仕事をしている様子の女性

働く人のウェルビーイング研究の現在:ワーカーウェルビーイングとは?【論文解説(全訳付き)】

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■本記事のポイント

  • 働く人におけるウェルビーイング(特に主観的な側面)についての概念整理をした論文の要点を解説(全文訳は付録として掲載)
  • 機械翻訳ではなく、文脈や専門用語を考慮して産業保健心理学の専門家が翻訳
  • ウェルビーイングについて学術論文レベルの知識を学びたい方向け

はじめに

最近、ニュースや本など様々なメディアでウェルビーイング(Well-being)という語を見聞きする機会が増えていると思われます。

学問の分野においては、昔からよく議論や研究がされてきていますが、近年ではビジネスや行政の領域においても盛んにウェルビーイングの語が登場するようになり、わが国においては近年に大きな動きがありました。

たとえば、2021年に内閣府に「Well-beingに関する関係府省庁連絡会議」が設置されました。また、同年に日本経済新聞社が公益財団法人Well-being for Planet Earthとともに、有志企業や有識者・団体等と連携して「日本版Well-being Initiative」を設立するなど、官民において急速にウェルビーイングについての議論が進み始めています。

人々のウェルビーイングを高めていく際には、何らかの指標を用いてウェルビーイングを数値化し、データをモニタリングしていくことが必須です。これには、今まで学問分野で研究されてきた知見も参考になるでしょう。

ミーティングを行っている様子

ウェルビーイングには、精神・身体・社会といった側面から、キャリアや経済的側面を指すものまで、多様な形のウェルビーイングが提唱されています。ウェルビーイングについて多くの経営者の関心を集め、ビジネス領域での実践を活発にするためには、働く人におけるウェルビーイングである、「ワーカーウェルビーイング」についてのこれまでの研究の蓄積が役に立ちそうです。

本記事では、同じく2021年にオンライン出版された、「ワーカーウェルビーイング:それは何であり、どのように測定されるか」と題したオープンアクセスの論文を全訳し、そのポイントを解説することで、わが国でのウェルビーイング議論の活性化に貢献することを目的とします。

なお、この論文ではウェルビーイングの中でも、アウトカムの側面として個人の反応から測定できる指標に焦点を当てています。

論文のポイント解説

論文で扱うテーマは以下の3点です。

(1)ワーカーウェルビーイングとは何か?
(2)ワーカーウェルビーイングはどのように測定できるか?
(3)ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ぶか?

(1)ワーカーウェルビーイングとは何か

まず(1)ワーカーウェルビーイングとは何か?では、これまでの研究からワーカーウェルビーイングを下図の10個の構成概念として3つの枠組みで分類しています。構成概念とは、直接に観察できないがデータから推測されるプロセスのことを指します1

ワーカーウェルビーイングの構成概念の分類

3つの枠組みの簡単な説明は下記のとおりです。感情や気分など、似たような用語が入っている分類もありイメージができにくいかもしれませんが、詳しい定義は付録のTable1を参照してください。

主観的ウェルビーイング:生活がどうであるかについての評価の多様な側面から構成される
(例:生活の状況の満足度、ポジティブ気分、喜びなど)
 
心理的ウェルビーイング:人間の発達と人生の実存的挑戦などから構成される、1つの概念のまとまりとしての心理的ウェルビーイング
(例:Ryffの6因子モデル[自己受容、個人的成長、人生の目的、他者とのポジティブな関係、環境統制、自律性])
 
職場ウェルビーイング:自身の仕事や仕事の状況についての評価的判断や感情、自身の能力をどれくらい活用できるかの体験

これらの構成概念に対して、論文ではさらにいくつかの観点で分類を試みています。その中から、本記事のポイント解説では、ウェルビーイングの議論の流れで特に有名な哲学的基盤について紹介します。

ウェルビーイングの伝統的な哲学的基盤として、大きくヘドニック(hedonic)アプローチとユーダイモニック(eudaimonic)アプローチに分かれます。それぞれ、部分的に重なることもありますが、

ヘドニック:幸福の主観的体験
ユーダイモニック:人間の可能性の実現

といった側面に焦点を当てます。

今回解説している論文では、10個の構成概念の内、心理的ウェルビーイングとワークエンゲージメントをユーダイモニック、それ以外をヘドニックと分類しています。なお、他の研究者による分類では、ワークエンゲージメントはヘドニックに分類されたり、生活満足度が第3の分類として独立したりすることもあり、どの要素に着目するかで、位置づけが変わることもあります。

(2)ワーカーウェルビーイングはどのように測定できるか?

次に、(2)ワーカーウェルビーイングはどのように測定できるか?では、測定指標についての分類を解説しています。

測定指標の邪魔さ:働く人の業務や体験の妨げとなる程度であり、以下の3種類があります。


  • 邪魔にならない指標(例:ソーシャルメディアのメッセージ分析、公開で利用できる映像データ)
  • 反応ベースの邪魔になる指標(例:自己評定のアンケート)
  • 観察ベースの邪魔になる指標(例:他者評定によるアンケ―ト、血圧計や唾液採取、ウェアラブル機器によるデータ)

測定指標のタイプ:研究者が得られるデータのタイプであり、以下の4つのタイプがあります。


  • クローズドな質問の指標
  • 言語指標
  • 行動指標
  • 生理的指標

具体的な分類結果は、付録のTable2を参照してください。

(3)ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ぶか?

最後に、(3)ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ぶか?では、これまでの文献を参考にしてチェックリストを作成しています。チェックリスト全文は付録のTable3を参照してください。チェックリストでは大きく3つのテーマ(概念化、測定指標、実用性)からそれぞれの詳細項目を示しています。ここでは、企業内でウェルビーイングの測定をする際に特に関係が深い、「実用性」について紹介します。研究のためのチェックリストではありますが、企業内で行われる調査全般で参考となるポイントと考えられます。

・ウェルビーイングの研究が推奨されるのは、ウェルビーイングがその組織にとって戦略的なトピックになっている場合や、研究およびエビデンスに基づく実践を受け入れる文化がある場合です

・研究をタイミングよく開始することで、組織の変革を推進させる可能性があります

・ウェルビーイングを測ること自体が、測られる側の働く人たちに与える影響を考慮すべきです。その調査が何に役立てられるのか適切な説明をして、対象者が納得したうえで同意を得ないと、測定されたウェルビーイングの値が信用できないものになる可能性があります

・測定する構成概念について分かりやすく直感的に把握できる指標を用いることが、研究対象者へのインフォームド・コンセント(説明と同意)において役に立ちます。難しい場合は、研究後の説明会等で丁寧な説明をすることが重要です

・対象者が情報を収集されていると気づかない方法でウェルビーイングを測定する場合、対象者が同意した内容を超えて監視されているわけではない、ということを保証する必要があります

まとめ

ハートを手に持っている様子

本記事で紹介した論文から、ウェルビーイングを測る方法は多くの知見があり、新しい技術による測定も研究が進んでいることが分かりました。分類されている構成概念の一覧を見ると、ストレスチェックやエンゲージメント調査、満足度調査などで用いられる項目も、ウェルビーイングの一部としてみなせることも明らかになりました。

つまり、ワーカーウェルビーイングとは、すでに多くの企業で測定している指標からも推定することが可能な概念といえるでしょう。

もちろん、ウェルビーイングの定義によっては、本記事で紹介したようなアウトカムに影響を与える様々な要因も含めて調査する必要があるでしょう。論文のまとめでも触れられていますが、ウェルビーイングを測る目的は、ワーカーウェルビーイングを高める要因を理解し、適切に向上させる施策をデザインすることにあります。

様々なウェルビーイングが提唱される中、学術的に議論されてきた知見を踏まえることにより、社員のウェルビーイングを高める上で本質的なポイントをつかみやすくなるでしょう。そのために、本記事で紹介した情報が少しでも参考になれば幸いです。

引用文献
1 APA Dictionary of Psychology https://dictionary.apa.org/construct

付録(論文全訳)

論文情報:
Wijngaards, I., King, O. C., Burger, M. J., & van Exel, J. (2022). Worker Well-Being: What it is, and how it should be measured. Applied Research in Quality of Life, 17(2), 795-832.

論文のライセンス:
CC BY 4.0

原文はこちら(https://link.springer.com/article/10.1007/s11482-021-09930-w)です。論文中の引用文献はリンク先の原文を参照してください。

タイトル:ワーカーウェルビーイング:それは何であり、どのように測定されるか

抄録
ワーカーウェルビーイングは組織、コンサルタント会社、学界において注目の話題である。しかし、ワーカーウェルビーイングの流行は頻繁に起こるものの、それを高めるための新しいプログラムや研究への関心の熱狂は、科学的な測定について全員に共通する熱狂を伴っていない。このギャップを埋めることを目的とし、我々は3つの疑問に対処する。「ワーカーウェルビーイングとは何か?」という疑問に答えるために、ワーカーウェルビーイングは多側面の構成概念であり、多様な構成概念として操作的に定義できることを説明する。ワーカーウェルビーイングの構成概念について4つの次元的分類を提案し、構成概念の複雑さを示すとともに、この分類に基づき10個の構成概念を分類する。「ワーカーウェルビーイングはどのように測定できるか?」という疑問に答えるために、測定指標の2つの側面:測定の邪魔さ(すなわち、測定結果を得る際に働く人の体験を邪魔する程度)と測定のタイプ(すなわち、クローズドな質問による調査、言語、行動、生理)を示す。我々の分類による指標の多様性を示し、これまでのワーカーウェルビーイングの測定において正しく評価されていなかった手段を明らかにする。最後に、「ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ぶか?」という疑問に答えるために、指標を選ぶ際の概念的、方法論的、実践的、倫理的検討点について述べる。これらの検討点は、短いチェックリストに要約する。本研究により、組織や学界の研究者がワーカーウェルビーイングの測定において効果的な方略を見つけやすくなり、ワーカーウェルビーイングを向上させる要因をよりよく理解して方針や選択する役に立つことを願う。

我々が測るものは我々が行うことに影響を与える;もし測定がだめになれば、意思決定はゆがんでしまう
– Stiglitz, Sen and Fitousi ( 2009, p.7)

仕事の条件や性質の変化と併せて、社会的責任の重要性も広く認識されてきており、組織やコンサルタント会社はワーカーウェルビーイング(Scott and Spievack, 2019)にかなりの興味を示してきている。2020年の人事トレンドについてのForbes誌の記事によれば、ワーカーウェルビーイングは人事の最優先事項になるべきと指摘されている。「多くの企業の関心は、従業員数の大規模な崩壊、自動化、労働人口層に焦点を当てた仕事の未来にある。これらはすべて重要だが、2020年において人事のリーダーとしては、ワーカーウェルビーイングを向上させ始めることの優先順位を高める必要がある」(Meister, 2020)。現在の職場ウェルネス市場は450億ドル以上の価値があり、今後数十年でさらに成長することが見込まれる(Allied Market Research, 2020; Global Wellness Institute, 2016)。ワーカーウェルビーイングが今ブームとなっている。

