普通っぽいのに仕事ができる人だけが持つ「2つのスキル」

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派手なパフォーマンスをしないのに、着実に仕事をこなして実績を上げ、信頼を得ている人がいます。次のAさんやBさんの例を紹介します。

【事例1】話すのが苦手な敏腕営業マン、Aさん

営業職のAさんは、少人数でも人前で何かを説明するのがあまり得意ではありません。自分が話している時に心臓はドキドキするし、声も少し震えます。顧客の前でスマートなトークができているわけではありませんが、営業成績は優秀です。

Aさんが心がけているのは、「世の中の人の役に立つ活動をする」ことです。Aさんには、扱っている商材を取り入れることによって、顧客の生産性が上がるという確信があります。

そのため営業活動自体が自身の人生の目指す方向と一致し、やりがいをもった仕事ができています。人前で話すことが得意ではなくても、より多くの顧客に自社のサービスを導入してもらえるよう、丁寧に顧客の困りごとを聞き出します。その上で、解決に向けた具体的な提案をすることを意識しているのです。

【事例2】物静かな管理職、Bさん

管理職のBさんは、普段から物静かな雰囲気で、部下をどんどん引っ張って仕事をするタイプではありません。それでも、部下から絶大な支持を得ています。

その結果、部署の雰囲気は良好で、組織のパフォーマンスも高いです。また、部下が何かトラブルを起こした時は、テキパキと対応方法を部下に指示し、事態の収拾に努めます。感情的になって叱責することはありません。

Bさんが心がけているのは、部下に「10年後はどんなふうに仕事をしていたいか?」というような問い掛けを折に触れてすることで、いつも部下自身に長期的なキャリアの展望を自覚させている点です。

そして、なるべく現在の業務でその方向性に合うような仕事の振り方やフィードバックを意識しています。短期的な目標を与える時は必ず、その長期的な方向性に沿って決定します。仕事に限らず、家庭を大事にしたいというキャリア展望に対しても尊重し、部下が家庭により時間を割けるようにサポートします。

Aさんのような仕事への取り組み方や、Bさんのような部下への関わり方に共感し、自分もそのように振る舞いたいと思う方は多いでしょう。ただ、実際にそうした行動をしようと思っても自分にはなかなかできそうにないな、と感じるかもしれません。

自分が目標とする行動を実現していくにはどうしたらよいのでしょう。そのカギをにぎるのが、「心理的柔軟性」とよばれる行動の特徴です。

心理的柔軟性が高い人は懐が深い?
どんな能力を持っているのか

「心理的柔軟性」とは、「本当に大切にしたい自分の考えに意識を向け、それを邪魔するよう勝手に湧き上がる感情にとらわれず、いきいきとした生活を送るための行動的側面」を指します。「心理的柔軟性」につながる行動には、大きく2つの要素があります。

まず1つ目の要素は、本当に大切にしたい自分の考えとは何かを知ることです。これは、自分の人生における行動のあり方を意識すると言い換えることができます。

例えば先ほどのAさんであれば、「世の中の人の役に立つ」、Bさんであれば「人を育てて生産的なチームを作る」のようになるでしょう。あるいは、「子どもと過ごす時間を大切にする」といった考えの人もいると思います。

Aさんが人前で説明することが得意でなくても営業にやりがいをもって取り組んだり、Bさんが部下に10年先のことをイメージさせたりしていた理由は、本当に大切にしたい自分の考えをブレずに意識して、行動することを重視していたからです。

Aさんは、顧客の前で緊張しやすく、ときにはそれがつらい体験となっていました。しかし、それ以上に自分の人生でやっていきたいことを追求することに喜びを感じていたため、営業活動に邁進できていたのです。

Bさんの場合、短期的な成果だけに着目し翻弄(ほんろう)されていると、自分が何のために働きどんな人生を目指しているのかを見失ってしまうことを理解していました。そこで、Bさんは部下に対していつも人生の長期的な方向に目を向けさせるようにしていました。

私たち人間は、何かトラブルに遭遇した時や想定していなかったことが起きた時などに、自分の頭の中にとっさに湧き上がる考えや感情に気をとられ、パフォーマンスが下がってしまいがちです。

そこで重要なのが、自分の人生で目指す方向性を見失わないようにすることです。自分の人生がどこに向かっているのか、どこに向かいたいのかを改めて言葉にし、その方向を見失わずに行動を重ねることで、今置かれている困難な状況の中でも安定感をもって進むことができます。

心理的柔軟性が高い人は
「勝手に湧き上がる自分の考えや感情」にとらわれない

そうはいっても、「やりぬく自信がない」「取り組む時間がない」「きっとうまくいかない」などといったさまざまな考えや、それに伴う感情が頭の中に発生し、私たちの行動にストップをかけて目指す方向に進むのを邪魔してくるものです。ここで心理的柔軟性のもう一つの要素が役に立ちます。

それは、「勝手に湧き上がる自分の考えや感情にとらわれないこと」です。頭に浮かぶ考えや感情は、瞬時に私たちの注意をひきつけて行動に影響を与えます。その仕組みが、人類の進化の中で危険から身を守るのに有用だったからです。

