企業は、ストレスチェックの実施責任を持つ事業者として、ストレスチェックの実施体制を整えなければなりません。厚生労働省は、一連のプロセスが適切に行われるよう複数の要件を定めており、中でもストレスチェックの「実施者」については、特定の国家資格を持つ人のみと決められています。今回は、ストレスチェックの実施者および実施事務従事者の要件と役割、選定・配置時のポイントについて詳しく解説します。
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●目次:健康経営とストレスチェック制度のおさらい/ストレスチェックの活用法(メンタルヘルス)/ストレスチェックの活用法(効果検証・組織開発)
目次
ストレスチェックの「実施者」とは?要件と役割

労働安全衛生法により、常時使用する従業員が50人以上の事業場においては、年に1回以上のストレスチェックの実施が義務づけられています。条件を満たさない事業場については、努力義務が定められています。(労働安全衛生法第66条の10)
ストレスチェックの実施体制を整えるにあたり、まずは以下4つの役割を理解しておきましょう。「実施者」「実施事務従事者」については本記事で詳しく説明します。
<ストレスチェックにおけるそれぞれの役割>
事業者 | ストレスチェックの実施責任を持つ運営者。多くの場合、会社や法人を指します。 |
ストレスチェック担当者 | 各職場において、ストレスチェックの実施計画の策定、実施の管理などを担当します。一般的には、社内の衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者が携わります。 |
実施者 | ストレス調査票の選定や評価方法の決定や結果の確認を行う、実施の中心的な役割を務めます。 |
実施事務従事者 | 実施者の指示に従い、関連業務の補助・事務作業を担当します。 |
ストレスチェックの「実施者」の要件
ストレスチェックの実施者とは、ストレス調査票の選定や評価方法の決定、結果の確認を行う、実施の中心的な役割を担う人のことです。実施者の選定は事業者が行います。労働安全衛生規則第52条の10第1項により、実施者は以下の要件に該当する有資格者と定められています。
<ストレスチェック「実施者」の要件>
①医師
②保健師
③検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
③については記載の通り、厚生労働省が定める研修を受け、ストレスチェックの知識を得ていることが必須です。※実施者は従業員の個人情報を取り扱うため、守秘義務が課されています。(労働安全衛生法第104条)
※平成27年(2015年)11月30日の時点で、労働者の健康管理を行う業務に3年以上従事した経験のある看護師、および精神保健福祉士については、研修の受講が免除されています。
<代表実施者と共同実施者>
ストレスチェック実施マニュアルによると、実施者が複数名いる場合、「代表実施者」と「共同実施者」としてそれぞれを明示することが求められています。ストレスチェックの実施をすべて外部委託する場合でも、同様の対応が必要です。
日頃から社内の状況を把握し、事情をよく理解している産業医が実施者となることが最も望ましいですが、産業保健活動に携わっている精神科医、心療内科医などの医師、保健師、看護師なども推奨されています。
ストレスチェックの「実施者」の役割
ストレスチェックの実施者の役割は主に3つです。
①事業者への助言
ストレスチェックを実施するにあたり、専門的な視点から事業者(企業)に対して提案や助言を行います。
②高ストレス者の選定基準や評価方法に関する助言
高ストレス者の選定基準などについて専門的な視点から提案や助言をします。事業者は、実施者の見解や衛生委員会の意見を踏まえ、選定基準を決定します。
③面接指導が必要な労働者の判断
ストレスチェックの個人結果から、医師による面接指導の必要性について判断します。また、実施事務従事者へ指示し、ストレスチェック結果の通知や記録の作成、集団分析などを行います。
ストレスチェックの「実施事務従事者」とは?要件と役割

次に、実施事務従事者の要件および役割をチェックしましょう。
ストレスチェックの「実施事務従事者」の要件
「ストレスチェック実施事務従事者」とは、実施者の指示に従い、さまざまな補助を行う人です。個人の調査票のデータ入力や結果の出力、記録の保存等を含む事務作業を担います。
実施事務従事者には特別な資格は必要なく、衛生管理者をはじめとする社内の産業保健スタッフが担当することが一般的で、外部委託も可能です。実施事務従事者も、従業員のストレスチェックの回答を知り得る立場にあるため、法律により守秘義務が課されています。
人数について規定はなく、一般的には1~2名程度、規模の大きい事業場はそれ以上を選任するケースもみられます。
ストレスチェックの「実施事務従事者」の役割
実施事務従事者の役割は以下の通りです。
<実施事務従事者の担当内容>
- ストレスチェック実施に向けたスケジュール調整、案内
- ストレスチェックの実施を委託している外部機関との連携
- ストレス調査票の配布、回収
- ストレスチェックを受けていない従業員への声かけ
- 個人への結果通知
- ストレスチェック結果の出力
- 事業所への集団分析結果の通知
- 面接指導の対象となった従業員への面接の勧奨
- ストレスチェック結果の保存(事業者から指名を受けた場合)
監督的地位の人は「実施者」「実施事務従事者」になれない

