育児をしている男性と、それを見守る女性

社労士に学ぶ!改正「育児・介護休業法」育児・介護休業法改正が実務に与える影響とは【前編】

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「育児・介護休業法」改正案が2021年6月に成立・公布され、メディアでも「“男性版産休”新設」と話題になりました。この法改正には、男性の育児休業取得率を引き上げる狙いがあるだけでなく、様々な意識変革を企業に迫っています。

そこで今回は、2021年10月28日に当社が実施した『社労士に学ぶ!改正「育児・介護休業法」実務解説セミナー』にて、特定社会保険労務士の山本直子先生に今回の法改正の背景にある社会課題や対応策について解説いただきました。

※後編はこちら


社会保険労務士法人パーソネルワークス サブマネジャー 特定社会保険労務士 山本 直子氏

講師:山本 直子氏
社会保険労務士法人パーソネルワークス サブマネジャー 特定社会保険労務士

2007年入所。外資系企業人事部で常駐を経験し、これまで150名~4000名規模の顧問先を20社以上担当。近年はサブマネジャーとして業務統括のほか労務相談や新規立ち上げ等をメインに行う。労務研修テキストやeラーニング教材の執筆監修にも携わっている。


育児休業制度の歩み

まず、育児休業制度の歩みについて概観しておきます。「育児休業法」が1991年に成立したことで、それまで産休明け後直ちに職場復帰しなければならなかった状況から、子供が1歳になるまで育児休業が可能になりました。

その後、2005年の法改正により、保育所に入れない場合は1歳6か月までの育児休業延長ができるようになり、2010年の法改正では妻(夫)が専業主婦(夫)の場合は育児休業が取得できないことを労使協定で可能とするいわゆる「専業主婦(夫)条項」が撤廃され、「パパ休暇」「パパママ育休プラス制度」が導入されました。さらに2017年の法改正で、保育所に入れない場合は2歳まで育児休業を延長できることになりました。

以上のように改善が進んだ半面、管理や事務手続きの複雑さが増していきました。そして、2022年度の改正でさらに複雑なものとなり、事務負担が増えることが見込まれています。

育児・介護休業法改正の理由

ではなぜいま、複雑化させてまで育児・介護休業法を改正するのでしょうか。まず、「働き方改革」との関係が挙げられます。2017年に政府が打ち出した「働き方改革実行計画」には、次の一文が書かれています。

「長時間労働は、健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因になっている。これに対し、長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく。」
参照:( 平成29年3月28日働き方改革実現会議決定 「働き方改革実行計画」より)

つまり、政府は新しい少子化対策の柱として働き方改革に関する法整備を行ったのです。

男性の育休取得状況

日本の出生率は2019年度が1.36と、政府目標の1.8に遠く及びません。そこで、育児・介護休業法を改正し男性の育児参加を促すことで、出産しても女性が社会で活躍できる環境づくりを進め、その先にある出生率の向上を目指すことにしたのです。

そこで気になるのが男性の育休取得率です。2019年度は7.48%、2020年度は12.65%と伸びていますが、コロナ禍によるテレワークなど在宅時間の増加に伴い育休取得者が増えたという要因が考えられます。ちなみに、女性の育休取得率は2019年度で83%と大きく乖離しています。

また、取得率だけでなく、取得期間にも目を向ける必要があります。男性の育休は1週間、なかには1日というケースも多く見られます。女性は子供が1歳になるまでといった長期間が大半なので、乖離度はさらに大きいことになるでしょう。

男性の育休取得が低水準の理由は「仕事を休めない」「収入が減少する」「取得しにくい雰囲気がある」などが大半です。今回の法改正では、こうした事情を解決することを目的としています。

改正「育児・介護休業法」5つのポイント

ここで、改正法のポイントをご紹介します。

(1)雇用環境整備、個別の周知・取得意向確認の義務化(2022年4月1日施行)
(2)有期雇用労働者の取得要件緩和(2022年4月1日施行)
(3)出生時育児休業制度(通称、産後パパ育休)の創設(2022年10月1日施行)
(4)育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
(5)育児休業取得状況の公表義務化(2023年4月1日施行)

