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生産性が高いチームに不可欠な心理的安全性の作り方と、その取り組み事例

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「心理的安全性」は、Googleが発見した組織の生産性を高める要素として、組織開発の分野で注目されて久しいです。当社コンサルタント部門では、改めて心理的安全性と、組織のメンタリティ(メンタルヘルス・エンゲージメントの状態)との関連性を検証しています。

更に、心理的安全性の向上に向けた様々な支援を行っており、今回はその実事例もご紹介致します。

心理的安全性とは?

米Google社で2012年に発足した「プロジェクトアリストテレス」が、4年もの歳月をかけ従業員や組織に関するデータを詳細に分析し、導き出した組織の生産性に関わる5因子(下記参照)のうち、最も重要な要素です。

1.心理的安全性:「自分の弱みと周囲に思われそうなことでも、周囲に表現できるか?」
2.相互信頼:「チームメンバーが、時間内に質の高い仕事をしてくれると感じられるか?」
3.構造と明確さ:「仕事で求められていることと、それを達成するためのプロセスは明確か?」
4.仕事の意味:「今の仕事が、自分にとって意味があると感じられているか?」
5.インパクト:「今の仕事が、意義があり良い変化に繋がる仕事であると感じられているか?」
(参照:https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/identify-dynamics-of-effective-teams/

この5因子のリストをみると、心理的安全性だけを高めても組織の生産性は上がりにくいであろうと考えられます。

チーム内の安全性を高めながらも、業務遂行がしやすい業務プロセスを再設計する、顧客へ価値提供ができているか精査する等、組織開発には多角的なアプローチが必要であることは、念頭に置きたいところです。

組織開発における重要性と、データ検証

Googleの検証では、組織の生産性と心理的安全性の関連性が分析されましたが、心理的に安全な職場では、本当に働く人はいきいきと働けているのでしょうか?

私たちは、とあるメーカー企業で、心理的安全性と組織のメンタリティ(組織のメンタルヘルスとエンゲージメントの状況)の関連性を測定、検証したところ、“自分の意見を職場で発言しやすいと感じている人ほど、いきいきと職場で働けている”という結果(図1)がみられました。

図1:心理的安全性と組織のメンタリティの掛け合わせ分析
設問「率直な自分の意見を発言できる職場だと思いますか」への回答(“全く思わない”から“とてもそう思う”までの全5択)ごとに、ストレス反応及びエンゲージメントのスコアを算出しプロットした。
縦軸・横軸いずれも、数値が高いほど良い状態を示している(N=約600)。

主体的な発言・行動実施についての調査結果に関する散布図

あくまで1企業のデータ分析ではありますが、組織における心理的安全性が働く人の心の健康(メンタルヘルス)や、仕事への意欲(エンゲージメント)に関連していることが示唆されます。つまり心理的安全性が高い職場では、働く人がいきいきと働けることが考えられます。

では、働く人がいきいきしていることと、組織の生産性にはどのような関係があるのでしょうか。組織の生産性を考える上で重要な観点は、“その成果は、持続可能性が高いものか”という点です(下式)。

企業が利益を追求し続けるためには、瞬間的に高い成果を上げる組織ではなく、持続的に高い成果を上げられる組織をいかに創っていくかが、組織開発における重要命題であると私たちは考えています。

生産性が高い組織=成果の最大化×その成果の持続可能性

継続的に成果を出すために必要不可欠な要素は、働く人の心身の健康と、仕事への高い意欲であることは明白かと思います。

今回のデータ検証からは、心理的安全性が高い組織では、働く人の心が健康でいきいきと仕事に向かえていることがわかり、心理的安全性が組織成果の持続可能性の観点からも重要であると考えられます。

どのようにして向上/維持していくか?

心理的安全性の高い組織の作り方、また維持・向上のためにはどのような取り組みがあるのでしょうか?
これまで私たちが数多くの職場改善に関わってきた結果、下記の点などを抑えた取り組みが重要だと考えて
います。

・組織長が、職場の心理的安全性を向上させようと努めること(管理職の行動変容)
・組織内のメンバーで、相互理解が促進されるような取り組みをすること(メンバーの相互理解)
・組織内で、共通課題を議論し、改善していく仕組みを導入すること(議論・改善サイクルの駆動)
・職場外(会社・人事・外部機関等)からの支援体制を用意すること(サポート体制の構築)

特に重要な点は「管理職の行動変容」です。例えば、会議中にある若手社員が、自職場を良くしたい思いで、本音の課題提起をしたとしましょう。

それに対し、管理職がしっかり向き合う、もしくは検討外れな意見でも発言自体を承認するなどの対話があれば、「上司は、部下の意見を取り合ってくれる」「自分も今度、発言しようかな」という認識が形成され、自由な発言がしやすくなります。

もちろん管理職が全てではなく、メンバー間でも互いの性格・仕事の仕方・仕事で大切にしていることなどが共有されていなければ、相手の意見の真意がわからずに、上手く対話ができません。互いの特徴が理解されていれば、感情的な対立に繋がりにくく、建設的な議論ができます。