ワーカーウェルビーイングへ関心が高まっているのには多くのよい理由がある。Forbes誌の指摘によれば、それは職場レジリエンスおよび健康組織文化において、ワーカーウェルビーイングが役割を果たすという。実際、ワーカーウェルビーイングは組織倫理の指標(Giacalone and Promislo, 2010)になるかもしれないし、組織パフォーマンスの他の指標を予測することが明らかにされてきている(Salas et al., 2017; Taris and Schaufeli, 2015)。それらは例えば、生産性(Bellet et al., 2019; Oswald et al., 2015)、アブセンティーイズム(Kuoppala et al., 2008)、仕事のパフォーマンス(Judge et al., 2001)、自発的な退職(Judge, 1993; Wright and Bonett, 2007; Wright and Cropanzano, 1998)などである。ワーカーウェルビーイングを高めるこれらすべての方法は、組織の目的を前に進めることに手段として価値があることに加え、ワーカーウェルビーイングそのものに内在する大きな価値がある。それ自体が素晴らしいと考えらえる物事は数多くあるが、人のウェルビーイングはおそらく、最もそう捉えられる1つの目標である(Aristotle, 350 C.E.; Mill 1859; Raz, 1986; Sidgwick, 1874)。要約すると、多くの異なる理由はあるがウェルビーイングは働く人にはもちろん、そうでない人も含めた多くの人に追求する価値が十分にあるのである。

組織での実務家が関心を強く示しているだけでなく、学術研究者もこの主題に多くの関心を寄せてきた(Chen and Cooper, 2014; Zheng et al., 2015)。数十年にわたり、豊富で成熟した研究分野が発展してきている。数千もの心理学的研究が概念的、実証的にワーカーウェルビーイングの構成概念を扱っている。例えば、仕事満足度(Judge et al., 2017)やエンゲージメント(Macey and Schneider, 2008; Purcell, 2014)である。近年では、心理学以外の分野においてもこのテーマが扱われ始めている。例えば経済学(Bryson et al., 2013; Golden and Wiens-Tuers, 2006; Oswald et al., 2015), 情報システム学(Gelbard et al., 2018; Jung and Suh, 2019)、機械学習(Lawanot et al., 2019; LiKamWa et al., 2013)などである。しかし、ワーカーウェルビーイングの流行があり、向上のための新たなプログラムや概念自体への研究の興味に対する関心が高まるものの、職場における科学的な測定は統一的な流れで行われてこなかった。したがって、ワーカーウェルビーイングを取り巻く流行とそれを支えるための科学の間にはギャップがあり続けている。研究を促し、ワーカーウェルビーイングに影響を与える取り組みは、注意深い科学的測定なしには役に立たないものになる(Bartels et al., 2019)。さらに悪いことに、これらの努力は生来問題があるものかもしれない:もし研究者がワーカーウェルビーイングを不十分に概念化や測定すると、科学的研究はそれを取り巻く科学の進歩につながるのではなく、妨げるものになるかもしれないのである(Podsakoff et al., 2016)。もし組織が実際には改善の事実がないのにウェルビーイングは改善するということを押し売りするのであれば、それは「ethics washing(訳者注:実際やってないのによくやっているように見せること)」 (Bietti, 2020; Wagner, 2018)に等しい。そして実際に意味のある改善が不足していることを隠ぺいしてしまうかもしれないのである。

心理学で急成長してきたワーカーウェルビーイングについての知見と、多くの分野での流行の間にあるギャップは、次のような点で生じていると考えられる。それはワーカーウェルビーイング自体の概念的複雑さとそれを測定する方法が数多くあること、そしてそれを研究する利害関係者において多様なゴールがあることである。その多さから、ワーカーウェルビーイングにおける特定の研究方略を選ぶことはもちろん、自信を持って正当化することは難しいだろう。本稿の主な目的は、ワーカーウェルビーイングの科学の概念的な全体像とそれによる実践的なガイダンスを示すことにより、ギャップを縮め、ワーカーウェルビーイングの研究をさらに活発にすることにある。

本稿は様々な種類の研究者の役に立つだろう。何よりもまず、組織おける科学者-実践家や、心理学以外の分野の研究者に関係すると考えられる。結局、ワーカーウェルビーイングにさらなる注意を払う必要があるという直感から、十分な概念化と綿密な測定を行うようになるのは簡単なことではない。科学的な厳密性が不十分だと、それらの問題に関する政策や研究の進展は妨げられる。加えて、ウェルビーイングの調査を行い、経験を積んだ心理学の研究者であっても(ウェルビーイングの測定が好みの指標だけにとどまっているのなら(Nave et al., 2008))、概念的アプローチの統合や測定アプローチの増大について学ぶことで役に立つだろう。ほとんどの心理学者は主に古典的な心理学手法(Aiken et al., 2008)で訓練されているので、安全地帯から外へ進出し、他分野での方法的な発展の最新情報を知ることは有用であろう。新しく革新的な指標を使うことで刺激され、研究者はよりすぐれたウェルビーイングの指標(Brulé and Maggino, 2017; Diener, 2012; Schneider and Schimmack, 2009) を開発することへの需要に答え、分野をまたがった協同的研究を行うことができるだろう。

我々は、”現在の従業員ウェルビーイングの文献を特徴づける、複雑に入り組んだ概念(concept jungle)”(Mäkikangas et al., 2016, p. 62)に方向付けをしている以前の作業を足場とする。例えば、Johnson et al. (2018)とZheng et al. (2015)は従業員ウェルビーイングの構成概念のレビューを行っており、調査ですぐに使えるいくつかの指標の例を紹介している。他にも、特定のウェルビーイングの構成概念について、調査で使う既存の定番指標(Cooke et al., 2016; Roscoe, 2009; Schaufeli and Bakker, 2010; Van Saane et al., 2003; Veenhoven, 2017), 調査では使わない指標 (Luhmann, 2017; Rossouw and Greyling, 2020)、 その両方とも(Diener, 1994, 2012)についてのレビューもある。他にも、分野および概念の境界を超えて、信頼できるデバイスの兆候(例:ウェアラブルデバイス, Chaffin et al., 2017; Eatough et al., 2016)や一般的な心理的構成概念の測定カテゴリについて着目した文献(Ganster et al., 2017; Luciano et al., 2017)もある。これらの作業に共通している事は、それぞれが個別の指標や構成概念に焦点を当てている点である。このような特異性を検討することには善し悪しがある。特定の計器(例:組織科学における生理指標の使用)や構成概念(例:仕事満足度の調査指標)について最新の科学的知見を概観したい研究者には役立つが、もっと大局的に知りたい読者にはあまり有用ではない。したがって我々は、分野の統合的なガイドを示す。これにより、広い読者に届くことを望んでいる。特に、広い範囲を対象とするため、我々の作業は徹底的なレビューを意図していない。むしろ、理解を助ける統合を行い、この領域の状態を可視化し、研究者が特定の研究にさらに取り組んでいけるような情報提供を行う。以下の3つの研究疑問について構造化する。

(1)ワーカーウェルビーイングとは何か?
(2)ワーカーウェルビーイングはどのように測定できるか?
(3)ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ぶか?

最初の疑問については、ワーカーウェルビーイングの概念についてどのように考えるかの理論的解釈を提示し、構成概念の分類を提案する。これにより、研究者はワーカーウェルビーイング概念の操作的定義をするためにこの分類を元に進める事ができるようになる。これをすることで、現在の文献で見られる複雑に入れ組んだ概念のもつれを解くことができるようになるだろう。2つ目の疑問については、ワーカーウェルビーイングの概念的な傘の下に含まれる10個の構成概念の尺度を概観することで回答する。10個の構成概念はそれぞれ、生活満足度、気質的感情、気分、情動、心理的ウェルビーイング、仕事満足度、気質的仕事感情、仕事気分、仕事情動、ワークエンゲージメントである。分野の境界を超えて、革新的な、調査を行わない尺度がウェルビーイングを測定し、研究者が調査手法を広げられるような着想を与えることを目指す。3つ目の疑問については、測定尺度を選択し、実施する際の異なった概念的、方法論的、実践的、倫理的着目点をレビューすることで、回答する。それにより、ワーカーウェルビーイングに関心を持つ研究者や実践家の動機にすることを答えられるようにすることを目指す。そして、これらの着目点をチェックリストにまとめる。

ワーカーウェルビーイングとは何か?

ワーカーウェルビーイングと関連概念
ワーカーウェルビーイング(worker well-being)の最も包括的な水準として、働いている人たちの一般的なウェルビーイングに行きつくと考えられる。概念上の境界をクリアにするため、ワーカーウェルビーイングを関連概念から区別することが有用である。ワーカーウェルビーイングは従業員ウェルビーイング(employee well-being)とは異なる。なぜなら、すべての人が組織に雇用されているわけではないからである(例:ボランティア、独立請負人、役員や事業主)。ほとんどのウェルビーイング概念は従業員や非従業員を問わず働く人々に関係していると考えられるが、いくつかの例外もあるだろう。たとえば、報酬への満足感の概念はボランティアには当てはまらない。同僚や上司の満足感は独立請負人には関係ない。ワーカーウェルビーイングは仕事特有のウェルビーイングとは異なる。仕事特有のウェルビーイングは、その起源と適用が明確に仕事の文脈内という概念的な傘の下にくるからである。たとえば、同僚への満足感は、仕事の文脈に起源がある。仕事特有のウェルビーイングの現れは、仕事内および仕事外の文脈でも見られる(例:働いているとき、夕食のとき、就寝前に対人関係について満足感を得るなど。これはワーカーウェルビーイングの他の側面にも影響しうる)。ワーカーウェルビーイングは仕事でのウェルビーイング(well-being at work)とも異なる。この概念は単に職場や働いている時の体験や状態についての概念である。注目すべきことに、仕事でのウェルビーイングの源泉は仕事とは関係がない。たとえば、仕事中に配偶者とのケンカについて熟考したり、週末の楽しみを想像して苦しさを和らげたりできるからである。
最後に、ワーカーウェルビーイングは全般的な個人レベルのウェルビーイングとも異なる。 ワーカーウェルビーイングは 、働いている人の生活と体験に特に関係するからである。

ワーカーウェルビーイング概念の分類
ワーカーウェルビーイングの操作的定義として多くの構成概念が提案されてきた。ここでは、理論に基づく概念分類を示すことで、構成概念をカテゴリ化し、概念の境界を描けるようにする。ワーカーウェルビーイングについて8つの異なる構成概念がこれまで検討されてきている(例:C. D. Fisher, 2014; Ilies et al., 2007; Johnson et al., 2018; Page and Vella-Brodrick, 2009; Taris and Schaufeli, 2015; Warr, 2012; Warr and Nielsen, 2018; Zheng et al., 2015)(注1。我々は4つの次元に沿って分類を行った。それぞれ(i)哲学的基盤、(ii)時間的安定性、(iii)焦点、(iv)誘意性(valence; 訳注、得られる報酬への価値や魅力のこと)である(注2

