働き方改革の「産業医機能強化」とは?背景とポイントを解説

Facebookでシェア ツイート

2019年4月から、働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)の一部が施行され、労働安全衛生法には「産業医・産業保健機能の強化」という項目が追加されました。今回の記事では、このうちの「産業医機能の強化」について詳しく解説します。

産業医とは常時50人以上の労働者がいる企業で選任され、労働者の健康管理等を行う医師のことです。なお、従業員50人未満の場合でも、事業者は従業員の健康管理を医師などに行わせるように努める必要があります。

法律改正による産業医機能の強化で、どのようなことが変わったのでしょうか。法律改正の背景やその内容、企業に求められていることについて解説します。ぜひ参考にして社内の体制を改めて確認してください。

産業医・産業保健機能強化の背景

働き方改革とは、一人ひとりが多様な働き方のできる社会の実現を目的としたものです。企業には、重要なリソースである労働者が意欲や能力を発揮できるような環境を整えることが求められています。しかし、近年では長時間労働やメンタルヘルス不調が原因の過労死、過労自殺などが問題になっています。

厚生労働省が発表した「平成29年度過労死等の労災補償状況」によると、2017年度に過労死や過労自殺(未遂を含む)で労災認定された人は計190人に上ります。これは前年度とほぼ同じ数値で高止まりしていた状況でした。その後も有名企業での過労死や過労自殺のニュースが後を絶ちませんでした。

企業には、労働者が健康に働けるようにするための産業医、産業保健の制度があったにも関わらず、十分に機能していたとは言い難い状況でした。こうした現状に加え、労働者の仕事と治療の両立をサポートするといった観点からも、働き方改革の中で産業医や産業保健の強化が重要視されるようになったのです。

ちなみに、令和2年度の「過労死等の労災補償状況」では、過労死等に関する請求件数は2835件で前年度比161件の減少。「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償」の支給決定件数は194件で前年度比22件の減となっています。多少の減少傾向はみられますが、まだまだ厳しい状況です。

産業医や産業保健への投資は、企業にとって新たな付加価値の創造や生産性の向上に直結するものであり、現状を鑑みれば今後も力を入れるべきことであることは間違いないでしょう。

関連記事:働き方改革で「産業医・産業保健機能の強化」をわかりやすく解説

産業医強化における主な3つのポイント

働き方改革関連法の中の産業医強化について、主なポイントを3つ説明します。

① 産業医への情報提供の強化
1つ目のポイントとして、新たに、事業者は産業医が労働者の健康管理を行う際に必要な労働時間に関する情報を提供しなければいけない、という内容が追加されました。これに伴い、事業者は労働者の健康情報の収集や保管、使用、管理にルールを決め、適正に取り扱うことが求められるようになりました。

事業者が、産業医へ報告すべき情報は、以下の通りです。

事業者が産業医に報告すべき内容に関する表
(出典:厚生労働省

なお、事業者から産業医への情報提供の方法は書面で行うことが望ましいとされていますが、磁気テープ、磁気ディスク等に記録して提供、電子メールにより提供する方法等もあります。

提供した情報は記録・保存しておくことが望ましいとされているので、具体的な情報提供の方法について、事業場ごとに事業者と産業医で最初に決めておく必要があるでしょう。

※労働者数50人未満の事業場の事業者も、医師又は保健師に対して上記の情報を提供するように努めなければなりません。

② 産業医の活動環境整備
事業者は、産業医の独立性・中立性を高め、産業医が専門的立場から労働者一人ひとりの健康確保のために、効果的な活動を行いやすい環境を整備する必要があります。また、事業者は産業医から労働者の健康管理等について勧告を受けた場合には、事業所の労働者や産業医で構成する衛生委員会などに報告しなければいけなくなります。改正前は勧告を受けてもその内容を尊重しなければいけないという程度であったため、法律改正によって大きく変更となった点といえます。

さらに、産業医の身分の安定性を担保し独立性・中立性を高める観点から、産業医が辞任したときや事業者が産業医を解任したときは、「その旨・その理由」を衛生委員会又は安全衛生委員会(衛生委員会等)に遅滞なく(約1ヵ月以内)、報告しなければならなくなりました。

(ポイント)

• 産業医の独立性・中立性の強化
• 産業医の知識・能力の維持向上
• 産業医の辞任・解任時の衛生委員会等への報告

③ 産業医等による健康相談の強化
3つ目は新設の条項で、事業者は産業医等が労働者の健康相談を受けるための体制を整備するように努めなければいけない、とされています。もちろん、事業者の中にはこれまでにも労働者の健康相談を意識的に行ってきたところはありますが、近年の過労死問題なども踏まえ、体制を整備して産業医等による健康相談の機会をさらに増やそうという目的です。

具体的には、産業医による健康相談(日時・場所・申込方法他)、産業医の業務の具体的な内容、事業場における労働者の心身の状態に関する情報の取扱方法を、労働者に周知する必要があります。

• 周知方法の例:事業場の見やすい場所に掲示、書面による通知、社内イントラネット上での通知、他

※労働者数50人未満の事業場の事業者も、労働者の健康管理等を行うのに医師又は保健師について、労働者に周知するよう努めなければなりません。

まとめ

今回の働き方改革関連法では、産業医機能の強化として、事業者が産業医を巻き込んで労働者の健康管理を適切に行うことについて言及されています。具体的には「産業医への情報提供の強化」「産業医の活動環境整備」「産業医等による健康相談の強化」の3つが主なポイントです。

過労死などのリスクが高い労働者を見逃さないためにも、事業者と産業医との連携はとても重要です。今一度、産業医機能が強化された理由を理解し、体制を整えて従業員一人ひとりの健康の維持増進をサポートできる職場環境を実現していきましょう。

(Visited 1,000 times, 1 visits today)

【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数2,950社/利用者数417万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄2023に選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

Facebookでシェア ツイート

関連記事RELATED POSTSすべて見る>>