柔軟な働き方が広がる中で、「仕事」と「生活」を切り離さずに調和させる「ワークライフインテグレーション」という考え方が注目を集めています。本記事では、ワークライフインテグレーションを進めることのメリットやポイントについて、企業事例を交え詳しくご紹介します。
多様なライフスタイルに合わせた働き方を実現するためには、個人の意識変化だけでなく、企業が仕組みとして支えることが欠かせません。「ADVANTAGE HARMONY(アドバンテッジ ハーモニー)」は、こうした「仕事と生活の調和」を支えるための休業・両立支援システムです。育児・介護・治療などとキャリアの両立を後押しします。
目次
ワークライフインテグレーションとは

はじめに、ワークライフインテグレーションの考え方について理解を深めましょう。
ワークライフインテグレーションとは
ワークライフインテグレーションとは、仕事(ワーク)と私生活(ライフ)を切り離して扱うのではなく、どちらも人生の一部であり、等しく大切な要素として「統合(インテグレーション)」する考え方です。
仕事で得られる経験や成長が私生活を豊かにし、反対に家庭や趣味などプライベートの充実が仕事のモチベーション向上に作用する、というように、仕事と私生活が「相互に支え合う関係性」であることが特徴です。
ワークライフインテグレーションはまだあまり知られていない考え方
ワークライフインテグレーションは、新しい概念のように思われがちですが、2008年の時点ですでに経済同友会が提唱していた考え方です。
マイナビの調査(「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)」)によると、「ワークライフバランス」の認知率が82.8%であるのに対し、「ワークライフインテグレーション」は26.0%にとどまり、社会的な浸透はいまだ途上にあります。
しかし、この言葉は今後の働き方を考えるうえで欠かせません。その背景には2つの要因があります。一つは、コロナ禍でリモートワークが定着し、仕事と私生活の境界が曖昧になった結果、両方を一体的に充実させる視点が求められるようになった点です。もう1つは、健康経営や人的資本への注目から、私生活の充実が仕事の成果につながるという考えが広がり、柔軟な働き方を導入する企業が増加していることです。
参考:経済同友会「21 世紀の新しい働き方「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して」
参考:マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)」
ワークライフインテグレーションとワークライフバランスの違い

ワークライフインテグレーションとワークライフバランスは、仕事と私生活の両立を目指す点は共通していますが、アプローチが大きく異なります。
広く知られるワークライフバランスは、仕事と私生活を切り離し、対立するものとして捉え、育児や介護といったライフイベントに応じて比重を一時的に調整するイメージです。さまざまな働き方が広がっている今、それぞれを別のものとして扱う「ワークライフバランス」の概念を「古い」と指摘する声もあります。
これに対して、ワークライフインテグレーションは、両者を明確に線引きせず流動的なものとして捉えます。互いが良い影響を与え合うことで、単なる両立以上の「相乗効果」を引き出そうという考え方です。これは、従来のバランスの概念を一歩発展させた視点といえます。
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ワークライフインテグレーションが求められる理由

続いては、ワークライフインテグレーションが求められる理由を、3つの観点から整理します。
働き方改革の浸透
テクノロジーの進化や、リモートワークの普及、働き方改革による時間的なゆとりの確保で、柔軟な働き方が一般化しました。個々のライフスタイルに合わせた働き方は実現しやすくなっています。
一方で、仕事と私生活が複雑に交差する現在の働き方は、両者を切り分け「優先順位をつけて調整する」という、従来のワークライフバランスの考え方にマッチしにくくなっています。こうした背景から、両者の統合を目指すワークライフインテグレーションが注目されているのです。
参考:働き方改革関連法に関するハンドブック
働く人の価値観の多様化
働き方そのものの選択肢が広がったことで、働く人々の価値観も大きく変化しています。従来のように、時間配分を工夫して仕事と私生活を両立する、という視点から、「キャリアを優先したい」「プライベートを大切にしたい」「いろいろな仕事に挑戦したい」など、自分らしい生き方をどう実現するかという視点へシフトしているのです。
また、各々の価値観は、ライフイベントによって変化することもあります。多様な価値観を尊重しつつ、仕事と私生活の双方を充実させるための発展的なアプローチとして、ワークライフインテグレーションが求められています。
育児・介護休業者の増加

少子高齢化により、2035年には労働力が大幅に不足し、育児や介護を担う従業員が約6人に1人に増加する見込みです。制約を抱える従業員の両立を個人の努力に委ねるのには限界があります。
そのため企業は、組織全体で両立を支える仕組みを整え、従業員がキャリアを継続できる環境づくりが不可欠です。ワークライフインテグレーションの視点を取り入れた仕組み設計が、企業の持続的な成長につながります。
参考:パーソル総合研究所 シンクタンク本部「ケア就業者に関する研究」
ワークライフインテグレーションを実現できている人の特徴