まず、ウェルビーイング(Forgeard et al., 2011; Kashdan et al., 2008)またワーカーウェルビーイング(Taris and Schaufeli, 2015)においては、異なった哲学的基盤が採用されてきている。最もよくある哲学的伝統はヘドニア(hedonia)とユーダイモニア(eudaimonia)である(Linley et al., 2009; Ryan and Deci, 2001)。ヘドニック(hedonic)アプローチでは、ウェルビーイングは幸福の主観的体験とみなす(Diener et al., 1999; Veenhoven, 2000)。一方、ユーダイモニック(eudaimonic)アプローチでは、人間の可能性の実現に焦点を当てる(Ryff, 1989a; C.D. Ryff and Keyes, 1995)。ヘドニックとユーダイモニックの構成概念は連続体であり区分が難しい。なぜなら、異なった哲学的伝統は部分的に重なっており(C. D. Fisher, 2014; Waterman, 2008)、実証的にも関連している(Linley et al., 2009; Pancheva et al., 2020)。もし内発的動機づけ、活動、目的、有意味性が核となっている構成概念であればユーダイモニックのカテゴリとして扱う(Ryan and Deci, 2001)。しかし、研究者はユーダイモニックの概念をしばしばヘドニックの内容を含むようにとらえていることは重要な点である。

2つ目に、構成概念の時間的安定性に基づき分類することが可能である(Johnson et al., 2018; Mäkikangas et al., 2016)。ウェルビーイングの研究者は、状態、または特性によるウェルビーイングの構成概念を開発してきた(C. D. Fisher, 2014)。状態による構成概念は、状態のばらつきが大きいため高い変動性を持つことが特徴である。一方、特性による構成概念は時間経過があっても高い安定性を持つ(Schimmack et al., 2010)。 状態による構成概念の中には、極めて瞬間的なものがあり、2~3分の持続時間のものもあれば、比較的安定して続くものもある(Kashdan et al., 2008)。特性による構成概念の中には、生まれつきで生涯を通じて変わらなそうなものもあれば、数か月、数年単位で変わるものもある(Johnson et al., 2018)。

3つ目に、ワーカーウェルビーイングの構成概念では2つの水準の焦点が区別できる。それらは、「文脈フリー」と「領域特有」である(Ilies et al., 2007)。文脈フリーの構成概念では、働く人の生活や体験全般を扱うのに対し、領域特有の構成概念では人生の特定の領域内(例:仕事、レジャー、健康、ファイナンス)が対象となる。文脈フリーと領域特有(特に仕事の領域)の構成概念はそれぞれワーカーウェルビーイングの大局的な側面と微細な側面を扱っている(Page and Vella-Brodrick, 2009)。

4つ目に、構成概念の誘意性について考慮できる。構成概念の中には、すぐれない状態またはウェルビーイングの欠如(例えば、バーンアウト、ストレス、ワーカホリズム、ネガティブ感情など)の指標もあれば、ウェルビーイングの指標(ワークエンゲージメント、フロー、仕事満足度、ポジティブ感情)もある。直感的に、ポジティブな誘意性を実現するのは望ましく、ネガティブな誘意性を実現するのは望ましくないと考えらえる。

説明のために、必要不可欠な分類となるワーカーウェルビーイングの8つの構成概念について述べる(注3。我々の理解では、ワーカーウェルビーイングには幅広い焦点と連携があるため、これを踏まえて、Page and Vella-Brodrickの「従業員メンタルヘルスのフレームワークに」に基づいて説明する(Page and Vella-Brodrick, 2009)。それは次の3つの概念を中心に展開する:主観的ウェルビーイング(SWB)、心理的ウェルビーイング(PWB)、職場ウェルビーイング(WWB)。Page and Vella-Brodrickが明示しているが、そのモデルはユーダイモニックWWBを含めていない。しかし、我々はワークエンゲージメントをユーダイモニックなWWBとして含めた。構成概念と分類はTable1に要約した。Table1は個々の構成概念についての学術文献に基づいて簡単に特徴を述べた。

Table 1 ワーカーウェルビーイングの構成概念とカテゴリ分け

主観的ウェルビーイング
SWBは人々の生活がどうであるかについての評価の多様な側面から構成される(Diener et al., 1999)。生活満足度(life satisfaction)、すなわち、生活の状況の満足度についての認知的評価は特性的、文脈フリー、ポジティブなウェルビーイングである(Diener et al., 1999)。感情、すなわち「人々の生活の中で起こる出来事へのその時々での評価」(Diener et al., 1999, p. 277)は、特性と状態の要素がある。これらの要素は誘意性や喚起の程度で多様な状態がありうる(能動的 vs. 受動的、Barrett and Russell, 1999)。人の感情のある側面は相対的に時間経過の中で安定している。その結果、気質的感情(dispositional affect)は特性的な構成概念であり、「長持ちする気質または長期的に安定した個人差であり、特定の感情的状態を体験する人の一般的な傾向を反映するもの」と定義されてきた(Gray and Watson, 2007, p. 172)。SWBにおける他の感情関連構成概念は、流動的な経過をたどり、状態的として分類される(Gray and Watson, 2007)。例えば、気分(mood)は感情的な状態であり数日から1週間続きうるし、相対的に高頻度であり、きっかけと発現は非特異的(例:ポジティブ気分)であり、主に行動と主観的な体験として現れる。情動(emotions)は数秒から最大2-3分続き、特異的なきっかけと発現があり(例:怒り、喜び)、異なった形式で現れる。例えば、行動、主観的体験、脳活動、生理的反応などである(Gray and Watson, 2007)。

心理的ウェルビーイング(psychological well-being)
様々な要素が研究されてきているが、我々はPWBを単一の構成概念として扱う。その定義は「人間の発達と人生の実存的挑戦」である(Keyes et al., 2002, p. 1007)。
PWBはRyff(1989b)の6因子モデルが有名である。その構成要素は自己受容、個人的成長、人生の目的、他者とのポジティブな関係、 環境統制、自律性である。PWBはユーダイモニックなウェルビーイングの伝統に根ざしており、特性的であり、文脈フリーであり、ポジティブなウェルビーイングの構成概念である(Page and Vella-Brodrick, 2009; Ryan and Deci, 2001)。

職場ウェルビーイング
WWBとして、仕事満足度、気質的仕事感情、仕事情動、仕事気分、ワークエンゲージメントの構成概念をとりあげる。仕事満足度(job satisfaction)は「自身の仕事や仕事の状況についてのポジティブ(またはネガティブな)評価的判断」と定義される (H. M. Weiss, 2002, p. 175)。仕事満足度は領域特有で、ヘドニックで特性的な構成概念である(Bowling et al. 2005, 2010; C. D. Fisher, 2014)。上述した人生満足度は文脈フリーであったのに対し、仕事満足度は仕事特有の構成概念である(注4。気質的仕事感情(dispositional job affect)、仕事気分(job moods)、仕事情動(job emotions)は、文脈フリーのそれらと同じであり、単に範囲が仕事に狭まっているだけである。例えば、働く人における仕事中の全般的な感情(気質的仕事感情)にフォーカスして注目することもできるし、範囲を広げて働く人の生活の領域にわたる全般的な感情に注目することもできる(気質的感情, Ilies and Judge, 2004)。これらのヘドニック的な構成概念に対し、ワークエンゲージメント(work engagement)はユーダイモニックな構成概念であり(C. D. Fisher, 2014)、働く人が仕事においてどれくらい自身の能力を活用できるかについての体験を意味する。ワークエンゲージメントは様々に定義されてきたが、一般的には領域特有の構成概念であり、仕事との高水準の同一化、ポジティブ感情、熱中、活力(Bakker et al., 2008)で特徴づけられ、仕事満足度や組織コミットメントなどの構成概念とは理論的に区別される(Schaufeli and Bakker, 2010)。ワークエンゲージメントは「組織メンバーの自己を彼らの仕事の役割に利用する:エンゲージメントにおいて、人々は役割の遂行中に自身を身体的、認知的、感情的、精神的に使用し表現する」(Kahn, 1990, p. 694)や「ポジティブで充実した仕事関連の精神の状態であり、活力(vigor)、熱意(dedication)、没頭(absorption)で特徴づけられる」(Schaufeli et al., 2002, p. 74)と定義できる。ワークエンゲージメントは相対的に時間経過上安定していることが知られている(Seppälä et al., 2015)したがって、特性的であると分類される(注5

ワーカーウェルビーイング構成概念はどのように測定されるか

測定指標の分類
これまで議論してきたように、構成概念とは、直接的また完全に観察不可能な現実の現象を研究するためにまとめられたもののことである(Edwards and Bagozzi, 2000)。したがって測定指標、すなわち「自己報告式、面接、観察または他の手段によって収集され観測された得点」(Edwards and Bagozzi, 2000, p. 156)は、構成概念と経験的に同等であると見なすことができる。そのため、測定指標はウェルビーイングの構成概念を、そのように評価すると意図されたように完全に反映するとは限らない。そうではなく、測定器具に依存するのである。本稿では、対象となる構成概念の最も適切な測定指標を選ぶために重要だと示されている2つの分類を示す。1つ目の分類は、その測定指標が働く人の業務や体験の妨げとなる程度についてであり、2つ目の分類は、研究者が得ることのできる異なったデータのタイプについてである。

測定指標の邪魔さ(obtrusiveness)
働く人の業務や体験の妨げとなる程度について、ワーカーウェルビーイングの3つの測定指標アプローチを区別する。すなわち、邪魔にならない測定指標、反応ベースの邪魔になる測定指標、観察ベースの邪魔になる測定指標である。邪魔にならない測定指標では、研究者、対象者、研究の文脈に立ち入ってくる他の邪魔なものが介在せず対象者から情報を得ることができ、自然に発生している環境や出来事からデータを引き出せる(Hill et al., 2014; Webb et al., 1966)。邪魔になる測定指標とは、対象者の積極的な協力を得ることが特徴であり (Hill et al., 2014; Webb et al., 1966)、2つの形式がある。応答ベースドな邪魔になる測定指標は対象者に意識的、主観的な情報をたずねるものであり、観察ベースドな測定指標は自動的であるが対象者に操作を求めるものである。つまり、観察ベースドな測定指標は対象者に実際的な協力のみを求め、応答ベースドな指標は対象者に実際的な協力と応答する努力を求める。

測定指標のタイプ
測定指標は4つのタイプに区別できる。すなわちクローズドな質問の指標、言語指標、行動指標、生理的指標である(Luciano et al., 2017)。これらのタイプの全般的な特徴と、すでに述べた邪魔さとの関係について説明する。

クローズドな調査質問の指標は、働く人から1つ以上の調査質問、または文章に対しての有限数の回答カテゴリ、多項選択式質問や離散的な数値の指標を伴うものへの応答を求める。最もよく使われている自己報告式の調査質問尺度は、本質的に応答ベースドな邪魔さを持つ。自己報告式尺度に関連するコモンメソッドバイアスの観点から、ウェルビーイングの研究者は、自己報告式尺度の妥当性を検討する際に他者報告(例:配偶者、友人、子ども、同僚)のウェルビーイング尺度を用いてきた(Schneider and Schimmack, 2010)。他者報告式尺度は観察ベースドな邪魔さが特徴である。なぜなら、対象者は認知的努力をせずにすむが、調査を記入する誰かを特定し連絡しなければならないからである。

