「睡眠の質低下」が企業にもたらす生産性損失リスクを防ぐには?

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業務改善や人員配置の最適化、システム導入など、昨今では多くの企業が様々な施策を用いて生産性向上に取り組んでいます。しかし、社員一人ひとりの不眠や睡眠の質低下が企業の生産活動に大きなリスクを与えているという認識を持つ企業や、それらを意識したマネジメントを行っている組織は非常に少ないと考えられます。

企業や組織は、社員の「睡眠の質」をいかにして把握し、どのように向き合うことが求められているのでしょうか?

この記事は、8月24日に当社が実施したオンラインセミナー「睡眠の質低下が企業にもたらす生産性損失のリスクとは」の内容を編集してお届けします。

睡眠の質が生産性の低下につながるメカニズム

ある研究によると、たとえ6時間睡眠を取っていても睡眠の質が低下している場合は、酒気帯びレベルの状況まで認知機能が落ちてしまうという結果がでています。睡眠の質が低下していると、本人の自覚がないまま集中力・注意力・記憶力が低下してしまうため、業務効率が落ち、残業や仕事のミスも増えてしまいます。

勤怠の乱れなどがない限り、周囲も当事者の置かれた状況に気づきにくく、当事者自身も焦りやイライラが募るため、職場でのチームワークの乱れやトラブルの発生を引き起こしかねません。それらがコンプライアンス違反や離職のリスクにもつながるなど、生産性の低下のみならず、様々な問題を引き起こす可能性があります。

※参照: 「酒気帯び時の認知レベル」6時間睡眠が、じつは一番危険な理由」 
前野博之著『成功する人ほどよく寝ている』(講談社+α新書)
図作成:アドバンテッジリスクマネジメント

しかし、睡眠は「とにかく長い時間眠ることが大切」と言えるほど単純なものではありません。睡眠時間の影響は年齢によっても異なります。若い方(33歳以下)は睡眠不足に非常に弱く、睡眠時間が減るほど生産性も低下する一方で、必要睡眠時間が減少するとされる高年齢世代のたとえば51歳以上では、睡眠時間が7時間を下回っても、特に生産性は影響を受けませんでした。

そのため、年齢に応じた睡眠の質の評価が必要になると言えます。また、睡眠のコンポーネント(量・質・リズム・日中機能)を分析した結果によると、睡眠の長さ以上に「実際に昼間眠くなってしまうかどうか」が、生産性低下に重要な影響を与えていることが明らかとなっています。

ちなみに、睡眠に問題がある人とない人の間には、生産性に少なくとも約3%の差が生まれるため、GDPに換算すると7.5兆円程度の影響があることもわかっています。

参照:研究報告: 睡眠の問題は少なくとも日本全体で7.5兆円の損失を招き、仕事のストレスにも強く影響。どのようにしたらカバーできるのか? こどもみらいSTRESCOPE/eSLEEPのデータから明らかに。

従業員の睡眠状況を無理なく自然にチェックするためのポイント

睡眠の質の低下が生産性に与える影響やメカニズムについて述べてきましたが、不眠や睡眠の質については本人も周囲も気付きにくいという問題があります。睡眠は日常的なことであるために本人の問題意識が芽生えにくく、本人が自覚しているストレスと不眠から生じる健康被害の影響にはギャップがあるといえます。

結果、悪循環に陥ってしまうという、見逃せない事態となってしまうのです。しかしながら「従業員に睡眠や生活状況を直接聞くのはプライベートに入り込みすぎでは?」と懸念される方も多いはずです。ここでは職場や面談の場で、従業員の睡眠状況を無理なく自然にチェックするためのポイントについてご紹介します。

(1)身だしなみが整えられているかを確認する
生活リズムが乱れているときは、身だしなみを整える余裕がなくなります。以前と比べて衣服や髪型が乱れている、顔色が悪くないかなど、心配な様子がないかを見ることが重要です。

(2)体調に変化はないか質問する
体調に関する質問をしても、ほとんどの従業員は「問題ありません」と答えます。この質問を通して不調を確認するというよりも、(3)以降の睡眠に関する質問をするためのきっかけとなることを意識します。コロナ禍の現在であれば、「最近はリモートが多くて直接会う機会が減りましたが、体調はどうですか?」と質問してもよいでしょう。

(3)平均的な睡眠時間を聞く
単純に「眠れていますか?」と聞くと、ほとんどの人が「眠れています」と答えます。そのため「平均的に何時間ぐらい眠れていますか?」と、具体的な睡眠時間を聞きましょう。

