ナレッジマネジメントとは、従業員個人が持つ技術や作業ノウハウなどの有益な情報(ナレッジ)を社内で共有し、活用する経営手法のことです。ナレッジの適切な管理・運用によって、企業価値や競争力の強化を図ることができます。本記事では、ナレッジマネジメントの定義や注目されている背景などを簡単にわかりやすく解説。その他、社内導入で失敗しないコツも紹介します。
目次
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、個々の従業員が業務を進める中で蓄積してきた知識や経験、ノウハウを企業全体で共有し、それを活用することで企業成長につなげていく経営手法のことです。日本語では「知識経営」と訳されることが一般的です。
ナレッジマネジメントそのものは、1990年代に提唱された概念ですが、近年再び脚光を浴びています。まずは、ナレッジマネジメントの概念や注目されている理由を紐解いていきます。
企業が持つ2つの「知(ナレッジ)」
ナレッジマネジメントにおけるナレッジとは、知識や知見、ノウハウ、コツなど、業務に役立つ幅広い情報のことを指します。企業の持つナレッジは、主に「暗黙知」と「形式知」の2つに大別され、以下のような特徴があります。
種類 | 特徴 | 例 |
暗黙知 | ・個人の技能や経験によって蓄積された知識 ・「その人だけ」が持っている ・言語化が難しく習得しにくい ・主観的 | ・長年の勘・直感 ・営業センス ・トークスキル |
形式知 | ・文字や図表で表現された知識 ・言語化されており習得しやすい ・客観的 | ・マニュアル ・説明書、手順書 |
「暗黙知」を「形式知」に変換する
「暗黙知」は、その性質上、そのままにしていても企業全体の知識にはなり得ず、個人の成果にとどまってしまいます。
ナレッジマネジメントは、知識として伝達しにくい「暗黙知」を「形式知」へと変換して企業内で共有し、経営に活用しようという考え方です。暗黙知を文章や図表、数式などを用いて言語化・マニュアル化することで、企業全体での知の蓄積・共有を目指します。
ナレッジマネジメントが注目を集める理由
ナレッジマネジメントが注目される背景には、社会構造の変化や雇用形態の多様化といった、現代ならではの事情があります。在宅勤務やテレワークなどが浸透し、働き方の選択肢が増えてきたことも、ナレッジマネジメントが求められている理由の一つです。
ナレッジマネジメントを活用し、ノウハウを言語化・マニュアル化することで、オンライン上でのナレッジ共有も可能になります。従業員のスキルを高いレベルで画一化できれば、業務効率の改善や生産性アップにつながり、企業の利益拡大にも役立つでしょう。
個人の中にとどめられた暗黙知を積極的に引き出して、知識や技術をしっかりと組織の中に蓄積・継承していくことが、企業力の維持・向上の鍵となっています。
ナレッジマネジメント導入のメリット
ナレッジマネジメントを社内導入する際には、そのメリットも理解しておきたいですよね。ここでは、ナレッジマネジメントを導入するメリットを解説します。
業務の効率化・改善
ナレッジマネジメントの導入により、業務の効率化や改善を図ることができます。従来以上に情報の共有スピードが上がることから、従業員全体のスキルアップもスムーズに行えるでしょう。
業務の属人化防止
ナレッジマネジメントの活用は、特定の人に頼らざるを得なかった業務を減らすことにつながります。
例えば、担当者が急に休むようなことがあっても、業務の進め方があらかじめ共有できていれば、別の従業員が代わりに業務を行うこともでき、担当者不在で仕事が止まってしまう事態を防ぐことができます。また、異動や退職に伴って担当者が交代する場合も、円滑な引き継ぎが可能です。
人材育成
形式知として蓄積・管理されてきたノウハウは、短期間で高度な人材育成を行いたい時にも役立ちます。ナレッジマネジメントを活用することで、熟練者が退職した後でも、若手への技術継承が行いやすくなります。
ナレッジマネジメントの手法
では、実際にナレッジマネジメントを導入することで、どのようなことを叶えることができるのでしょうか。ここでは、ナレッジマネジメントにより業務の効率化が期待できる4つの手法を紹介します。
【経営資本・戦略策定型】 経営戦略に活かす | 社内に分散している知識や過去の事例などを分析し、その結果をもとに業務プロセスなどの見直しや企業の成長戦略に役立てる手法。 同時に 競合他社の分析も行うことで、競争社会の中での自社の強み・弱みの把握も可能。 |
【ベストプラクティス共有型】 優秀な従業員の思考や知識をデータベース化 | 優秀なスキル・ノウハウを持った従業員の行動や思考を形式知化し、共有する手法。 従業員全体のスキルアップや生産性向上につながる。 |
