心理的安全性とは?心理的安全性のメリットや心理的安全性の高い職場のつくり方を解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

近年、組織開発の領域において「心理的安全性」という言葉に関心が寄せられています。「心理的安全性」とは、自分の意見や考えを安心して表明できる状態のことで、心理的安全性が高い組織は生産性やパフォーマンスの向上が期待できるとされます。風通しが良く、従業員が働きがいを感じられる組織づくりを行うにあたって、心理的安全性を高めることは不可欠ですが、解釈を誤ると単なるぬるま湯組織になりかねません。今回は、「心理的安全性」の意味や高めるメリット、職場における取り組みのヒントをご紹介します。

心理的安全性とは

カラフルな吹き出しの画用紙を持つ会社員達

はじめに、心理的安全性の概念をチェックしておきましょう。

心理的安全性とは

心理的安全性とは、組織の誰に対しても、自分の意見や気持ちを安心して率直に表現できる状態のことを指します。例えば、「疑問や不安に感じたことを上司に素直に伝えられる」「会議で異なる意見を表明しても否定されない」といった環境は、「心理的安全性が高い」といえます。アメリカの組織行動学者であるエイミー C. エドモンドソン教授によって提唱された概念です。

心理的安全性の高い組織とぬるま湯組織の違い

デスクの上に置かれた紙飛行機

心理的安全性の高い組織を、「ぬるま湯組織」と混同しないよう注意が必要です。

ぬるま湯組織とは、メンバー同士が過度に遠慮し合い、表面的には穏やかでも、互いに踏み込んだ指摘や意見交換が行われない状態の組織を指します。緊張感や挑戦意欲が乏しく、現状維持に甘んじてしまいやすい点が特徴です。

日本人の国民性としては、和を大切にし、周囲と歩調を合わせる姿勢や、相手を気遣った婉曲的な表現が好まれる傾向があります。そのため、心理的安全性を高めるうえで重要となる「率直な指摘」や「意見の対立」は、「空気を読まない」「和を乱す」と受け取られてしまうこともあるでしょう。

しかし、単に「居心地が良いだけ」のぬるま湯組織と、「心理的安全性の高い職場」とでは、目指す方向性がまったく異なります。

心理的安全性の高い組織ぬるま湯組織
・意見交換が積極的で、意見の衝突を恐れない
・異なる意見をポジティブに受け入れる
・間違いを指摘し合える
・意見の対立が人間関係に影響しない
・自律的で成長意欲が高い
・対立を回避するために本音のやり取りをしない
・異なる意見を「波風」として非難する
・ミスを見てみぬふりをする
・不必要に遠慮するため、内心では不満を抱えがち
・現状維持に甘んじている
・受け身的で緊張感がない

心理的安全性が注目される理由

虫眼鏡でWHY?と描かれた文字を見ている様子

心理的安全性は、この数年で急速に注目を集めています。その背景となる要因を3つご紹介します。

VUCA時代の到来

一つは、VUCA※と呼ばれる変化の激しい時代の到来です。企業を取り巻くビジネス環境はますます変化のスピードを増し、複雑になり、将来の予測が難しくなっています。社会のニーズにすばやく対応し、ビジネスを成長させていくためには、柔軟な対応や変革、挑戦できる環境が求められます。心理的安全性を高めることは、これからの時代を生き抜く組織の土台づくりに不可欠な要素です。

※VUCA(ブーカ)…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉

優秀な人材の確保・定着

労働人口の減少や人材の流動化が進む中では、人材の確保・定着が重要です。働き方への価値観も多様化した今、単に「働きやすさ」だけではなく「働きがい」や「成長性」を重視する人も少なくありません。

特に、主体的な働き方が可能で、自己の力を存分に発揮でき、かつ成長が実感できる組織は、優秀な人材にとっても魅力的に映り、長く定着してくれる可能性も高いでしょう。積極的な行動や挑戦が認められ、一人ひとりがいきいきと働ける環境を整えるためのカギとなるのは、心理的安全性を高めることです。

研究による重要性の指摘

研究や調査により、心理的安全性が組織の生産性やパフォーマンス向上に好影響を与えることが明らかになったことも、関心を集めることとなった背景の一つです。

特に有名なのが、Google社の「プロジェクト・アリストテレス」です。Google社は自社の180のチームをリサーチの対象とし、マネージャー、チームリーダー、チームメンバー、売上ノルマに対する成績の4つの指標をもとに、「効果的なチーム」の特徴を導き出す研究を行いました。その結果、効果的なチーム、すなわち生産性の高いチームをつくるうえで最も重要なのが「心理的安全性」であることを発見したのです。研究結果は世界的に注目を集め、心理的安全性の重要性が広く知られることとなりました。