調査で使う尺度は2種類に区別できる。態度についての尺度か、体験についての尺度である(Grube et al., 2008)。態度についての尺度は、個人の特性的な態度について全体的な、通常は後ろ向きの評価を行う。たとえば、生活および仕事満足度などである。体験についての尺度は、個人の瞬間的な状態を測定するようにデザインされている。たとえば、気分や感情などである。体験についての調査指標の典型は、数日間にわたり、1日の内数回(例:経験サンプリング法)または、1日の終わり(1日再現法; Kahneman et al., 2004)での、回答者の場所、出来事、会社、活動、感情について質問するように促すものである。

言語指標は、話された、または書かれた文章から引き出される。そしてスピーチや筆記に関する語義的内容(例、意味)や、スピーチのパターン(Luciano et al., 2017)を表現できる。言語データは独立したコーダーによって得られたものまたは、コンピューターソフトで自動で処理したものを手動で分析して入手するか、邪魔になる方法(例、調査による自由回答)で集めるまたは、邪魔にならない方法(例、ソーシャルメディアデータのスクレイピング)により集める事ができる。

行動指標は個人の行動の観察からなり、様々な形式をとる。たとえば、動作、位置、姿勢、表情、オンライン行動、物質乱用などである(Luciano et al., 2017)。行動指標には邪魔にならない指標(例、公開で利用できる映像データ)や観察ベースドの邪魔になる指標(例、実験室実験で得られた映像データ)がある。

生理指標は人の身体やその下位組織の状態を表すマーカーである(Luciano et al., 2017)。Akinola (2010)による組織科学において最もよく使われる生理指標に関する仕事を元に、我々は4つの代表的なサブカテゴリに分類した。それぞれ、内分泌活動(例、コルチゾール、テストステロン、オキシトシン、ドーパミン、セロトニン)、皮膚電位(例、皮膚伝導反応、皮膚伝導レベル)、心血管活動(例、血圧、心拍、心臓効率)、神経活動(例、前頭葉活動)などである。これらは体が内的また外的要求との調整を行うのを助ける機能を担う末梢神経系の一部である、自律神経系の変化を表すマーカーである(Akinola, 2010)。

生理学的データは自然に記録できるものではないため、研究者は観察ベースドの邪魔になる指標に頼ることが多い。これらの指標の邪魔さはかなり多様である (Eatough et al., 2016; Ilies et al., 2016)。上腕カフ型電子血圧モニター、指尖型パルスオキシメーター、コットンスワブによる唾液採取などのデバイスは、対象者にかなりの努力(例、体にデバイスを装着する)を要求し、使用が不快である(例、デバイスにより制限される活動がある)のに対し、手首装着ウェアラブルやスマートフォンアプリのデバイスはほとんど完全に手間なしである。

指標の実例
Table 2では、我々が作成した構成概念の分類に沿って指標を説明する。Appendix Aではこれらの指標について追加の情報を示す。以前の免責事項を繰り返すが、この指標リストは網羅的なものではなく、構成概念のすべてのありうるニュアンスを取り上げるものではない。さらに付け加えておくと、それぞれの指標はその測定の目的となる構成概念に対して妥当性が検討されているので、度合いにはばらつきがある。例えば、評価的な構成概念である、仕事満足度と生活満足度は主観的指標を使うのがよりよい測定法であるが、感情的な構成概念である情動や気分は主観的および客観的指標の両方で測定する方が正確なものになる(Brulé and Maggino, 2017)。指標の妥当性については次節で述べる。最後に、Table 2ではいくつか空欄がある行がある。今のところこれらは、問題になっている構成概念のタイプに関連する測定アプローチを適用した研究がほとんどないか、まったくない部分である。こうした空白部分はワーカーウェルビーイングの研究で今後取り組むべき分野である。

Table 2 指標の比較

ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ばれるべきか?

ワーカーウェルビーイングの構成概念は幅広くあることが分かった。次の質問は、あなたの研究でどれを選ぶかだ。本節では指標が適合すること、つまり「構成概念がどのように概念化され測定されるかのすり合わせの程度」(Luciano et al., 2017, p. 593)を示すことがいかに困難かを説明する。Lucianoら(2017)の指標の適合における枠組みでは、研究者は、よく理由付けられた測定の決定をするために、様々な(繰り返しの)ステップを踏む必要がある事が示されている。そのステップとは次のようなものである。まず研究者は構成概念について詳しく説明しなければならない(例:構成概念の内容、次元、安定性、仮定された兆候)。次に、指標の特徴を決定する(例、指標の内容、出典、集約方法)。次に、研究の文脈(例、研究の最新情報、研究の目的)、提案する研究計画の倫理(プライバシー、差別、パターナリズム)、実行可能性、指標の精度と網羅性を検討する。本稿の字数が限られているので、ワーカーウェルビーイングの構成概念について、ここではLucianoらの完全なモデルに当てはめることはできない。かわりに、指標の選択において関連する様々な検討事項の高水準のイメージを説明し、さらに精緻な議論に特化した先行資料を紹介する。これらの概観をチェックリスト形式でTable3に示す。

Table 3 ワーカーウェルビーイングの指標を選ぶ際のチェックリスト

概念化
指標が選択される前に、構成概念または研究における構成概念を決める必要がある。この決定は多くの要因(例:研究の目的、研究スタッフの雇用状況、研究の文脈、研究疑問)に左右される。たとえば、研究者がウェルビーイングを向上させうる新しいコーヒー自販機の評価に関心があるとしたら、広い構成概念の仕事満足度ではなく、ごく狭い領域特化型の構成概念である施設管理への満足度を選択するだろう。他の例では、賞賛を受けることがウェルビーイングを高める点を研究者が評価したい場合、仕事情動のようなより動的で状態的なウェルビーイングの構成概念を検討するだろう。なぜなら、賞賛は一時的に生じるものだからである。

適切なワーカーウェルビーイングの構成概念を選ぶにあたり、多様性を最大化できるようにできる限り多くのウェルビーイングの構成概念を測定するように研究者へ推奨する。異なる構成概念の指標は合計するのが難しいため、ウェルビーイングの指標をダッシュボード(Forgeard et al., 2011)のように個別に報告するようにお願いしている。ワーカーウェルビーイングを広く測定するのにはいくつかの理由がある。

まず、多くの研究者がワーカーウェルビーイングを研究する際の目的として、道徳的な配慮や一般的な善意に動機づけられているため、十分な幅を持つ指標を確保することが重要である。この理由は、その内発的な価値について構成概念が多様であるためである(注6 。ほとんどの文脈フリーなウェルビーイングの構成概念は、理論的にも哲学的にも人間の価値についての概念に基づいている。例:PWB(Aristotle, 350 C.E.; Zagzebski, 1996), 人生満足度(Sumner, 1996)、気質的感情(Bentham, 1789; de Lazari-Radek and Singer, 2014; Feldman, 2004)。仕事満足度とワークエンゲージメントのような領域特化型の構成概念について、これらの構成概念に注意を向けるのに好都合な道徳的主張をするのは少し難しい。なぜなら、これらはワーカーウェルビーイングに必ず本質的に寄与するとは限らないからである。たとえば、ワークエンゲージメントにはダークサイドがあり(Bakker et al., 2011; Dolan et al., 2012)、研究者らによれば、あるケースでは仕事-家庭葛藤を引き起こすことがあるとされている(Halbesleben, 2011; Halbesleben et al., 2009)。様々な領域特化型ウェルビーイングがしばしば、もっといえばいつも全般的なウェルビーイングを推進することを否定するものではないし、価値があるのは事実である。領域特化型ウェルビーイングの構成概念の価値は、その因果的な関係の付随的出来事としての文脈フリーのウェルビーイングの構成概念にただ依存するだけであり、それにより働く人の全体のウェルビーイングを反映する。

研究者はそのようなウェルビーイングのトレードオフについて、多様な構成概念を測定することにより注意を払うことができる。たとえば、ネガティブな誘意性であるバーンアウトや仕事中毒の構成概念を研究することは、仕事でのポジティブ感情を高める目的で推進される方針の否定的側面を明らかにするために必要かもしれない。社会的責任に企業が関心を増やすことはエンゲージメントを高めるかもしれないが、意図しない効果として、働く人が仕事に引き込まれすぎて仕事中毒を増やすことになるかもしれない(Brieger et al., 2019)。様々な領域特化型および文脈フリー構成概念を含めたダッシュボードにより、研究者はすべてのありうるトレードオフを眺めることができる。しかし、構成概念を選ぶのに制約が必要である場合は、それらのトレードオフを最もよく明らかにできるような構成概念に優先順位付けする必要がある。

第2に、他の目的でワーカーウェルビーイングを研究することに動機づけられている場合、多数のワーカーウェルビーイングの構成概念を測定することは利益を生みやすいことを踏まえておくとよい。これにより研究者は様々な目的を持つことができる。例えば、学術研究者は理論の検証ができ、実践家はワーカーウェルビーイングの向上を通じて組織のパフォーマンスを高めることができる。理由としては、ワーカーウェルビーイングの構成概念は他の構成概念や要因と想定しない形で関連する可能性があるからである。たとえば、ワーカーウェルビーイングの先行要因について、Steffensら(2017)のメタアナリシスでは、社会的同一化プロセスはネガティブなウェルビーイング構成概念よりもポジティブなウェルビーイング構成概念の方により強く関連がみられている。アウトカムについては、Erdoganら(2012)のメタアナリシスにおいて、人生満足度は仕事のパフォーマンスよりも組織コミットメントと離職意図により強く関連がみられている。結論として、十分に広い測定範囲をとることで、研究者は最も関心があり重要な変数間の関係を明らかにできるのである。

学術的な貢献に関心がある研究者にとっては、多数の構成概念を測定することにさらなる誘発要因がある。社会科学の多くの分野で見られるように、ワーカーウェルビーイングも構成概念のまん延問題に悩まされている。”研究の流れは、表面上は新しくとも、理論的・実証的には既存のものと区別不可能な構成概念の上に成り立っている”(Shaffer et al., 2016, p. 81)。例えば、エンプロイーエンゲージメントは、仕事のバーンアウトのような構成概念と区別できないことが研究で示されている(Christian et al., 2011)。多数の表面上異なった構成概念を測定することで、研究者はウェルビーイングの理論的・実証的区別について示したり反証したりできるようになり、ワーカーウェルビーイングの科学を前進させることができる。

1つ以上の構成概念が選ばれたら、研究者は既存の文献にあたり、その構成概念を注意深く定義し、概念のニュアンスを理解することが推奨される。構成概念の定義の成功事例を含めた文献(Podsakoff et al., 2016)とワーカーウェルビーイングの概念化とカテゴリ化について検討した概念研究の文献(例、当論文や, Johnson et al,. 2018; Page and Vella-Brodrick, 2009; Zheng et al., 2015)が役に立つ。構成概念が選択され、十分に概念化されたら、研究者はその構成概念の理想の測定方略の検討に進む。

測定指標
適した指標を選ぶ際の最も重要なポイントは指標の妥当性である。妥当性とは「適切に測定が行われて得られた得点が、その測定器が測ろうとする特徴のばらつきについての推論を裏付ける程度」(Cizek, 2012, p. 35)である。指標は構成概念の因果的なアウトカムとなるべきである(Borsboom et al., 2004)。そのためには、因果に関する次の4つの条件を満たす必要がある。(i)構成概念の定義が指標を決める前に独立して選ばれて明確に述べられる必要がある。これにより構成概念と指標の関係が単なる同語反復にならないようにする、(ii)構成概念と指標の間に十分な関連(または共分散)がある、(iii)構成概念の認識が時間的に指標より先行する、(iv)履歴や測定器具の使用といった構成概念と指標の間の関係を説明する対抗説明を除外する(Edwards and Bagozzi, 2000)。要約すると、仮定された構成概念に妥当な指標であるとするために、構成概念についての仮説が必要となり、そのことのみにより指標が決められるのである。