【専門知識型】 専門知識のデータベース化 | 必要な情報を迅速かつ簡単に取得できるよう、専門知識をデータベース化する手法。システムや法務・財務など、専門的な知識が求められる業務で活用される。 これにより、専門知識がない人や着任歴が浅い人でも、スムーズに業務に携わることが可能に。また、専門知識を有する従業員も、社内からの問い合わせ対応やレクチャー時間が減ることで、コア業務に集中できるというメリットも。 |
【顧客知識共有型】 顧客対応の効率化アップ | 顧客対応の質向上・効率化を目指す手法。情報をデータベース化するという点では、前項の「専門知識型」に近しい部分もあるが、こちらは顧客からの問い合わせ、クレームなどの履歴を蓄積していくことが特徴。 過去の対応を参照することで、迅速かつ適切な対応が可能に。また、データベースを元に、顧客への対応方法や、ルールを明確化しておくことで、公平性や品質が保たれた顧客対応を実現することができる。 |
ナレッジマネジメント導入の流れ
ナレッジマネジメントを社内導入する際、どのように進めていけば良いのでしょうか。ここでは、おおまかな導入の流れを解説します。
①導入目的を明確化
まずは、ナレッジマネジメントを導入する目的を定めます。例としては、売上アップ、生産性アップ、個人の作業効率アップ、顧客対応の質向上などが挙げられます。
一方で、業務が属人化していて不測の事態への対応ができない、同じ業務を行う中で効率のいい人とそうでない人がいて、生産性にバラつきがあるなど、ナレッジの共有がないことで生じる課題の解消に目的を置くケースもあります。
目的がブレてしまうと、収集すべきナレッジの方向性を見失ったり、集めたナレッジを上手く活かしきれなかったりすることもあるため、しっかりと定めましょう。
②集めたいナレッジの整理
続いて、目的を達成するために集めるべきナレッジ(情報)を整理します。技術や作業の進め方といったノウハウなのか、あるいは社内におけるやり取り、顧客対応といったコミュニケーション方法なのか、何が必要か整理をしましょう。
普段の業務で困っていることや、どんなナレッジがあれば業務がスムーズに行えるかなどのアンケートを取り、従業員の声を聞くのもよいでしょう。
③ナレッジの共有方法を検討
最後に、集めたナレッジの共有・可視化方法を考えます。例として、以下のような共有方法やまとめ方があります。
共有方法 | 情報のまとめ方 |
・表計算ソフト ・ファイルサーバ ・社内SNS など | ・マニュアル化 ・FAQ形式 ・データベース化(検索方式) など |
集めたナレッジを有効に活用し、アップデートしていくためにも、目的や用途に合わせて、従業員が使いやすいものを選択することが大切です。ナレッジマネジメントツールを利用すれば、情報の整理や分析、検索が容易に行える場合もあるので、導入検討をしても良いでしょう。
ナレッジマネジメントの失敗しないコツ
ナレッジマネジメントは、ノウハウや知識の集約に時間がかかります。また、せっかく集めたナレッジが業務に活かされなければ失敗に終わってしまうことも。ここでは、ナレッジマネジメントの導入に失敗しないコツを紹介します。
従業員の協力・理解を得られる仕組みづくり
ナレッジの集約方法が面倒だったり、残業につながったりすると、従業員のモチベーション低下を招いてしまいます。集約方法の簡便化や集約期間に余裕を持つなど、従業員の協力を得られる仕組み作りが大切です。
また、従業員の中には、知識を共有するメリットを感じない人もいます。自分が得たスキルを他人に知られたくない、大した知識ではないと感じていたり、言語化が苦手、といった理由で、ナレッジの共有に前向きでない人も。
ナレッジの共有が自身にとってもプラスになることを発信する、知識を共有する行動に対してインセンティブを設けたり、人事評価制度に反映させる、などの手段も検討しましょう。
定期的に利用状況をチェックする
ナレッジマネジメントの導入後は、定期的に利用状況を確認することが大切です。集約したナレッジがきちんと活かされているか、活かされていない場合、何が原因なのかをしっかりと分析して、適宜見直すようにしましょう。
また、ナレッジは日々進化していくものです。定期的にナレッジを再集約しアップデートするなど、長いスパンで活かしていくことも検討しましょう。
企業力を高めるナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントは、働き方が多様化している現代社会において、企業が知的資産を蓄積し、活用するための重要な手法です。また、業務の属人化防止、効率的な人材育成など、現代の企業が抱えがちな課題の解決にも役立つと期待されています。これからの企業の競争力・価値を高めていくことにつなるナレッジマネジメントの導入をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。