ワークライフインテグレーションを実現できている人には、どのような特徴がみられるのでしょうか。
仕事もプライベートも充実させている
ワークライフインテグレーションは、「仕事か私生活か」とどちらかを犠牲にする発想ではなく、双方を統合して捉える考え方であり、仕事とプライベートの両方を充実させられる点が特徴です。柔軟な働き方制度によって、時間や場所を問わず働ける環境は、家庭・趣味・地域活動など、プライベートの活動にも時間を割ける余地をつくります。
例えば、子どものお迎え後はリモートワークにしてフルタイム勤務を実現する、マネジメント業務の経験を自身が参加する地域活動の運営に活かすなど、ワークとライフを柔軟に統合させるイメージです。仕事の生産性や私生活の充実が両立することで、人生全体の満足度が高まります。
仕事に対する主体性や意識が高い
ワークライフインテグレーションを実現している人は、仕事をポジティブに捉え、日常の体験や趣味も仕事に活かそうという主体的な意識を持っています。
働く日数や場所など裁量が委ねられることで、従業員は自身のライフステージに合わせてキャリアを自律的に設計する意識が芽生えます。「自分で決められる」という感覚は、仕事を「与えられた業務」から「人生を豊かにする活動」へと認識を変え、結果として業務に対する高い意欲と成果の上昇につながるのです。
自己成長のサイクルが速い
ワークライフインテグレーションを実現できている人は、「仕事も人生の一部であり、人生を豊かにする要素」という意識があるため、リスキリングやスキルアップに積極的な傾向があります。
新しい知識や経験を積極的に取り入れ、仕事に活用し、そこから得た成果や課題を次へ反映することで、成長のサイクルを加速させます。私生活での学びや挑戦も仕事に還元されるため、自己成長の機会が循環するでしょう。
ワークライフインテグレーションのメリット

ワークライフインテグレーションを推進することによる、企業側のメリットをご紹介します。
業務の効率化・生産性の向上
ワークライフインテグレーションを進めるプロセスでは、業務そのものの見直しやITツールの活用などによって、業務フローを改善する必要があります。これにより業務の効率化が期待できます。
また、ワークライフインテグレーションの実現によって、従業員が心身ともに健やかな状態であると、一人ひとりが本来持つ能力やパフォーマンスを十分に発揮できるため、生産性の向上にもつながるでしょう。心身の不調による休職や退職リスクを低減できる点でも、組織全体のパフォーマンス維持に寄与します。
従業員のエンゲージメント向上・離職率の低下
仕事と私生活の両方が充実し、従業員が「今、理想的な働き方ができている」「自分にとって働きやすい環境だ」と感じると、企業へのエンゲージメントが高まります。従業員エンゲージメント(エンプロイー・エンゲージメント)の高い従業員は、組織への愛着を強く持ち、「この企業で働き続けたい」「成果を出して組織に貢献したい」という意欲を持って仕事に取り組むのが特徴です。組織とのつながりを感じながら、モチベーション高く働いていることは、離職率の低下や企業全体の業績向上にもつながる大きなメリットといえます。
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ダイバーシティの実現
ワークライフインテグレーションは、多様なライフスタイルや価値観を尊重する仕組みそのものです。リモートワークや時短勤務など柔軟な働き方を導入することで、育児・介護・治療などさまざまな事情を抱える従業員が働き続けられる環境が整います。
多様なバックグラウンドを持つ従業員が集まると、新たな視点やアイディアが生まれやすくなり、企業の競争力向上とイノベーション創出、持続的な成長にも貢献します。
DEIの推進は、近年注目されている人的資本経営の実現、変化の激しい社会や時代への対応と組織の成長、新たな企業価値の創造という観点においても重要な取り組みです。DEIについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
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優秀な人材の確保
労働人口が減少する中でも働き手を確保していくためには、ワークライフインテグレーションの視点は欠かせません。ワークライフインテグレーションが実現すると、家庭の事情や勤務地の関係で、従来は採用を見送らざるを得なかった優秀な人材にも活躍してもらえます。
また、優秀な人材ほど、自分の将来像やキャリア観を明確に描いている傾向にあります。「個々が理想とする生き方を実現できる環境」をつくることは、採用競争力向上のみならず、人材の流出防止の面でも重要です。
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ワークライフインテグレーションのデメリット

ワークライフインテグレーションは、従業員の働きやすさや生産性向上につながる一方で、課題も存在します。主なデメリットを整理しておきましょう。
マネジメントが難しい
ワークライフインテグレーションを実現するうえでは、リモートワークやフレックス勤務など、柔軟な働き方制度を導入するケースが多いため、従来のように「同じ場所で、同じ時間働く」という前提がありません。そのため、業務の管理や進捗把握が不十分になり、情報共有の遅れや作業トラブルが発生するリスクがあります。
評価制度を見直す必要がある
勤務時間や出社状況をベースにした既存の人事評価は、柔軟な働き方を推奨するワークライフインテグレーションには適さない可能性が高いです。評価制度を改めずに働き方だけを変えてしまうと、不公平感や不信感が高まり、従業員の離職につながるおそれもあります。新しい働き方に対応した適切な評価ができるよう、評価制度を見直すことが求められます。
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自律的な働き方が求められる
ワークライフインテグレーションの実現にあたっては、従業員一人ひとりの自律性、自己管理能力が一層重要となります。働き方の自由度が高い一方で、時間管理やモチベーション維持、チームメンバーへの配慮ができなければ、かえって生産性が下がるリスクもあるでしょう。制度の理解や活用が進まず、形骸化してしまう可能性もあります。
企業がワークライフインテグレーションに取り組むためのポイント