指標が妥当であるとするためには、理論的および実証的な妥当化が必要である(Borsboom et al., 2004)。つまり、それは「関連するエビデンスを収集、要約、評価することを継続するプロセスの過程である。そのエビデンスは測定器により得られた得点により意図された意味と、指標がそのためにデザインされた特徴を表すことへの推論を支持する」ということである(Cizek, 2012, p. 35)。すでに開発された指標を用いることに関心がある研究者は、その指標がどのように妥当性を検証されたかを理解し、妥当性検証のプロセスが十分かどうか評価することが求められる。新しい指標を開発することを目的とする研究者は、指標の妥当性を検証する適切なプロセスを行う責任を引き受けるか、保証しなければならない。いずれにせよ、妥当性検証プロセスの理解は必須であり、関連する構成概念の誤解を招く測定器に頼ったり、もっともらしい結論を引き出したりすることは避けなければならない。

理論的(または内容的)妥当化は指標-構成概念の適合についての論理的な分析から始まり、たいていは学術研究者および対象分野が専門である実務家のどちらかにより、または一緒に行われる。(Bornstein, 2011; Luciano et al., 2017)。これこそが概念化フェーズが動き始める予備的作業である。すなわち、高水準の概念的定義づけと、概念的ニュアンスの深い理解が方法論的な決定を行うのに有用である。例えば、生活満足度の定義は、この構成概念の妥当な指標は認知的な評価に基づく必要があり、時間を経て安定している事が通常であることを示しており(Diener, 1994; Shin and Johnson, 1978)、 動的な指標、邪魔にならないまたは観察ベースの邪魔になる言葉の指標、行動または生理指標はあきらめることが安全である。そして方法論的な範囲を、調査やインタビューによって得られる、反応ベースの邪魔になる、主観的指標に狭めることが求められる。対照的に、感情状態や状態的な構成概念の測定に関心がある場合は、その概念の定義上、より客観的な行動または生理指標を検討することが推奨される(Mauss and Robinson, 2009)。研究の文脈上、調査により感情を測定する必要がある場合、態度についての指標ではなく、体験ベースの指標により感情の状態的な性質を用いる必要がある(C. D. Fisher, 2000)。

理論的妥当化の後は、指標は実証的に妥当化を行う必要がある。これは伝統的に指標の十分な信頼性を示すことと、関連する、または関連しない構成概念の指標と新たな指標との間に十分に統計的な関連があることを示すことにより行われてきた(Bornstein, 2011; for early examples, see Campbell and Fiske, 1959; Cronbach and Meehl, 1955)。具体的には、新しい指標の収束的妥当性(convergent validity)、弁別的妥当性(discriminant validity)、予測的妥当性(predictive validity)、増分妥当性(incremental validity)を他の妥当性の検証されている指標との関連で検討すること、また測定されて観察された結果の原因となるメカニズムを明らかにするために、指標に存在するバイアスを理解するための実験をデザインすることである(Bornstein, 2011; Edwards, 2003)。 しばしば、既存の妥当性研究を利用して、指標の実証的な妥当性を裏付けることや、適切な妥当性検証法を選んで実施する(例:確認的因子分析、内的一貫性の分析、Edwards, 2003)こともある。例えば、クローズドな質問による仕事満足度の指標を新たに開発する際に、Ironson et al. (1989), Thompson and Phua (2012) および Bowling et al. (2018)はすべてよく使われている方法に従っている(例:Clark and Watson, 1995; Edwards, 2003; Hinkin, 1998) 。それらは、既存の仕事満足度尺度と新しい指標の収束的妥当性(convergent validity)(すなわち、合致の度合い)と、関連するが異なる構成概念の指標と新しい指標の弁別妥当性(discriminant validity)(すなわち、逸脱の度合い)である。

実証的な妥当検証を行う際、指標が影響を受けやすい様々な種類の測定誤差に特に注意を払うべきである。たとえば、クローズドな質問の調査指標、ソーシャルメディアに基づく言葉の指標、ウェアラブルセンサーにより得られる生理指標はすべて選択バイアスの影響を受けやすい。調査への参加、ソーシャルメディアの使用、ウェアラブルセンサーの装着は対象者の自己選択によるためである(Ganster et al., 2017; Kern et al., 2016; Landers and Behrend, 2015)。クローズドな質問の調査指標、ソーシャルメディアに基づく言葉の指標はどちらも社会的望ましさバイアス(Marwick and Boyd, 2011; Podsakoff et al., 2003; Wang et al., 2014)の影響を受けやすいが、生理指標はそうではない。他の測定誤差の起源は特定の測定指標と関連している。調査は不注意な回答、つまり項目内容を考慮しないで質問に回答する傾向(Meade and Craig, 2012; 例:ハードな経験サンプリング研究, Beal, 2015; 仕事満足度の質問バッテリーの冗長さ, Kam and Meyer, 2015)の影響を受けやすい。コンピューターによるテキスト分析により得られた言葉の指標は、アルゴリズムエラーに対して脆弱である。すなわち、同じ方法やテキストを使っても、複数のコンピューターによるテキスト分析が異なる指標を出力するために起こるエラーのパターンである(McKenny et al., 2018; Short et al., 2010)。生理学的データによる指標はノイズの混入を避けられない(Chaffin et al., 2017; Ganster et al., 2017)。 研究者は関連するエラーを捉えて軽減させる十分な専門性を持つ必要がある。

結論として、理論的実証的に指標の妥当性を検証することは様々な複雑さがあることに注意する必要がある。先述の、クローズドな質問、オープンな質問、インタビューといった邪魔になる指標は、相対的に妥当性検証が容易である。理論的な妥当性検証において、主に構成概念の定義に沿って指標を意図的に連携させるからである(例:項目プールの生成と項目の精製時、Brod et al., 2009; Hinkin, 1998)。質問と構成概念の定義を意味的に同等にするように最大限努めることで、研究者はデータを集める前に別の可能性のあるとなる説明を除外できる。邪魔にならない指標の理論的な妥当性検証はあまり容易ではない。なぜなら、データを集める方法にほとんど影響を及ぼせないからである。邪魔にならない指標には、測定しようとする構成概念に関連した要因が指標の目的になるという保証があまりない。指標とそれが測定しようとする構成概念の間には固有の違いがあるため、関心のある構成概念について、関連するが異なった構成概念と比べ、なぜある指標の内容が最も共通点を持つのか証拠を挙げて説明するために、理論に大きく頼る必要がある(Hill et al., 2014)。同様の難しさのパターンは実証的な妥当性検証でも適用される。邪魔になる指標の実証的な妥当性検証は比較的に手軽である。多くの妥当性検証におけるガイドラインと妥当性が検証された指標が長年にわたり蓄積されてきているからである。邪魔にならない指標の実証的な妥当性検証はより難しい。比較のために妥当性のある邪魔にならない指標を見つけられないことが多く、妥当性のある邪魔になる(例:調査)指標を邪魔にならない測定のデザインに導入すると、データにおける邪魔にならない性質の価値が失われるのである (Hill et al., 2014)。

実用性
概念化と測定指標を決めた後に、研究者は対象となる研究文脈での測定方略の実用性を検討しなければならない。全ての研究者は、何とかして利害関係者(例:組織、従業員、制度)の好みや要求を調整する必要がある。同時に、研究者は科学的、倫理的な整合性を守らなければならない。最後に、研究者は自身の資源の限界に常に意識を向ける必要がある。

組織
組織はワーカーウェルビーイング研究のファシリテーターとして自身を位置づけるかもしれない。その場合、研究を可能な限り安く効率的に行うよう研究者にプレッシャーをかけることを目的とする(Lapierre et al., 2018)。たとえば、組織は生理学的測定を行うのをためらうかもしれない。なぜなら、ウェアラブルデバイスを購入し配布するのは、いまだに質問紙を配布するのに比べてコストがかかるからである(Akinola, 2010; Ganster et al., 2017)。 関連して、組織は心理測定学的に優れた複数項目の指標ではなく、単一項目の測定を好むかもしれない。なぜなら、複数項目の指標に記入することにかかる機会コストが高すぎると考えられるからである(G. G. Fisher et al., 2016; Gardner et al., 1998)。

力関係の不均衡にうまく対処する必要性以上に、研究者は組織における価値とリーダーシップに慎重になることが重要である。特に、働く人のウェルビーイングに影響を及ぼす研究については、組織のリーダーシップにより研究とウェルビーイングの双方に価値づけしなければならない(Nielsen et al., 2006; Nielsen and Noblet, 2018)。 シニアマネージャーの関与なしには、どんな厳密なワーカーウェルビーイング研究であっても、その価値は限られてしまうし、研究結果による方針の推奨も実装されないだろう。したがって、その組織にとって戦略的なトピックになっている場合や、研究およびエビデンスに基づく実践を受け入れる文化がある場合にのみウェルビーイング研究を開始することが推奨される。一方で、組織の変革は常にどこかで生じる必要はあるので、道徳上の重要性のテーマであったとしても、よく説明されてタイミングの良い研究をすることではしばしば変革の回転軸となるかもしれないという希望を失うべきではない。

働く人
もちろんワーカーウェルビーイングの研究者は、働く人の生活や体験について信念に基づく関心に動機づけられていることがほとんどである。しかし、ワーカーウェルビーイングを妥当に測定しようと研究者が努める時に、まさにウェルビーイングが測られようとしている働く人そのものに対し、測定することが与える影響を見失うべきではない。ウェルビーイングの測定方略を選ぶ際に、研究対象者の権利と興味を考慮することは、実践的、倫理的理由から重要である。実践的には、対象者からの満足の得られる同意がなければ、測定は相当な無回答や妥当性の問題にさらされてしまう(Rogelberg et al., 2000)。それゆえ、働く人は長い質問やインタビューに参加することは不快で気が散るため好まない、という傾向がある点を調整することが推奨される。さらに、すぐれたウェルビーイング研究には道徳的な重要性が内在していること、そして(ビッグ)データの収集がだんだん容易になってきていること(Israel and Hay (2006)の社会科学における研究倫理の詳細な概観論文を参照; Metcalf and Crawford, 2016)に照らすと、倫理的な課題が浮かび上がる。ここでは、重要な倫理的課題に簡単に触れ、さらなる情報を読者が参照できるように文献を紹介する。

1つ目に、アカデミックの研究者には明らかであるが、組織内での専門家はあまりなじみのないかもしれない義務がある:研究の対象者である働く人が研究によって害を受けないために、研究者は研究倫理に従う必要がある(e.g., American Psychological Association, 2017)。 よくある例として、独立した倫理委員会から評価を受けることが、非常に望ましい(Wassenaar and Mamotte, 2012)。なぜなら、ある組織がその同じ組織の従業員を対象として行う研究は、研究への「奉仕活動」としてのプレッシャーを従業員に与えるという特別な問題があるからである (Kim, 1996)。倫理委員会との協力により、研究者はより邪魔にならず、侵襲的にならず、負担にならない測定方法の代わりがないかどうか、正当に示す必要がある。