(4)目覚めの状態を聞く
「すっきりと起きられていますか?」という質問の回答によって、ある程度の熟睡感をチェックできます。睡眠時間が短い場合でも、すっきり目覚めているのであれば熟睡感はあると見なせます。

(5)日中の眠気の有無について聞く
日中の眠気は生産性低下の重要な要素です。正直に「眠いです」と答える人は少ないかもしれませんが、もしこの質問に「眠いです」と回答する人は相当深刻な状態にあると識別する上で聞いておく価値はあります。

上記5つの質問の回答に対して、必要な情報を聞き取り、状態を把握して定期的にモニタリングするスタンスで臨むことが肝要です。問題を指摘したり、性急に改善を求めたりすることは逆効果になるので、問題意識を徐々に本人に持たせ、自ら行動変容の必要があることに気づいてもらえることが理想です。

その意味では、心配な従業員に関しては1回の面接ではなく、定期的に何度か機会を持つことをお勧めします。

カウンセリングにおける睡眠問題解消のケーススタディ

ここでは実際のカウンセリングで睡眠問題を解消したAさんのケーススタディをご紹介します。管理職のAさんは、コロナ禍で在宅勤務が増え、ライフスタイルの変化についていけず、年齢的にも心身が弱ってきているという理由でカウンセリングを利用されました。

カウンセリング前のAさんは、朝4時に就寝して8時に起床、9時から在宅勤務を開始していました。在宅で通勤時間がなくなったため、日中はミーティングや部下のマネジメント業務に専念し、18時以降に自分の仕事を始め、就寝前の深夜からジョギングをしていました。

カウンセラーは、Aさんに対して「就寝前に激しい運動をすると体温が上がってしまい、入眠が難しくなります」と説明した上で、就寝前に行っていたジョギングを朝の時間帯に変更し、就寝前はストレッチなどの軽い運動だけにとどめてもらうことを提案しました。

急な生活習慣の変更への戸惑いに配慮して、まずは朝はマンションのベランダに出て陽の光を浴びること、それができるようになったら散歩に取り組んでもらうことを勧めました。また、Aさんは日中の時間を部下のマネジメントに使い、18時以降の夜の時間帯で自分の仕事をするスタイルを続けていましたが、自分の仕事も定時の時間内で済ませること、その際、他の仕事の依頼が入らないようにスケジュールをブロックしておくことを提案しました。

当初、Aさんは自分の仕事のスタイルを変えることに葛藤や抵抗感を感じていましたが、カウンセラーが提案する生活を続けていく中で、日中業務における集中力が格段に上がったことを実感し、以降は自発的に行動変容に取り組むようになりました。業務時間の「長さ」ではなく、仕事の「質」に目を向けることが行動変容につながった事例です。

「行動」が変容することで「結果」に変化を与える認知行動療法

上記でご紹介したAさんへのカウンセリングの基盤となっているのは、「認知行動療法」です。認知行動療法は、「行動」が変容することで「結果」に変化を与えることを目的とした心理療法の一つであり、多くのカウンセリング現場で用いられています。

具体的には、現在の行動が引き起こす「結果」「きっかけ」「本人なりのルール(認知)」「環境要因」に働きかけることで、新しい「行動(考える・実際の行動)」を学習してもらうというアプローチを取ります。

Aさんのケースも、前提には「余裕がある状態で仕事を終えるのは怠けだ」という本人なりのルールがありましたが、カウンセリングを受けることで「余裕を残し、持続可能な状態を維持することが長期的な目標達成につながる」という考えに変化したといえます。

カウンセリングでは、相談者の行動変容に対してカウンセラーが伴走する体制を作ります。当事者が忙しい日々の中、一人で問題を乗り越えようとすると、行動が習慣化せず、効果が出る前に中断してしまうことも少なくありません。そのような場合は一人で無理をせず、カウンセラーのような気軽に相談できる伴走者と共に習慣化を行い、効果につなげていくことを検討しましょう。

まとめ

人は誰しも「慣れ親しんだやり方」「自分なりの考え」を持って行動を選択しているため、それまでの睡眠・生活習慣を変えることは容易ではありません。カウンセリングなどのサービスを有効活用し、伴走者と共に習慣化・行動変容を行うことが小さな一歩を踏み出すきっかけになるでしょう。

一方でカウンセリングの継続には業務時間の調整なども必要になるため、難しいと感じられる方も多いはずです。睡眠問題に対応したスマートフォンアプリのなかにはカウンセリングで用いられる認知行動療法に基づいたプログラムを気軽に体験できるものがあります。ぜひご検討ください。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「個と組織の未来基準の元気を創る」トピックスをお届けします。

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