心理的安全性を高めるメリット

歯車が連なっている様子

続いては、心理的安全性を高めるメリットについて解説します。

従業員エンゲージメントの向上

心理的安全性を高めることは、企業が人材戦略を進めるうえでも特に重要な取り組みであり、従業員のエンゲージメント向上につながります。心理的安全性が高い職場は、従業員が安心して主体的に意見を出したり行動したりするため、自分らしく働くことができます。「自分はこの会社に必要とされている」「チームの役に立っている」という意識が生まれることで、組織に対する愛着や貢献意欲も高まることが期待できるでしょう。

生産性の向上・イノベーションの創出

誰かの顔色を見ながら仕事する、失敗を強く非難されることを恐れながら働く必要がなくなるため、従業員は安心して仕事に集中できます。これにより、個々のパフォーマンスが高められ、生産性向上に結びつくでしょう。また、一人ひとりの意見が尊重されることで、新しいアイディアやチャレンジが認められやすくなり、イノベーションの創出にもつながります。

円滑なコミュニケーション

異なる意見を出しても頭ごなしに否定されず、アイディアを受け入れてもらえるという安心感があることで、従業員同士のコミュニケーションが円滑になることが期待できます。情報共有や助け合いが活発になり、チームの協働力が高まる効果もあるでしょう。

トラブルや問題の未然防止・早期発見

わからないことがあっても質問しやすく、ミスをしても素直に報告できるため、大きなトラブルの未然防止ができます。また、リカバリーが早くなる他、失敗からの学びも共有されるため、企業と従業員の成長スピードが早くなります。

心理的安全性が低い職場にある4つの不安

人が歩いているシルエット

心理的安全性の低い職場で働く従業員は、以下に挙げるような4つの不安状態に陥る可能性があります。これら4つの不安は職場の心理的安全性を下げ、従業員の業務のパフォーマンスや生産性をダウンさせる要素になりかねません。企業は、これらの不安を引き起こさない環境づくりを意識することが大切です。

①無知だと思われる不安

自分の発言に対し「こんなことも知らないのか」と思われるのではないかという不安。
(傾向例:自分の意見を発言できない、相談しづらい、質問できない)

②無能だと思われる不安

業務で失敗してしまった時に「仕事ができない人だ」と思われるのではないかという不安。
(傾向例:進捗の報連相ができない、ミスを報告しない・認めない)

③邪魔をしていると思われる不安

自分の発言や提案が会議や議論の邪魔だと思われるのではないかという不安。
(傾向例:自発的に意見できない、多数派の意見に同調する)

④ネガティブだと思われる不安

自分の発言を、他の従業員へ向けた否定的な意見だとネガティブな意味にとらえられるのではないかという不安。
(傾向例:反対意見や懸念点を発言できない、組織の問題点などを指摘できない)

心理的安全性の高い組織のつくり方

笑顔で研修に参加する人達

心理的安全性を高めるには、安心して率直に発言・行動できる環境や、自分の言動を相手に受け止めてもらえるような信頼関係の構築が欠かせません。ここでは、心理的安全性を高めるために組織および管理職に求められる取り組みをご紹介します。

多様性の理解と尊重

心理的安全性の高い職場を実現するには、個々が持つ多様な価値観や経験・意見などを認め、尊重する姿勢が重要です。お互いの多様性を否定せず受け入れるダイバーシティな環境になれば、さまざまな視点からの意見やアイディアを主体的に発言でき、生産性も高まることが期待できます。アンコンシャス・バイアス(無意識による偏見)をなくすトレーニングを行い、意識や行動の改善につなげましょう。

アサーションスキルの向上

アサーティブ・コミュニケーション(アサーション)とは、自分と相手、双方の考えを尊重しながらも、率直に自分の意見を伝えるコミュニケーションスキルのことです。言葉の選び方や伝え方が適切でなかったことで、誤解や対立が生まれてしまう場面は少なくありません。

アサーションのスキルを身につけることで、異なる意見や考えを持つ相手と議論を交わす際にも、相手を不快な気持ちにさせることなく建設的な意見交換ができるようになります。従業員一人ひとりがアサーションを意識したコミュニケーションを取ることが、心理的安全性を高めることにつながります。特に管理職やリーダーの言動は、職場の心理的安全性に大きく影響するため、部下とのコミュニケーションの方法などについて学べる機会を設けると良いでしょう。

人事評価制度の見直し

人事評価の見直しも、心理的安全性を高めることにつながります。例えば、人事評価の基準が不透明、不明確で上司の主観が評価に大きく影響しているようなケースでは、部下は上司の顔色をうかがって仕事をせざるを得ず、自発的な行動が抑えられ、新たな提案や意見ができなくなってしまいます。結果のみで評価するのではなく、業務プロセスにおける工夫やチャレンジなどについても適切に評価できるような仕組みを構築しましょう。

OKRの設定

OKR(Objectives and Key Results(目標と成果指標)」を設定することも大切です。OKRの設定を通して、企業の目指すものと従業員一人ひとりの目標を結びつけることで、組織が一丸となって同じ目標に向かって進むことができます。