この2点を補完する意味でも、組織の共通課題を議論し、業務に反映するPDCAサイクルを回すことが重要です。

上司部下間や同僚間の議論において、ベクトルが異なる方向を向いていると上手く対話が促進しませんが、「仕事や組織をより良くする」という共通課題に対し、同じ方向にベクトルを向けられていれば、意見も言いやすくなります。

いずれも当たり前の要点ですが、組織が上手く回っている職場をみていくと、このような点が丁寧に押さえられています。

当社顧客における実事例の紹介

最後に、これまで私たちが関わってきた職場改善事例の中から、心理的安全性をテーマにした事例を2つご紹介します。

①社長・役員層が起点となり、全社の風通しの良さを高める取り組み
【従業員1000名以下 / 製造業 / 役員層主体】

~経緯~
組織診断(ストレスチェック)の結果から、会社全体に疲弊感の強さがうかがわれた。経営側の認識としては業績好調のため、現場に一定の負担があるとは認識していたが想定よりも大きく上回る疲弊感の強さだった。

~取り組み1~ 
当社コンサルタントによる職場インタビューを実施(対象:経営層・管理職・非管理職)した結果、全社的に職位間・事業部間のコミュニケーションが円滑ではないことが判明した。その根本は、互いの信頼関係が十分ではなく、“言いたいことが言えていない”雰囲気があるのではないかという仮説を設定した。

~取り組み2~
全社課題であるため、経営層の信頼関係強化が、まず初めに必要であると結論付け、人の感情・行動特性を表す検査(EQI検査)をもとに、集合研修を実施し、経営層間の相互理解を促した。その後、研修参加者と弊社が個別面談を定期的に行い、個々人の行動変容を支援。更に、取り組みの進捗を可視化するために、月次で社員の状態をモニタリングしている。経営層の行動や言動によって組織にどのような影響が出ているかを逐次確認できることによって、参加者の動機維持・向上の狙いがある。

②職場全体で、本音の議論を行い、組織の活力向上に繋がった取り組み
【従業員500名以下 / サービス業 / 専門職を抱える一部門主体】

~経緯~
業容拡大の中、サービス提供する専門職の部門で、仕事の属人化やチームワーク不足があり、ストレスチェックから、高ストレス者の多さも判明し、また上記を示唆する結果がみられた。メンバーは意見を持っているようだが、会議などではあまり発言がなく、円滑な組織運営が求められた。

~取り組み1~
部門全体で終日会議を実施し、各メンバーの課題認識などをじっくり議論し、相互理解を促した。上記の課題感を踏まえ、管理職やメンバーが一体となり各種問題解決をするための小プロジェクトを推進し、課題解決の仕組みを回した。併せて、部長とメンバーの1on1を定例化し、日々の個別の困りごとなどをタイムリーに把握し、対策が打てる体制を確保した。

~取り組み2~
「取り組み1」のサイクルを安定的に運用するとともに、課長職を増強し、支援体制を強化した。それに伴い、メンバーと管理職層の接点が増え、問題解決の速さと規模が拡大し、業務改善等の成果もみえるようになってきた。上下間の対話は強化されたため、次にメンバー間の相互理解を更に促進すべく、職場全体で日報を共有する仕組みを導入した。メンバーそれぞれが、日々の業務で感じた良かったこと・疑問に思ったことを率直に記載し、他メンバーや上司とのやり取りも全員に公開し、職場全体での相互理解の促進を図っている。

~結果~
ストレスチェック結果(図2)から、高ストレス者割合の低減が確認され、職場内の人間関係や信頼関係の強化が確認された。

図2:取り組み②の部門の高ストレス者割合(左)、組織診断(ストレスチェック)の項目(右)
高ストレス者割合は値が低下するほど良いことを示す。
組織診断の項目は値が向上するほど良いことを示す。(N=約20名)

高ストレス者割合・組織診断の項目の変還に関する棒グラフ

この2つの取り組み事例や、多くの職場の状況を間近で見てきて感じたことは、何かが上手く行っていない職場では、問題の核心や皆が暗黙としている事柄(例えるなら、血栓のようなもの)に対し、意見することへの諦め感がありました。

人間関係が激しく対立しているようなわかりやすい事象は発生しておらず、職場ではもっともらしい議論が行われ、先のようなことが話題から排除されているような印象を受けました。

また、皆が腹を割って、同じベクトルを持ち問題を議論することができれば、自ずと解決すべき点がわかり、問題解決に繋がっていく過程も見えます。組織の中の血の巡りが良くなり、段々と健康になっていく自浄作用のようなものも感じられました。

今回は心理的安全性に着目していますが、もちろんこれら事例の取り組みにおいては、様々な要因が相互作用しあっているため、一概には言えません。

しかしながら、改めて会社や職場において、本当に感じている問題を闊達に議論できるような組織創りが、生産性の高さに繋がっていき、更には日本全体が持続可能的に元気な社会になっていくために必要なことだと考えられます。

【筆者】株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 コンサルタント

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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