介護現場で患者に手を差し出しているイメージ

「新しい働き方」に対応した両立支援とは”介護編”

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はじめに

前回に続き「新しい働き方」に対応した両立支援のポイントを紹介します。第4回目となる本記事では、「仕事と介護の両立」について解説します。

【第3回】 「新しい働き方」に対応した両立支援とは”私傷病-がん治療編”
【第2回】 「新しい働き方」に対応した両立支援とは”私傷病休業編”
【第1回】 「新しい働き方」に対応した両立支援とは”産育休編”

進む高齢化。変化する働き方や世帯構成

総務省統計局が公表している「人口推計令和2年9月報」によると、令和2年4月1日時点での総人口は1億2,581万人となっており、前年同月に比べて32万人が減少しています。一方、65歳以上の割合に着目すると28.6%と、前年同月に比べ、0.3%増加しており、高齢化傾向が継続していることがわかります。

人口の変化だけではなく、働き方や世帯構成も大きく変化しています。

内閣府男女共同参画局が公表している「令和2年版 男女共同参画白書」によると、 平成8年までは「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」の数が「雇用者の共働き世帯」を上回っていましたが、 平成9年以降は共働き世帯が上回るようになりました。

令和元年には「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」が582万世帯、「雇用者の共働き世帯」が1,245万世帯と2倍以上の差が出ています。

専業主婦が多数派だった時代であれば、妻が介護の担い手となることで、夫への影響は限定的でしたが、高齢化が進んでいること、共働き世帯が主流となったことで、夫への影響も大きくなっていることがうかがえます。

加えて、介護者はとりわけ働き盛り世代で、企業の中核を担っていることが多く、管理職として活躍する方や、職責の重い仕事に従事している方も少なくありません。介護者の増加が見込まれる中、こうした人材の離職を防ぐことが、企業の持続的発展にとっても重要です。

誰にでも起こりうる介護による離職

厚生労働省の公表している雇用動向調査によると、介護を離職理由としている割合が、平成21年は0.6%なのに対して、令和元年には1.3%にまで増加しています。男性については3倍になっており、介護による離職は男女問わず、誰にでも起こりうるものになりつつあります。

離職理由別離職者の割合*1,2
● 平成21年 「介護」    合計0.6 男0.2 女1.1(%)
● 令和元年 「介護・看護」  合計1.3 男0.6 女1.9(%)
*1 出典:厚生労働省 「平成21年 雇用動向調査」より
*2 出典:厚生労働省 「令和元年 雇用動向調査」より


また、厚生労働省の「平成30年度 介護保険事業状況報告(年報)」によると、要介護認定者数も増加傾向にあり、今後も、介護を理由とする離職は男女問わず増える可能性が懸念されます。

要介護(要支援)認定者数 *3
● 平成12年度:256万人
● 平成30年度:658万人
*3 出典:厚生労働省 「平成30年度 介護保険事業状況報告(年報)」より

従業員が介護を理由に離職してしまう背景の一つには「介護期間の長さ」があげられます。介護の平均期間は54.5ヶ月(4年7ヶ月)*4となっており、休職のみで対応できる期間ではありません。従業員が仕事と介護を両立しながら働き続けられるよう、企業としての理解や支援、体制づくりが必要不可欠です。
*4 出典:(公財)生命保険文化センター「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査より

これからは、より多くの従業員が介護に携わる可能性があることを認識し、仕事と介護を両立しやすい職場づくりが求められています。

仕事と介護の両立のポイント

これまで述べてきたように、年々介護による離職のリスクは高まっています。さらに、介護は育児とは異なり、いつ始まり、いつ終わるのかがわかりません。だからこそ、働き続けながら、いかに仕事と介護を両立するか、という視点が重要となります。

一方で、仕事と介護を両立できるかという点については、従業員の7~8割*5の人は不安を抱えているという調査報告もあり、企業としてはこのような不安を払拭させる取り組みが必要となってきています。
*5 出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立に関する労働者調査」(厚生労働省委託事業)平成25年1月実施より

次項からは厚生労働省から発表されている「仕事と介護の両立支援ガイド」などをもとに、企業が取り組むべき両立支援の施策やポイントについて解説します。

① 仕事と介護の両立に関する社内実態調査

「仕事と介護の両立支援」の出発点となる取り組みが、「社内の実態調査」です。

「従業員の介護の有無」や「仕事との両立に対する不安」、「仕事や職場での状況(労働時間や休暇取得の状況、コミュニケーションなど)」、「その他両立に関する不安」など、自社の状況を把握した上で、課題となっている点を明らかにすることが重要となります。

従業員によって、仕事と介護の両立についての知識や準備の程度は異なるため、これらを把握する意味でもまず取り組みたい施策です。

具体的な方法としては、
1.全社的なアンケートやヒアリングの実施
2.人事面談などを通じた上司による把握
3.介護経験者を対象としたヒアリング
などが挙げられます。

また、このような施策により、企業は「従業員の仕事と介護の両立を支援する」という意思表示をすることができ、従業員が介護について相談しやすい風土を醸成するきっかけにもなります。

