用語

認知行動療法

認知行動療法とは

認知行動療法という語は、その発展の歴史から幅広い内容を含んでいることにまず注意が必要です。広義には「行動科学と認知科学を臨床の諸問題へ応用したもの」1)と定義され、狭義にはわが国で保険点数化された「認知療法・認知行動療法」と同様の意味で用いられています。認知行動療法について国内の代表的な学術団体が2つある※1ことから専門家の間でイメージする内容が異なる場合があることに留意しましょう。

一般的には、狭義の認知行動療法に基づく考え方が普及していると考えられます。たとえば、厚生労働省が提供する心の健康についてのwebサイトに「認知行動療法」の枠で掲載されている「うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル」2)では、認知療法・認知行動療法について以下のように説明されています。

“人間の気分や行動が認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受けることから認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法”

(編集:慶應義塾大学認知行動療法研究会)

認知のあり方に着目する特徴から、認知行動療法の技法の1つである認知再構成法、特にそのツールである非機能的思考記録表(コラム法)などの説明が取り上げられることが多いですが、他にも行動実験、問題解決技法、アサーション・トレーニング、行動活性化など様々な技法を活用します。また、対象となる問題に応じて用いられる技法も異なります。

認知行動療法の活用例

認知行動療法は精神疾患の治療に使われるだけでなく、身体疾患患者の心理社会的問題や苦痛の改善、職場でのストレス、司法や教育や福祉の分野などでその考え方に基づいたアプローチが適用され、問題の解決に役立てられています。

認知療法・認知行動療法の治療者用マニュアルでは、対面式の面接を1回30分以上で16-20回程度行うことが想定されています。このような認知行動療法を、定型的(高強度)認知行動療法と呼びます。しかし、実施できる専門家の不足や確保できる時間の難しさなどから、必ずしも普及が広がっていません。一方で企業や地域保健分野などでは、集団や教育資材、ICT(情報通信技術)を活用した簡易型(低強度)認知行動療法が活用されるようになっています3)

簡易型認知行動療法は、認知行動変容アプローチを活用し、たとえば地域相談機関での活用や、集団教育、書籍やインターネット等によるセルフヘルプなどの場面で効率的にメンタルヘルスに及ぼす効果を得ることを想定しています。また、職場メンタルヘルス対策の一次予防でのセルフケアにおいて中心的な方法になっていることに加え、睡眠や運動、食生活や飲酒習慣などの生活習慣改善での活用もされています。

認知行動療法の発展の中で、マインドフルネスの活用やアクセプタンス&コミットメント・セラピーといった方法もその枠組みで用いられるようになってきています。同時に、メンタルヘルス対策だけでなく、生産性やウェルビーイングの向上、健康経営施策の中でも、従業員の認知行動に働きかける場面で役に立つアプローチです。

注1
※1:一般社団法人 日本認知・行動療法学会;日本認知療法・認知行動療法学会

引用文献
1)一般社団法人 日本認知・行動療法学会 「認知行動療法とは」
2)慶應義塾大学認知行動療法研究会編(2010)うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル(平成21年度厚生労働省こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」)
3)大野裕. (2020). 簡易型認知行動療法の活用に向けて: 産業現場や日常生活における実践のヒント. 行動医学研究, 25(2), 106-110.

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