以上の5項目をそれぞれ見ていきます。

(1)雇用環境整備、個別の周知・取得意向確認の義務化
従来、個別周知は努力義務で雇用環境整備や取得意向確認に関する規定はありませんでした。改正後はすべて対応が必須となります。

育休を取得しやすい環境整備として、研修や相談窓口の設置などが挙げられています。個別の周知・取得意向確認の義務化においては、育休申請者だけでなく子供が生まれた社員全員がその対象となりうるため、対象者を把握して周知・意向確認状況を管理する体制をつくらなければならなくなります。

(2)有期雇用労働者の取得要件緩和
従来あった「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が撤廃され、入社1年未満の契約社員などでも育休取得が可能になります(但し、労使協定で適用除外も可能)。

(3)出生時育児休業制度(通称、産後パパ育休)の創設
冒頭で触れた「“男性版産休”新設」が話題になったのは、産後8週における女性の肉体的・精神的負荷を軽減させるべく、配偶者にも産後8週の休業を義務づけるべきとの提言があったからです。しかし、そこまですると特に小規模企業における人員調整の負荷が過重になるとの理由で見送られました。

とはいえ、女性へのサポートは不可欠ということで、現行の「パパ休暇」をもっと使いやすい制度に改正することにし、創設されたのが「出生時育児休業制度」です。

従来の「パパ休暇」は、配偶者の産後8週以内に育休を取得した場合に限り、子供が1歳になるまでの間に再度育休を取得することができる制度でしたが、3回目の育休取得は原則として認められておらず、かつ休業中は原則就労ができませんでした。

改正後は、産後8週以内に最大4週までを2回に分割して取得可能となります。これが「出生時育児休業」で、これとは別に既存の育休を子供が1歳になるまでの間に3回目として取得することもできます。さらに、出生時育児休業中の就労も一部可能となります。
※この制度は主に男性が対象となりますが、女性も養子などの場合に対象となります。

(4)育児休業の分割取得
従来は原則として育休を1歳までの間に1回しか取得できませんでした。妻が産休・育休後に職場復帰し夫が育休を取得すると、妻は2回目の育休を取得できなかったのです。改正後は、妻は慣らし保育の時など2回目を取得できるようになります。

夫は妻の里帰り出産後、帰ってきた時のケアのために育休を取得し、その後妻が職場復帰する際に2回目を取得するといった使い方ができるようになります。つまり、前項の出生時育児休業制度を併用すると、夫は妻が出産後、子供が1歳になるまでの間に最大4回に分割して育休が取得できるようになるのです。

1歳以降の育休においても改正があります。従来は子供が1歳、1歳6か月の時点から開始する必要があり、夫婦は各期間開始時点でしか交代できませんでしたが、改正後は開始日を限定せず、夫婦交代で取得できるようになります(配偶者の復帰日以前の開始が必要)。

但し、本改正事項は夫婦がそれぞれ育休を取得していることが前提のため、夫婦いずれかが専業主婦(夫)の場合は原則通り1歳または1歳6ヶ月から開始しなければなりません。

社会保険料免除要件の改正
ここで、関連する社会保険料免除要件に関する法改正についてお伝えします。従来は月末に休んでいる場合のみ、月次給与および賞与にかかる社会保険料が免除されていました。改正後は、月次給与の場合は月末に休んでいる場合だけでなく月中に14日以上休んでいても免除対象となります。

一方で賞与の場合は、月末をまたいで1か月を超えて休んでいないと免除されなくなります。育休取得の状況によって免除の可否が分かれますので、管理に注意が必要です。

(5)育児休業取得状況の公表義務化
従業員数1,000名以上の企業は男性社員の育休取得状況の公表が義務化されます。公表内容としては、男性の「育児休業等の取得率」または男性の「育児休業等と育児目的休暇の取得率」になります。

後編では、今回の法改正がもたらす企業実務への影響について解説していきます。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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