伝えるという目的で、コミュニケーションの手段として怒りを使うことがある」ことを解説しました。確かに、怒ることで相手に自分の意志や気持ちを伝えて、相手の理解を得ることもあるでしょう。そういう意味では怒ることによって得をすることもあります。

でも、怒ることによりお互いの人間関係が崩れたり、どちらか一方のストレスになったりして、怒ることで損をするケースも多いことを私たちは経験上知っているはずです。つまり私たちは、「怒ることは損」と知りながら怒るのです。なぜなのでしょう。

それは、心のどこかで「怒ることで、自分は何か得をするんじゃないか」、「怒ることで、相手が自分の望むように変わってくれるんじゃないか」、「怒ることで、自分の理想が現実になるんじゃないか」と思っているからです。それで、怒らなくてもいいことまで怒ってしまい、無駄なエネルギーを怒りに使ってしまっているのです。怒りをうまくコントロールするためには「怒ることは得をすることがなく、損することばかりである」ということを理解することが重要です。「怒ることは損」を理解していれば、怒りのエネルギーを他の活動に配分できるのです。

怒ることのリスクとデメリット

では、怒ることはどれくらい損であるかを具体的に説明していきます。

まずは、怒ることによってビジネスの世界で重要な「判断力」を失います。アメリカでは、フォーチュン500社に入るような企業のトップやエグゼクティブたちがアンガーマネジメントの講義を受けています。これは、アメリカでは煙草を吸う人と肥満症の人とともに、「怒りっぽい人」は出世できないというのが常識になっているからです。

また、アメリカのノースキャロライナ州にあるクリエイティブリーダーシップセンターの研究によると、エグゼクティブにとって怒りをコントロールできないことが「昇進の機会を失う」などの最も大きな要因になるそうです。企業としても、怒りっぽい人に重要な判断を任せられません。怒りにより、普段の自分だったらたぶん言わないだろう不用意な発言をしたり、取らないような選択をしたり、しないような行動をしてしまい、企業に損害を与えるリスクが増えるからでしょう。つまり、怒ることにより判断ミスが増え、出世できないので損なのです。

さらに、怒りっぽい人、特に人前で怒鳴るような感情の起伏の激しい人は部下からも職場の同僚からも信頼されません。周囲が距離を置いて接するので情報も入ってこなくなります。自分が不利なことを周りのせいにして、その怒りを人にぶつけたり、物事を強引に進めたりして、ますます部下や職場の同僚の信頼感を失っていきます。

このようなことが続くと、パワハラ(パワーハラスメント)の訴訟に発展することになります。日本においても近年、パワハラの訴訟数が増えており、また賠償金額も5,000万円を超える判決が出ています。つまり、怒ることはパワハラで訴えられるので損なのです。

アメリカの国立老化研究所の研究によると、怒りっぽい人は温厚で寛容な人たちよりも心臓発作や脳卒中のリスクが高いそうです。また、オランダ医学会の調査によると、怒ってすぐに怒鳴る人は、そうでない人に比べて42%も突然死するする確率が高くなるそうです。日本疫学会から出されたデータでも、怒りやすい人は血圧が高く、その結果、血管に大きな負担がかかるため普通の人の約3倍心臓疾患になりやすいという数字が示されています。
(出典:安藤俊介『「怒り」のマネジメント術-できる人ほどイライラしない-』『怒る技術-やさしいだけじゃ、部下は動かない-』)

以上の通り、「怒ることは損」ということをしっかり理解して、心のどこかにある「怒ることは得」という気持ちを捨てることがアンガーマネジメントで大切なことなのです。

あなたの「怒り」のレベルは?

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それでは、みなさんがここ一週間で腹が立ったこと、イライラしたこと、実際に怒ってしまったことなどを3つ書き出してみてください。一週間で思いつかなければ二週間で、二週間で思いつかなければ、一か月でも構いません。ただ、それ以上前になると記憶も気持ちも薄れてくるので、一か月以内で思い出して記入してください。日時や場所を詳細に書き込まなくてもいいので、簡単に内容や出来事や事実だけを記入してください。

書き出していただいたら、次にその3つの怒りやイライラにそれぞれ温度をつけていただきます。温度は0℃から10℃までで、怒っていない状態を0℃、人生最大の怒りを10℃とします。ちなみに、人生最大の怒りは「目の前の相手を殺してしまうくらいの怒り」のことを指しますので、つけていただいく怒りの温度は1℃から9℃になると思います。

では、記入していただいた3つの温度を見てください。3つとも同じだったでしょうか。多くの方が3つの温度が違っていたのではないでしょうか。

そうなんです。怒りにはレベル(強さ)があって、出来事によって怒りのレベルが違うのです。みなさんが記入した温度が1℃から3℃であれば弱い怒り、4℃から6℃であれば中ぐらいの怒り、7℃から9℃であれば強い怒りとなります。強い怒りもあれば、弱い怒りもある。当たり前のことですが、これを理解することがアンガーマネジメントでは重要なのです。

一方で「怒りっぽい人」というのは、怒りにレベルがあることを理解していません。

それで、出来事に対して「怒るか怒らないか」で考えてしまい、怒りのレベルが7℃でも5℃でも3℃でも同じ怒り方をする傾向があります。でも、自分の怒りのレベルを理解できれば、「7℃はこの怒り方、5℃はこの怒り方、3℃はこの怒り方」と怒りをうまく配分することができるようになります。

怒りを配分する「スケールテクニック」

自分の怒りの強さを10段階に分けてレベル分けをすることをアンガーマネジメントでは「スケールテクニック」といいます。スケールテクニックで怒りの強さをレベル分けして、自分の怒りを「見える化」することによって、「怒っているか怒っていないか」の1(イチ)か0(ゼロ)ではなく、自分の「怒り」にも様々な強さがあることに気づき、どの強さの怒りに対してどう対処すればいいか、怒りを相手に伝えるのか伝えないのかなどを客観的に考える機会を得ることができます。

また、自分の怒りを「今の怒りは5℃」と数値化することを習慣づけていくと、次の怒りが発生したときに「この前は5℃つけたので、今日のイライラはそれよりも下だから4℃かな。」というように、だんだんと自分の怒りの数値が相対的に安定してきます。これがスケールテクニックの効果なのです。

怒りを「見える化」することで冷静に怒りを見ることができるようになり、「怒るか怒らないか」ではなく、怒りのレベルに合わせた怒り方ができ、「怒ることは怒り、怒らなくてもいいことは怒らない」という怒りの配分がうまくできるようになります。みなさんも怒りを感じたら、まずはその怒りの温度を測ることを習慣づけましょう。

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【筆者プロフィール】

キティこうぞう(本名:鬼頭 幸三)
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント シニアコンサルタント
1987年株式会社名鉄百貨店入社。労働組合の役員を10年以上、また、2000年からの6年間は、名鉄百貨店労働組合執行委員長を務め、社員のカウンセリングにも関わる。その後、同社人事部で、採用および社員の人材教育・キャリア開発に従事。 アドバンテッジリスクマネジメント入社後は、労働組合や人事部での経験をもとにした、コミュニケーションやメンタルヘルスに関する研修や講演を行っている。

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