② 仕事と介護の両立を可能にする制度設計・見直し

介護は一定期間休業すれば、必ず元どおりに復職できるというものではありません。両立期間中、時間や場所の制約が発生する場合もあります。そのため、仕事と介護を両立しながらも、従業員一人ひとりが持てる力を十分発揮できるような職場環境の整備や制度設計が重要となります。

仕事と介護の両立を支援するための制度を新たに設計する際や、既存の制度・施策を見直す際には、「①」で実施した、実態調査などをもとに以下のようなポイントを踏まえて行うようにします。

1.法定の基準を満たしているか
2.自社制度の趣旨や内容が、従業員に周知・認識されているか
3.自社の制度の利用要件がわかりやすいか、利用手続きは煩雑でないか
4.自社の制度が、従業員の支援ニーズに対応しているか

制度創設や見直しにあたっては、人事部門だけではなく、実際に制度を利用する従業員側と積極的に意見交換を行いながら進めていくことで、従業員満足度の高い制度をつくることができます。

③ 介護に関する啓発、及び社内相談窓口の設置

介護について考えたことのない人、考える必要性を認識していても今はまだ大丈夫だと先送りしている人など、介護に対する認識は人によって様々です。

介護は突発的に発生することが多いものですが、介護について全く心構えがないままだと、無計画に介護休業を一度に使いきり、結果として介護休業期間満了時に離職せざるを得なくなったり、復職できた場合も、不測の事態が発生した際等の対応が難しくなります。

このため、「介護休業は、働き続けるための準備をする期間」ということを従業員に理解してもらい、計画的に休業を利用する重要性を啓発していく活動が重要となります。

仕事と介護の両立支援に関する啓発活動に加えて重要となるのが、「相談窓口の設置」です。仕事と介護を両立するためには、職場との連携は必要不可欠ですが、両立支援に関して、職場に相談する人の割合は7.6%*5と非常に低い状況となっています。
*5 出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立に関する労働者調査」(厚生労働省委託事業)平成25年1月実施 

従業員が一人で抱え込まなくてもすむように、介護について相談できる窓口の設置や、介護との両立を可能にする働き方について上司・人事担当と相談できる体制構築が重要となります。

④ 介護休業等制度の活用や仕事との両立への理解

仕事と介護の両立支援について相談窓口や制度を整えるだけではなく、職場全体が、仕事と介護の両立を認め合い、応援するような風土を醸成していくことが重要となります。

介護は復職後も、時短勤務や、早退、半休などを取らざるをえない場面も多く、その際に、介護者がストレスを感じ、持てる力を発揮できない状態では、十分な両立支援とは言えません。

前項で紹介したような啓発活動を通じて、部下・同僚・上司を問わず、介護は誰にでも起こりうるものとして両立支援に対する理解を向上させ、介護に直面した際には、どうしたら働き続けられるか検討するという意識付けと、働き続ける人を支援する風土を醸成することが求められます。

ニューノーマルな両立支援

新型コロナウイルス感染症対策として、時差通勤やテレワークを採用し、継続的に実施している企業も少なくありません。時差通勤やテレワークといった勤務体系は感染症対策としてだけではなく、仕事と介護を両立するためにも有効です。

例えば、時間や場所の制約が緩和されたことで、介護者は家族との連携を取りやすくなり、介護負担の軽減につながる可能性があります。

一方で、同僚・上司もテレワークの機会が増え、職場の人とのコミュニケーションが希薄になってしまうリスクや、介護者の仕事と介護の両立状況を周囲が把握しづらくなるリスクもあります。

また、日々出勤していれば、顔を合わせることで介護者の精神的な負担状況を察知することもできますが、リモート環境ではそういったケアも難しくなるという懸念も少なくありません。

ニューノーマル時代において、仕事と介護とを両立させるためには、今まで述べてきたようなポイントに加え、テレワークなどの環境下でも、円滑にコミュニケーションが取れる仕組みやプラットフォームの重要性が高まっています。

その上で、一人ひとりが、主体的にコミュニケーションを取り、業務の進行や介護者のケアなどを行なっていくことが必要となります。

まとめ

仕事と介護の両立は、全従業員が潜在的に抱える不安であり、企業としても従業員の介護による離職を防ぎ、安心して働いてもらえる環境をつくることが重要となってきました。

また、介護による離職後は、金銭的・メンタル的・体力的な負担が高まり、離職者自身の生活も危うくなります。企業としても社会としても、仕事と介護との両立支援は大きな課題の一つとなっています。

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本書で述べたように、介護は、いつ始まり、いつ終わるのかが不透明であり、介護休業中及び両立期間中には様々な個別対応も発生します。「ADVANTAGE HARMONY」では、介護者の休業日数計算や関連タスクの管理をシステム化し、人事担当者の対応における抜け漏れを防止できます。

仕事と介護の両立支援にも活用できる機能が充実していますので、すでに実施されている企業様はもちろんのこと、これから充実させたいとお考えの企業様にもおすすめです。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
両立支援事業部 コンサルタント

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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