全員の「共通認識」として目標を理解していることで、意見の対立が生じたとしても「組織の目標を達成するため」という意識を持つことができ、建設的なコミュニケーションが行えるようになります。

【管理職】相談・発言しやすい雰囲気づくり

会議をしている人達

チームのリーダーとなる管理職が、率先して話しかけやすい雰囲気を作っていくことも重要です。表情や身振り手振りなど、非言語コミュニケーションにも心を配り、誠実な態度で接します。また、自らの失敗や弱みを打ち明け、「ミスは恥ずかしいことではない」「失敗を気付きに変える」という認識を共有し、「ミスへの恐れ」をなくしていきましょう。

会議やミーティングの場においては、特定の従業員だけが発言している状態にならないよう注意します。一人ひとりに発言の機会を与えるなど、「自分はこの場にいてもいいんだ」と感じられる工夫を心がけましょう。

【管理職】1on1ミーティングの実施

上司と部下の信頼関係を築くため、1on1ミーティングを行うことも一つの方法です。上司は聞き役に徹し、内容に応じてフィードバックや気付きを与えます。

一般的に、1on1ミーティングは高頻度かつ定期的に行うため、部下はその時々の自分の状況を上司に把握・理解してもらえているという安心感につながります。また、チームメンバー同士で1on1を実施し、最近の業務に関する話題や仕事の工夫、チームの雰囲気などについてざっくばらんに話し合うのも有効です。評価や指導を目的とせず、対話を通して「自分の気持ちを伝える」経験を積み、発言することに「慣れてもらう」ことも、1on1の役割の一つです。

心理的安全性を高める際の注意点

角砂糖がたくさんつまれたコーヒーカップ

職場の心理的安全性を高めるにあたり、注意すべきことを2つご紹介します。

馴れ合い組織にならないよう緊張感を保つ

緊張感が抜けすぎて、馴れ合いの関係にならないよう注意しましょう。上下関係がない、友だちのような付き合い方になることは、本質的な取り組みとはいえません。チームメンバー同士の仲が良いことは悪いことではありませんが、仕事とプライベートでメリハリをつけ、納期を守る、勤務中は過度な雑談を控えるなど、責任を持って「仕事をする」ことを心がけましょう。

「叱らない」マネジメントに陥らない

「話しかけやすい」「相談しやすい」という点が、上司にとっては「叱らない」に結びついてしまうこともあります。心理的安全性が高い職場とは、「叱らない」マネジメントをするものではなく、適切なタイミングと方法で「きちんと叱ることができる」ものです。ハラスメントを意識しすぎて、何らかのトラブルが起きた際にも叱ることができないと、部下は「楽ができる」と感じてしまいます。

心理的安全性のはかり方

タスクのアイコンを持つ人の手

従業員の心理的安全性は、アンケートを実施して測ることができます。心理的安全性を提唱したエイミー・エドモンドソン教授は、心理的安全性の測定に利用できる7つの質問を発表しています。具体的には次の通りです。

<心理的安全性を測定する7つの質問>

  1. チームの中でミスをすると、いつも非難される
  2. チームのメンバーの間で、課題や問題について議論できる
  3. チームのメンバーは、自分と異なる考えを持つ他者に対し、拒否反応を示す傾向にある
  4. チームに対してリスクのある行動を取っても、安心感が揺らがない
  5. チームの他のメンバーに助けを求められない
  6. チームのメンバーに、わざと他者を陥れて足を引っ張る人はいない
  7. チームのメンバーと一緒に仕事をする中で自分のスキルが認められ、活用されていると感じる

これらの質問に対しポジティブな回答が多いほど、心理的安全性は高い状態と判断します。反対にネガティブな回答が多かった場合は心理的安全性が低いため、高めるための施策を検討する必要があるでしょう。

ただし、エドモンドソンは、回答者は自分の期待値に照らして回答しているため、「スコアは決定的なものではなく、重要なのは差異である」とも指摘しています。単に心理的安全性の高低を評価するのではなく、改善という目的を持った活用が重要と説いています。

ワンポイント
上記に加えて、挑戦を後押ししてくれるチームであるか、気軽に相談できる上司がいるかなど、企業独自の質問を加えてみても良いでしょう。このように組織の課題や従業員の率直な意見を把握するためには、定期的にサーベイを行うことも方法の一つです。

心理的安全性を高め誰もがいきいきと働ける職場へ

夕焼けの背景と人の手の影

心理的安全性を高めることは、企業の成長のみならず、従業員の働きがいを高める意味でも重要です。誰もが安心して、率直に意見を言い合える環境では、ポジティブなコミュニケーションが行われ、職場の活性化が期待できるでしょう。さまざまな取り組みを通して、従業員一人ひとりに心理的安全性を正しく理解してもらい、主体的な言動を促せる組織をつくりましょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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