2つ目に、新しい形式での社会調査では軽視されがちであるが(Flick, 2016)、研究対象者へのインフォームド・コンセントは最重要である。研究者は、研究参加者に研究について十分に説明する必要があるし、参加者の期待と社会通念を考慮し(Brody et al., 2000; Manson and O’Neill, 2007)、強制ではなく自発的な参加を保証する必要がある(Faden and Beauchamp, 1986)。インフォームド・コンセントが必要なのは、その測定方略の結果に影響するからである。実際的に、たいていのサーベイ指標と同様に、測定する構成概念について分かりやすく直感的に把握できる(高い表面的妥当性を持つ)指標を使うことが推奨される。これにより、研究対象者に対し、研究と彼・彼女らのウェルビーイングのつながりについて十分に知らせることが容易になり、同意への障壁を減らし、研究に参加しやすくさせることができる。 事前に実験デザインについて十分な透明性を示せない場合は、実験後の説明セッションが極めて重要になる(Brody et al., 2000; S. S. Smith and Richardson, 1983; Sommers and Miller, 2013)。 新しく秘密的な測定技法では、事前・事後説明でさらなる配慮が必要になる。なぜなら、これらの技法は対象者の研究プロセスに対する期待に反するかもしれないからである。

3つ目に、自律性とプライバシーについての倫理的配慮が重要である。邪魔になる指標はその性質上、対象者の作業や他の体験に干渉するため、そうした指標を使うことは対象者の自律性が関係してくるのである。対象者の生活に干渉する重大な点は、可能な限り制限されるべきだし、明確に説明されるべきである。これにより、対象者自身の選択を確認する能力について、極度に損なわれることがなくなるとともに、対象者が同意した点を超えて影響を受けることがなくなるのである(Faden and Beauchamp, 1986)。対照的な面として、邪魔にならない指標は対象者のプライバシーについて特別な関心を引き起こす。なぜなら、測定方法のデザイン自体が、対象者が情報を収集されていると気づかないかもしれないからである(Motro et al., 2020)。 したがって研究者には、対象者が研究に関連している事項や同意した内容を超えて監視されていないということを保証する責任がある。概して、邪魔になるおよび邪魔にならない指標それぞれの潜在的な危険は、インフォームド・コンセントで丁寧に説明することで、大きく減らすことができる。

制度
研究者はまた、制度的な圧力と法的要求について舵取りをする必要がある。関連法令は研究のタイプと研究が行われる地域によるところが大きい。たとえば、個人情報保護委員会(the General Data Privacy Regulation) (GDPR, European Parliament and Council, 2016)は個人レベルデータ、特に健康データ(例:生体測定データ、メンタルヘルスについての調査データ, Guzzo et al., 2015)の分析、収集、共有、貯蔵について厳しい規則の概要を述べている。 もし健康データの分析に関心があるのなら、組織内の研究者はそうしたデータについて安全に責任をもって扱う専門性を持つ外部の研究者との協同を考えたいかもしれない。最後に、対象者が労働組合に加入している場合、労働組合の担当者との積極的なコミュニケーションをとることが推奨される。労働組合がワーカーウェルビーイングを増進させる取り組みをサポートしている場合もあるが、働く人の自律性やプライバシーを損ねかねない測定方法には慎重になることが多いかもしれない。

研究者
好みの不一致と様々な利害関係者の要求を考慮して、研究者はしばしば実用的で融通をきかせることが求められる。しかし、譲歩することは研究者による目的が無視されることではない。研究者自信に責任があるのは、ウェルビーイングが妥当な方法で測定されることを保証し、それゆえ研究疑問に適切に答えられるようにすることである。加えて、研究者の時間、スキル、資源は限られているので、特定の文脈での特定のウェルビーイング指標の使用は実行不可能である。たとえば、もし組織が全社の活力増進プログラムにおいて、ウェアラブルデバイスを用いた動的な調査をしたい場合、研究者はデータ収集(例:ベンダー選定、測定指標のカスタマイズ、対象者のトレーニング)とデータ分析(例:他分野の研究者との協同、新しい分析手法の学習、Chaffin et al., 2017; Eatough et al., 2016)に十分な時間と資源を求められることは間違いない。実用的で資源の限界を気にすることは、指標の妥当性を弱めることではない。研究者はもっと時間がかかり費用もかかる妥当な指標を既存の文献から選択することができる。もし経験サンプリング法を使って仕事での感情を測定しようとし、組織はそのために横断調査を求めたとすると、研究者は妥当な代替測定法として、1日再現法を提案できる(Dockray et al., 2010; Kahneman et al., 2004)。もしウェルビーイングの構成概念を測定する妥当性の確立した多項目尺度を使いたい場合に、組織がこの考えを拒否したら、研究者は妥当性のある単一項目指標(例:G. G. Fisher et al., 2016; Wanous et al., 1997)か短縮版尺度(例:Russell et al., 2004; Schaufeli et al., 2006, 2017)を使用するかもしれない。これにより、より高い精度での単一の構成概念でなく、満足できる精度の複数の構成概念を明らかにする検討が可能になるかもしれない。これはすでに述べた理由により、望ましい交換条件でもある。

利害関係者との調整プロセスにおいては、良いコミュニケーションが鍵となる。特に、組織は統計学的、理論的根拠の提示では納得させることが容易ではない(Hodgkinson, 2012)。この理由により、測定指標の妥当性、研究デザイン、構成概念の選択のようなトピックについて、理解しやすく説得力あるやり方でコミュニケーションをとることが鍵となる(Lapierre et al., 2018)。 読者には最良な実践法について、エビデンスに基づく実践のコミュニケーションについての研究(Baughman et al., 2011; Highhouse et al., 2017; Hodgkinson, 2012; Lapierre et al., 2018; Zhang, 2018)や、アカデミアと実践の間のギャップの橋渡しをする研究(Banks et al., 2016; Rynes, 2012)の文献を参照されたい。

結論

我々の作業はワーカーウェルビーイングの研究に関連した3つの疑問に回答することを目的とした。最初の疑問、ワーカーウェルビーイングとは何か?について、4つの次元:哲学的基盤、焦点、安定性、誘意性に基づく構成概念の分類を提案した。そして、10個のワーカーウェルビーイング構成概念をその分類に区分けすることで描き出した。多くのワーカーウェルビーイングの構成概念モデルを統合することで、 その分類は急成長しているが乱雑なワーカーウェルビーイングの分野を、研究者が理解する助けになるだろう。

ワーカーウェルビーイングはどのように測定できるか?という疑問に答えるために、ワーカーウェルビーイングの測定に利用できる伝統的(例:調査やインタビュー)または新しいデータソース(例:ウェアラブル・センサー)といった複数の分野からの概観を示した。 そのときに, 4つの大まかなデータソースのタイプ:クローズドな質問調査、言語指標、行動指標、生理指標を示し、さらに邪魔にならない、反応ベースの邪魔になる、観察ベースの邪魔になる、という分類を行った。我々の概観によって、研究者自身の現在の方法論的ツールボックスの枠組みにとらわれず考え、新たなデータ収集法を利用するために社会科学以外の分野との協同を促進できるようになることを望む。

総合すれば、我々の構成概念の分類と既存の測定アプローチの概観によって、現在のワーカーウェルビーイングの科学における注目すべきギャップが明らかになった。特に、最も重要である仕事特化ウェルビーイングの構成概念のいくつかは主にクローズドな質問調査により測定されていることが示された。こうした構成概念の文脈フリーな測定法が発展してきている事実に照らせば、研究者はこれらの重要である仕事特化ウェルビーイングの構成概念の新しい測定法を開発するために、もっと他の研究領域を参照すべきである。より一般的にいえば、我々の概観によって、研究者自身の現在の方法論的ツールボックスの枠組みにとらわれず考え、新たな測定指標およびデータ収集法を利用するために社会科学以外の分野との協同を促進できるようになることを望む。

ワーカーウェルビーイングの指標はどのように選ぶか?という最後の疑問に答えるために、概念化、厳密な操作的定義づけ、実用的な利害関係者調整について述べた。その広範な焦点のため、この論考は網羅的なものではなかった。代わりにその論考により、最も重要な検討事項とガイドの有用な地図を示し、特定のトピックについては参考文献をあげた(例:構成概念の定義、妥当性検証、倫理、コミュニケーション)。

結論として、我々の作業は、ワーカーウェルビーイングについて流行と現在の研究のギャップの橋渡しをすることを意図していた。我々の作業はワーカーウェルビーイングについてのその場その場の研究を超えて、正確で信頼できる研究を行うためのガイドラインを提供した。我々が研究者に望むのは、組織で働いていようが、アカデミアにいようが、またはそのどちらでも、働く人のウェルビーイングについてもっと考えて意見を述べられるように、そしてワーカーウェルビーイングを高める要因を理解し、適切に向上させる施策をデザインできるようになることである。

(注1 節約のため、社会科学におけるウェルビーイングの全ての理論的論争や微妙な差異(Huta and Waterman, 2014; Rojas, 2017; Warr and Nielsen, 2018)、または哲学(例:Brey, 2012; Parfit, 1984) を我々の構成概念のカテゴリ化に組み入れることはできていない

(注2 ワーカーウェルビーイングの倫理に関心のある読者は、なぜ我々が潜在能力アプローチ(capability approach)を考慮に入れていないのか疑問に思うだろう(Robeyns, 2005)。簡単な理由として、我々はウェルビーイングのアウトカムに関心を持つ読者に向けて説明しており、そうしたアウトカムをサポートする一般的な潜在能力については対象としていないからである。潜在能力(とその分布)は公正のために基本的に重要なものであり続けてきた(Nussbaum 2011)し、政治と公共政策においても中心的なものであるけれども、我々は、仕事と雇用の条件や政策の結果についてさらに関心があるのである。したがって、我々はよく生きることの潜在能力(cf. Veenhoven, 2000)よりはむしろ、生きることによる結果としてのウェルビーイングに焦点を当てる。

(注3 われわれの説明ではハイブリッドな構成概念、つまり、ヘドニックとユーダイモニックな構成概念を統合的に含む広い構成概念は除外した。たとえば、 フローリシング = 開花(human flourishing) (Huta and Waterman, 2014)と繁栄(thriving) (Spreitzer et al., 2005), などである。 それらの広い焦点を考慮する際、ハイブリッドな構成概念は、しばしば理論的な正当化が難しくなり、構成概念の境界があいまいなものになってしまう(Martela, 2017)。

(注4 働く人自身の仕事への認知的評価に関して、仕事満足度が検討されることが多いが、働く人における仕事に特有の感情的心理反応や気分を検討することも価値がある(Thompson and Phua, 2012)。もし感情的要素を強調するのなら、結果としての仕事満足度の構成概念は、次に述べる気質的仕事感情に近いものになる。気質的仕事感情もまた、働く人の仕事中の気分に関与しているのである。必ずしも仕事についての気分とも限らないが。