企業がワークライフインテグレーションの取り組みを進めるうえでのポイントをチェックしていきましょう。
業務環境や制度の見直しを行う
柔軟な働き方を可能にするには、まず基盤となる業務環境を整える必要があります。リモートワークができるようITツールの導入やセキュリティ対策を行いましょう。併せて、短時間勤務制度やフレックスタイム制度などを取り入れ、従業員の多様なライフスタイルに合わせて働き方を選べる仕組みをつくります。
また、働き方が多様化するほど、評価制度との整合性が重要となります。成果物やプロセスへの貢献度を軸にするなど、適切な評価ができ、かつ透明性の高い新たな評価制度を導入し、公平性を保つことが大切です。多様な働き方やライフイベント(育児・介護等)と両立できる環境づくりを実現するには、従業員一人ひとりの状況に柔軟に対応できる人事制度やツール・システムの導入が求められます。
従業員の意識改革を行う
ワークライフインテグレーションの実現には、従業員自身が「主体的に働き方を変える」という意識を持つことも重要です。単に制度や仕組みを整えるだけではなく、従業員一人ひとりが生産性向上や効率化に向けて自律的な行動が求められます。
まずはワークライフインテグレーションの趣旨を丁寧に伝え、理解を深めることが大切です。「仕事と私生活を統合させる」という言葉が誤って解釈されると、従業員によっては長時間労働に陥る可能性もあるため注意しましょう。同時に、業務効率化やスキルアップに関する研修などを実施し、「自分ごと」として取り組んでいく意識を醸成します。
制度を「使いやすい」文化をつくる
制度を導入しても、実際に利用されなければ意味がありません。上層部が率先して制度を活用し、「使うのが当たり前」という文化の醸成と、「使っても不利益にならない」という理解を浸透させる必要があります。
加えて、チーム内の対話や情報共有を活発にし、お互いの事情を理解し合える関係を築くことも大切です。横のコミュニケーションを充実させれば、制度利用の後押しとなります。
見直しと改善のPDCAサイクルを構築する
新しい制度や仕組みの導入後も、見直しと改善を継続し、自社に適した形へアップデートしていくことが必要です。残業時間や有給休暇の取得率など、客観的な指標の分析を行い、効果を測定するとともに、サーベイなどを通して従業員からの意見や要望、ニーズを把握します。
取り組みの現状や改善状況は従業員とも共有し、当事者として巻き込むことで、さらなる制度利用と定着の促進につながります。
ワークライフインテグレーションの取り組み例

最後に、ワークライフインテグレーションの実現に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
全日本空輸株式会社
全日本空輸(ANA)は、介護とキャリア継続を支えるため、法定を上回る長期の介護休業制度(最大1年)や短時間勤務制度(最大5年延長)を整備しています。さらに、イントラネットでの周知や管理職向けeラーニング、「DEIフォーラム」の開催を通じて、職場の理解と意識醸成を促進。制度と組織文化の両輪で、従業員の多様な働き方とワークライフインテグレーションの実現を後押ししています。
参考:女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集
アフラック生命保険株式会社
アフラック生命保険は、育児・介護休業の拡充に加え、全従業員が利用できるシフト勤務、フレックス、在宅勤務などの柔軟な働き方を導入しています。また、全従業員・管理職向けにセミナーを実施し、両立への意識改革を推進。組織全体でワークライフインテグレーションの実現をサポートし、イノベーション創出と持続的な成長を目指しています。
参考:女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集
富士ソフト株式会社
富士ソフトは、長年にわたり働きやすい環境整備を進め、柔軟な勤務制度の新設・拡充を継続しています。有給休暇の30分単位取得や、休憩を10分単位で取得可能なリフレッシュタイムなどを設け、従業員に柔軟な裁量を与えることで、ワークライフインテグレーションの実現に貢献。この取り組みが評価され、2024年には高い水準を示す「プラチナくるみん」認定を取得しています。
参考:女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集
自分らしい「働き方」と「生き方」を実現できる職場づくり

ワークライフインテグレーションは、仕事と私生活を調整するバランスの概念を一歩進め、両者を互いに活かし合う形で統合する考え方です。これにより、従業員は人生を豊かにでき、企業は生産性向上やモチベーション維持のメリットを得られます。「キャリアかプライベートか」の二者択一ではなく、双方の持続的な成長につながります。