しかし、猛獣に襲われる心配もない現代社会において、こうした仕組みが行き過ぎると、取るべき行動の妨げになります。「とらわれない」と一言でいっても、なかなか難しいことかもしれません。

まずは、自分の考えや感情であっても、それらは行動を決定するための一つの情報源にすぎない、という心構えを持ちましょう。そして数あるその情報源の中でも、長期的な人生の方向性についての自分の考えを、できる限り尊重することが重要です。

Aさんの場合、顧客に説明を始める前から緊張と「失敗したらどうしよう」といった不安で頭がいっぱいになって、声が震えそうになる恐れがありました。

Bさんの場合、部下のトラブルに対応するときに、「(うわっ、これは大変なトラブルだ! 上層部から追及されるんだろうな、部下のミスのせいで!)」というような考えが一瞬で頭をよぎり、同時に怒りの感情が湧くこともありました。

このように、最初に起こる考えや感情を自分の意思で抑制することは不可能に近いのです。一方で、大事なことは、最初に浮かんできた考えや感情のままに萎縮するかどうか、部下に怒りをぶつけるかどうかという反応は、自分で選べるということです。

衝動的に浮かんだ考えや感情のままに反応してしまうことにはさまざまなリスクが伴います。Aさんの場合は営業活動自体がうまくいかないことになるし、Bさんのマネジメントもパワーハラスメントとして受け取られたり、部下との関係性が悪くなったりと、良いことがありません。

もし日ごろから「世の中の人の役に立つ活動をする」や「人を育てて生産的なチームを作る」という方向を志しているのであれば、瞬間的に浮かんだ自分の考えや感情よりも、大局的な見方で今すべきことに優先して反応することが可能になるでしょう。

これができる人は、一般的に度量が大きいとか懐が深いなどと表現されますが、専門用語で言い換えれば、「心理的柔軟性が高い」ということなのです。それでは、「心理的柔軟性」が高い人になるためにはどうしたらよいのでしょうか。

心理的柔軟性は「スキル」
練習すれば誰でも身に付け高めることができる

これまでの説明を読んで、「でも自分はこんな性格だから無理だろうな…」と思われた方もいるかもしれません。心理的柔軟性とは、行動の側面です。つまり、普段の行動パターンが「柔軟に」変われば、結果的に心理的柔軟性は高まります。

心理的柔軟性を高めるプロセスは、筋トレに例えられます。トレーニングすると少しずつ身に付くけれど、やめるとまた元に戻ってしまいます。誰でも練習を重ねれば心理的柔軟性が身に付く、しかし長期にわたって実践し続けることが必要、といえるでしょう。

先ほど解説した心理的柔軟性の2つの要素に対応し、「やってみるスキル」と「気づくスキル」があります。それぞれ簡単に紹介していきます。

・やってみるスキル

「やってみるスキル」とは、人生を通じた長期的な目標を設定することと、今日からできる短期的なアクションプランを実行するスキルです。

まず長期的な目標の設定については、憧れの人物と同じように自分も行動する、昔やりたいと思ってやれていなかったことを思い出す、また自分の定年退職時をイメージし、周囲の者から自分がどんな人だったのかスピーチしてもらう場面を考える、などの方法があります。

短期的なアクションプランについては、長期的な目標に近づくために、今日からできるアクションを考えます。例えば、「今日ひとりで書店に行き、身に付けたい技術の本を買って最初の10ページ分読む」といったことでもよいでしょう。

・気づくスキル

アクションプラン実行の妨げとなるような自分の考えや感情に気づいて、それに適切に対処することが、「気づくスキル」です。気づくスキルを高める方法としては、今この瞬間の自分の考えや感情に注意を向けるマインドフルネスの実践や、自分の考えや感情に巻き込まれないよう、距離を置くようにする工夫などがあります。

新型コロナウイルス感染症の予防対策として、人と人の距離をとるソーシャルディスタンスが有名になりましたが、気づくスキルでは、自分の考えや感情といった心の内容そのものと、それらを心に浮かべる私たち自身のディスタンスを確保することが非常に重要です。

考えや感情から距離を置く工夫には、たとえば自分の考えたことを「 」(かぎかっこ)の中に入れて、『私は「つらいな」と思った』という文章にしてみるなどの方法があります。これだけでも、自分の考えに対して客観的に向き合うきっかけが作れます。

詳しくは以前、筆者が紹介しています(燃え尽き症候群になりやすい人、なりにくい人の思考法「決定的な違い」)ので、そちらも参考になさってください。

一見普通に見えるのに仕事ができる人の行動的な特徴として、「心理的柔軟性」という考え方を紹介しました。性格のように固定的なイメージのものではなく、スキルとして生活の中で練習することで高められます。

行動パターンを変えるには、どんな小さなことでもまず実行してみることです。「どうせ無理」「意味がない」といった考えが出てきたら、早速それらと距離をとって今日から始めてみてください。

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【筆者プロフィール】

土屋政雄
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 主任研究員
産業保健心理学を専門としてACT Japan:The Japanese Association for Contextual Behavioral Science 理事(2018年4月 - 現在)やマインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント・セラピーの専門家として講演等を行う。著作物(監訳) 『マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル 職場のためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』 星和書店

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