(注5 状態的仕事満足度と状態的ワークエンゲージメントについて、より特性的な思考である仕事満足度とワークエンゲージメントと別にして区別することが議論されてきている。なぜなら、その2つの構成概念の時間的な安定性は週ごと、日ごとに変わるかもしれないからである(状態的仕事満足度のさらなる議論はGrube et al., 2008; Ilies and Judge, 2004; Niklas and Dormann, 2005を参照、状態的ワークエンゲージメントのさらなる議論はBakker and Bal, 2010; Xanthopoulou et al., 2008; Sonnentag, 2003を参照)。本稿では範囲を絞るために、従来のほとんどの研究で扱われてきた特性的な仕事満足度とワークエンゲージメントに焦点を当てる。

(注6 道徳論においては、本質的に価値があるものと手段として価値のあるものを区別することがよくある。それ自体がよいものであり、他のいかなる目標からも独立して追求する価値がある場合に、目的は本質的に価値がある。一方、他の事に価値があると実感しやすくする立場によってその価値が左右される場合、目的は単に手段として価値がある。もちろん、ただ一つの目的は本質的にも手段としても両方の価値をもちうる(議論と細かい違いについては、Korsgaard, 1983を参照)。

(注7 感情的仕事満足度と認知的仕事満足度の間の概念的な違いの観点から(Thompson and Phua, 2012; H. M. Weiss, 2002)、より認知的な部分に強く関連する仕事満足度の指標もあれば、より感情的な部分に関連する仕事満足度の指標もあることに研究者は注意深くなる必要がある(Kaplan et al., 2009)。したがって研究者は、仕事満足度の指標について認知的な仕事満足度と主に接触するものから、感情的な仕事満足度と主に接触するものまでの連続体としてみなすことができる(C. D. Fisher, 2000)。

測定指標の実例

生活満足度
生活満足度はほとんどがクローズドな質問調査指標により測定される(Veenhoven, 2017)。これらの指標は単一項目(Abdel-Khalek, 2006;Cantril, 1965; Commission of the European Communities, 2017; OECD, 2013)か、または複数項目、例:Satisfaction With Life Scale (Diener et al., 1985), Happiness Unhappiness Scale (Andrews and Withey, 1976), Gurin Scale (Gurin et al., 1960), the Happiness Measure (Fordyce, 1977)である。一般に、生活満足度については自己報告と他者報告の指標において一致がみられる(Heller et al., 2006; Judge and Locke, 1993; Lucas et al., 1996; Nave et al., 2008; Pavot et al., 1991; Sandvik et al., 1993; Sandvik et al., 1993; Schneider et al., 2010; Schneider and Schimmack, 2010; Zou et al., 2013)。他の生活満足度についてのクローズドな質問調査指標と妥当性の考えについてはVeenhoven (2017, 2020)を参照。
クローズドな質問調査指標を超えるものとして、生活満足度はFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアにおいて自然に発生するテキスト(Collins et al., 2015; Liu et al., 2015; Schwartz et al., 2016; Yang and Srinivasan, 2016)や、臨床的な生活満足度面接での逐語 (Frisch, 1988; Nave et al., 2008; Neugarten et al., 1961; Thomas and Chambers, 1989)を分析することで測定されてきている。写真から得られる表情はその後の生活満足度と関連する(Harker and Keltner, 2001; Seder and Oishi, 2012)。インターネット上での行動による邪魔にならないデータも生活満足度との関連が見られる(Collins et al., 2015; Kosinski et al., 2013)。自己報告の生活満足度と末梢収縮期血圧および平均動脈血圧の相関を報告している研究もある(Thege et al., 2014)。

気質的感情
気質的感情もまたほとんどがクローズドな質問調査指標により測定される。例:the Affect Balance Scale (ABS, Bradburn, 1969)、 Differential Emotions Scale (DES, Izard et al., 1974), Positive and Negative Affect Schedule (PANAS; Watson et al., 1988)、 the Multiple Affect Adjective Check-List-Revised (Zuckerman and Lubin, 1985)、 State-Trait Anxiety Inventory (Spielberger and Gorsuch, 1983)、 Scale of Positive and Negative Experience (SPANE, Diener et al., 2010) and Affectometer 2(Kammann and Flett, 1983)。気質的感情の自己報告指標は、しばしば他者報告指標と一致する(Lucas et al., 1996; Pavot et al., 1991; Watson et al., 2000)。気質的感情のクローズドな質問指標についてのさらなる完全な概観はGray and Watson (2007) and Boyle et al. (2015)を参照。気質的感情についてのクローズドな質問指標以外の指標はわずかなものがあるだけである。自己報告の気質的感情は、オープンな質問の内容との関連(Sandvik et al., 1993)や唾液中コレステロール(訳注:原文ママ。引用されている原典を確認すると唾液中コルチゾールと考えられる)(Ryff et al., 2004)との関連が見られている。

気分
気分もまた調査による尺度で測定される。気分の測定に特化した指標、例:Profile of Mood States (POMS, McNair et al., 1981)、 Shortened POMS (Shacham, 1983)、 Multidimensional Mood State Inventory (Boyle, 1992)、 Four Dimension Mood Scale (Huelsman et al., 1998) and Affect Grid (Russel et al., 1989)や、一般的な感情尺度を修正したもの、例:PANAS, SPANE and DES.が用いられる。自己報告と他者報告は一致する傾向にある(Bleidorn and Peters, 2011; Pavot et al., 1991)。気分の周期的な性質を考慮して(Gray and Watson, 2007)、研究者は経験ベースドな調査指標、例:経験サンプリング法(e.g., Dockray et al., 2010; Ilies and Judge, 2004) や1日再現法(e.g., Dockray et al., 2010; Kahneman et al., 2004)を用いてきている。非調査指標については、様々な研究者が気分の測定に言語指標を用いてきている、例:ブログ投稿(Bollen et al., 2011; Keshtkar and Inkpen, 2009; Mishne, 2005)やソーシャルメディア更新(Dodds et al., 2011; Golder and Macy, 2011; Greyling et al., 2019; Iacus et al., 2020; Jaidka et al., 2020)におけるセンチメント、オープンな質問への回答(Amabile et al., 2005)。行動が気分の代理として使われる研究もある。例:表情(Kulkarni et al., 2009)やインターネット上の活動(Drake et al., 2013; LiKamWa et al., 2013)。

情動
気分と同様に、情動もほとんどがDESやPANAS(Verduyn et al., 2009; Zelenski and Larsen, 2000)といった、体験ベースドでクローズドな質問による調査指標により測定される。調査を用いない研究者は、情動がショート・インスタント・メッセージのテキストから推測できることを示している(Gill et al., 2008; Hancock et al., 2007)。ソーシャルメディア(Greyling et al., 2019)やインターネット上の検索行動(Brodeur et al., 2020; Ford et al., 2018)が特定の情動状態をモニターするために使われる研究もある。実験室の研究では、スピーチの特徴(Dasgupta, 2017; B. L. Smith et al., 1975; Williams and Stevens, 1972)や、音の変数(Banse and Scherer, 1996)および声の高さ(Mauss and Robinson, 2009)との組み合わせといった、観察ベースドな邪魔になる指標から情動が推定できることが示されている。体の姿勢 (Mauss and Robinson, 2009; Tracy and Matsumoto, 2007)や表情を情動の推定に使う研究もある(Ekman et al., 1990; Mauss et al., 2005)。しかし、表情によっては多様な情動と関連していて、その意味は文化や状況によってかなりのばらつきがあるため、表情行動の使用についての論争もある(Barrett et al., 2019)。生理指標は通常は情動の測定に使われる。たとえば、情動価と情動の喚起は神経内分泌活動、例:コルチゾールレベル(Denson et al., 2009; Dickerson and Kemeny, 2004)、テストステロン(Mazur and Booth, 1998; Mehta and Josephs, 2006; Zilioli et al., 2014)、 オキシトシン(Grewen et al., 2005; Kosfeld et al., 2005)、 ドーパミン(Depue and Collins, 1999)、セロトニン(Katz, 1999)や, 皮膚電位活動、例:皮膚伝導の反応や水準 (Akinola, 2010; Kreibig, 2010; Sequeira et al., 2009; Weinberger et al., 1979)や、 心血管活動、例:収縮期および拡張期血圧、 心拍、心拍変動、 心臓の収縮効率および呼吸(Akinola, 2010; Kreibig, 2010; Shiota et al., 2011)や神経学的活動(Sato et al., 2004; Vytal and Hamann, 2010)と関連している。

心理的ウェルビーイング
心理的ウェルビーイングはRyff(1989b)の態度によるクローズドな質問調査指標:心理学的ウェルビーイング尺度がよく用いられる。これらの尺度は心理的機能と身体的健康の測定と結びつけられてきている。例:神経内分泌、心血管、免疫(Ryff et al., 2004)、 心肺 (Thege et al., 2014)、 神経学(Urry et al., 2004)。 行動マーカー(e.g., 表情、声、ジェスチャー、ソーシャルスキル、苦手な対人スタイル)および詳細なインタビュー後の臨床的評価(例:生産性、要求水準)もまた心理的ウェルビーイングの自己報告指標と関連している(Nave et al., 2008)。

仕事満足度
仕事満足度は態度による単一項目または複数項目の調査尺度により測定されることが多い(Gardner et al., 1998; Nagy, 2002; Wanous et al., 1997)。いくつかの仕事の側面についての得点を合計することや、対象者に直接、自身の仕事を全般的に評価してもらうことで測定される(H. M. Weiss, 2002)。仕事の側面でよく使われる尺度は、 the Job Satisfaction Survey (Spector, 1985)、 Facet Satisfaction Scale (Bowling et al., 2018) and Job Diagnostic Survey (Hackman and Oldham, 1974)であり、全般的な仕事満足度の尺度はthe Minnesota Satisfaction Questionnaire (D. J. Weiss et al., 1967)、 Job in General Scale (Ironson et al., 1989)、 Abridged Job in General scale (Russell et al., 2004)、 Job Satisfaction Scale (Warr et al., 1979)、 Job Satisfaction Index (Brayfield and Rothe, 1951)、 Michigan Organizational Assessment Questionnaire (Cammann et al., 1979)、 Faces scale (Kunin, 1955) and Brief Index of Affective Job Satisfaction (Thompson and Phua, 2012)。である。(注7 仕事満足度における自己報告と他者報告は一致することが明らかになってきている(Ilies et al., 2006; MacEwen and Barling, 1988; Spector et al., 1988; Trice and Tillapaugh, 1991)。邪魔になる反応ベースドな指標も用いられている、例えば、オープンまたはセミオープンな仕事満足についての質問である。(Borg and Zuell, 2012; Gilles et al., 2017; Poncheri et al., 2008; Taber, 1991; Wijngaards et al., 2019; 2021; Young and Gavade, 2018)。 仕事満足度は、web上の企業口コミサイト(Jung and Suh, 2019; Moniz and Jong, 2014)やソーシャルメディア(Hernandez et al., 2015)などの邪魔にならないテキストデータからも推測されてきている。仕事満足度は行動の全体的な印象から推測可能とする研究もある(Glick et al., 1986)。