監督的地位を持つ従業員は、ストレスチェックの実施者および実施事務従事者になることができません。その理由と、例外となるケースについて解説します。
従業員が不利益な扱いを受けないための措置
ストレスチェックの結果によって、従業員が人事上の不利益な扱いを受けることがあってはなりません。そのため、労働安全衛生規則(第52条10の2)では、ストレスチェックの実施者や従事者になれない人が定められています。
2 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。
つまり、経営者や管理職、人事部長など、直接的な人事権を持つ人は、ストレスチェックの実施業務に関わることができません。ただし、人事部に所属していても人事権を持たない従業員については、この制限の対象外となります。
「その他の事務」への従事は可能
ストレスチェックの実施に関わる事務作業は、「実施の事務」と「その他の事務」に分けられます。
「実施の事務」は、ストレス調査票の回収や内容の確認、データ入力、結果の封入など、実施者の補助として従業員の健康情報を取り扱う業務を指します。
「その他の事務」とは、ストレスチェックの実施計画の策定やスケジュールの調整、従業員への調査票の配布、案内など、個人の健康情報を取り扱わない業務のことです。「その他の事務」については、人事権を持つ人でも従事できます。
「実施者」「実施事務従事者」を配置する際のポイント

ストレスチェックの「実施者」および「実施事務従事者」を配置する際のポイントをチェックしておきましょう。
「実施者」に産業医を選任する場合
先述したように、自社の状況をよく把握している産業医がいる場合は、実施者としてストレスチェックの実施に関わってもらうことが望ましいといえます。専門的な立場からの知見を得られるだけではなく、職場の状況に応じた環境改善、より具体的で的確なメンタルヘルス対策の実施が期待できます。
実施者を依頼する場合は、業務の範囲などを明確にして伝えることが大切です。また、ストレスチェックの実施を見据えて新たな産業医の選任を検討する場合は、ストレスチェックの実施者として対応してもらえるかも確認するとよいでしょう。
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「実施者」が見つからない場合
産業医に依頼したものの断られてしまった場合や、会社の規模が小さく産業医を選任していない場合など、ストレスチェックの実施者が確保できない場合は、社内の保健師などを選定しても差し支えありません。また、地域の産業保健総合支援センターに相談することも有効な手段です。
外部機関への実施委託も検討を

社内の人員が足りず負担が大きい場合などは、ストレスチェック業務を外部に委託することも検討しましょう。調査票の作成から実施後の集団分析まで引き受けてもらえることも多く、専門的な知識や豊富なデータを持っているため、ストレスチェックの実施効果をさらに高めることも期待できます。
厚生労働省の「ストレスチェック制度実施マニュアル」では、外部委託するケースにおいては、自社の産業医も実施者として関わることを推奨しています。委託先を検討する際は、費用や実績の他、「実施者」や「実施事務従事者」の業務範囲をどの程度引き受けてもらえるのか、対応できる業務内容などを十分に考慮して決定しましょう。
ストレスチェックで高ストレス者が出たときの対応方法

厚生労働省のストレスチェック導入ガイドでは、「自覚症状が高い者や、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポート状況が著しく悪いもの」を「高ストレス者」として選ぶよう求めています。高ストレス者の割合は、ストレスチェックの受検者のうち5~20%程度といわれており、どの事業場でも一定の割合で存在するとされます。
高ストレス者は、あらかじめ定められた基準に基づいて実施者が選定するため、一連の選定プロセスに事業者が関わることはできず、従業員本人からの面接指導の申し出がなされることで把握できるものです。ストレスチェックの実施後、高ストレス者と判定された従業員が医師による面接指導を希望した場合は、速やかに面接指導の場を設けましょう。高ストレス者への対応方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。
参考:ストレスチェック導入ガイド
それぞれの役割を理解しストレスチェックの円滑な実施を

ストレスチェックを適切に運用するためには、実施者や実施事務従事者など、各プロセスに携わる人がどのような役割を持っているのかをよく理解しておくことが大切です。ストレスチェックは、従業員のメンタル不調を未然に防ぐという大きな目的がありますが、集団分析などを通してその結果を効果的に活用することで、より働きやすい職場へと改善していくこともできるのです。より意義ある取り組みにするためにも、実施体制をきちんと整えたうえで、専門的な知識を持った産業医との密な連携、外部の専門機関への委託も検討しましょう。