仕事感情
仕事情動についての研究のほとんどはクローズドな質問指標を用いているため、気質的仕事感情、仕事気分、仕事情動を1つのパラグラフにまとめてグループ化した。これらの構成概念の違いについて、気質的仕事感情は一般的に態度指標(Brief et al., 1988; Van Katwyk et al., 2000)で測定され、仕事気分と仕事情動は一般的に経験ベースドな指標(例、Beal and Ghandour, 2011;Dimotakis et al., 2011; Miner et al., 2005)で測定される。専用の仕事情動尺度がよく使われている。例:Job Emotions Scale (C. D. Fisher, 2000)、 Warr’s (1990) and Van Katwyk et al.’s (2000) Job-related Affective Well-being Scale、 Job Affect Scale (Burke et al., 1989) and Affective Well-Being scale (Daniels, 2000)。こうした指標の異なるバージョンが対象となる構成概念の時間的な側面を調整するために使われる(例、過去4週間→本日、といった参照期間の変更)。

ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントは態度によるクローズドな質問調査指標で測定されることが多い(Bakker et al., 2008; Schaufeli and Bakker, 2010)。例:Maslach Burnout Inventory (MBI; Maslach et al., 1986)、 the Oldenburg Burnout Inventory (OBI; Demerouti et al., 2002), Utrecht Work Engagement Scale (UWES-17; Schaufeli et al., 2002, UWES-9; 2006, UWES-3, 2017)、 Job Engagement Scale (Rich et al., 2010), and the Gallup Q12 (Harter et al., 2002)。自己報告ではない指標を用いた研究はわずかである。たとえば、 ワークエンゲージメントが心血管活動と関連している事は示されている(Seppälä et al., 2012; Van Doornen et al., 2009)。

Table 1 ワーカーウェルビーイングの構成概念とカテゴリ分け

構成概念  特徴哲学的
基盤   
時間的安定性 焦点誘意性
生活満足度生活状況の満足に対する認知的評価ヘドニック特性的文脈フリーポジティブ
気質的感情情動状態を経験する一般的傾向ヘドニック特性的文脈フリーポジティブとネガティブ
気分数時間から数日程度安定して続く情動状態であり、非特異的なきっかけにより相対的に高い頻度で生じるヘドニック状態的文脈フリーポジティブとネガティブ
情動数秒から数分安定して続く情動状態であり、特異的なきっかけによりまれに生じるヘドニック状態的文脈フリーポジティブとネガティブ
心理的ウェルビーイング全般的に健康な心理状態であり、自己知覚、関係性、自己啓発、自律性に関わるユーダイモニック特性的文脈フリーポジティブ
仕事満足度仕事状況の満足に対する認知的評価ヘドニック特性的領域特有ポジティブ
気質的仕事感情仕事における情動状態を経験する一般的傾向ヘドニック特性的領域特有ポジティブとネガティブ
仕事気分数時間から数日程度安定して続く仕事における情動状態であり、非特異的なきっかけにより相対的に高い頻度で生じるヘドニック状態的領域特有ポジティブとネガティブ
仕事情動数秒から数分安定して続く仕事における情動状態であり、特異的なきっかけによりまれに生じるヘドニック状態的領域特有ポジティブとネガティブ
ワークエンゲージメント仕事に関連したポジティブな精神の状態であり、活力. (vigor)、熱意(dedication)、没頭(absorption)により特徴づけられるユーダイモニック特性的領域特有ポジティブ


Table 2 指標の比較

クローズドな調査言語指標行動指標生理指標
生活満足度単一項目 (Abdel-Khalek, 2006; Cantril, 1965; Commission of the European Communities, 2017; OECD, 2013)

複数項目 (Andrews and Withey, 1976; Diener et al., 1985; Fordyce, 1977; Gurin et al., 1960)
ソーシャルメディアのテキスト (Collins et al., 2015; Liu et al., 2015; Schwartz et al., 2016; Yang and Srinivasan, 2016)

インタビュー (Frisch, 1988; Nave et al., 2008; Neugarten et al., 1961; Thomas and Chambers, 1989)
表情行動 (Harker and Keltner, 2001; Seder and Oishi, 2012)

オンライン行動 (Collins et al., 2015; Kosinski et al., 2013)
心血管活動 (Thege et al., 2014)
気質的感情複数項目 (Bradburn, 1969; Diener et al., 2010; Izard et al., 1974; Kammann and Flett, 1983; Spielberger and Gorsuch, 1983; Watson et al., 1988; Zuckerman and Lubin, 1985)オープンな調査質問(Sandvik et al., 1993)神経内分泌活動 (Ryff et al., 2004)
気分単一項目 (Russel et al., 1989)

複数項目 (Boyle, 1992; Diener et al., 2010; Huelsman et al., 1998; Izard et al., 1974; McNair et al., 1981; Shacham, 1983; Watson et al., 1988)
ブログの投稿 (Bollen et al., 2011; Keshtkar and Inkpen, 2009; Mishne, 2005)

ソーシャルメディアの更新(Dodds et al., 2011; Golder and Macy, 2011; Iacus et al., 2020; Jaidka et al., 2020)

オープンな質問 (Amabile et al., 2005)
表情行動 (Kulkarni et al., 2009)

オンライン活動 (Drake et al., 2013; LiKamWa et al., 2013)
情動複数項目 (Izard et al., 1974; Watson et al., 1988)ショート・インスタント・メッセージングのテキスト(Gill et al., 2008; Hancock et al., 2007)

ソーシャルメディアの更新(Greyling et al., 2019)

オンラインでの検索行動(Brodeur et al., 2020; Ford et al., 2018)

スピーチ特性(Dasgupta, 2017; B. L. Smith et al., 1975; Williams and Stevens, 1972)

声の高さ (Mauss and Robinson, 2009)
姿勢(Mauss and Robinson, 2009; Tracy and Matsumoto, 2007)

表情行動 (Ekman et al., 1990; Mauss et al., 2005)
神経内分泌活動 (Denson et al., 2009; Depue and Collins, 1999; Dickerson and Kemeny, 2004; Grewen et al., 2005; Katz, 1999; Kosfeld et al., 2005; Mazur and Booth, 1998; Mehta and Josephs, 2006; Zilioli et al., 2014)

皮膚電位活動 (Akinola, 2010; Kreibig, 2010; Sequeira et al., 2009; Weinberger et al., 1979), 心血管活動 (Akinola, 2010; Kreibig, 2010; Shiota et al., 2011)

神経学的活動 (Sato et al., 2004; Vytal and Hamann, 2010)
 
 
心理的ウェルビーイング複数項目 (Ryff, 1989a)インタビュー(Nave et al., 2008)

ソーシャルメディア (Alharthi et al., 2017)
行動指標 (Nave et al., 2008)心血管活動 (Ryff et al., 2004; Thege et al., 2014),

神経学的活動 (Urry et al., 2004)

神経内分泌活動 (Ryff et al., 2004)
仕事満足度単一項目指標 (Gardner et al., 1998; Kunin, 1955; Nagy, 2002)

複数項目 (Bowling et al., 2018; Brayfield and Rothe, 1951; Cammann et al., 1979; Hackman and Oldham, 1976; Ironson et al., 1989; Russell et al., 2004; Spector, 1985; Thompson and Phua, 2012; Warr et al., 1979; D. J. Weiss et al., 1967)
オープンな調査質問(Borg and Zuell, 2012; Gilles et al., 2017; Poncheri et al., 2008; Taber, 1991; Wijngaards et al., 2019; Wijngaards et al., 2021; Young and Gavade, 2018)

企業口コミサイト (Jung and Suh, 2019; Moniz and Jong, 2014)

ソーシャルメディア (Hernandez et al., 2015)
行動の全体的印象 (Glick et al., 1986)
気質的仕事感情複数項目 (Beal and Ghandour, 2011; Brief et al., 1988; Burke et al., 1989; Daniels, 2000, p. 200; Dimotakis et al., 2011; C. D. Fisher, 2000; Miner et al., 2005; Van Katwyk et al., 2000; Warr, 1990)
仕事気分気質的仕事感情と同じ心血管活動 (Ilies et al., 2010)
仕事感情気質的仕事感情と同じ
ワークエンゲージメント複数項目 (Demerouti et al., 2002; Harter et al., 2002; Maslach and Jackson, 1981; Rich et al., 2010; Schaufeli et al., 2002, 2006, 2017)心血管活動 (Seppälä et al., 2012; Van Doornen et al., 2009)
注 *仕事気分と仕事感情における状態的な構成概念の引用文献は、特性的な構成概念である、気質的な仕事感情と同様に同じである。なぜなら、これらの構成概念は極めて類似しており、短期的・長期的な時間的安定性における違いをとらえる質問のワーディングのわずかな違いがあるだけで一緒に検討されることが多いからである。たとえば、特性的な構成概念の測定のための調査項目は、対象者の「過去1ヶ月」の気分をたずねるのに対し、状態的な構成概念の項目は「本日」をたずねる。


Table 3 ワーカーウェルビーイングの指標を選ぶ際のチェックリスト

テーマ質問
概念化ワーカーウェルビーイングの構成概念を選ぶ際に以下のことをしましたか?

… 組織内で研究するための目的を明らかにすることから始めた
… 研究疑問を明確に述べた
… 研究対象となる集団の典型的な特徴について、下位集団も含めて検討した
… 研究によって得られる決定や方針について、その構成概念の焦点と安定性が適合するかどうか検討した
… 研究目的に沿ってヘドニックまたはユーダイモニックのどちらの構成概念がよいか検討した
… 関連する可能性があるすべての留意事項と妥協点を反映した十分に幅広い範囲の構成概念について検討した
… 選択した構成概念についての既存の文献をいくつか読んだ
測定指標測定指標を選ぶ際に以下のことをしましたか?

… 選ばれた構成概念の測定についての異なる複数の利用可能な指標について検討した
… 測定指標の理論的な妥当性の説明について注意深く調べた
… 測定指標の実証的妥当性についての根拠を確認した
… 測定によって生じる特定の種類の測定誤差を軽減させることが可能かどうか確認した
実用性研究および測定方略を立案し開発する際に以下のことをしましたか?

…  研究が行われることになる組織でのコストと時間の制約が特定された
… 組織の意思決定者に研究結果を利用したい意向があるかどうか相談した
… 研究を行うのに協力が必要になるすべての利害関係者に相談した
… 選択されたすべての邪魔になる指標が、働く人の生活や体験をどのように妨げるのか検討した
… 研究での全ての邪魔にならない指標が果たす役割について、研究対象者が理解できるようにして用いられるようにした
… 働く人からのインフォームド・コンセントを得た
… 測定手法と収集データについての制度上および法的要求について確認した
… 最終的な研究計画は独立した倫理委員会によって審査された
… 研究計画は実際に研究を実施する者にとって実現性があるかどうか検討した
…他のすべての必要な条件を検討した後に、本来の研究目的が誤って歪んでいたり、極度に損なわれていないかどうか確認した



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【筆者プロフィール】

土屋政雄
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 上級研究員
産業保健心理学を専門としてACT Japan:The Japanese Association for Contextual Behavioral Science 理事(2018年4月 - 2021年3月)やマインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント・セラピーの専門家として講演等を行う。著作物(監訳) 『マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル 職場のためのACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』 星和書店

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